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『■帰るための燈火 』
ミコト=S=レグルスka3953)&リツカ=R=ウラノスka3955




 ガリッ、ガリッ。ゴッ。
 ふと、目を覚ましたその夜。
 何か硬い物を削るような、重く鈍い音がした。
(……何の音だろ)
 安眠を邪魔するほど大きな音ではないし、音というより振動に近い。
 どこから響いてくるか、それも分からないうちに途絶えた。
 ぼんやりとした頭で薄く目を開いても、部屋は暗くて何も見えない。
 耳を澄ませてみるが再び聞こえる様子もなく、しかもベッドの中は暖かかった。
(気のせいかな……おんぼろ屋敷だしね)
 足を曲げて引き寄せ、丸くなったミコト=S=レグルス(ka3953)は薄紅の瞳を閉じる。
 眠気はすぐに訪れ、あっという間に彼女の意識は夢の中へ沈んでいった。

   ○

「ふわ〜ぁぁ……眠い……」
 大きなあくびを隠しもせず、時おり軋む階段をミコトはぱたぱたと降りる。
 いつもの夢も見れなくて、それどころか疲労が抜けきっていない感じ。
 そのせいか、いつもより少し寝坊したようだ。
 鏡すら見ていないけど、きっとストロベリーブロンドの髪も寝癖でハネている。
 部屋をシェアする友人達に見られたら、「寝ぼすけ」とか言われるかなぁ……などと考えながらリビングに入ると、そこには誰もいなかった。
 その代わり、柔らかな白のクロスをかけた大きなダイニングテーブの上に、白い布の盛り上がりが二つ。
 部屋を横切ってキッチンを窺うも、やっぱり人影はない。
 テーブルまで戻って白い布の下を覗くと、予想通り切ったバケットとゆで卵とサラダが用意されていた。
 皿の下に挟まれたメモには、『キッチンにスープがあるので、ちゃんと温めるように』と見覚えのある文字。
「あ。ミコっち、おはよー……今日は、のんびりだね」
 自分より眠そうな声に振り返ると、リツカ=R=ウラノス(ka3955)が目をこすっていた。
 束ねていない長い黒髪は、ミコト以上に寝癖がついている。
「おはよう、りっちゃん。うちも今から朝ごはんだから、一緒に食べよう」
「うん」
 嬉しそうにリツカは椅子に座り、キッチンへ向かうミコトを見送った。

「いつも思うけど、あの二人って男子なのに女子力高いよね」
「ほんと、いいお婿さんになりそう」
 和やかな女子二人の朝食では、それなりに女の子らしい会話が弾む。
 でもリツカはまだ眠そうに、温かいスープへひたしたバケットをかじった。
 ふと、昨夜に目が覚めた時のことをミコトは思い出し。
「昨日の夜中、変な音とかしなかった?」
 パンを口へ運ぶ手が止まり、それから顔を上げたリツカが首を傾げる。
「……ううん。どんな音?」
「うちも寝ていたから、よく覚えてないけど……ドンドンッて感じの」
「風かな」
「うーん。鎧戸に、何か当たったのかも?」
「直せるか分からないけど、見ておく? ミコっちは出かけるんだよね」
 ちらっとリツカは部屋の隅にある――ダイナミックな字で、いろいろ書かれたホワイトボードに目をやった。
 最近はちょっとハンター業を休んでいるリツカでも、他の皆が忙しいのは分かる。
 ……だから。
「無理しなくていいからね。気のせいかもしれないしっ」
「わかったー」
 眠気のせいか、少し間延びした返事と共に彼女は笑顔で頷いた。




「うーん。どうしようかなっと」
 ボロい門扉の傍に立ち、自分たちで補修している屋敷をリツカは正面から眺める。
 風は既に肌寒さを覚えるほどで、秋もすっかり深まっていた。
 ここで迎える秋も、もう何度目だろう。
「秋は日が暮れるのも早いから、頑張らないとね」
 握った拳を秋空に伸ばし、よしっとリツカは気合を入れる。
 ミコトはさっき街へ出かけたし、他の皆も外出中か部屋に引きこもっているかのどっちかだ。
 庭の方も幸いというべきか、抜いても数週間で元に戻る雑草が、まだ我が物顔で生い茂っていた。
 草の間にリツカはしゃがみ込み、ごそごそと『作業』を開始する。
 門と玄関の間を何度も往復し、無心で身体を動かしていると、ぐぅぐぅとお腹の虫が自己主張した。
 作業に没頭して気付かなかったが、明らかに昼を過ぎている。
「お腹が空いて動けなくなったら、帰ってきた皆に心配されちゃうな」
 手や服についた土を払い、今日の分の『出来栄え』をチェックしてから、リツカは玄関の扉を開ける。

「いたっ」
 鋭い痛みに、眉根を寄せた。
 指に出来た傷は小さく浅いものの、徐々に血がにじみ始めて。
 急いでリツカはナイフを置き、傍らの絆創膏を貼りつけた。
 手当てする指にも、既に数か所ほど絆創膏が貼ってある。
「あんまり、夜遅くまで作業も出来ないしなぁ」
 ふーっと大きな息を吐き、こわばった肩を回すこと数回。
 休憩しながら、「う〜ん」とリツカは一人で唸った。
 今朝のミコトの寝坊の原因は、もしかすると自分かもしれない。
 だとしたら、ちょっとイロイロと方法を考えなきゃいけない。
 迷惑かけるのも、心配させるのも、嫌だし。
 良い案は、パッと浮かばないけど。
「……もうちょっと、静かにやろっと」
 とりあえず、今はそこで手を打っておく。
 悩むより手を動かした方が、前に進みそうだから。
「レンジで下茹でってワケにも、いかないもんね……」
 料理も得意な、夢の中の王子様。
 でも現状打開のヒントはくれなさそうで、リツカは孤軍奮闘を続けた。

「りっちゃん? りーっちゃん!」
「ふぇ?」
 肩を揺さぶられ、やっと彼女は我に返った。
 食べかけの朝食と心配そうなミコトの表情を交互に見比べて、やっと現状を把握する。
「ごめん、ちょっとぼーっとしてた」
「ちょっとどころか、だいぶぼーっとしてたよ。昨夜は寝れなかった? もしかして、風邪とか」
「大丈夫っ。寝るの、少し遅かっただけだから〜」
 笑って、誤魔化す。
 というか、寝るのが遅かったのは事実だし。
「ミコっちは眠れた? 変な音とか、しなかった?」
「大丈夫だったよ。やっぱり、風だったのかな。鎧戸は、りっちゃんが確認してくれたもんね」
 話題を変えれば、屈託ない笑顔で同級生は頷いた。
 その笑顔にリツカはほっとしながら、残りの朝食を頬張る。

   ○

「できたぁ……」
 ナイフを机に置き、椅子の背にもたれ、ふーっと大きく息を吐く。
 思い立って作業を始めてから何日かかったとか、そんな細かい事は覚えてない。
 ただ計算上必要な数は、なんとか間に合った。
 ここからもう一仕事残っているが、今までの作業を思えば楽なものだ。
 ぺちぺちと両手で両頬を叩き、ラストスパートに向けてリツカは気合を入れた。




「りっちゃん、大丈夫かな……」
 気がかりが、ふっと言葉になって落ちる。
 ここのところ友人の様子が妙なのは、ちょっと前から気付いていた。
 朝寝坊が増えたし、手は絆創膏だらけだし、話しかけても生返事で、気が付いたら寝ていたりもする。
「心配ごととかあるなら、話してくれたらいいのに」
 友人からも頼られないヒーローなんて、ちょっとどころかだいぶ寂しい。
 でも無理に聞き出すのも何か違う気がして、話してくれるのを待ってるのだが。
「……美味しいお菓子でも食べたら、元気出してくれるかな?」
 街はちょうど万霊節で、美味しそうなお菓子が店先に並んでいる。
 悩んだ末、ミコトは少し奮発した晩御飯とお菓子を買った。

 夕陽も落ちて、郊外にある家までの道は既に薄暗い。
 時おり吹く冷たい風に急かされて、帰路を急ぐと。
 何やら黒い影が、道端でうずくまっていた。
「うーん……」
 お土産で手は塞がっているし、暗くて相手はよく見えないし、注意しながらミコトは反対側の道端を選んでそっと歩く。
 けれど距離が縮まるにつれて、それが見知った人影だと気付いた。
「……りっちゃん!?」
 驚いて傍へ寄り、友人の肩を揺する。
「どうしたの、りっちゃん。何かあった!?」
「あ〜、ミコっち、おかえり……ふぁぁ……」
 しかし目を開けたリツカはミコトを見上げて笑うと、あくびを一つ。
「……りっちゃん?」
「ごめん。待ってたら、寝ちゃったみたい。日向ぼっこみたいで、あったかだったから……」
「日が落ちたら、風邪ひくよ? でも……待ってたって?」
 土を払い、立ち上がったリツカは「手伝うよ」と両手を差し出す。
 迷ったミコトだが、せっかくの友人の好意を無駄にしたくなかった。
「んっと、皆に見せたいものがあって。まだ誰も通ってないから、ミコっちが一番だよ」
「何だろう。こんな場所で、待ってないとダメなこと?」
「うん!」
 勢い良く、リツカが頷く。
 やがて道の先に、住み慣れた我が家のおぼろげなシルエットが見えてきて。
「あ、ここで止まって」
 言われたとおりにミコトが足を止めると、リツカはポケットから何かを取り出し、高々と天に掲げ。
「スイッチ、オン!」
 手にしたリモコンのボタンを、押した瞬間。
 ぱぁっと、屋敷全体がオレンジに輝き始めた。
「うわぁ……」
 目の前の光景に、ミコトは言葉を失う。
 門扉の柱や庭の通路、そして窓や屋根の上まで、柔らかい光がゆっくり瞬いていた。
 目を凝らすと、橙色の明かりの全てハロウィンのお化けカボチャだ。
「これ、りっちゃんが……もしかして、一人で……!?」
「えへへ。ミコっち、ハッピー・ハロウィン!」
 傍らの友人の笑顔は、誇らしげで。
 それだけで、ミコトは胸がいっぱいになる。
「こんな沢山のカボチャ、作るの大変だったよね……」
「明かりは、クリスマスツリーの電飾を応用したんだよ」
 一つ一つに目を奪われながら、リツカの作った光の道を歩く。
 家に入っても、あちこちでカボチャの明かりが点っていた。
「帰ってきたら、皆ビックリするよ!」
「そうかな。頑張ってるから、応援したかったし……皆、無事に帰ってくると、いいな」
 ほっとしたような、でも寂しげなリツカの呟き。
 ミコトは荷物をテーブルに置いて、友人へにっこり笑顔を返す。
「ハッピー・ハロウィン、りっちゃん。素敵な悪戯のお礼に、ご馳走と美味しいお菓子をどうぞ!」



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【PCID / 名前 / 性別 / 外見年齢 / 種族 / クラス】

【ka3953/ミコト=S=レグルス/女/16/人間(リアルブルー)/霊闘士(ベルセルク)】
【ka3955/リツカ=R=ウラノス/女/16/人間(リアルブルー)/疾影士(ストライダー)】
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2018年10月31日

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