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『氷と炎 』
氷鏡 六花aa4969)&ナイチンゲールaa4840

●今回のあらすじ
 ある日、テキサス州のリオベルデ国境付近で愚神が現れた。付近には“カイメラ”と呼ばれる異世界も出現しており、その影響が示唆されていた。ニューヨーク支部からの要請を受けた二人のエージェントは、愚神と従魔を討伐するため現地へと急行するのだった。

●小夜と六花
 人員輸送用のトレーラーに乗り込んだ、氷鏡 六花(aa4969)とナイチンゲール(aa4840)。二人は隣同士で座り、オペレーターが早口で語る戦況概要を聞いていた。
[今回の任務は、デクリオ級の討伐です。戦力そのものは左程脅威とは言えませんが……]
 押っ取り刀で急行した二人は、武器の手入れをしている暇も無かった。銘々幻想蝶からAGWを取り出すと、軽く起動して調子を確かめていく。
「いつものことだけど、よろしくね」
「……ん。はい、よろしく……お願いします」
 互いに笑みを交わす。ナイチンゲールは鎖を解いて、鞘から刃を抜いた。ライヴスを流し込まれた刃の柄元に、ケナーツのルーンが浮かび上がる。その意味は“炎”。嘗ては抜く事さえ封じられたこともあったが、今では熱情を胸に秘めつつ、厳然と戦場に立つ彼女の象徴ともなりつつあった。
 一方、魔導書のページに損傷が無い事を確かめた六花はそっと表紙を閉じる。刻まれた題の名は“終焉之書絶零断章”。時には敵を氷の中に閉ざす程の力を秘めた魔導書であり、少女の名前はこの武器と共に知れ渡るようになっていた。
 氷と炎。相反する性質の持ち主であったが、二人の仲は良好であったし、任務へと共に赴き、連携も良く行っていた。
[今回の愚神は廃墟に潜んでいます。数か月前までは一般的な居住区でしたが、愚神の攻撃を恐れた人々が都市部へと次々に流出し、結果的に機能を果たせなくなり放棄された模様です]
「居住区の放棄か……どこも、不安が広がってるね」
「……ん。だから、早く愚神は滅ぼさないと、いけないんです」
「……滅ぼす、か」
[あと三分でトレーラーは現場に到着します。では、皆さんのご無事を祈っております]
 ふと二人は顔を正面へ向ける。拳銃の手入れをしていた一人のエージェントと、その眼が合った。ポーカーフェイスで何を考えているかは知れないが、少なくともその眼に底知れない冷たさを宿しているのだけは判った。ナイチンゲールは物憂げに口を結ぶ。
「(あの眼、今の六花に似てる)」
 彼女はふと思った。今の六花は、ホワイトアウトの彼方に立っているかのようだ。誰も近づけない。昔は冬の新雪のようにきらきらと輝いていたその眼も、今や極夜の暗闇の如しだ。
 いつから、などと問う必要は無かった。H.O.P.E.にスーツを着込んだ黒い獅子が現れ、雪娘と呼ばれた少女と六花が絆を結んでしまった時から、こうなる定めであったのだ。
[現着! 直ちに出撃してください!]
 運転手が叫び、トレーラーの扉は開く。シートベルトを外した六花は、真っ先に立ち上がって振り返る。
「……行こう」
 頷くと、ナイチンゲールは武器を取りつつトレーラーを飛び出した。

●炎の剣と氷の槍
 二人は並んで旧居住区へと駆け込む。まだペンキも新しい一軒家の陰に隠れ、町全体を窺う。従魔の息遣いが、愚神の声が何処かから聞こえた気がした。六花は魔導書を脇に抱えたまま、ひび割れたアスファルトの道を駆け抜けゴミ箱の陰へと移った。小柄な少女は、小さな遮蔽物でもその身がすっぽりと収まってしまう。
 彼方でガラスの割れる音が響いた。無造作に走り回る従魔が割ったのだろう。六花はその方角へと手を翳し、霊力を集め始める。寒さに耐え忍ぶ企鵝のように、じっと構えたまま動かない。
 やがて、目の前の建物の奥に、ちらりと動く影が見えた。集めた霊力を、断章の力で氷槍へと変換していく。窓ガラスが割れ、巨大な甲殻類にも似た人間大の奇怪な生物が姿を見せた。鎌のように鋭い両手を振り被り、それは窓枠を乗り越え従魔が六花へ向かって這い寄ってくる。
「……気持ち悪い」
 吐き捨てる。しかし、虫けらのような外見にも怯える事は無い。冷静に氷槍を構え、大きく開いた顎に向かって鋭い切っ先を突き立てた。顎の牙が砕け、従魔は大きく仰け反る。散らばった氷の槍は極寒の冷気へと変わり、従魔を仰け反ったままの姿勢で凍りつかせる。
 六花は背後を振り返る。小夜啼鳥は頷くと、建物の陰から身を乗り出し、腰に差した剣の柄に手を掛ける。鎖が次々に断たれ、鯉口から深紅の輝きが零れだす。
 鋭く一歩を踏み出す。同時に刃を抜き放つと、振り抜かれた刃の先から、炎が刃の幻影と化して飛び出す。凍り付いた従魔は、無抵抗のまま炎を全身に浴びた。どこから放たれたかも分からない悲鳴を上げて、従魔は吹っ飛びその場に斃れた。
 悲鳴を聞きつけたのか、廃墟の陰から次々と従魔が姿を見せる。どれもこれも虫のような見た目だ。小夜啼鳥は六花のそばに駆け寄ると、その耳にそっと耳打ちする。
「いつもの通りに、ね」
「うん」
 小夜啼鳥は剣を胸元で構えると、その全身にライヴスを行き渡らせる。有り余るライヴスが周囲にも放たれ、反応した従魔は両腕の鎌を研ぎ直し、足をめったやたらに動かしながら続々と小夜啼鳥へと迫っていく。
「……そうそう、こっちにおいでよ」
 小夜啼鳥も自ら前線へ踏み出し、より多くの従魔を自らへと引き寄せていく。突っ込んできた一体を脇に飛んで躱し、次の一体が振り下ろした鎌を刃の切っ先で受け止める。身を翻して弾き返し、その反動でそのまま三体目の頭を横から殴りつけ、足元を崩した。四体目が迫ったところで剣を正眼に構え、攻撃を牽制する。
「六花!」
 その名を呼んだ瞬間が、連携攻撃の合図。六花はその背中に浮かぶ翼の幻影を周囲へ散らす。氷の羽毛は鏡のように煌き、空から差し込む陽光を周囲へ照り返す。六花は再び槍を取り出し、従魔の群れへ向かって擲った。氷の鏡が放つ無数の光を浴びた瞬間、槍は砕けて無数の氷の刃と化し、従魔の群れへと次々に突き刺さった。従魔は怯み、その場で身を固める。小夜啼鳥は、その隙に群れの真ん中へと切り込んだ。
「はぁっ!」
 剣にライヴスを込める。赤熱した刃で、一息に周囲を薙ぎ払った。従魔の首が飛び、鎌が砕け、足がもげて次々その場に崩れ落ちていく。
 二人の連携で従魔が次々と倒されていく中、遂に親玉の愚神が姿を見せた。背中の翅を擦り合わせて不快な金属音を立てながら、槍状の左腕を突き出す。
「貴様!」
 一声叫ぶと、盾状になった右腕の甲殻を構え、騎馬のように突進してくる。小夜啼鳥が纏わせた炎を飛ばすが、固い盾で弾き返してしまう。突進は咄嗟に脇へと飛んで躱した。
 六花は魔導書を捲り、素早く呪文を詠みあげる。振り返ると、手を振るって凍り付くような吹雪を愚神へと飛ばす。背後からの一撃は愚神に対応を許さない。全身を締め付ける冷気に、愚神は悶えた。
「おのれ……!」
 体勢を整えた小夜啼鳥は、剣を構え直して愚神へと突進する。
「……一つだけ教えて。“王”は、貴方に何を命じているの」
 どうにか振り返った愚神は、槍を構えて吼えた。
「決まっている。貴様達も“王”の一部とする事、只一つ!」
「そうなんだね」
 素早く間合いへ踏み込むと、剣を袈裟懸けに振るって槍を弾き落とす。更に右へと薙ぎ払って盾を弾いて仰け反らせる。更に左へと切り上げ、胸元の甲殻を切り裂いた。嵐のように叩き込む一撃で切り裂いた甲殻を砕いて剥ぎ取り、剥き出しになった肉に向かって切っ先を突き立てる。
 死出の旅へと送り出すコンビネーション。デクリオ級程度が耐えられるはずも無かった。無言のまま崩れ落ちた愚神は、そのまま骸さえも残さずに消え去っていく。小夜啼鳥は十字を切って見送ると、剣を鞘へと納め、鎖で封じる。
「とりあえず……終わったかな」
 ナイチンゲールは背後を振り返る。魔導書を閉じた六花が、にこりともせずに立っていた。
「……ん。お疲れ……でした」

●希望と絶望
 ナイチンゲールと六花の活躍もあり、廃墟から一体も愚神や従魔を洩らさず退治は完了した。付近への被害も無い。討伐部隊は、大半が揚々と引き上げていた。
 再びトレーラーの荷台に隣り合って座り、ナイチンゲールと六花は押し黙っていた。以前なら、もっと言葉多くやり取りを交わしていたかもしれない。だが、とある一件から、戦い以外は黙って隣り合っているだけ、という事も増えてしまったのだ。

 あの洋上での戦いから。

「……ん」
 六花がふと口ごもる。ナイチンゲールを見上げて。向き直ったナイチンゲールは、微笑みを浮かべて首を傾げる。
「どうしたの?」
「……えっと。その……気になって」
「何が?」
 屈託のない笑みを見せられ、六花は俯く。
「どうして、ナイチンゲールさんは……“王”の目的を、知りたがるの……かなって」
 洋上での対峙を、六花はふと思い出す。
「“王”がどんなことを思っていようが……関係なんて、無いのに」
「まー、確かに人が生きるためには、どんなことを王様が考えていたって関係の無い事なんだけどね。でもそれじゃダメなんだよ」
 膝上で両手を組みながら、ナイチンゲールは天を仰ぐ。洞窟で見たブラックホールの虚無が、脳裏に今も焼き付いている。
「世界を飲み込もうとしているのは、“王”の本当の望みなんかじゃなかったとしたら、もうどうしようもなくなって、あんなことになってるんだとしたら……救ってあげないといけないと思うから」
「……救う。……ナイチンゲールさんは、いつでも、そうなんですね。……六花は、やっぱり、そうは、考えられない」
 救済を願う熱情と、氷のように鋭い復讐心。共に居ても、心は相容れない。

 彼らはH.O.P.E.の氷炎、氷鏡六花&ナイチンゲール。互いが目にするものは遠けれど、確かな連携の精度を以て敵と渡り合うのである。



 CASE:氷鏡 六花 & ナイチンゲール おわり







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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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氷鏡 六花(aa4969)
ナイチンゲール(aa4840)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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影絵 企我です。この度は発注いただきありがとうございました。
満足いただける出来になったかどうか……とりあえず、想像できる限りで想像して描かせて頂きました。
折角なので、色々な方のノベルを読み比べていただけたらな……何て思ったり。
何かありましたらリテイクを……

ではまた、御縁がありましたら。



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2018年10月29日

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