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『傭兵も時には策を用いる 』
劉 厳靖ka4574

「こりゃ、絶景だなぁ」
 眼下に広がる風景を前に、劉 厳靖(ka4574)は呟いた。
 誰もが見惚れる素晴らしい風景ならば、その言葉にも説得力はあるだろう。
 だが、そこに犇めくのは憤怒の軍勢。平原を埋め尽くすかのような群れには侍達も肝を冷やしている。
 幕府からの依頼――突如現れた憤怒の軍勢を迎撃するというものであったが、緊急の依頼である事から詳細は明かされていなかった。
 だが、劉が現地へ辿り着いてみれば状況は想像以上に深刻であった。
「あ、あの……絶景って……」
「見りゃ分かるだろ。今からあいつらを止めようってんだ。俺達だけで」
 劉と共に戦うのは数名の新人ハンター。そして龍尾城から派遣された侍達である。
 戦力としては些か心許ない。龍尾城から援軍が到着する予定だが、その到着まではこの戦力で耐え凌ぐ他無い。
(まあ、ビビるのも仕方ねぇ。これだけの軍前にたった十人そこら止めようってぇんだ。正面から挑めばタコ殴りにされて終ぇだ)
 劉も経験上、大軍を前に少数の戦力で挑む事の無謀さは知っている。
 今回の依頼は如何に足止めするかが鍵なのだ。
 ――となれば。
「こっちも大軍に見せかけるしかねぇな。おう、そこの魔術師」
「は、はい!」
「この先の崖で待ち伏せしてろ。合図を見たら敵の側面から魔法で攻撃を仕掛けろ。それからそこの侍達は崖の上に松明をおけ。できるだけ多くな」
 劉は既に周辺の地形をチェックしていた。
 この先は渓谷がある。道幅が狭く、大軍が進むには隊列を細く長くする必要がある。それにこちらが大軍で待ち伏せしていたと見せかけるにはお誂え向きの崖がある。
 間もなく夕刻。
 遠くから見れば松明も大軍に見えるだろう。
「残りは渓谷の入り口で伏せるぞ。一気に敵の側面を叩く」
「それで、成功するのでしょうか……」
 心配そうな顔つきの新人ハンター。
 腰に装備した真新しい剣が、持ち主の経験を物語っている。
 新人まで投入せざるを得ない現状だが、劉は堂々と答えた。
「まあ、何とかならぁ」


「敵襲!」
 夕闇が辺りに広がり始めた頃、憤怒の軍勢にそのような声が木霊する。
 憤怒の軍勢は多くが妖怪のような姿をしているが、唐突の敵襲に戦く所は人間と変わらないようだ。
「伏兵か。どっちからだ?」
「右……いや、左から……」
「どっちでもいい。何とかしろ」
 慌てふためく憤怒の軍。どうやら、敵も寄せ集めの軍勢のようだ。
 その状況は劉にとって願ってもない状況だ。
「行くぞ。敵に奇襲のやり方を教えてやれ」
 ペガサスに乗った劉を先頭に、侍と新人ハンター達は細くなった軍の側面から突っ込んだ。
 激しい衝突。
 空を駆けるペガサスが骸骨兵士を吹き飛ばして戦端を拓く。
 そこへ侍と新人ハンターが飛び込んで周辺の骸骨兵士を倒していく。敵襲に備える事のできていない骸骨兵士達を倒すだけならば新人ハンター達でも何とかなりそうだ。
(囲まれないように気を付ければ十分だ。よし、次だ)
 劉はペガサスに乗ったまま、槍を上に掲げる。
 その合図を受け、魔術師のファイアーボールが敵陣の中央に放たれる。
「うわ!」
「敵の攻撃だ!」
 事態を把握仕切れていない先頭近くの敵に突然降り注ぐ魔法攻撃。
 これにより敵はさらに混乱していく。
 既に戦場は混沌に染め上げられ、十名の一方的な掃討となっている。
 そして――劉は。
「敵の大将を狙うなら、今しかねぇ。何処だ」
 劉が今まで出会った敵ならば、敵に大将は他者と差別化している。
 まるで自分が偉いと誇示するかのように。
 そして、その周囲には精鋭。ガッチリと守って自分だけは助かろうとする。
 この混乱の中、もっとも落ち着いて防御を固めている部分――そこがこの軍の弱点だ。
「……あれか」
 劉の目に留まったのは、より骸骨兵士が密集する一角。
 そこの骸骨兵士だけは鎧装備が整っている。手には槍と刀。
 その中央には一際目立つ大きな兜。
 倒すべき敵を劉は捕捉した。
「うぉぉぉ!」
 劉の咆哮。
 同時にペガサスは地上に向かって走り始める。
 敵の大将と思しき場所へ一直線。劉の手にした槍に力が込められる。
 右腕の蒼い燐光が一際輝く。
 そして、一閃――。
 劉の一振りは豪華な兜ごと頭を吹き飛ばし、指揮官を打ち倒した。


「見事でございました」
 援軍が到着する頃には、大将を倒された軍は霧散。
 劉達の圧倒的勝利に終わった。足止めが目的だったはずだが、勢いに乗じて敵の大将格を討ち果たし、その上死亡者はゼロ。既にこの戦果は龍尾城にも轟いているだろう。
 それでも劉は傭兵である。報酬さえ手に入ればそれでいい。また金を貰えるなら幕府の為に槍を振るうだけだ。
 喜びいっぱいの新人ハンターを前に、劉はポツリと呟いた。
「言ったろ? 何とかなるって」

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka4574/劉 厳靖/男性/36/闘狩人(エンフォーサー)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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近藤豊でございます。
この度はノベルの発注ありがとうございます。
今回は現在展開中のエトファリカ連邦国での騒乱における1シーンとして描かせていただきました。大軍を前に少数の戦力で戦うのもハンターとして良いのではないかと考えた次第です。本編ではまだまだ戦いは続きます。劉さんの出番ももっともっと増えていくかと思われます。是非、傭兵として槍を振るっていただければと思います。
それではまたの機会がございましたら、宜しくお願い致します。
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近藤豊 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2018年10月29日

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