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『 賽の河原 』
煤原 燃衣aa2271)&楪 アルトaa4349)&世良 杏奈aa3447)&アイリスaa0124hero001)&エミル・ハイドレンジアaa0425)&無明 威月aa3532)&火蛾魅 塵aa5095)&阪須賀 槇aa4862)&藤咲 仁菜aa3237

プロローグ

 天に立ち上る毒の柱。それ大気中の水分と混ざり合って血の雨を降らせた。
 それは単なる色のついた水滴ではなく、その水を浴びた者達に異変が起き始める。
 雨の範囲は半径数十キロ。へたをすれば首都を飲み込む大きさの雲であったが幸い玄武の施設があったのは片田舎。
 人口にして約6000人の街だろうか。
 そう、幸いなことに。今回の犠牲は……。
 6000人程度で済みそうだった。
「なんですかこれ」
 『煤原 燃衣 (aa2271@WTZERO)』は茫然と町中を見渡す。
 街を見渡せばそこらじゅう暴力、暴力、暴力の群である。
 見たことがあるだろうか。人が人力で人間の四肢を引っ張り千切り取る瞬間。
 守るべき娘の入ったベビーカーに首を突っ込んで肉をむさぼる父親。
 悲鳴の上がる店内、窓ガラスが重さで割れて亡者がなだれ込む。
 そしてその暴力は感染する。
 死したものは暴力の徒となりまた新たな犠牲者を望む。
 簡単に言えばパンデミック。
 ゾンビ映画の世界がそこに広がっていた。
 その光景に鎖繰は剣を取り落す。
「な……」
 誰も言葉一つ口にできず立ち尽くす。
 だってこの数時間で様々なことが起き過ぎた。
 仲間の離脱、裏切り。
「し…信じてたのに…」
 『阪須賀 槇(aa4862@WTZERO)』は地面に顔をこすりつけながらVVを思う。
「ロリだって、信じてたのにぃぃぃ〜〜…」
 そっちかよ、そう突っ込む元気はだれにも、ない。
「ハッ…まさか…エミルたんもガワ幼女!?」
「そんなことはどうでもいい」
 そう鎖繰が刀の鞘でゴスッと槇の頭をつくと再び状況を整理しだす。
 眼前の地獄絵図をどうすればいいのか。
「けど、このままじゃ俺達……」
 今までの戦いはなんだったのか。そう問いかけざるおえない状況に暁は追い込まれてしまった。
「だ、だからといって」
 しかし、まだ暁の意志は死んでいない。
 立ち上がる鎖繰、それを見あげる燃衣。
「鎖繰さん、なにを?」
「お前のかわりに指揮をとってやる」
 告げる鎖繰はいつも以上に重たそうに刃を構えた。
「お前が折れている時は私が踏ん張る。私が折れた時お前が踏ん張ってくれたようにな。だから」
 鎖繰は顔をあげて暁全員に告げた。
「私たちが生きている間は負けじゃない。そう言う組織だろう? 暁は」
 わずかに、全員の顔に光が浮かんだ。
「そうだお、まだ何とかなるお。まだしんで無いひとの避難誘導とか、いろいろできることはあるはずだお」
 そう指揮をあげる槇。
 ただその光景を毒を吐きたい思いで見守っている人物がいる。
 塵だ。
 塵は一人、鉄塔の真上で。ファーストフード店からかっぱらってきたハンバーガーを片手にその騒動を見守っている。
「あめぇ、あめぇ。甘ちゃんだよなぁ、燃衣ちゃんよぉ」
 告げる塵は足を組み替える。自身が天誅を下すべき存在か見極めようとした。

第一章 混迷

「ちくしょう、これがあたしたちのやったことだってのかよ」
 アルトは四つん這いになって地面を叩く、その弾薬も魂も尽き果て喉から歌も出てこない。
「そんなことはない、立ってくれ、君の歌が必要なんだ」
 そう、そっとアルトの肩に手をかける鎖繰は、アルトを立たせるとその手を取った。
 そして亡者たちの群へと走りだす。
「なにするつもりなんだよ」
「中央突破と意識の引付だよ。全体の状況が分からない中被害を増やさない方法はこれしかない」
 戦闘を突っ切るのはアイリス。
 背を低くして突っ込み、まるでボーリングのピンのように亡者たちを巻き上げる。
 まだ血が新鮮なのだろう、凝固していないそれが螺旋を描きながら巻き上げられ、次の瞬間にはびちゃびちゃと落ちた。
「玄武の再生の力が中途半端に働いてるんだお」
 槇が遠隔から亡者どもの腕や足を射抜きながら告げる。
「玄武のドロップゾーンか」
 アイリスは頷くとその翼を震わせた。
 妖精の歌は空まで伸びて周囲に光の結界を生む。
 少しでも玄武の地獄を抑え込もうと真っ向勝負に出た。
「アイリスを守りながら周囲の索敵。できるかみんな?」
「この町病院に人が立てこもってるみたい」
 『世良 杏奈 (aa3447@WTZERO)』がインカム越しに告げた。
「くそ、あたしはもう足手まといだ。それでもやらなきゃいけないってのかよ」
 『楪 アルト(aa4349@WTZERO)』がゾンビを蹴り飛ばしながら告げる。今ではもはやミサイルポッド本体で殴り掛かるくらいしか戦闘に貢献する方法がなかった。
「鎖繰さん! この人たち救えるんじゃ」 
 『藤咲 仁菜 (aa3237@WTZERO)』が崩れた家屋の隙間に少年の手を発見する。
 ただ掘り返してみればその手はどこにもつながっていない。失意と絶望の中叫ぶように仁菜が言った。
「アイリスさんのエリクサーで、いえ、私のちからで」
 英雄が耳元で声を荒げるのをきいたそれでも仁菜は願わずにいられない。
 だって、自分たちがここで戦いを始めなければこの人たちは平穏な眠りの中にいたのだから。
 その時である。
「雷牙咆哮!」
「銀麟雨」
 極大のイカヅチと水銀のように重たい雨が挟み込むように仁菜の体を貫いた。
「仁菜たん!」
「その技は! 四神!」
『月奏 鎖繰(NPC)』はその名を呼んであたりを見渡した。
 見れば崩れたビルのがれきの上に。
 見れば破裂して水を吹く給水タンクの影に華奢なシルエットが見える。 
 一人は『白虎姫(NPC)』
 幼い見た目に反して残虐な思考の持ち主。
 一人は『青龍妃(NPC)』
 妖艶な見た目その通りにサディスティックで加虐趣味。
 どちらも暁因縁の相手だ。
「はぁ、うち等の絶技受けてまだ息がありはるよぉ。どないする? 白虎?」
 青龍が甘く囁くと白虎はにんまり笑って告げた。
「決まってんだろ! みなごろしだああああああ!」
 最初からハイテンションな白虎。
 あたりに電気をまき散らして地面に転がった仁菜に迫る。
 その目の前に立って盾となる槇。
「槇お兄ちゃん!」
「もう仲間には指一本触れさせねぇお」
「共振雷動! 食らいやがれ」
 雷と化した白虎はシルエット自体を巨大な虎に変える、血液も一瞬で気化する一撃に槇は身をさらした。
「あはははははは! 粉々だ」
 しかし槇は平然とそこに立っている。
「AMW聖杭。結界バージョンだお!」
 告げると槇は仁菜を抱きかかえて飛んだ。
 次の瞬間抑え込まれていた電気エネルギーが放出、周囲のすべてを黒焦げにしていく。
「なに?」
 槇からすれば簡単な出力調整である。
 悪意を消滅させる弾丸を設置、連結、誘爆させることによって悪意の力を遮断する防御壁とした。
 一瞬だけエネルギー的攻撃を遮断できる。
「せやったらこれはどうなん?」
 水龍葬。
 数トンという膨大な水を圧縮し竜の形で敵を襲わせる青龍の常とう手段。
 それをアイリスが三重結界で受け止めた。
「な!」
 地面に足をめり込ませて真っ向から盾で抑える。
 それだけではない、結界を伸ばして水の逃げ場を削ぐことで別のターゲットへ狙いを変えられることを防いだ。
「世良さん、まだかかるかな?」
「まって、みんな混乱していて、死んだ人を置いていけないって人も」
 杏奈は病院に到着していた。 
 病院内は人であふれていたが、逆に危険だ。
 ここで事故が起き、死傷者が出た場合病院内でパンデミックが起きる。
「裏口から出たいけど、ゾンビに抑えられてるの。私一人じゃ」
「私がいく」
 鎖繰が仁菜にアンプルをつきさすと言った。
「おい。アタシはどうすんだよ」
 アルトがゾンビの足を引っ掛け転ばせ、鎖繰に追いついた。 
 鎖繰は刀から血をはらうとアルトにスマホを渡す。
「地図通りにいけばここがAGWショップだ」
「君が帰ってきてくれるまで何とか持ちこたえる。君の力が必要だ」
 その言葉にアルトはそっぽを向いて答えた。
「世話がやけやがる」
 ただそんなやり取りを青龍も白虎も見逃してくれるはずがない。
「どこにいくのかな? おにいちゃん。おねえちゃん」
「何をする気かようわからんけど。いくももどるも地獄なら。ここで果ててもおんなじやろ? お死になはれや」
 高圧噴出される水の鞭、そして雷の砲撃が飛ぶがそれをアイリスと仁菜が盾で防いだ。
 その隙に反撃とばかりに弾丸を撃ち込む槇。
 白虎は残像のように掻き消えてその弾丸を避けるも、青龍は水を盾にして防ごうとする。
 しかしそれがよくなかったAMWはラグストーカー対策の武器。
 霊力を介した何かで真面に防げるわけがない。
「な!」
 弾丸は青龍の肩口を深々とえぐる。
「二トン分の水のカベやよ? いったいこれは」
「いける、戦えるお」
 だが槇の背後に白虎が控えていた。
「放電籠絡」
 槇の足元、そして頭上から雷が降り注ぎ電撃が全身を包む。
「がああああああ!」
 叫び声をあげる槇、しかし電撃で固定されたその体は一切動かない。
「お兄ちゃん!」
 仁菜が助けに寄ろうとしても、いつの間にか招きよせられたゾンビの群に遮られる。
 それと同時に槇へとゾンビたちが歩み寄っていた。
(そういえばなんでこいつら、AMWがきくんだお?)
「させない!」
 鎖繰がゾンビたちの頭を蹴って槇の前に現れる。
 白虎へ一閃みまうが、白虎はすぐに背後に移動。
 鎖繰を蹴り飛ばすとゾンビの群の中に押し込んだ。
 鎖繰は上着を犠牲にその群れから脱出。
 頬についた血をぬぐうと白虎と大立ち回りを始める。
「あははははクソザコジャン」
 歯噛みする鎖繰。しかし今は戦い続けるしかない。
 町の人間の脱出が終わるまでは。

「…………ん、くだらない」
 そんな光景を眺めて。そう『エミル・ハイドレンジア(aa0425@WTZERO)』はつぶやく。

第二章
 そこは居心地のいい場所とは言えなかった。
 黒々とした水を介した映像投影装置。
 三つの台座に薄暗い部屋。
 その部屋の奥には朱雀と呼ばれる誰かがいるが闇にとけて姿は見えない。
 台座の前には玉座。
 その一つに黒日向 清が座っている。
「おいおいおいおい、玄武を失った代償がこの程度なんて言わねぇよなぁ」
 口の端を釣り上げて清は台座の中央にはめ込まれている石を見る。その石にはいくつか光が宿っていた。
「この地獄の素晴らしさが分からないとはねぇ。まったく無知な男はこれだから」
「ほざくな痴女。娘ともども殺すぞ」
 その殺気にエミルは思わず刃をとる。
「おやめ、本気でやりあうつもりなんてないよ」
「ん、それにやるにしても別の場所でやってほしい。カーラ」
 エミルがそう呼ぶ女性は色黒な女性だった。日に焼けた肌と豊かな髪。 
 ひと目で美人とわかるが目の奥を覗くと欲望で濁っている。
 彼こそ三毒の痴を表す女性。叡智を抱く者カーラである。
 彼女こそ。玄武の、エミルの、そしてVVの生みの親。
 無知を始めに生み出した愚かなる女神。
「ヴァレリア。どう見る?」
 そんな小競り合いに興味をなくしたエミルは隣で凍り付いていたヴァレリアに言葉を投げる。
 食い入るように状況を見つめるヴァレリアがひどく気になったのだ。
「もう、私にはどうでもいいわ」
「ヴァレリアにとって、暁……用済み?」
「あなたを連れてくるように言われたから、仲間になっただけだし」
 その言葉にエミルは意外そうな表情を見せた。
「なに?」
「ヴァレリア、そんなに欲しい?」
 自分のことが。
 そう意味を含めて問いかけるとカーラが代わりに答える。
「そりゃ、ひとつの完成品だからね、あんたは」
「完成品?」
「アンタは玄武に負けない再生能力を持つ、無痛化処理もしてある、けれどそれだけじゃない。あんたの痛みやダメージは霊力を介して異次元にすっ飛ばしているのさ」
「異次元?」
「異次元に人間を送って、その人間に永遠に苦痛とダメージを肩代わりしてもらっている」
 その言葉にイマイチピンとこなかったが、少女の見た目に似つかわしくない耐久力と筋力の説明も多分それでつくのだ。
 常時リミッターを外している状態なんだと、理解する。
「エミル、玄武になってあの人たちと戦うつもりはある?」
 告げるヴァレリアの声にエミルは平たんな声で答えた。
「……ん、いーよー」
 この提案は予想の範疇だった。暁と戦え。そう言われても胸が痛むわけではない。
「でも、ああいうのは、お断り」
 そうエミルが指をさすのはゾンビがリンカーたちに群がっている光景。
 人の肉体を持つだけに先ほどの玄武本体より厄介さは落ちているはずだが、暁のメンバーはどうにも戦いにくそうだ。
「……あんな、べちゃべちゃした生き物になるのはいや」
 告げるとカーラがエミルの頭をなでる。
「おお、そうだね、最高傑作の君はあんな存在になることはないさ」
 そんなカーラの愛情表現を避けてエミルは再び水鏡に視線を移す。
 暁たちは追い詰められているようだ。それをみてもエミルの心は動かない。
「たぶん、白虎も青龍もやられるけど……」
 そう小さくつぶやくエミルの声をVVだけが拾っていた。

   *   *

 白虎のおそるべきところはそのスピードである。
 自身を電気として定義する彼女はその移動を一瞬で終える。  
 速度なんていう尺度では表せない、一瞬の走法により敵に姿を掴ませず、その雷電で敵を縛る。
 白虎は電気の檻に捉ええた槇の顎に指を滑らすとくつくつと笑う。
「すぐに他の人もコレクションに加えてあげるからね。お兄ちゃん」
「お兄ちゃんから離れて!」 
 そんな白虎に杏奈が殴り掛かるも白虎の姿は弾けるように消えて仁菜の背後に。
 次いで雷撃を帯びた蹴りで仁菜を吹き飛ばすと追撃を浴びる前に『アイリス(aa0124hero001@WTZEROHERO)』が間に入った。
「時間を稼ぐことを優先しろ! 白虎は阪須賀さんを本気で殺すつもりはない」
「よくわかったね」
「君のコレクションは悪趣味だが、棚には良い苦痛の表情だけくわえたいのだろう? それなら君はここにいる全員を持ち返って吟味したいはずだ」
「うちは別にここで全員ドロドロにしたってもええねんけど?」
 上空から振り下ろされる水の槌。
 それをアイリスはレディケイオスを頭上に構えて耐える。
「腐蝕の水と」
「崩壊のいかづちを」
「「うけよ」」
 地面をはって電撃が飛ぶ、それがなにかにぶつかって爆ぜた。
 雷撃が蛇のようにアイリスの周囲でのた打ち回る。
 アイリスの足が、水の重さも相成って地面を踏み砕きめり込む。
「ねぇあなた、そんなに強かった?」
 白虎が告げると、アイリスはニヤッと笑った。
 普段のおだやかな笑みではない。
 どちらかというと、悪戯がばれた少女のような。
 アイリスは片足にのみ体重を移して片足を上げる。それを地面に叩きつけると。
 アイリスの周囲を輝きが覆った。
 正確には舞い散る宝石の力。 
 神話級の秘儀が少しだけ顔を出しているのだ。
「さぁ、どうする? 我慢比べといくかな?」
「白虎、どいとき、この子うちがとろかしてはちみつジュースみたいに、のんだるさかい」
 青龍はすべてを朽ちさせてきた、全てを溶かしてきた、破壊のプロフェッショナルという自覚が強い。
 とりわけ、その体が酸に強いと気が付いてから。
 不変の美が自分にはあるんだと思い込んでから。
 全てを壊すことに躍起になった。
「とけて、老けて、ふやけて、きえはれ。うちはその姿が見たいんや。形あるものに永遠はない。けどうちは永遠。うちだけとくべつ。うちは神や!」
 地面から湧き出す水がアイリスを包みこむ。
 それは指を入れようものなら骨まで溶かす腐蝕の水だ。 
 ただ青龍は理解していないのだ。
 黄金は溶けない。
 厳密には溶かす酸が一つだけあるが。
 それをせいりゅうは理解していない。
 黄金は朽ちず、染まらず、滅びない。
(まだ……かな?)
 アイリスは体にかかる負荷と戦いながら素早く戦場を把握する。
 アルトや鎖繰が戦場を走り病院からの脱出経路を確保、町の外に住民を逃がす準備を整えている。
 その間に病院で杏奈も、この状況を打開する切り札の準備を進めている。
 そのためには自分の、この地獄を緩和する黄金領域が必要不可欠。
 まだ自分が倒れるわけにはいかないが。
 だが……。
「余力は温存したいものなんだけどね」
 その時水が撤退する、上空に壁のように集められ鎮座する。
 その水に気取られていたがアイリスの周囲にはゾンビが集結していた。
「その。結界食ろうとき」
 そう差し向けられるゾンビの群。ゾンビたちは先ほどより症状が進行しているのか、動きが荒々しくなっていた。
 うめきではなく叫び、動きも体を大きくばたつかせて落ち着きがない。
 その状態で差し向けられたゾンビは体の欠損も関係なくアイリスの防御壁を叩く者と思っていた。しかし。
 ゾンビの群が向かったのはアイリスではなかった。
 青龍。そして白虎だった。
「いった! こいつ噛んだ!」
「うちにてぇだしはることが、どれだけ罪深いか、ようかんがえてみぃ」
 放電と水銀の雨。
 二人は周囲に群がるゾンビに足をとられる。
「いまだ!」
 アイリスは更なる宝石魔術を行使。二人の膨大な霊力を抑え込みゾンビに対する対抗力を低くする。
「やりましたね」
 燃衣が病院に群がるゾンビを吹き飛ばすと、そのゾンビたちは立ち上がり青龍たちの方へ歩いていく。
 燃衣は屋上を見上げた。そこでは杏奈が懸命に誰かと話をしている。
「みなさん、私が霊力をかします。だから私たちを助けてくれませんか」
 誰の目にも見えなかったが杏奈には見えている、杏奈の周囲を漂う100を超える霊魂。
 その霊魂はほとんどが怒りや憎しみに染まっていたが、杏奈がふれればわずかに自我を取り戻す。
 杏奈には魂が見える。その抱くメモリ―、そして何をしたいかも。
「あなたは、落陽の」
 杏奈は覚えていた。玄武に最初に出会った時、目の前で死んでいった落陽の構成員たち。
「地獄から解放された感謝? そんなのいらないわ。結果的に私たちは地獄を外に出してしまったわけだし」
 玄武に囚われていた少年少女たち。
「力を貸して、この町の人達。あなた達の体はまだそこにある。だからそれで青龍たちと戦ってほしいの」
 つい先ほど死んだこの町の人達はまだ自身の体とつながりが深い。
 肉体の主導権を取り戻すことは可能だった。
「最後に子供に逢いたい? ええ、私が機会を作ってあげる」
 一つの霊魂が病院から逃げ出そうとする人々の隊列に寄り添った。
 その魂は鏡を現身として少女に手を振る。
「お父さん!」
 駆け寄る少女、その少女に笑みを返して霊魂は自分の体めがけ一直線に飛んだ。
 ゾンビは亡者のそれではなく、意志の通った声をあげ。白虎に群がった。
 その体が雷撃で炭となろうとも、その体は再生し、また白虎へと歩みを進める。
「げんぶうううううう、だからあんな気持ち悪いやつ早く処分しとけばよかったのに!」 
 白虎はその死体の群を足蹴に飛び回ることにしたらしい。
 だがそれは杏奈も織り込み済みである。
「さぁ、謳え。これは勇気に捧ぐ祝福のうただ」
 アイリスの声が響く、その声に導かれて星の明りが強く戦場を照らした。
 浮かび上がる半透明の体は先ほど玄武の地獄で見た者達の表情。
「え?」
 霊魂はその体を実体化させると無数の手で白虎を死体の海に沈めた。
「な! なんで電子化できないの?」
 群がる亡者は白虎の柔らかい肌に牙を突き立てていく。
「とうぜんよ、魂がつかむのはあなたの魂だもの、無理やり逃げようとすればそれこそ、魂が剥がれるわ」
 杏奈は今トランス状態にある、全ての霊魂と自分の魂がつながっている。
 だからこの町全部が見渡せた。全ての場所に声を届けることもできる。
「いやああああああ! 青龍!」
 か細い悲鳴。そんな白虎に汚水が叩きつけらえることになる。
「体があるから、悪さしはるんやろ?」
 細胞が再生できなくなるほどに溶かすことは青龍の領分である。
 なので、数トンの腐蝕水でゾンビたちを根こそぎ溶かしたあと、それを白虎に叩きつけたのだ。
 唯一玄武に対抗できる最適解がここにあったのだが。
 ただ、実体のないものは壊せない。
 アスファルトの下から伸びる腕。
 それが青龍の体に巻きついた。
「この!」
 次いで青龍は町を通う排水管の水を制御。その水で地面を崩した衝撃で霊魂から逃れ、水に乗って町を移動する。
「これは、いったん体制を立て直したほうが……」
 思案する青龍。 
 ただその背後からミサイルが追従しているのに気が付けなかった。
「アルトたん、ロックオンはこっちでやるお。あの水にも妨害させないお」
「だからあたしは、霊力込めて撃ちまくればいいってか」
 アルトは電波塔の中腹で巨大なミサイルポットに両腕を繋いでいた。
 槇があらかじめ運び込んでいたAMPである。浄化の炎を内蔵したミサイルは一度青龍を捕えると大爆発を引き起こす。
 さらにミサイルが一発なわけはない。連続で着弾する。
「くっそ、これで本当にからっけつだぞ」
「ありがとうだお、アルトたん」
 黒焦げになった青龍が地面に落ちようとする。
 青龍は地面に激突する寸前に水の刃で地面を切り裂き、下水道へと身を投じる。
「ここで逃すわけにはいきません。僕がいきます」
「隊長! 一人でなんて無茶だよ」
 仁菜が駆け寄った、一緒についていくと意志を表明する、しかし燃衣は首を振る。
「仁菜さんはやるべきことがあるはずです。そうでしょう?」
 やるべきこと、この黄金の祝福がある今なら、体の損傷が軽い患者は浄化できるかもしれない。
 仁菜の目つきが変わった。
「無茶しないで」
「大丈夫です、僕にも強化はかかってるし、さっきの戦いでも体力を温存していますから」
 嘘だった。なぜかアイリスの歌の影響もうすいし、何より胸の内で何かが叫ぶその衝動を抑えられなかったのだ。
「いってきます」
 告げると燃衣は闇の奥に進軍。同時に逃げた白虎の捜索も始まった。

第三章 白い雨

 白虎は街中の大きな道路を直進していた。電子と化して最高速で。
 今の白虎をゾンビが捕えることは不可能だろう。ただ目の前に立ちふさがる物がいた。
「そこどけえええええ!」
 鎖繰である。
「退かない、私はお前をここで切る」
 血まみれの白虎はありったけの雷撃を収束、それを放つも鎖繰は二ふりの刃でそれを十字に切断した。
「な! なんだって!」
「AMP『零断の層』『絶縁の層』」
 霊力を受け付けない刀、そして電気を受け付けない絶縁体の刀。
 あらかじめ用意されていた。白虎対策の装備である。
「お前はここで仕留める、私の命に代えてもだ」
「じっさい、命やばいから言うけど。あんたと心中なんてお断りだああああああ!」
 白虎はその身を雷撃の虎と化す。そのまま突っ込まれれば全身の血液から水分が蒸発し、肌は電熱で真っ黒に焦げるだろう。
 だが、その接触ざまにこの弐刀を振れば白虎の電気化を収め実体を切り裂けるはず。
 死なばもろともの作戦であるが。
(私一人の命で、幹部を倒せるなら)
 そう思った矢先。
 白虎の突撃を白い壁が阻んだ。
「なに?」
 白虎は小柄な少女に戻り反動で地面を何度もバウンドする。
「ちぃ」
 まずいと悟った白虎はそのまま電子化、鎖繰に構わず脇をすり抜ける。
「おまえたち」
 その白い壁に、知った温もりを見た。笑い声を聞いた。
 それは鎖繰と共に長年戦い続けた者達の魂。その集合体。
「まだ死ぬなと?」
 鎖繰は涙を流して頷いた。次の瞬間背後で銃声が聞こえる。
「ああ。ああ。みんなよくしてくれている。お前たちが死んだというのに、非情な奴だとおもいながら、人生が楽しいよ。暁は私の居場所だ」
 鎖繰が白い壁に触れる、次の瞬間それは無数の光となって散った。
「わかった、私はまだそちらにはいかないよ、すまない、心配をかけた。ありがとう。大好きだ」
 次いで鎖繰は背後を振り返って走った。
 白虎の速度に追いつけるわけもなかったがそれでも役目を全うするために。
 だが思わぬところで白虎は見つかった。
 足を抑えてうずくまっている。
「てめぇ」
 見上げるビルの上から槇が顔を出した。 
 電子化した白虎の足を射抜いたのだ。鎖繰にはどうやったのか想像すらできない。
「これは、仁菜たんを悲しませたぶん。あとロリっこだと思わせて俺を弄んだ……ぶん」
 トリガーを引こうとしたとき、槇の体が傾いだ。
 ビルの上から落下する槇。
 その体を受け止めるべく鎖繰は飛んだ。
 空中でその体を捕まえると地面に着地、当然白虎の姿はなかった。
「くっそ、あったまいてぇお」
「大丈夫か?」
 槇の体を鎖繰が支える、槇はそれでもうまくたてずに頭を押さえて蹲ってしまう。
「戦いの疲れか?」
「かもしれねぇお、でもお化けが出るようになってから……痛みだした気もするお」
 だが、槇は薄々感づいていた。これがたたかいの疲れから来ているわけではないこと。
 なぜなら視界にちらつく風景。
 それが、自分を探してと訴えてくる。
 ただ、その痛みと緊張を光のヴェールがつつみ和らげてくれる。
 アイリスの力? いやこれを槇は知っている。
「仁菜たん」
「私は威月さんのような浄化の力を持っていないけど」
 仁菜が町の大通り中心で祈るように指をからませる。
「リオンと一緒に学んだ浄化の技がある」
 浄化の風が町に吹き荒れた。
「この場所は今から私が支配します」
 その風は優しくゾンビたちをなでると、損傷の少ないもの。心臓が止まっていない者に生命力を与える。
「浄化せよ、私達に仇なす全てを。クリーンエリア!」
 その力はある意味当然の帰結と言える。
 魂が体に入り、心臓も動いて、脳にダメージが無いなら、それは生きていることと変わりないのだ。
 死んだと思われていた人間の半数が息を吹き返す。
 当然痛覚も戻るので痛みへのうめき声は増すことになる。
 その直後だった、仁菜は膨大な邪気を感じて足元を見る。
「そんな、まさか、隊長?」
 次の瞬間、地面をぶち破って燃衣が姿を現した。その拳は咢のように青龍の喉笛にかみついており、纏っている熱量があふれて仁菜にやけどを負わせる。
「あつ……」
「隊長……」
 槇もその姿に気が付いたのだ。だがいつも違い様子がおかしい。
 燃衣は地面に青龍を叩きつけるとその顔面を何度も、何度も何度も、飽いた拳で 打ち据えた。
 苛烈に叫び声をあげて、何度も何度も何度も。
「あんさん、憎いんやろ? 憎くて全部壊したいんやろ、せやったらうち等と一緒にきなんし、楽になるよぉ」
 笑って告げる青龍の口に拳を叩き込む。
 指が切れるも青龍は晴れた頬を膨らまし息を吸い込み、吐くと折れた歯が燃衣の頬にぶつかった。
「世良さん、なんで彼女は、僕の弟は来てくれなかったんですか」
 突然燃衣は言葉をあんなに向ける。
 杏奈も疲弊しながら集まってきたのだ。 
 杏奈は言葉を選びながら燃衣の視線に答えると別の誰かが杏奈のかわりに言葉を送る。
「んなのきまってんだろ。囚われてんだよ、魂ごと、体がなぁ」
 全員がはじかれたように振り返った。
 そこには悪辣な男。塵が立っている。
「ヨォ、甘ちゃんども。とんだハロウィンを過ごしてるじゃねぇか。女殴るのも仮装のうちかよ? なぁ……いい性格になったじゃねか。我が従弟」
 その不吉の訪れに誰もがしり込みする中、杏奈だけはあっけらかんと言い放つ。
「あなた、大切な人をなくしているわね」
 その言葉に塵は眉をピクリと揺らした。
「泣いてるわよ、彼女が」
 場の剣呑さが増していく、それが楽しくて青龍は笑った。
 その笑い声だけが、天国と地獄を合わせたようなこの町に響く唯一の音となる。
 

エピローグ

 その体に多少の自由が許されたことに『無明 威月(aa3532@WTZERO)』は驚いた。
 まぁこの空間で自由があったとしても何の意味もないのだが。 
 この空間は汚泥に満たされており、今や威月の肌は汚泥をはらったとしても、闇に溶けそうなくらいに真黒である。 
 すでに工程はすべて終了していた。
 あとは魂が陥落するのを待つばかり。
 だが威月はまだ耐えていた。
 隊長の事を思い、らららと歌を口ずさむ。
 それは自分への歌ではない、彼への歌。
 闇に憎悪に飲まれないでと願う、思い。
 ただ、威月はもうその思いが自分のものなのかすら分からなくなっていった。
 自分の心に同調するように寄り添う何か、胸が温かい、体の端々は冷たいのに、そこだけは温かかった。
「あぁ、なるほど、貴方が……」
 告げる威月は目蓋を下ろす、体から力が抜けてついに、全身が汚泥に沈んだ。
 混ざりきらず、だが混ざり。
 感情が流れ込んでくるのも受け入れる。
 ただ、なんと皮肉だろうか。他人の感情に触れて初めて威月もそれを自覚する。
 燃衣への想い。そして……。
 そしてそれと同時に再構築が始まる。空間を閉じる鍵としての再構築。
 一連の事態にはもう、猶予はないのかもしれない。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『煤原 燃衣 (aa2271@WTZERO)』
『火蛾魅 塵(aa5095@WTZERO)』
『エミル・ハイドレンジア(aa0425@WTZERO)』
『アイリス(aa0124hero001@WTZEROHERO)』
『阪須賀 槇(aa4862@WTZERO)』
『藤咲 仁菜 (aa3237@WTZERO)』
『無明 威月(aa3532@WTZERO)』
『世良 杏奈 (aa3447@WTZERO)』
『楪 アルト(aa4349@WTZERO)』
『月奏 鎖繰(NPC)』
『青龍妃(NPC)』
『白虎姫(NPC)』

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 皆さんこんにちは、鳴海でございます。
 この度はOMCご注文ありがとうございました。
 今回は杏奈さんにスポットあてて書かせていただきました。なので塵君にケンカを売るような感じでしめております。
 気に入っていただければ幸いです。
 それでは、またお会いいたしましょう。
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2018年10月31日

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