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『王様のプリン 』
君島 耿太郎aa4682)&アークトゥルスaa4682hero001

●今回のあらすじ
 一つ! 耿太郎は冷蔵庫にプリンを保存していた!
 二つ! アークはそのプリンを食べてしまった!
 三つ! さあ、お前の罪を数えろ!

●カスタードプディングの魔力
「……はぁ」
 君島 耿太郎(aa4682)はでかでかと溜め息を吐く。眼前では、フローリングにアークトゥルス(aa4682hero001)が正座したまま押し黙っている。頬を固くしたまま、耿太郎はアークへ語りかける。
「……王さん」
『あぁ……』
 他者の前で膝を折るなどという、王としては屈辱極まりない姿勢を取ったまま、アークはちらりと耿太郎を見上げる。思わず屈辱に甘んじてしまうほどの凄みを、耿太郎の眼は持っていた。
「何で俺のプリン食ったんすか……」
 低い声で耿太郎は尋ねる。冷蔵庫の中には、一個のプリンが入っていた。三つ一揃いの、食後のデザート、三時の軽食にぴったりの小さなプリン。シャワー上がりの楽しみに耿太郎は取っておいたのに、事もあろうにアークが皿洗いの終わりにこれを見つけて食べてしまったのである。
『……最後の一つだとは、思っていなくてだな』
 冷蔵庫の中を覗けば、一つしかなかった事は明白だったはずである。彼の発言は果たして嘘なのか真なのか。恐らく八割方は苦し紛れの言い逃れだと思われるが、清廉潔白な王がそんなちゃちな言い訳をするとも思われない。故に本当にそうだったのかもしれない。とりあえず耿太郎はアークの言う事を信じる事にしておいた。信じる事にしておいて、じっくりと尋ねる。
「何か言うことは?」
 眼が泳ぐ。食べ物の恨みは恐ろしい。黄金の国ジパングの警句がその身に突き刺さる。彼は静かに頭を垂れる。
『その……すまなかった……』
「はぁ……」
 “大切なプリンを食べてしまってごめんなさい”の儀はこうして耿太郎の溜め息に始まり、溜め息によって締めくくられた。アークは顎をさすりながら、ぽつりと呟く。
『しかし……冷蔵庫に入っているカスタードプディングは何故ああも食べたくなってしまうのだろうな……』
「哲学始めなくていいっすよ」
 耿太郎の声色にアークははっとする。このままでは第二ラウンドが始まりかねない。アークは再び頭を垂れて赦しを乞う。
『本当にすまなかった。明日プリンを買ってくる。それで勘弁してくれないだろうか』
「それならもっといいヤツを買ってきてほしいっす。三倍くらいのを頼むっすよ」
『三倍? ……ああ、三倍良いプリンだな。承った……』

●王様の拘り
 次の日、洋菓子店のアルバイトを終えたアークは家の近くのスーパーを訪れていた。真っ先にゼリー、プリンのコーナーを訪れた彼は、種々の会社が売り出した様々なカスタードプディングを眺めていた。
『三倍か……』
 ぽつりと呟き、彼はホワイトクリームの乗ったプリンを手に取る。彼が食べてしまったプリンは三つセットで一五〇円、一つあたり五〇円程度の代物である。対するこのプリンは一つで一五〇円。値段的にはこれで三倍である。
『(いやしかし、三倍というのは果たして値段の軽重だけで測れるものだろうか。昨日食した時の三倍の満足感を得られる品をこそ、耿太郎は求めているのではないか?)』
 だがここでアーク、そのプリンをかごに入れない。見渡せば、一五〇円のプリンなど幾つもある。量をひたすら売りにした製品、メーカー品では主流のケミカルプリンではなく本来の製法で作られた製品。今手元にある、プラスワンの要素を取り出した製品。こうして見ると目移りしそうだ。
『(三倍……このどれを買っていったとして、あの魔力を伴った代物を三倍も上回ることが出来るだろうか……)』
 凄まじい形相でプリンを見つめるアークの背中を、小さな子供が遠巻きに見つめている。しかし、とあるスイッチが入ってしまったアークはそれに気づかない。
『(いや、否だ。そこにある二五〇円の高級プリンを買ったところで、あの満足感を上回ることはないだろう。第一、量が少なすぎやしないだろうか?)』
 一番上の棚に並べられた高級プリンにさえ軽くケチを付けながら、王様はその場を離れる。店売りのプリンはどれも同じに思えてならない。
『ならば……』
 意を決したアークは、プリンゼリーコーナーを離れる。向かうのは菓子作りコーナー。ホットケーキミックスやゼリー用のゼラチンやらが置いてあるコーナーだ。
『どうせならば手作りの方が良いだろう。店売りのものを買って渡すのでは限界がある。手作りなら……』
 言葉が口を突いて出てくる。擦れ違ったおばさんが怪訝な顔で振り返ったが、やはり彼の眼には留まらない。そのまま棚の列の角を折れ、コーナーに辿り着いた。
『(これだな……)』
 アークは棚の前で屈みこむと、“ホームプディング”と名が付いた自家製プリンのキットを手に取る。牛乳と砂糖、卵とこのキットが有れば出来るという簡単お手軽を売りにした品物だ。
『(これを特別上等な牛乳を使って作ろう。それなら耿太郎も満足してくれないだろうか)』
 買い物かごにキットを放り込むと、彼はおもむろにレジへと向かうのだった。

 三十分後、アークはそそくさと家へと帰ってきた。適当に靴を揃えながら、彼は真っ先にキッチンへと向かう。耿太郎はキッチンにひょっこりと顔を見せた。
「お帰りなさいっす。……って、どうしたんすか?」
『ああ……。待っていてくれ。今からプリンを作るから』
「作る?」
 突然の決意表明に、耿太郎は思わず首を傾げる。アークは力強い眼を耿太郎に見せつけた。
『そうだ。三倍……といわれたが店売りのプリンはどれもぱっとしないように思えてな。どうせなら、俺自身が作ってしまえと思ったんだ』
「自作……? いや、そこまでしなくても良かったっすのに。三倍は言葉の綾であって……」
『いいや、それでは俺の気がすまん。待っていろ、耿太郎』
「は、はぁ……」
 彼の横顔を見ているうち、耿太郎は何だか嫌な予感がしてくるのだった。

 三時間後。シャワーを済ませ、いよいよ寝ようかという時間。仕込んでおいたプリンが完成した。タオルを首に引っ掛けながら、耿太郎は冷蔵庫を開く。アークの作ったプリンは、しっかりと冷えてその中に納まっていた。
「お、出来てるっすね」
『……早速食べるとしよう』
 アークはスプーンを二つ取り出し、自分の分も冷蔵庫から取り出した。戦にでも赴くかのような形相に、思わず耿太郎は目を瞬かせる。
「(怖い顔してるっす。……やっぱり、いよいよあのスイッチが入ってるような気が……)」
 耿太郎は彼と向かい合わせになって座り、プリンの滑らかな表面にスプーンを突き立てる。ふわりとした感触。掬って食べると、普段食べているプリンよりも数段濃厚な甘みが口の中に広がった。今まで食べた事の無いプリンだ。目を丸くし、耿太郎は思わず声を張り上げる。
「うまっ! これ美味いっすよ!」
 満面の笑みを浮かべ、少し大げさなくらいに褒める。そうでもしないと王様の気が収まらないような予感がして。
 しかし、彼の想像以上に、王様はプリンに対して熱意を抱いてしまっていたのである。
『……いや、足らん』
 アークはすぐに口走る。やっぱりか、と思いつつ耿太郎は唇を結んだ。アークは目の前で立ち上がると、スプーンを振りながらぶつぶつと呟く。
『足りない……手作りでこの程度なのか? やはりキットに頼ったのがいけなかったのか』
「王さーん。俺は別にこれで満足っすから……」
『だめだ! これでは俺の気が収まらん。待っていろ耿太郎。最高のカスタードプディングを今度食べさせてやるからな』
「は、はぁ……」
 曖昧に笑みを浮かべ、耿太郎はこくりと頷く。
「(やっぱり始まったっす……)」
 この王様、負けず嫌いで凝り性で、ついでに頑固の三点コンボの持ち主だ。このスイッチが入ってしまうと、メンドクサイ人になってしまうのである。

●王様のプリン
 数日後、アークは抱えていた様々な材料を台所に並べていた。不安そうな顔で耿太郎は背後からその様子を見つめている。
『よし……作るぞ』
「別に、そんな張り切ってくれなくても良かったんすよ……?」
『だから、それでは俺の気が収まらんのだ。問題無い。今回はとある人物に師事してきた』
 一通り並べたアークは、ダイニングテーブルの椅子に引っ掛けていたエプロンを取り、身に着け始める。普段から料理系のバイトをしているだけに、その姿は様になる。
「師事……バイト先のパティシエさんっすか?」
『違う。苺が好きな彼にだよ』
「あのお兄さんにっすか……」
 耿太郎はとある先輩エージェントの顔を思い出す。張り詰めた緊張感の持ち主で、その眼付きも刃に宿る光のように鋭いのだが、一度懐に入ってしまうと苺が好きだったりスイーツ作りが趣味だったり、ついでにどこか隙があったりする好人物だった。
『彼もあの店で働けばすぐ頭角を現すだろうに。逸材というものはいつでも市井に埋もれているものだな』
「はあ……」
 張り切って作り始める王様の背中を、耿太郎は黙って見ている事しか出来なかった。

 数時間後、オーブンでじっくり焼き上げ、冷蔵庫でひんやり冷やしたカスタードプディングが完成した。グラタン用の皿から取り分けると、バニラエッセンスの甘い香りがふんわりと漂う。鼻腔をくすぐられた耿太郎は、思わず頬を緩めてしまう。
「すごいっすね。匂いだけで美味そうっす」
『そうだな。やはり手作りするならここまでやらなければ』
 今度こそは王様も自前のプリンに満足げだ。二人は席に腰を下ろすと、スプーンを手に取る。食卓の光を受けて、プリンは黄金に光っていた。
「いただきます」

 彼らこそはH.O.P.E.東京支部の英雄王、君島耿太郎&アークトゥルスである。日常でも一切手を抜かない王の用意周到さは、戦場で相対する敵にとっては非常に脅威となるだろう。



 CASE:君島 耿太郎 おわり







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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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君島 耿太郎(aa4682)
アークトゥルス(aa4682hero001)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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(屮゚Д゚)屮゚Д゚)屮゚Д゚)屮゚Д゚)屮<カモーン!!

影絵 企我です。この度は発注いただきありがとうございました。
本当はライオンさんあたり引っ張り出してきてシリアス一辺倒な作品を書こうかな……とも思っていたのですが、ネタ探しに彷徨っていたらプリンネタの呟きを見かけてしまい、気付いたら何か知らないけどパロディも入れたりしてこんな事になっていました。ですが私は謝らない事にします。
何かありましたらリテイクを……

ではまた、御縁がありましたら。



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2018年10月29日

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