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『Frozen 』
バルタサール・デル・レイaa4199)&紫苑aa4199hero001

●今回のあらすじ
 北アメリカ大陸にはおおよそ四つの国がある。北からカナダ、アメリカ、リオベルデ、メキシコだ。北方が第二世界蝕の影響を受けたカナダも危険な状況に陥っているが、その他三国も現在大いなる緊張状態を保っていた。
 リオベルデとアメリカの国境付近に、新たな異世界が現界してしまったためである。

●Interest
 H.O.P.E.東京海上支部。美しい着物で着飾った鬼、紫苑(aa4199hero001)はしゃなりしゃなりと食堂の中を歩いていた。ゆったり辺りを見渡せば、隅の方で蕎麦を啜っているスーツ姿の少女が目に入る。彼はうっすら微笑み、ゆらりと足を向けた。
『お嬢さん』
 紫苑に呼びかけられ、少女――澪河 青藍(ゲストNPC)は箸を止めて静かに彼を見上げる。
『きみが、澪河青藍だったよね?』
「ええ、そうです。お嬢さんって歳でもないですけどね……」
 苦笑する彼女を他所に、紫苑は彼女の正面へ腰を下ろした。頬杖ついて、彼はじっと青藍の顔立ちを眺める。
『そうか。じゃあきみが恭佳ちゃんのお姉さんなんだ。知ってはいたけど……顔も似てないし、名字も違うから探すのにちょっと手間取っちゃったよ』
「恭佳はうちの猶子ですからね。戸籍上は他人なんです」
『ふうん。血も繋がってない、家も違うけど、姉妹なんだ。……何だか、君達の繋がりって、能力者と英雄みたいだね』
 紫苑が謡うような口ぶりで語り掛けると、青藍は僅かに眉を上げる。
「恭佳の出自は知ってるんでしたっけ」
『人間と英雄の間に生まれた子どもなんだよね。……他にもいるけど、不思議だよね』
 彼の細い声は、本気なのか本気でないのか分からない。青藍は訝しげな顔をする。
『いや。今日はね、そんな話をしに来たんじゃなかったね。少し聞きたいことがあって』
「何です」
『ハワード・クレイについて、ちょっと聞きたい事があったんだけど……恭佳ちゃんに聞いたら、きみが明らかにしてくれるって、言ってたから』
「確かに、ある程度は確信に至る情報が得られたんで、そろそろ皆さんにも報告しようと思っていました」
『じゃあ、その報告の前に、ちょっと僕に教えてくれないかな。いいよね?』
 にこにこと微笑みながら紫苑は尋ねた。青藍は背筋を伸ばし、僅かに身構えた。
「何故です?」
『出来ないなら別に良いんだよ。焦らされるのも嫌いじゃないからね』
 琥珀のような眼を細める。声にうっすらと色香が漂った。鬼と呼ばれて忌み嫌われながらも、宝石のようにも扱われた彼の人生が、その声色に詰まっていた。青藍は思わず顔を顰める。
「いえ、すぐ全体に報告するものですからね……」
『じゃあ教えてくれるんだね?』
「まあ……一応」
 青藍は隣の席に載せた鞄を開くと、紫苑の目の前でタブレットを操作し始めるのだった。

●Ennui
 アメリカのどこかにある、射撃練習場。バルタサール・デル・レイ(aa4199)は、拳銃にマガジンを装填すると、片手で構えて20ヤード先の的に狙いを定める。
 乾いた銃声。鉛玉は的のど真ん中を貫き、銃口からは硝煙がふわりと漂う。バルタサールはそのまま引き金を何度も引いて、マガジン一杯の銃弾を纏めて的に叩き込んだ。的の真ん中には大穴が空いていた。
 バルタサールは、そっと銃口を下ろす。訓練のつもりでもなければ、娯楽のつもりでもない。カルテルの一員だった頃から積み重ねてきた、只の習慣だ。
『やっぱりここにいたんだねぇ』
 紫苑は足音も立てずに練習場に足を踏み入れる。バルタサールはウェスを取り、銃口を軽く拭う。
「どこに行っていたんだ?」
『ちょっと人に会って来たんだよ。色々と聞きたいことがあったからね』
「あのエンジニアの義姉か」
 眉一つ動かさずにバルタサールは言う。紫苑はふっと頬を緩めた。
『よくわかったね』
「考えるまでも無いだろう。リオ・ベルデの件に、お前はやたらと御執心のようだからな」
 銃を幻想蝶へ収め、バルタサールは練習場を出ていく。紫苑はその背中にぴったりとついて歩いた。肩越しに彼の横顔を覗き込み、紫苑は語り掛ける。
『どんな話が聞けたか、気にならないのかい?』
「それほど興味はないな。大方、あの大佐は――というところじゃないのか?」
 バルタサールがさらりと言ってのける。それを聞いた紫苑は思わず目を丸くした。
『おやおや。本当に言い当てちゃうんだ』
「驚くような事でもない。聞いた限りの情報を集めて考えれば、誰だってその考えには辿り着くだろう」
『そんな風に言われると、何だか寂しいねえ』
 青藍をどぎまぎさせた上目遣いも、バルタサールには通じない。紫苑の肩を掴むと、無理矢理背後へと押し戻す。
「勝手に寂しくなってろ」
『ふむ……』
 紫苑が寂しい、と言ったところで本当に寂しくなっているわけではない。人でなしとして扱われ続けた果てに、気付けば怒る事も哀しむ事も彼は忘れてしまっていた。
 バルタサールにしてもそうだ。その身にテスカトリポカを彫った時から、どこかの箍が緩んだらしい。頼みとするのは己の信条のみ。己が赦すなら、どんな人間でも良心の呵責無く殺す事が出来てしまった。その心情を裏打ちするように、彼はあらゆる事象に対して全くの無関心を貫いてきたのだが。
『でもさ、やっぱりきみも気になってるんじゃない?』
 ふと、紫苑は尋ねる。バルタサールは無視を決め込んだまま、無造作に煙草を取り出した。紫苑は構わず話し続ける。
『だってそうでしょ? 別に大佐がどんなんだろうが関係ないのに、きみはわざわざ大佐の実情について想像力を働かせたわけだよね』
 紫煙を吐き出す。頬の一筋すら動かさず、彼は押し黙っていた。
『面白いと思うよ。とってもね』

●Memento
 ある日、テキサス州のリオベルデ国境付近で愚神が現れた。付近には“カイメラ”と呼ばれる異世界も出現しており、その影響が示唆されていた。ニューヨーク支部からの要請もあり、バルタサール達は愚神の討伐へと向かう事にした。

 人員輸送用のトレーラーに乗り込んだバルタサールは、愛用の狙撃銃型AGWを分解し、丹念に手入れを続けていた。天井に設けられたスピーカーから、オペレーターの女性の声が響き渡る。
[今回の任務は、デクリオ級愚神の討伐です。戦力そのものは左程脅威とは言えませんが、ミーレス級の従魔を多数引き連れております。付近には工場が存在しますので、くれぐれも戦闘に工場を巻き込む事の無いようにお願いします……]
 片耳で聞き流しながら、バルタサールはこっくりと頷いた。H.O.P.E.のミッションは決まり切っている。出現した愚神を、従魔を、たまにはヴィランを叩く。民間人には被害を出さない。極論すればそれだけの事だ。細部は戦場に立ってから把握しても十分に間に合う。狙撃銃を組み立て直すと、今度は腰に差した拳銃を手に取る。
[……あと三分でトレーラーは現場に到着します。では、皆さんのご無事を祈っております]
 拳銃のグリップや引き金の固さを確かめると、そのままホルスターへと戻す。ふと顔を上げると、彼は目の前に座っている少女と目が合う。その姿こそ、ローティーンのまだまだあどけない少女と見えるが、その眼だけは南極の氷のように凍り付き、その感情を奥に閉ざしてしまっていた。
『(おやおや。これは面白いね)』
 共鳴した紫苑が、バルタサールに囁く。
「(何がだ)」
『(何がって……分からない? あの子の眼、きみと全く同じだよ。名前、何て言ったかな。何度か会ってるような気がしたけど)』
 トレーラーの中で煙草を吸うわけにもいかない。手持無沙汰に腕組みしながら、バルタサールは意識の奥で紫苑に問いかける。
「(あの娘の眼と俺の眼が、か?)」
『(うんうん。面白いねえ。きみはまあ、そうなるまでにどれだけかかったのか分からないけど、あの子はまだ小さいのにあんな眼をするようになっちゃったんだよ。どうしてそんな事になっちゃったのか、気にならない?)』
「(ならんな)」
 バルタサールは即答する。戦場で背中を狙ってきたりしなければ、他人に興味など湧きはしなかった。
『(へえ……そうなるとやっぱり大佐の事が気になっちゃうね)』
[現着! 直ちに出撃してください!]
 運転手が叫んだ瞬間、トレーラーの扉が開く。シートベルトを外したバルタサールは、背中のホルダーにライフルを掛けてトレーラーを飛び出した。拳銃を抜いて構えながら、周囲を見渡す。広がる廃墟のペンキはまだ新しい。地方の村落は、愚神従魔の襲撃を恐れてH.O.P.E.の支部が存在する都市へと逃げ出し、こうして放棄されるようになりつつあったのだ。
 手ごろな建物を見つけたバルタサールは、駆け寄って雨樋を伝い、屋根の上までよじ登る。
「(……何故気になる?)」
『(君が興味を抱き始めているからだよ。まあ、大佐だけじゃないかな。リオベルデで何が起きているか、きみも少なからず知りたがっている)』
 バルタサールが心に宿した氷が溶ける事は無いだろう。しかし、紫苑は期待にその心を躍らせていた。
『(これから、どうなっちゃうんだろうね)』
「楽しそうだな、お前は」
『そりゃ、愉しいよね』
「そうか」
 淡々と応えると、敵が廃墟な狭間を駆け抜けている。頭上から狙いを定めたバルタサールは、その引き金を静かに引いた。

 彼らの名前はH.O.P.E.の凍れる瞳、バルタサール・デル・レイ&紫苑。何があっても動じぬ冷徹な精神を以て、敵を的確に撃ち抜くのである。



 CASE:バルタサール おわり





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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バルタサール・デル・レイ(aa4199)
紫苑(aa4199hero001)
澪河 青藍(ゲストNPC)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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影絵 企我です。この度は発注いただきありがとうございました。
おまかせなんて初めてなので、満足いただける出来になったかどうか……とりあえず、想像できる限りで想像して描かせて頂きました。
折角なので、色々な方のノベルを読み比べていただけたらな……何て思ったり。
何かありましたらリテイクを……

ではまた、御縁がありましたら。



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2018年10月29日

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