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『奏でられるは決意の響き 』
鞍馬 真ka5819

 向かい来る敵影を一目見て、鞍馬 真は数えるのはやめることにした。
 やるべきことは変わらない。あれを全て倒す。
 片手に魔導剣を抜きながら、もう片手にもったグリップにマテリアルを込めて刃を生成していく。
 黒々と蠢いていた何かでしかなかったそれがはっきりと形──もう見慣れすぎた浮遊型狂気──を見せる程の距離になると、真は剣を両手にそこへと駆け込んでいった。密集する敵の群れ、そこに向かって、真正面から。
 狂気たちは迎撃すべくその眼球にエネルギーを宿していく。生まれた熱線が一気に真へと襲いかかった。避けようもない程の密度で迫るその一部に向かって真は剣を突き出し、切っ先で弾く。生まれた隙間に捩じ込むように身を捩り残りの熱線をやり過ごした。幾つかは彼の細身を掠めていき、火傷の痛みをその肌の表面に与えていくが、気にすること無くそのまま向かっていく。
 間合いに捉えた先頭の一匹を片手の剣で切りつける。身動ぎの間すら与えずもう一方の剣で追撃。
 開始直後。最も敵が密着しておりその数も最大。出し惜しみする理由など無かった。二刀の型、それぞれの一撃を眼前の敵を払うため以上の勢いで振りきると、更に追加の動作を加える。生まれていた力場が押し出されるように、衝撃波となって一直線上にいる敵を薙ぎ払っていき、最初に攻撃した相手はそれで塵と化していった。
 残る敵から再び熱線と触手の攻撃が再び襲いかかる。先ほどと同じように真は順に凌いでいく──ところで、時間差の、背後からの触手の一撃! ……それも真は、振り向きもせず背後に回した魔導剣で弾き落とした。
 傍目には無謀にも見える突撃。そこに恐れは無かった。勝算はある、と共に、必要ならば命を懸けることに躊躇いは無かった。死ぬことは怖くない。だがそれは捨て鉢に命を投げ捨てる事でもない。今すぐこの程度の敵に殺されていいわけではない。
(守り抜くために……それでは駄目だ)
 淡々と目的を見据える。魔導剣の柄がカチリカチリと音を立て続けていた。握る彼のマテリアルを光と闇の力に変えていく。歯車の音が自分をも部品の一部に変えていくような、そんな感覚を覚える。それも不快じゃない。冷静であれ。するべきことを果たせ。そのためなら己の体すら道具でいい。
 舞い散る二剣、光と闇の残像を引く魔導剣カオスウィース。もう一つ、響劇剣オペレッタが戦場の跡に残すのは音。生成された刃に浮かぶ孔、振るわれる度それを通る風が音を奏でる。
 今、その剣舞によって響かせる音色はどのようなものだろうか。もしすぐ近くに守るものでもいれば、安心を与えるような優しい響きでも奏でてみせただろうか。だが今それは必要ない。今この場に音が必要ならば、彼本人に対してだけだ。
 ならば高揚させるような熱気も勇気を鼓舞するような派手さも彼には不要だった。速い曲ではない。低く、厚みのある音を今、その剣は奏でていた。
 鎮めていくための曲。逸る気持ちも、恐れる心も。やるべきことのみを見据え精神をフラットに。そのための調べ。
 その音から。その姿から感じるのは決意だった。名誉は求めていない。もしかしたら勝利すらも。ただ目的のために、そのための存在に己を純化していく。そんな。
 両の剣を振るい、敵を叩き落とすその度に、彼はそれらと一体化していくようだった。カオスウィースの魔導機械が立てる音すら組み込んで、曲を媒介に一つの存在として溶け合っていく。
 ──……その全てをもって、一つの曲であるというならば。なんと荘厳な曲だろうか。
 低くゆったりと、だがどこか透き通った音色。そこにある決意と共に──何処か感じる悲壮に胸を打たれるような。
 触手を叩き落とし、そのまま叩き斬る。右手から迫り来た腕をもう片方の剣で捌いて……腕? 確認すれば人型の敵が気付けばそこに居た。敵。VOIDだ。紛れもなく。倒すべき敵だという認識に誤りがないのであれば何ら問題は無い──たとえ、人型のモノの胸、そこを貫いていく光景に、胸を締め付けるような既視感があったとしても。今は関係ない。苦しさは感じても切っ先は迷うことなくその通りにした。
 刀身の中ほどまで貫かせた刃を一気に引き抜く。その勢いに響劇剣は一際大きく音を震わせた。まるで命が消える音だというように。

 気付けば、彼の周囲から全ての敵は消えていた。
 なんと言うことは無い。今回もすべきことを果たせた、それだけ……
「あ、痛ぅっ……」
 急に全身のあちこちが痛みを思い出して、呻く。心を締め付ける痛みもまた。これまで忘れてきた分全てが一気にという風に、ぶり返してくる。
 全てを空洞にしたつもりでも、終わればこうして。そのことを、彼は。

 ……仲間が、彼を呼ぶ声がする。状況と無事を確かめる声。その暖かさもまた、この痛む身体と心があって感じられるものなのだろう。応え、彼は歩み寄っていく。戻るべき場所へ。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka5819/鞍馬 真/男性/22/闘狩人(エンフォーサー)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度はおまかせノベルの実験台一号に挙手いただき誠にありがとうございます。
さーてそんなわけで、凪池式おまかせノベルルールに従い今回ランダムに決まった作業用BGMは……──?

【鬼頭】

でした!
えー、軽く解説いたしますと鬼頭とは、人としての存在、一族としての立場やその名前すら全て抹消してパワーアップするというそういうゲーム的ギミックでして、こちらはそのテーマ曲となります。
そんなわけで曲調は熱くも激しくもなく。重厚で荘厳といった感じですが、悲壮感たっぷりというよりは並々ならぬ決意を感じる曲と個人的には感じますね。
悲壮感を押し出さない分、それが決意できてしまう事の深さというようなものを感じてしまうというか。
はい。
そんなわけで。
そんなのをのっけから、貴方が引くか、と。
ある意味おあつらえ向きと言えなくも無いですが。そんなわけでこんなシリアスとなりました。
待ち構えていたのと違ってたらすみません。ランダムの思し召しです。
あとオペレッタについては一度じっくり書いてみたいと思ってたよね、っていう。
良かったのかなここまで好き勝手やっちゃって……。
という訳で、ご発注有難うございました。
おまかせノベル -
凪池 シリル クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2018年10月26日

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