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『謎のお手製ハロウィンマニュアル 』
森永・ここ阿0801

 10月に入って間もない、とある平日の夕方。
「トリック・オア・トリート!」
 学校より帰宅早々、着替えるよりも前に、部屋の鏡に向かって時節柄のフレーズを言い放つ少女――森永ここ阿。
「えーと何々、『大きな声ではっきりと言えましたか?』と」
 目の前の鏡から視線を落とし、左手に持ったステープラーで紙束を綴じただけの小冊子に書かれた文字を追うここ阿。その紙束の最初のページには、少し大きめの字体で『誰でもできる! かんたんハロウィンマニュアル』とあった。
 別に、ここ阿がわざわざこれを買ってきた訳ではない。第一見ての通り、どこかでコピーしてきた紙を綴じただけの、お手製感満載の代物であるからして、買ってきた可能性はそもそも薄い。
 簡単に言うと、学校でもらったのだ。いや、もらったというのも少し正確ではない。放課後になり教室から出たら誰かが何か配っていて、目の前にすっと差し出されてしまったから、ついつい勢いで受け取ってしまっただけのことで。
 その後、ここ阿はいつものように街をぶらぶらと面白そうなことを探して歩いていたが、今日は特に何もなさそうだったので早々に帰り、現在のこの状態に至るという訳だ。
 実際に読んでみて分かったが、この見た目に反して、なかなかにしっかりした内容だとここ阿には思えた。例えば先程の続きには、『相手が分からないようなら、お菓子をくれないといたずらするぞ!、と続けて言ってみましょう』と書かれている。仮装については、参考とするものにまずホラー映画を、怖いのが苦手ならアニメ・ゲーム・漫画を勧めていて、なおかつ各ジャンルの古典から新しいものまで、作品の具体例も挙げられているからたいしたものだ。
「『どうしても仮装が思い付かなければ、ぶっちゃけ猫耳とマントさえ付ければどうとでもなります』……って、真面目なんだか投げやりなんだか。何で猫耳……?」
 読み上げながら、ここ阿は苦笑する。時々執筆者の個人的趣味らしきことが見え隠れするものの、全体を通して実に実践的な内容だった。タイトルに偽りなしである。
 そして一番最後には、次の一文が書かれていた。『他人に迷惑をかけないようにして、楽しく過ごしましょう。ハッピーハロウィン!』と。
「へえ……?」
 その最後の一文を見て、ここ阿は目を細めた。読みながら薄々感じていたが、この小冊子はイベントを前にして勢いで書き上げられたものではない――誰か、何か、冷静な目が挟まっている、と。
 普通に考えれば、そもそもの原文が今年に書かれたものでなく、数年に渡って改訂していくうちに、ここまでしっかりした内容になったのだろう。そもそも学校で配られていたのだ、先輩から後輩に代々受け継がれてきたとすれば、しっくりくるではないか。
 では、普通に考えなければ? 話は実に簡単、よっぽど立派な人が今年一気に書き上げたのだろう……ここ阿とあまり年齢も変わらないような相手が。それが現実的かどうかはともかくとして。
 まあ書き手の事情はどうあれども、出来上がった代物は実用的なことには間違いなく。
「…………あれっ?」
 そこまで考えて、ここ阿ははたと気付く。この小冊子を配っていたのは、はたして誰であっただろうかと。
 勢いで受け取ったのだ、覚えてなくとも仕方なくはない。だが、それでも男子生徒か女子生徒かくらいは、何となく覚えていてもいいはずだ。けれども、そこすらまるで思い出せない。
 しかし、ここ阿が小冊子を受け取る前に受け取っていた数人の顔は覚えていたので、翌日学校で捕まえて尋ねてみた。が、異口同音に誰が配っていたかは覚えていないと返されてしまい、ここ阿は頭を抱えることとなった。
 お手製のハロウィンマニュアル、作り手も分からなければ、配布者も分からないという、実に謎だらけ。内容こそ実用的だが、本当にこれを使ってもいいのだろうか――ああ、それすらも謎である。
 こんなことが起こるのも、ハロウィンを前にしているからだろうか。さてはて、やはりこれまた謎なのだ。


【おしまい】


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
【0801/森永・ここ阿/女/17/私立翁ヶ崎高校3年生】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ライターの高原恵です。発注どうもありがとうございました!

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東京怪談
2018年10月31日

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