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『門倉 義隆といふ男 』
銀 真白ka4128)&黒戌ka4131

 銀 真白(ka4128)が水野 武徳の屋敷を訪れたのは朝方であった。
 昨日、黒戌(ka4131)より得た情報の真偽を問い質すと共に、水野 武徳(kz0196)が若峰見回組を組織した真の理由を聞き出す為である。
「水野殿。先日承った若峰見回組参加の件でございますが……」
「うむ、良き返事をもらえて何よりじゃ」
「ですが、それはお互いの信頼関係があった上での約束事。隠し事があれば、その関係は脆くもなりましょう」
 真白は直球で勝負に出た。
 下手に遠回しに言えば、武徳は逃げるに決まっている。それに頼まれているのは真白の方。強気に出るのは悪手ではない。
「何の事かのぅ」
「惚けないでいただきたい。
 既に即疾隊分裂の話も聞き及んでおりまする」
 真白はずいっと前に体重を傾ける。
 真剣な眼差しが、武徳を射貫く。
 覚悟。身命を賭すに値するお役目なのか。
 それを見定めんとする姿勢が、武徳の重い口を開かせる。
「……やれやれ。先日、即疾隊の屯所に現れた賊とはおぬしの手の者か」
「………………」
「まあよい。話す前にこの国について説明せねばなるまい」
 そう言った武徳は、詩天の内情を真白へ話し始めて。
 九代目詩天の配下は数種類に分類できる。

 元より九代目を支持した恩顧の家臣。
 千石原の乱で九代目を支持した家臣。
 九代目が就任してからの家臣。

 武徳は千石原の乱で九代目を支持した家臣となる。
 彼らはお互いが微妙な関係を保ちながら三条家を盛り立ててきた。

 だが、共和制の噂が出始めてからお互いが牽制を始めた。特に顕著なのは元々九代目を支持していた高坂 和典である。
 高坂のお役目は若峰守護職。言ってみれば即疾隊を抱える責任者だ。その高坂が警邏と称して武将屋敷を頻繁に見回っている事が火種となっていた。
「共和制に賛成する者を探るため、でしょうか」
「そのような噂もある。だが、ここに招かれざる客人が現れたのだ」
 招かれざる客人。
 そう表現されたのは若峰所司代である。先代詩天が幕府からの命を受けて設置した部署であり、幕府に成り代わって若峰を守護する役目を担っている。
 現実は単なる天下りポストであったが、最近幕府よりやってきた門倉 義隆によって状況は変わってきた。
 門倉は所司代の地位を最大限に利用して詩天衛士を設立。犯罪を犯すものを容赦なく断罪し始めた。
「分かって参りました。この若峰は二つの守護職が存在感を出し始めている、と。
 お互いが真なる若峰守護と主張しておる訳ですな」
「左様。切っ掛けは共和制反対の詩天内で盤石にする為であろうが、幕府と三条家内の反共和制がかち合ってしまったようじゃな」
 そればかりではない。
 門倉の方に義があると考えた隊士の一部が詩天衛士への移籍を画策。即疾隊内で厳しく罰したとの話もある。
 黒戌が聞いたのは、この話だろう。
「つまり、若峰見回組は即疾隊と詩天衛士が衝突するのを避ける為に三竦み状態にするべき組織された訳でごさいますね」
「それもある」
 それ『も』ある。
 武徳は確かに、そう言った。
 

「……事情は概ね把握したでござる」
 真白から話を聞いた黒戌は大きく頷いた。
 若峰見回組の屯所は、若峰中に点在している。そのうちの一つ、霊山寺には真白の自室が設けられる事となった。武徳が事情を知っている者を上に据えておいた方が良いと幹部へ押し上げたようだ。
 おかげで真白は頼みもしないのに隊士を預かる隊長の身分となっていた。
「事情は分かったが、これでは下手に身動きが取れぬ。さて、どうしたものか……」
 真白が腕を組んで思案するが、良案が思い浮かぶ気配がない。
 若峰見回組として動けば、即疾隊や詩天衛士も黙ってはいない。三組織の総力戦は絶対に回避したい。
 そして、若峰見回組の屯所に来て分かった事だが、若峰見回組にも血気盛んな若者がいる。詩天の未来を担う為、と若者を勧誘した結果のようだが、隊士を預かる真白としては彼らを抑える必要もある。もし、隊士の一人が暴走して他の組織の者と斬り合いになれば、この若峰に血の雨が降る事になる。
「して、水野殿は他に何と?」
 黒戌の問いに、真白は大きなため息をつく。
「詩天衛士を調べて欲しいそうだ」
「!」
 黒戌は真白の一言で察しが付いた。
 詩天衛士は閑職となっていた若峰所司代の権力を取り戻した門倉 義隆が中心となって立ち上げられた組織だ。
 言い方を変えれば彼らは『お客様』だ。幕府から送り込まれたのか、自ら詩天行きを挙手したのかは分からない。
 だが、武徳からすれば得たいの知れない存在が幕府側から送り込まれた事になる。
「水野殿としては詩天に仇成す存在であれば……」
「消せ、でござるか」
 事故に見せ掛けて始末するか。
 それとも浪士に討ち取られたように見せ掛けるか。
 いずれにしても忍び仕事に相応しい話だ。
「承知した。詩天衛士を探って参ろう」
「すまぬな」
 真白は始めから黒戌に託すつもりでいた。
 知り合いのハンターに呼び掛ける事も可能だが、即疾隊と知見のハンターも多い。下手に巻き込めば被害が大きくなる。
 事を起こすには、もう少し情報が必要となる。
「これもまた忍びの定め」
 黒戌は屯所を後にする。
 門倉 義隆。
 その者の存在を、黒戌は後に嫌というほど見せつけられる事となる。


(我が身を隠すのも忍術でござる)
 黒戌は若峰の大通りを堂々と歩いていた。
 用意していた旅商人姿で荷物を背負ったその姿は、どこから見てもハンターには見えない。
 商人に身をやつしてまで人混みに紛れる理由。それは視界の先にいる集団にあった。
 集団の中で一際大きい身長。
 黒戌の目算では六尺五寸。
 燃えるような赤い髪は異国の血も入っているのだろうか。
 そして着物から出ている顔や手に刻まれた無数の傷。
 無骨な上、見るからに屈強な男――それが詩天衛士筆頭の門倉 義隆である。
「分かりやすい程の武人でござるな……ん?」
 黒戌の位置からでも分かる。
 不穏な動きをする数名の男達。
 門倉とその配下の前に現れて行く手を塞ぐと、男達は一斉に刀を抜いた。
「門倉っ! 詩天に仇為す者として成敗してくれる!」
 どうやら、門倉を斬ろうとする者達のようだ。
 黒戌にはその者達が即疾隊なのか、見回組なのか。それとも不逞浪士なのかは分からない。
 しかし、門倉の力量を見るには絶好の機会だった。
 ここで殺されるのであれば武徳も心配事も減るのだが――黒戌の目にはその願いが叶わないと予感していた。
「貴様!」
 門倉の傍らにいた家臣が刀を抜こうとするが、それを門倉は手で制した。
「先生」
「こやつらはこの俺に挑んだ。ならば、それに答えねばなるまい」
 そう言いながら、門倉は腰に差した物を抜いた。
 明らかに大きい。大太刀ならば五尺は越えている。
 男達の持つ刀と比較すれば槍と匕首程の差がある。
 山のように聳えるように立つ門倉。
 襲撃した男達に向かって見下ろすように問いかける。
「今こそ問う。侍とは、なんだ?」
「は?」
「侍とはなんだ、と聞いている」
 突然の問いかけ。
 男達にはまったく理解できない様子だ。
「うるさい! ここで果てろ」
「侍に非ず、か」
 斬り掛かる男よりも早く門倉は大太刀を片手で横に薙いだ。
 居合抜きと見間違う素早い一撃。
 きっと男達には風が通り過ぎたように感じたのかもしれない。
「弱者に用は為し。去ね、地獄へと」
「……うっ、あ……」
 一撃によって男達の胴は下半身から落ちて地面へと転がる。
 着物の下に鎖帷子を着ていたようだが、あの大太刀の前では意味がなかったようだ。
(これは危険な相手でござるな)
 黒戌は直感した。
 門倉もまた覚醒者であると――。

「先生」
「ネズミだな」
 門倉は振り返る事無く呟いた。
 黒戌の存在に気付いていたようだ。
「先生、追っ手を出しましょうか」
「不要だ。捨て置くが良い」
 それだけ呟くと門倉は黙って歩き始めた。
 この国の侍は、如何なる者か。
 たっぷりと味合わせて貰うとしよう。


「それは真か」
 黒戌の報告に真白は思わず聞き返した。
 それだけ屈強な男が、何故詩天の動乱や龍尾城防衛に駆り出されなかったのか。
 少しでも戦力の欲しい幕府が放っておくはずがない。
「あれは役人ではござらん。戦働きにて功を上げた者でござる」
「だとしても、何故この詩天へ?」
「それは分かりませぬ。ですが……」
 黒戌は、少し間を置いて話し始める。
「必ず、目的であるはずでござる」
「目的……それは、この詩天に仇為す事か?」
 仇為す事――つまり、武徳の依頼通り、門倉を討ち果たす事を意味している。
 果たしてできるのか。
 歪虚とは異なる屈強な武人を前に。
 真白は思わず、腰に差した刀をそっと触れた。
「仮にそうだとするならば、相対する他ありませぬ。この詩天を守る為に」
 黒戌も敵対となれば手段を選んではいられない。
 あの武人が相手ならば、正面からではなく別の方法を考えなければならない。
 そんな事を考えている二人の前に、真白の隊の隊士が駆け込んでくる。
「隊長!」
 人の気配を察した黒戌は素早く物陰へ姿を隠す。
 真白はなるべく落ち着いた風を装って問いかけた。
「なんだ。襖を開けるならば、まず声を掛けるのが礼儀であろう」
「失礼しました。ですが……」
 その後、隊士の口から出た言葉は真白と黒戌の覚悟を促すものであった。
「即疾隊と詩天衛士が町中で衝突しています。見回組が諍いを止めるよう命令が下っています!」

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka4128/銀 真白/女性/16/闘狩人】
【ka4131/黒戌/男性/28/疾影士】
【kz0196/水野 武徳/男性/52/舞刀士】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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近藤豊でございます。
この度はおまかせノベルの発注をありがとうございます。
まさかこんなに早く続きを書かせていただけるとは思っておりませんでした。既にシナリオ案件じゃないか! と猫又さん怒られておりますが、気にせずお楽しみ下さい。
門倉は本ノベルのオリジナルキャラクターとなりますが、何となくイメージしやすいように書いております。真白さんや黒戌さんがどのように立ち向かうのか……私自身も楽しみだったりします。
それではまたの機会がございましたら宜しくお願い致します。
おまかせノベル -
近藤豊 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2018年10月29日

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