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『未来の話 』
榊 守aa0045hero001

●今回のあらすじ
 オフの執事はBARにいた。

●いつかの話
 榊 守(aa0045hero001)が扉を開くと、ベルの音が小気味良く鳴り響く。間接照明だけが光る仄暗い空間の中で、馴染みの店主は穏やかな笑みを見せた。
「やあ榊。いらっしゃい」
「邪魔するぜ。最近の調子はどうだ?」
 カウンター席に腰掛けながら、守は店主に尋ねた。グラスを拭きつつ、彼は静かに微笑む。
「ぼちぼちかな。昼はもっと賑やかになったけれどね」
 グラスを置いた店主は、守にガラスの灰皿を差し出した。すまんと言いながら、守は懐から煙草とライターを取り出す。執事として活動している時は吸わないように心掛けている彼にとって、ここはある意味“聖域”だった。
「今日はウィスキーのロックにでもするかい?」
「……そうだな。頼む」
 マスターは頷くと、冷蔵庫からロックグラスを二つ取り出し、慣れた手つきでオンザロックを作っていく。気だるげに煙を吐きながら、守はその様子をじっと眺める。
「そういえば、あの任務に参加したんだったな。あれから何か変わった事はあったか?」
 極地に降り立ったという王と対峙する任務。参加した者達は皆それまでの繋がりを断たれたが、改めて誓約を結び直してこれを乗り切ったのだという。
「あるように見えるかい?」
 グラスが一つ差し出される。マスター自身も一つ手にして、守の前で掲げてくる。守は静かにグラスを取ると、自分もまたグラスを掲げてみせた。グラス全体が琥珀色に輝く。
「別に変わったようには見えないな」
「そうさ。まあ……特に変わりはないよ」
「そうか」
 守は自らの身の回りを振り返ってみる。新たな住人が増えて、家はますます騒がしくなった。げに恐ろしきは、常識を知らぬ者と常識を踏み越える者とのツープラトンである。二対一の女所帯にもなってしまい、どうにも肩身が狭い。
 とはいえ、まだまだ一市民として覚束ないところだらけの主を陰日向に支える日々は変わらない。変わりゆくのは世界ばかりである。
「榊はどうなんだい? 最近リオ・ベルデの調査に向かったそうじゃないか。何かわかった事はあったかい?」
「……俺が向かったわけじゃないがな。話じゃ、特殊部隊を纏めるエースに会ったそうだ」
 首を振り、守はグラスをそっと傾けた。
「お嬢は、そいつが信頼に足る人間だと考えているようだが……どうだろうな。話を聞いて、俺はまた厄介な手合いが出てきたもんだと思ったよ」
 次にリオ・ベルデ絡みの任務へ赴く時には、必ず自分が主人と共に赴こうと決めていた。主人が執心している女将校の人となりを、自ら見極めるために。
 吸い殻を灰皿の上で押し潰しながら、守はふと呟く。
「この先は、どうなるだろうな」
「この先?」
 マスターはスモークサーモンの詰まった小鉢を差し出す。守は一枚一枚摘まみながら、一言を噛みしめるように答える。
「あの王を倒せなかったときの事は……想像するまでも無いが、王を倒した後、俺達英雄は一体どうなるんだろうってな。最近少し考えるようになった」
「……ふむ。噂じゃ、王と一緒に消えてしまうんじゃないか……何て話もあるね」
 グラスを片手に、マスターは唸る。守はグラスを脇に置き、二本目の煙草に火をつけた。自分が消える事に対する恐れや不安は今更無いが、自分と別れてしまった後に主人がしっかりやっていけるかは少し心配だった。
 根気はあるから何だかんだで上手くやっていくのかもしれないが、それはそれで寂しい気もしてしまう親心。守が物思いに耽って黙り込んでいると、マスターは微笑み独り言のように呟く。
「でも、何だかんだで英雄は消えずに済むんじゃないかって噂もある。英雄は王との紐づけが取れてるから、ってね。……どうせなら、後者を信じたいもんだね」
 守はマスターの顔を見た。自分よりも年若なのに、どこか老成した表情を浮かべている。
「あの子が人と英雄の間に生まれたっていうのが、一つの証左になり得るような気がするんだけどね。どうだろう」
 ウィスキーの中で溶けかかった氷を見つめる。守はふと眉を開いた。
「この前、芸能課に行ったときにな」
 先日の光景を思い出し、思わず口端にも笑みを浮かべた。
「相棒が芸能系の仕事を探して来いと言われたんだが、どうしたらいい、なんて聞いて来た英雄がいてな。……新米なら仕事は選ぶなって言ってやったんだが……これから俺達英雄がどうなるかなんて、気にも留めてない雰囲気だった」
 守はグラスの中身を一気に呷る。冷たい酒気が、彼の心を引き締めた。
「……俺も、それくらいでいた方が良いのかもしれないな」
 悩んでも仕事は待ってくれない。守は主人の為、それから金の為に最後まで働く肚を固めるのだった。

 彼はH.O.P.E.芸能課の戦う執事マネージャー、榊守。泉家の財布係として、世話役として、その使命を最後の時まで全うし続けるのだ。



 CASE:榊 守 おわり








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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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榊 守(aa0045hero001)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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影絵 企我です。この度は発注いただきありがとうございました。
日常シーンと言ったらどうにもだらしない所ばっかり描いている気がするので、すこーしシックな感じに纏めてみました。でも影絵は酒も煙草も無理めな人なので上手く書けているかはわかりませぬ……
もしよろしければ、他の方の作品と読み比べていただけるとニヤリとできるかもわかりません。
何かありましたらリテイクを……

ではまた、御縁がありましたら。



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2018年11月01日

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