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『虜囚フェイト』
フェイト・−8636


 銃把から、空の弾倉が排出される。
 コンクリート柱の陰に身を潜めながら、フェイトは予備の弾倉を懐から取り出し、拳銃に装填しようとした。
 装填しようとして、手が滑った。弾倉が床に落下し、音を響かせる。
「そこか……IO2の犬!」
 当然、敵に気付かれた。
 容赦のない銃撃が、柱を粉砕した。コンクリートの破片や、折れちぎれた鉄骨が、超高速で飛散する。
「くっ……やっぱり、あれか。普段、念動力に頼り過ぎかーっ!」
 それらをかわしながら、フェイトは敵の視界内に転がり出ていた。
 取り壊すための予算が組めないのであろう。いつ崩壊してもおかしくはないまま放置された、廃ビルの中である。
 ここに、敵を誘い込む事には成功した。あとは、誘い込んだ敵を仕留めるだけであった。
 だが今は、フェイトの方が仕留められかねない状況である。
 敵の巨大な姿が、そこにあった。金属質の巨体。機械の鎧に身を包んだ、大男。
 いや違う。装甲の内部は、ほぼ全てが機械類だ。
 右の前腕部が、何本もの回転銃身で構成されている。
 その銃口をフェイトに向けながら、機械の大男は笑ったようだ。
「跡形もなく砕けて失せろ! だが案ずるな魂だけは残る。霊的進化の道を往くがいい!」
 フェイトは会話に応じず、ただ見据えた。両の瞳が、エメラルドグリーンの眼光を燃やす。
 機械の巨体が、硬直した。
「く……あぁ……お、お前たちは……捨てたはずの、俺の手足……俺の、目と鼻と耳……俺の身体、俺の心臓、俺のはらわた……よせ、やめろ近付くな……」
 硬直した大男が、やがて後退りを始める。
「仕方がないんだ……お前たちがいたら俺は、何も出来ない無力な人間のままだ……もちろん、お前たちには感謝している。だけど駄目なんだ! お前たちとは一緒に行けない……わかってくれ、許してくれぇ……」
「……脳みそだけは人間のままか、おかげで助かったよ!」
 サイコネクション。この大男の、心の奥底にあるものを探し出し、幻覚として再現する。
 フェイトは床に落ちた弾倉を素早く拾い上げ、落ち着いて銃把に叩き込み、装填した。
 そして拳銃を構え、引き金を引く。
 轟音が、廃ビル内に雷鳴の如く響き渡った。念動力を宿す銃撃が、フルオートで迸ったのだ。
 幻覚に怯んでいた大男が、光まとう銃弾の嵐に引き裂かれ、ズタズタに砕け散る。
 虚無の境界の機械化テロリストは、死体と言うより残骸に変わっていた。
 それを眺めながら、フェイトは壁に背中を預けた。この壁も、いつ崩落するかわからない。
「結局……この力に頼るしかないのか、俺は……」
 念動力の使用を控えて気力の消耗を抑えよう、とすると先程のような失敗をする。
 単独の任務で良かった、とフェイトは思った。例えば、あの隊長が一緒であったら、何を言われていたかわからない。
 単独であるはずのフェイトに、しかし声をかける者がいた。
「相変わらず……無茶をするわね、フェイト」
「無茶をした方が、かえって生き延びられる場合が多くてね」
 応えつつフェイトは、1人の少女が傍に佇んでいる、と感じた。
 そちらを見ずに、微笑んでみる。
「……随分、久し振りじゃないか」
「あたしは、いつでもフェイトの傍にいる……つもりだったけれど」
 少女が、ちらりと視線を向けてくる。
「あたしが分けてあげた魂、もうすっかりフェイトの身体に馴染んでしまったのね。その魂は、もう完全にフェイトのもの……だからと言って、忘れられては困るわ」
 アイスブルーの眼差しを、フェイトは感じた。
「貴方の、命も魂も、あたしのもの……勝手に死ぬなんて許さない」
「死にはしないよ。俺は、そのつもり。だけどまあ相手もいる事だしな。死ぬつもりはない、と言って殺すのをやめてくれるような敵なんか、いないよ」
「戦いをやめれば、いいじゃない」
 少女が言った。
「……やめられるわけ、ないわよね。フェイトだもの」
「どうなのかな。俺は、好きでこんな仕事をしているのかな」
 戦いが嫌い、などと言う資格が自分にはない、とフェイトは思う。
 そんな綺麗事を口にするには、自分は今まで戦い過ぎた。
「魂を育むためには、無茶をしたり戦ったりも必要なのかも知れないわね」
 微かに溜め息をついたらしい少女の方を、フェイトはようやく見た。
「だけど忘れないでフェイト、死ぬ事は絶対に許さない……生きて、その魂を美味しく育み続けなさい。あたしに収穫される、その時までずっと……あたしの、ために」
 少女の姿など、どこにもなかった。


 登場人物一覧
【8636/フェイト/男/22歳/IO2エージェント】
おまかせノベル -
小湊拓也 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年10月29日

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