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『青と赤のはざま 』
ガルー・A・Aaa0076hero001)&オリヴィエ・オドランaa0068hero001

●終わりへのプロローグ
――― 今週末、時間あるか?
 そんなメールがオリヴィエに届いたのは水曜日だった。
――― 『今週末』というのは、金曜日か? それとも、土曜日か? 金曜日なら学校、放課後は古本屋の手伝いと家事で時間はない。どこに行くんだ?
 そんな返事が返ってきたのは、ガルーがメールを送ってから三分後だった。
――― 土曜日、時間あるか? ところで、今、授業中じゃないのか?
 送り直されたメールに、オリヴィエは教科書を見るふりをしながら、机の下でメールを打つ。
――― 授業中だ。土曜日は古本屋の手伝いと家事で忙しい。それで、どこに行くんだ?
 オリヴィエからのメールにガルーは苦笑いする。
――― 俺から言っておくから、手伝いは休みだ。家事は、俺が手伝うから時間作れるだろ? それから、授業は真面目に受けろ。じゃ、土曜日の朝に迎えに行くから。
 予想通りのガルーからの返事にオリヴィエはすこし口元を緩めた。
「結局、どこに行くんだよ?」
 心の声が漏れていることに気づかないオリヴィエは、一瞬崩れた無表情をうっかり目の当たりにした数名の女子の胸に恋の矢が鋭く刺さったことを知らない。

●巡り巡る終わり
 家に迎えに行くと、オリヴィエは門の前に立って、ガルーを待っていた。
 行く場所も用事も言っていなかったけれど、ちゃんとお洒落をしてくれていることが嬉しくて、ガルーの目が優しくなる。
「リーヴィ、デート行こ」
『デート』の言葉に思わず頬が緩みそうになって、オリヴィエはガルーが差し出すヘルメットを奪うように受け取ってかぶった。
 オリヴィエがバイクの後ろに乗ると、「しっかり掴まれ」と、ガルーはオリヴィエの腕を掴んで自分の腰に回した。
 ガルーの背中で、ヘルメットも被っているから、オリヴィエは安心してその頬を緩める。それから、すこし胸が苦しくなった。この幸せはいつまで続くんだろう? 何度も思い出す、不吉な幻視がまた頭をよぎる。
 目の前に現れた異形の者はまっすぐにオリヴィエを指差して言った。「王の欠片」と。その眼差しは無のようであり、深い同情を秘めているようにも見えた。
「……」
 オリヴィエは幻視を振り払うように強く目を瞑り、ガルーの腰に回す腕に力を込めた。

 金色の瞳を見開いて、オリヴィエは遊園地の入口の大きな門を見上げた。
「気に入ったか?」
 珍しく頬を紅潮させているオリヴィエの表情にガルーの気分も自ずと上がる。
「気に入った」と素直に答える代わりにオリヴィエの口から出たのは、「え? ガルー、死ぬのか?」という言葉だった。
 これには流石のガルーも呆れた。
「なんで俺なんだよ? 嬉しすぎる時って、自分が死ぬのを心配するもんじゃねーの?」
「……」
 どうしてガルーだったのか、それは、自分と同じくらい……もしかすると、それ以上に、ガルーのことが大切だからだ。
 けれど、それを口にすることはできない。自分が王の一部なら、この世界で生き続けることは許されないような気がした。離れなければいけないのなら、いっそのこと、自分ごと想いも塵になったらいいのにと思った。
 そんなオリヴィエの気持ちを知ってか知らずか、ガルーはオリヴィエの手を握って歩き出した。
「なにから乗る?」
 握られた手が熱い。大人な余裕が憎らしくて、オリヴィエはガルーを睨みつけて答えた。
「あれ!」
 そうオリヴィエが指差したのは、やたらに長く、やたら凸凹した作りのジェットコースターだった。
「……え? 一発目から?」
 思わず足を止めて、口元を引きつらせたガルーにオリヴィエは気をよくして、ガルーの手をしっかりと握ると、意気揚々と華やかな門をくぐった。
 オリヴィエは宣言通りにこの遊園地で一番長くて恐いジェットコースターに乗り、そしてまた同じジェットコースターに乗り、そして違うジェットコースターに乗り、そして、船型の左右に大きく揺れるアトラクションに乗り、そんでもって、上から容赦無く落とされるやつに乗り、ついでにもう一回ジェットコースターに乗った。もちろん、全ての乗り物にガルー強制同伴である。
 満足したオリヴィエはいつの間にかお腹が減っていることに気がついた。
「なにか食べるもの買ってくる! ガルーはそこのベンチで待ってろ!」
 走って行くオリヴィエの背を追いかける気力も失って、ガルーはベンチに倒れこむように座った。今日は格好良くエスコートする予定だったのに、いま、予定していた自分などどこにもいない。
「……かっこわる」
 空を仰いでそう呟くと、冷たいものが額に押し当てられた。
「今更だろう?」
 オリヴィエが飲み物の入った紙コップをガルーの額に押し当てていた。
「……そうだな」
 どんなに自分が格好悪くても、オリヴィエは裏切らずにそばにいてくれる。ガルーがそのことを忘れることはないけれど、それでも、格好つけたいのが、惚れた弱みというやつじゃないだろうか?
 オリヴィエはガルーの隣に座ると、買ってきたチュロスを半分にしてガルーに渡した。
「うん。美味いな」
 甘すぎず、以外にあっさりした味だった。欲を言えば、もうちょっとシナモンが効いているほうが好きだ。
「もうちょっとシナモンが効いてるともっと良かったな」
 オリヴィエの言葉に、ガルーは今までの疲れが吹き飛んだ気がした。
「次はなにに乗る?」
「ジェット「それは勘弁してくれ!」」
 思いっきり被せて断ると、オリヴィエの口角がニッと上がった。
 二人は顔を見合わせて笑って、手を握って、カッコ悪いガルーでもエスコートできるお化け屋敷へ向かった。
 お化け屋敷はハロウィン仕様で、古い洋館のような作りをしていた。中は暗く、足元が青白い光で照らされていた。空気は冷たく、木造りの床が歩く度にギシッと音を立て、不気味さを引き立てる。時々、シーツお化けやかぼちゃのランタンの人形が部屋の扉から出てきたりする。
 こんな子供騙しはオリヴィエには効かないだろうとガルーは思ったが、意外にもオリヴィエはガルーの腕にしっかりしがみついていた。
 進む廊下の途中、時折、不自然なところに棺桶が立っていて、わかりやすくミイラの手や顔が出てきたりする。
「結構、作りがしっかりしてるな」
 ミイラの義眼を覗き込んで言ったガルーの言葉へのオリヴィエの反応がすこし遅れる。
「なんだ? 怖いのか?」
 先ほどオリヴィエがしたようにニッと口角を上げて見せると、「そうじゃない」とオリヴィエはそっぽを向いた。
 さらに先へ進むとゴール近くにはそれまでよりも立派な棺桶があり、目の前に立った途端、その扉が勢いよく開いて、中から青白い顔のドラキュラが飛び出した。
「わっ!」
 ガルーは思わず声をあげた。その人形が恐かったわけではなく、扉の開いた勢いにびっくりして。
「すごい勢いだったな」
 声をあげてしまったことをごまかすように笑い、オリヴィエを振り返ると、オリヴィエは不安が揺らぐ瞳でドラキュラの青白い顔を見つめていた。
「……ょうにん」
 とても小さな呟きだったけれど、ガルーはオリヴィエがその目になにを映しているのかがわかった。
 異形の者の幻視を見た日から不安を抱えていたオリヴィエの目には、青白いお化け屋敷の空間がまるでドロップゾーンの内部のようで落ち着かなかった。そこに現れた青白い顔に、オリヴィエの心は幻視を見た瞬間に引き戻されてしまっていた。
 ガルーはオリヴィエの手を強く握ると、急いでお化け屋敷から出て、オリヴィエを陽の光の下へ連れて行った。
 オリヴィエは光の強さに目を瞑り、そして次に目を開けた時には、ガルーの顔が目の前にあった。
「ガルー……」
「リーヴィ……観覧車に乗らないか?」
 空中で赤が吸収されて残った青が覆う空が、今度は青が拡散されて赤く染まる時間が迫っていた。
 あと数時間で楽しい時間が終わり、一日が終わり、一週間が終わり、そうして巡り巡る中で、ガルーとの心地良い距離にも終わりが来るのだろうか?
 空が青いままではいられないように、気をつけて、気をつけて、大切にしてきた関係が変化する瞬間は、いつか必ず訪れる。

●始まりのためのエピローグ
「……最後としては、まぁ、定番だな」
 観覧車が上るのに合わせるように赤く染まっていく空を見つめながら、オリヴィエは言った。
 デートの終わり。楽しい時間の終わり。
「もう一度、ジェットコースター乗りたかったな」
「俺はもう一生乗らなくてもいい」
 恨めしそうにジェットコースターのレールを見るガルーにオリヴィエは笑う。
 その笑顔に、ガルーの気持ちが零れ落ちる。
「好きだ」
 朝露の雫が青葉の先から滑り落ちるように、それは自然に溢れた想いだった。
 突然の告白に、オリヴィエは自分の耳を疑い、ガルーを凝視する。
「好きだ、リーヴィ。これからも」
 ガルーの手が伸ばされて、オリヴィエの両手を包み込む。
「これからも、一緒にいてくれ。今よりも、もっとずっと近くにいたい」
 空を赤に染めた太陽の光がオリヴィエの瞳を橙色に煌めかせる。
(ああ、そうか……この瞳には、この世界の美しさがすべて詰まっているんだ)
 朝日に花の蕾が開くように柔らかくなるガルーの表情が、ガルーの言葉すべてが真実だとオリヴィエに知らせてくる。
 オリヴィエは自分の頬が急激に熱くなるのを感じた。
「……どうして、そんなことを急に……?」
 自分はこんなにも我慢しているのに?
「人の気も知らないで、勝手だ……」
 オリヴィエは複雑な思いを処理できずにガルーを睨む。
「お前も見たんだろう?」
 あの異形の者を。
「俺たちが王の一部なら、俺たちはこの世界にいてはいけないのかもしれないと思った」
「じゃぁ、どうしてっ……」
 そう思うなら、どうして、そんな甘い想いを自分に贈るんだ?
「だけど、リーヴィ……お前には、生きてほしい」
「……」
「お前の美しい姿は」
 オリヴィエの姿が、赤い夕日に染まり、一枚の絵画のような瞬間。
「この世界によく似合う」
「だから」と、ガルーは言葉を続ける。
「俺も、この世界で生きることにする。お前を幸せにするために」
 ガルーの覚悟に、オリヴィエの涙腺が緩む。
「なんだよ、それ……言ってること、矛盾してるっ……」
 巡り巡る時の中、世界が、二人の関係が、すべての大切だった想いが、この瞬間に終わるかもしれない。
 だけど、触れた瞬間に消えてしまうのを恐れて、オリヴィエが手を伸ばすことを我慢してきたものを、ガルーが受け取れと差し出す。それなら、オリヴィエも覚悟を決めるしかない。
「俺は……好きでしたで終わりたくなんてない」
 透明な美しい涙と一緒にオリヴィエの想いが、ガルーに落とされる。
「もっと一緒にいたい……恋人らしいことだって、いっぱいしたい……」
 嬉しい告白に、ガルーの頬が緩む。
「終わりが見えていたとしても、すごく痛くて苦しくても、逃げも隠れもせずに、噛んで、飲み込んで、愛してやる……」
 オリヴィエはガルーの胸元を掴んで、睨む目のまま、ガルーの目に金色の目を合わせた。
「俺はあんたを一番好きで大事にしたいから、あんたも俺を一番好きになって大事にしろ!!!」
 まるで脅しのような告白と求愛に、ガルーは笑う。
「もちろん、俺はオリヴィエを一番好きになって、大事にするつもりだ。それは、ずっと前にこの指輪に誓ってる」
 そう、右手小指につけた指輪にガルーは口付けた。
「俺からも指輪を贈るよ。こっちでは、プロポーズはこうするんだって聞いたから」
 ガルーはオリヴィエの左手の薬指に、愛と希望を宿すエメラルドのシルバーリングをはめた。
 たとえ『終わり』の日が訪れても、決してこの手を離さないと誓って。


Fin



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 aa0076hero001 / ガルー・A・A / 男性 / 33歳 / バトルメディック 】
【 aa0068hero001 / オリヴィエ・オドラン / 男性 / 13歳 / ジャックポット 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度はご依頼いただきまして、ありがとうございます。
お二人からのご依頼が届いた瞬間、テンションMAXで一気に書き上げました。とても楽しかったです。
ガルー&オリヴィエの未来になにが待ち受けているのかはまだわかりませんが、永遠に続く幸せを手にして欲しいと願いを込めて執筆させていただきました。
ご期待に添えていましたら幸いです☆
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2018年10月30日

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