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『曇天の剣は、雨に打たれ続ける 』
銀 真白ka4128)&黒戌ka4131

 詩天、黒狗城。
 主要施設を地中に作られたこの特異な城は、周囲を民の家屋で囲った要害であった。
 入り組んだ道に加えて仕掛けられた様々な罠。
 堅牢と言っても差し支えない黒狗城であるが、時に中から罵声が木霊する事もあった。
「馬鹿を申すな! この国をそなたはどう考えておるのだ」
 三条家軍師の水野 武徳(kz0196)は老中の高坂 和典に怒気交じりの声を投げかける。
 共和制導入に対する詩天の姿勢は、未だ定まっていなかった。
 共和制賛成の武徳に対し、和典は反対を誇示。未だ平行線を辿っていた。
「詩天を残す為には武力増強。これしかあるまい」
「じゃが、その金はどうするのだ。我らにはそのような資金も……」
「不要。早急に他国を攻め、徴収すれば良い」
「おぬし……」
 和典が共和制反対を誇示する理由は、武力による他国制圧を理由にしていた。
 武を持って詩天の下に統一するつもりなのだ。
「そのような事、詩天様が……」
「望まれぬか? 幕府は武によってこの地を統治してきた。他者と手を取り合うなぞ理想、否、妄想。今こそ詩天が天下に武を示す時よ」
 危うい。
 それが武徳の率直な意見であった。幕府の武力は未だに高い。それを正面から敵に回すなど、自殺行為にも等しい。妄想に取り憑かれているのは和典の方である。
 だが、和典の目には何か策がある様子であった。
「案ずるな。武は最早手の内にある」


 詩天の空を覆った曇天の雲。
 銀 真白(ka4128)が息を切らせて若峰の街を走る最中、冷たい雨が降り始める。
 それでも、真白は傘も差さずに走り続ける。
 少しでも、一秒でも早く行かなければならなかったからだ。
「隊長、あれを」
「あっ」
 見回組の隊士が指差した先――真白の瞳には、既に町中で剣戟が始まっていた。
 黒い段だら模様の羽織を着込んだ即疾隊。
 鶯色の鮮やかな羽織が特徴的の詩天衛士。
 双方の羽織を着た侍達が目を血走らせて斬り合っている。
 その顔に浮かぶのは憎しみ。
 既に双方の羽織は雨で黒く深く沈んでいる。
「止めねば……」
 そう言って駆け出そうとする真白であったが、次の瞬間今まで嗅いだ事のない芳香が漂ってきた。
 何かの花。だが、雨の日に咲く花があるのだろうか。
 真白は反射的に口を覆った。
 その時――。
「許すまじ」
「斬れ……斬れ……」
「突撃」
 突然、我を忘れたように突入する者達。
 彼らが着るのは黒い西洋式衣装――それは真白も身を包んでいた衣装。つまり、真白の後方に居た見回組の者であった。
 既に何かに取り憑かれたかのように戦場へと駆け出していた。
 戦略も計算もない。ただ、獣のように荒れ狂い、刀を振り回している。
「これは一体?」
「危ない!」
 右から放たれた詩天衛士隊士の突き。
 事態を把握できていない真白に向けられたものだったが、そこへ強引に割り込んで太刀を逸らす即疾隊の男。
 金属同士が衝突する音が響き渡る。
「即疾隊一番隊長、壬生 和彦(kz0205)。助太刀する」
「壬生殿!」
 真白は以前の依頼で和彦の事を知っていた。
 即疾隊と見回組という異なる立場での再会である。
「その衣装……見回組に入られたのですか」
「はい。私にも立場があります故」
「事情は聞きません。今は、この騒動を抑えるのが先です。現場に着いた時、花の香りがしたと思ったら、突如皆が暴れ始めました」
「!」
 どうやら和彦も真白と同じ体験をしていたようだ。
 そして、どうやらそれはあの花の匂いが鍵になっているようだ。
「正気なのは私達だけでござろうか?」
「いえ、もう一人います」
 和彦の視線の先には、燃えるような赤い髪を持つ巨躯の男。
 あれが黒戌(ka4131)から報告のあった――。
「門倉 義隆……」
「ご存じでしたか。若峰所司代として幕府から来た男。あの男も花の香りの中でも狂ってはいません」
 狂っていない?
 その言葉に真白は耳を疑った。
 何故なら、門倉の足元には既に多くの屍が倒れ、雨に打たれていたからだ。
 即疾隊、見回組、そして詩天衛士。
 三つの勢力に属する侍が、亡骸となって倒れている。
 雨水と血が入り交じった道の上で、門倉は大太刀を振るい続ける。
 真白の目には、門倉が赤い鬼のようにも見える。
「あの鬼のような所業を正気のままで行っているでござるか」
「はい。そのようです」
 何故、あそこまで戦えるのか。
 真白は臆する心を奥に押し込みながら、門倉の方へと走っていった。


「我が術の前に意識を失わぬとは、立派立派」
 門倉の相手をしていたのは、小柄な男で背中に木製の箱を背負っている。
 羽織は――段だら模様。即疾隊の者だ。
 門倉の刀を剣ではなく錫杖を手にした男は、門倉の大太刀を回避している。
「貴様……侍ではないな」
「侍ではないのう。即疾隊監察方の駒田博元じゃ。いやー、狼藉を働くお主を成敗しようとしたが、簡単ではなさそうじゃのう」
「…………」
 飄々とした老人。
 真白の目には駒田がそう映った。
 だが、それ以上に真白が気になったのは駒田の周囲から放たれる花の香りであった。
「貴殿か。この騒ぎを引き起こしたのは」
「む。そなたも意識を失わなんだか。これは研究を強化せねばならぬのう」
「許さない」
 蒼機剣「N=Fシグニス」の切っ先を駒田に向ける真白。
 何としても駒田から皆を元に戻す方法を聞かなければ。
 息を整えて意識を駒田へ集中させる。
「ひょひょ。この薬の効き目は一時。そう長くは……」
 そう言い掛けてた駒田であったが、門倉は話している最中で大太刀を横へ薙いだ。
 門倉の豪刀は、雨粒を弾き飛ばしながら駒田の体を捉えようとする。
 だが、突如駒田の体は消え去り、雨音に掻き消されながら声だけが響き渡る。
「これはこれは。またの機会にするとしよう。即疾隊のうるさい奴もいるようじゃしな」
 強くなっていく雨の中、駒田はその姿を消した。
 降りしきる雨の中、門倉と真白は対峙する。
 正気な二人。少なくとも真白には門倉と戦う必要は無い。
「逃げたようでござるな」
 N=Fシグニスを鞘へ収めようとする真白。
 だが、その行為を門倉は一喝する。
「何をしておる」
「!」
 怒声。それは地面にも響くかのような声。
 赤い鬼から怒りの感情が漏れ始めていた。
「何とは……。私には門倉殿と戦う理由がござらん」
「関係ない。俺にはある。貴様が侍ならな」
 侍。
 その時、真白の脳裏にある推測が浮かぶ。
 もし、門倉が即疾隊や見回組の隊士を侍と考えて剣戟を挑んでいたとしたら。
 門倉が戦う相手は、つまり侍であるか否かだ。
 真白も――侍。門倉が簡単に見逃すはずはない。
「どうしても戦うでござるか」
「愚問。刀を手にして戦う覚悟を決めているならば、常在戦場」
 門倉は大太刀を上段に構えた。
 六尺五寸の巨躯。その上、五尺を越える大太刀。
 雨が降りしきる中でも、その大きさは真白にもはっきりと分かる。
(間合いが広い。鎧受けか刀で受け止めてから、隙を窺うべきか)
 真白もN=Fシグニスを握る手を軽く手前へと引いた。
 即時反応して受け止める為だ。
 そこへ門倉の口が開く。
「今こそ問う。侍とは、なんだ」
 真白に向けられる問いかけ。
 黒戌の報告通りだ。
 その報告を受けてから真白なりにその答えを考えていた。
「侍とは……主君の剣であり、盾でござる」
「何故?」
「侍にとって大切なのは主君への忠義。主君へ尽くす為に剣を振るうのが侍の矜持でござる」
「ならば、主君が見誤っていればどうなる? 愚かな者が主君なら、貴様は単なる犬死。主君への忠義など、己が自己満足に過ぎん」
 門倉は否定した。
 真白の考えを。
 そして、それが影響したのか。
 一瞬、反応が遅れる。
「貴様も偽物であったか」
 振り下ろされる大太刀。
 雨音に紛れて気付かなかったが、この大太刀の重量は通常以上。
 つまり、このまま受け止めれば斬るというよりも叩き潰される。N=Fシグニスもへし折られる。
 このままでは――。
「そうはさせんでござる」
 そう考えた瞬間、屋根の上から流星錘「梅枝垂」が放たれる。
 梅枝垂は門倉へ向けられる。掠める梅枝垂。
 それは黒戌が投擲した物であった。
 この影響で軌道は変わり、真白の横へと振り下ろされる。
 地面に叩き付けられる衝撃。
 地響きと共に発する波が、真白の体を揺らす。
「このまま逃げるでござるよ」
 黒戌の声。
 真白は踵を返すとそのまま雨の中を立ち去る。
 離れていく門倉の姿。
 雨の中、骸に囲まれている姿を真白は何故か孤独に震える者に見えた。


「間一髪でござったな」
 真白は既に黒戌を現地に待機させていた。
 ただ、到達してみれば若峰の街が戦場同然となっている為、真白の姿を発見するのに遅れてしまったのだ。
 武徳の屋敷へ辿り着く事で安心感を得たが、真白の顔は冴えない。
「何か怪我でもされたでござるか?」
「え。あ、いえ……」
 黒戌の問いに真白は上の空。
 黒戌もその理由が門倉との戦いにあった事を知っている。だからこそ、掛けられる言葉が見つからない。
「門倉。やはり強敵であったか」
 黒戌から事の顛末を聞いていた武徳は小さく頷いた。
 武徳によればその後の調べで、門倉が幕府に送り込まれたのではなく自分から志願した事。以前まで、主人殺害の疑惑を受けて捕縛されていた事を明かされた。
「なるほど。それがあの問いの理由でござるか」
 黒戌は納得した。
 侍に拘る理由はその事件が原因だろう。
 だが、真白は首を横に振る。
「いや、そうではないでござろう。もっと、根本的な話でござろう」
 門倉の真意。それを確かめる為には、今の自分の剣ではダメだ。
 もっと、上達しなければ。
 だが、どうすればいい?
 その自問自答を前に、武徳は黒戌へ視線を送る。
「……黒戌。あの者はどうした?」
「既に屋敷に到着しているでござる」
「ふむ。呼んできてもらえぬか。
 真白。実は、そなたの今後を考えて剣の指南役を呼んでおいた。その者に剣を習うが良い」
 武徳の言葉。それ受け、黒戌はあの剣士を部屋へと呼び込んだ。
 その男は――。
「即疾隊一番隊隊長、壬生和彦です」

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka4128/銀 真白/女性/16/闘狩人】
【ka4131/黒戌/男性/28/疾影士】
【kz0196/水野 武徳/男性/52/舞刀士】
【kz0205/壬生 和彦/男性/17/舞刀士】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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近藤豊でございます。
この度はおまかせノベルの発注をありがとうございます。
まさかおまかせノベルで字数で苦しむとは思いませんでした。そして、三回もの発注。本当にありがとうございます。まだまだ続くようで本当に申し訳ないと思っている次第ですが、新たなるキャラクターが登場する事で事件は動き始めます。即疾隊も関わってきた事もありますが、門倉に触れた真白さんがこの事態をどう受け止めるのか? そして、和彦から剣を習うとは? 本当はもっと黒戌さんの出番も増やしたかったのですが、剣が中心になるとどうしても真白さんがメインに……。
混迷続きではございますが、事件はクライマックスへ向かって行く……はずです。
それではまたの機会がございましたら、宜しくお願い致します。
おまかせノベル -
近藤豊 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2018年10月31日

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