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『Harvest of happiness 』
クレイグ・ジョンソン8746

「トリック・オア・トリート!」
 道を歩く子どもたちがそんな事を言いながら近所を回っている。
 ハロウィンの恒例行事であった。
 白い布を被りゴーストの仮装をしている子供を尻目に、クレイグは煙草を咥えて歩いている。
 世間が季節イベントで盛り上がろうとも、IO2では仕事三昧だ。
「……はぁ」
 今更ながらのため息が溢れる。
 張り込みの調査依頼を終えて報告へと戻るところであったが、上司がさらなる追加案件を匂わせていたので歩みが鈍った。
 どこかに寄り道するかとも思うが、近場は顔なじみで何かと声がかかる。
 うまく交わせばいいのだが、今日はどうにも乗り気ではないようだ。
「疲れてんのかねぇ……」
 紫煙混じりの独り言が漏れる。
 オレンジに染まる街並みとは裏腹に、彼の心情はあまり穏やかではなかった。
「…………」
 寒風がクレイグをすり抜けていく。
 秋から冬へと移り変わろうとしているその冷たさが、いつも以上に身にしみた。
 その風が、咥えたままの煙草を煽る。
 そこでようやくクレイグは口元に手をやり、煙草を手に取った。
 別段、何があったというわけではない。任務が失敗したわけでもなければ、人間関係が悪くなっているわけでもなく、ましてや生活が苦しいわけでもないのだ。
 ――ただ、自分の隣が寂しいだけ。
 季節はめぐり、彼がいなくなってもう一年になると言うのに、未練がましいものだとクレイグは自嘲した。
 少し前に、電話で声を確かめた。
 それが、今に繋がっているのかもしれないとも思う。
 心の奥で隠していた感情が、少しずつ漏れているかのような気分だ。
「あ〜……」
 どうにもならない思考回路を断ち切るかのごとく、クレイグはその場で立ち止まってそんな声を上げた。
 行き交う人々がそれをチラチラと見てきたが、無視をする。
「……お仕事するかぁ」
 しばらく木枯らしが吹く空を見上げて、諦めたような言葉が漏れた。
 それから彼は、歩みを再開させて報告のために本部へと戻るのだった。


 本部に戻ってからのクレイグに与えられた任務は、なぜか雑務であった。
「……俺は捜査官なんだが」
「私との仕事がそんなにつまらんか?」
「いーえ、別に。あんたと肩を並べて書類整理が出来るなんて光栄デス」
 クレイグは一つの部屋にこもり、その場にいた老エージェントの隣でパソコンへのデータ入力をさせられていた。
 ひたすら、老エージェントが目を通した書類をデータ化していくという、非常に地味な任務であった。
 大ベテランがなぜこんな場所で地味な作業をこなしていて、その助手に自分が指名されたのかは、クレイグは尋ねないことにした。
「…………」
「…………」
 室内は静かであった。
 その中で、書類をめくる紙の音とキーボードを叩く音だけが響き渡っている。
 クレイグはいつまでこの作業が続くのかと思いつつ、モニターを睨みながら入力作業を続けた。
「――そういえば」
 老エージェントが書類に目を通しながら、そんな事を言いだした。
 クレイグも手を休めることなく、黙って耳を傾ける。
「以前にお前たちと一緒に潜入した研究所だが、最近になってまた動きがあったようだ」
「……あの施設、もう機能してねぇだろ」
「だが、大もとは掴めずじまいだ。新たな拠点などいくらでも作れるだろう」
 わずかに緊張が生まれた。
 自分たちは『そのために』いるエージェントだ。暗躍が続く限りは調査し、排除していかなくてはならない。
「お前にも調べてもらうことになるかもしれん」
「へいへい。楽な案件で頼みますよ」
「そうか。では、今日はこの辺で終わりとしよう。――君も今日を楽しみたまえ」
 そう言って、老エージェントは書類を手にしたままで立ち上がった。
 そしてクレイグの反応を待たずに、彼は部屋を出ていってしまう。
 だが、彼が残していったものがあった。小さなオレンジ色のラッピング袋だ。
 クレイグはそれを徐に手に取った。あの老人がハロウィンに贈り物とは奇特なことがあるものだと思いながら。
「!」
 裏を返すと、そこにはひとつの文字があった。
 『From F.』
 クレイグは慌てるようにしてその袋を開けた。中には色とりどりの飴とメッセージカードが入っている。『彼』の文字で『Good Halloween.Craig』と書いてあった。
「……なんだよ、直接送ってくれりゃいいだろ……」
 遠回しなプレゼントだった。粋な事をすると心で思いつつも、クレイグの表情はいい具合に綻んでいる。
 こちらで縁の深かったエージェント達へと送ってきたのだろう。
 その中に、自分宛てのものがあったのだ。
「やられたなぁ……」
 そんな独り言を漏らしながら、クレイグはその飴を一つ掴んで、唇へと持っていくのだった。
 溢れ出る笑みは、しばらく治まりそうもなかった。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【8746/クレイグ・ジョンソン/男性/23歳/IO2エージェント】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度はありがとうございました。
時期的に季節ものへと寄せてしまいましたがいかがでしたでしょうか。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
機会がありましたら、またよろしくお願い致します。
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涼月青 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年11月01日

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