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『『愛妻弁当』やらその他が広げられた顛末、を見た後の話。 』
黒・冥月2778

 戻ってきたら一発殴るからな。…こちらの言っておきたい事としてノインにそう付け加え、待ち人たる零とエヴァにその身柄を任せて後。
 二人に用意させておいた愛妻弁当に纏わる微笑ましい成り行きから…少々拳が疼く心外な成り行きへと続いたが(折角の人の厚意を何だと思っているのかこの探偵は)、まぁ、花嫁の父もとい兄な探偵の方も少しは普段の調子が戻ったようだし、これはこれで良かったと言えるか、と黒冥月は思っておく事にする。

 さて、そろそろこれ以上のちょっかいを出すのは止めておくか。…ノインがこの場に居られるだろう残り少ない時間は、今度こそ零とエヴァの二人だけに譲っておきたい。
 後はこちらの受けた『仕事』本題の話になる。…と言う訳で私は二人から離れ、二人の邪魔にならないよう湖藍灰を呼び付けた。

「…ん? どしたの」
「先程ノインに条件の許容範囲を聞いていたが、用意できる算段か伝手はありそうなのか」

 つまりは肉体の用意――転生と言うか、ノインが具体的にこの世に戻って来られるようにする算段自体の話だ。今ここで湖藍灰の弟子に魂を依り憑かせて貰っているこれはあくまでその前段階、ノイン当人と意思の疎通を取る為の一手段に過ぎない。…まぁ、待ち人にしてみればそれでも一時的な逢瀬になりはする訳だが。
 エヴァから仕事とも言えないようなこの『仕事』を受け、これまでの成り行きで各所に当たってみた話からすると…輪廻以外で奴に適した肉体を調達するには、どうやら技術より様々な柵の方が問題で、より厄介らしいとわかってきた。
 となれば、ここからが正念場にもなる。

「私はまた一から情報を集め当たるしか思い付かないんだがな」

 この件については外部に漏れてもノインの存在さえバレなければ何とかなるし。

「あー、その辺はね。さっきのは取り敢えず条件に合いそうで実行し易そうな選択肢の思い付きを手っ取り早く本人に確かめといてみた、ってだけ。ほら憑いてられる時間どのくらいあるかわかんなかったから」

 然り。

「なら何か具体的な当てがあった訳じゃないのか」
「て言うか当てを探さなくても何とかなりそうな方法を確かめてみた、ってのが正しいかな。でもまぁ柵無い上に当人許可貰えそうな空の死体…となるとちょっと探すの手間食いそうってのはあるから、生体じゃない生き人形みたいな奴…の線が一番現実的かなぁって気はするよね。初めに相談受けた時から言ってたって言えば言ってた話だけど――」

 と。

 そこまで話したところで、不意に気になる声が上がる。エヴァと零――何か必死に叫ぶような、荒げるような、呼び止めるような。
 特に外野がちょっかいを掛けてからかっている訳でも無いのに、向こうでそんな騒ぎになっているとなると。

 …そろそろ時間切れ、と言う事か。



 ここまで来ればわざわざ私が口を出す事でも無い。…ので、「今の」ノインとの別れ自体も基本的に二人に任せた。私の方では別れの挨拶の代わりに最後の確認を取っただけ。人並み以上に得意な技術や分野はあるか――確かめておきたかったのは、その一点。
 訊いた時点でノインは少し考え込んでしまったので、わかった落ち着いたら後で教えろとだけ返しておいた。…求めたのはあくまで情報な訳だから、既に当てが出来ている「合わせた周波数の通信手段」の方で答えて貰えればそれでいい。
 憑坐から完全に離れるその時までは、零とエヴァの気持ちの方を優先してやりたい。

 まぁ要するに、私としては単に後のノインの仕事も考えておきたかっただけの話だ。…ヒモや無職では二人が困る。思いつつ、零とエヴァに支えられたまま意識を飛ばして倒れ込んでいる――つまり時間切れでノインは憑坐から離れた訳だが――湖藍灰の弟子を見る。そちらもそちらで程無く目覚めると、何やら今自分が置かれている状況にぎょっとして慌てたり――零とエヴァに支えられている事に謝ったりしている様子が見えた。かと思えばそうされた零とエヴァの方が唐突にわーんと泣き出し、当の湖藍灰の弟子に縋りついていたり、ぐわんぐわんと肩を掴んで揺さぶってみたり、と軽くパニック状態。…まぁ、然もありなん。つい今し方まで想い人だった相手が容赦無く明確に別人になった訳だから。…承知していてもそれなりにショックを受けたりはするだろう。

 …悪いが、もう暫く付き合ってやってくれ。



 一頻り「何が何だか」な大騒ぎをして暫し後、湖藍灰の弟子は漸く解放された。…無事と言うには多少ボロけて見えるが、まぁ許せ。ノインが離れてからも付き合ってくれた甲斐あって、零もエヴァもやっと落ち着いてくれた。
 これで、これからの話が出来る。

「提案がある」
「?」
「何よ」
「ノインが戻って来た後は私の管理下に置く」
 手駒としてコキ使ってやる。
「って、はあっ!?」
「こ、コキ使ってって…あの、冥月さん…?」
「元霊鬼兵だ。取り敢えず、私のするような仕事でなら何らかの使いようはあるだろう」
 具体的な話は後で本人と詰めるが。
「ってよりによってユーの管理下って…!」
「境界に戻らせたくないだろう?」
「――っ」
「私なら無所属かつそれなりに適した距離も取れる。今回の件で動いた通りにな?」
「だったら、兄さんに頼んで――」
「ふむ。なら興信所所属でいいのか?」
「ダメに決まってるでしょっ」
 って言うか、バレる可能性も高いじゃないのっ!
「それもそう…でしょうか」

 草間興信所。…それは確かに零が居る通り、「訳あり」が駆け込み寺的に落ち着き易い場所ではあるだろうが――同時に業界ではかなり有名どころでもあり、新たな動きがあればまず確実に目立つ。…と言うより何より、エヴァにしてみればノインが自分さておき「零だけ」の側に居る事になると言うのも戴けないと言う事情がある…いやむしろそちらの事情の方が大きいかもしれない。

「なら、エヴァに預けていいか?」
「それじゃ結局虚無の境界に繋がってしまいます…っ」
「…」

 然り。

 エヴァもエヴァで零の言い分に反論は無い。ノインの身柄を隠し通すだけの術は持っていないのだろう――ただこれも勿論、零にしてみれば「エヴァだけ」の側に居る事になるのは戴けないと言う思いもあるに違いないが。
 何にしろ、私が預かる方がバレ難く支援し易い事だけは言える。

「まぁ、自分たちより女性の肉体的魅力で勝る女に任せたくない気持ちはわかるが」

 それなりの身長に加え、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる――端的に言えば巨乳でモデル体型な女に、つまり私になど。

「…」
「…」

 一瞬、間。

 直後――瞬間湯沸かし機の如く一気に沸騰し猛抗議のエヴァに、顔を真っ赤にしつつも一応の抗議をする零、と息のぴったり合った姉妹の超音波的大合奏が始まった。

 …そこまで主張して来なくとも、意外と良く似た姉妹である事はさすがにもう良く知っているのだが。



 と、からかい混じりに元気を出させたところで、改めてこの場に居る協力者の皆に礼を述べておく。儀式が成功裡に終わったのは皆の助力あってこそ。これで雲を掴むような話だった『仕事』に、ある程度目指すところの具体的な目処も付いた。

 次の段階としてすべき事は、ノインが宿る為の肉体の調達。

 …ひとまず、霊鬼兵時代の素体の血縁、刑部一族との接触や相談含め、多少手広く当たってみるか。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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■PC
【2778/黒・冥月(ヘイ・ミンユェ)/女/20歳/元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】

■NPC
【NPC5488(旧登録NPC)/ノイン/男/?/虚無の境界構成員(元)】

【NPCA016/草間・零/女/-歳/草間興信所の探偵見習い】
【NPCA017/エヴァ・ペルマネント/女/不明/虚無の境界製・最新型霊鬼兵】

【NPC0479、480(旧登録NPC)/鬼・湖藍灰/男/576歳/仙人、虚無の境界構成員】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつもお世話になっております。
 今回も発注有難う御座いました。
 そして今回もまた結局期間いっぱいまで使ってしまってお待たせしております。

 内容ですが…まず前回のおまけノベルのフォロー気味な始まり方になりました。
 そして湖藍灰の「初めに相談受けた時から言ってた」と言うのは『PCシチュエーションノベル(シングル):何処かの小娘に情報を伝達した後の話。』の中で「魂本人に聞いてみたら?」の話が出る直前にちらっと言っていた事になります。…かなり序盤の話になりますが(汗)
 あと、ノインが憑坐から離れる=別れる時にちょっとした騒ぎになりそうな気がしたのでそんな脱線も含めてみました。文字数の関係と言うか冥月様の零とエヴァへの配慮と言う事で、文章的には流す感じになっておりますが。
 ちなみに件の木偶については…それなりの場面で届く予定ですので、じりじりお待ち下されば(送り主の性格上、いい感じと言うよりいけずなタイミングで届きそうな気がするので/何)

 と、今回はこんなところになりますが、如何だったでしょうか。

 実は今回諸事情で…普段はやらないポカをやっていないかどうか心配なライターの頭の状態だったりしているのですが…もし何か致命的に変なところがあったりしたらどうぞお声掛け下さいまし。
(一応気合いは入れ直した上で書かせて頂いているので、大丈夫だとは思いたいのですが自信が無く…)

 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。
 では、次の機会を頂ける事がありましたら、その時は。

 深海残月 拝
東京怪談ノベル(シングル) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年10月31日

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