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『女王の絶対 』
九重 依aa3237hero002)&藤咲 仁菜aa3237)&リオン クロフォードaa3237hero001

「ハロウィン限定デザートビュッフェinお高いホテルのチケットがここに!!」
 白いロップイヤーをぴょんと弾ませ、藤咲 仁菜は予約チケットを3枚、テーブルの上にばしーん!
「3枚か女子会に行くのかそれはよかった気をつけてな」
 努めてさりげなく気配を薄め、そっと立ち去る九重 依。
 その前に壁となって立ちはだかったリオン クロフォードが、依の両肩をがっしとつかみ。
「ハロウィンだから仮装しておいでください。だってさぁ?」
「そうか……断る!」
 依は袖口に忍ばせていた爆竹を爪先で点火。床に叩きつけて爆発させ、仁菜とリオンの目が引き寄せられた隙に駆けだした。
 仮装はともかく、ビュッフェ――しかもデザートだぞ!? 甘いものなんかに囲まれたら最後、俺は俺でいられなくなる!
「あー、依が逃げた! ……なんであんなに素直じゃないかなぁ」
 唇を尖らせる仁菜。
 依の甘いもの好きは、彼に近しい者ならたいがい知っているレベルの情報で。そのことに気づかない――というか、気づくことを頑なに拒絶している――のは本人だけなのだ。
「夕飯までに帰って来るさ。ああ見えて律儀なヤツだし」
 苦笑いしたリオンはそのまま部屋を出て行こうとする。
「待って? どこに? 行く気なの?」
「そりゃ依の機嫌が直りそうなメニュー作りに?」
 無表情な仁菜のロップイヤーの根元から先までびびび、震えがはしった。
「リオンは台所の20メートル以内に近づかない約束だよね?」
「え。それだと俺、家の中にもいられな」
「リオンにはなってもらうものがあるの。それ見たら依もね、きっと行くって言うと思うんだ。だから私に任せて? それはもう、完璧に仕上げてみせるから」
「あの、やってもらうじゃなくてなってもらうってどういう――見たらとか、仕上げるって、ニーナ?」
 ニぃーナぁーっ!?


「言いたいことがあるんだよ! リオンはやっぱりかわいいよ!」
 白ウサギの着ぐるみでその身を包んだ仁菜がぴょんぴょん跳ね回り、リオンへガチ恋口上を贈る。
「まあ、いつもそうなんだし、慣れてるだろ。別に目立ってもいないしな」
 いたたまれない視線をシルクハットの影へ隠し、依は薄笑みを貼りつけた唇を動かした。
「うんうん。言われないとわかんないよ。だから大丈夫!」
 仁菜も保証するが――
「今言っちゃってるよな? まわりの人に知らせちゃったよな? いつもこういう格好してる男子ですって」
 道行く人々がぎょっと振り向いた。
 当然だ。青と白のエプロンドレスを着込んだふわふわ金髪の少女の口から、唐突に男子の声が溢れだしたのだから。
「慣れてないからな!? 共鳴してるときは俺が主導してるだけで見た目ニーナだし! こんなの知り合いに見られたら恥ずか死ぬ……!!」
 本日の仮装テーマは『不思議の国のアリス』である。仁菜は三月ウサギ、依が帽子屋、そしてリオンが、なぜかアリス。
「お茶会合わせなら俺が眠りネズミだろ。ってか、普通ニーナがアリスじゃないの?」
「えー。それだと私のウサギ成分が消えちゃうもん」
「俺の男子成分はどこに消えたっ!?」
 ナチュラルメイクに見えるフルメイクできっちり整えられたリオンの顔は、お世辞抜きで完璧だ。端的に言えば「超かわいい」。
「声をかけてくる奴がいたら締めてやるさ」
 いたわりを込めて依がリオンの肩を叩く。
 出かける直前まで逃げ回ってきた彼だったが、リオンのこれを見せられては妥協するよりなかった。
「あー、依にも女の子の仮装してほしかったなぁ」
 うん。あそこで頑なに拒否すれば、仁菜の手で“アリスの姉”に仕立て上げられていた。『外に出なきゃいいでしょ?』からの『せっかくだから、ちょっとそこまで出てみよっか?』を決められ、結局ビュッフェまで連行されていただろう。
「俺も気づいてなかったんだが俺は実は帽子屋のファンでな俺は帽子屋になれて俺はとてもうれしい」
「棒読み! 息継ぎもしてない! あと“俺”多すぎ! ヨリの裏切り者ぉぉぉぉお!!」
 表情を失くした依を涙目で揺さぶるリオン。
「好き好き大好きやっぱ好き! やっと見つけたお姫様!」
「ニーナもお姫様コールすんのやめろーっ!!」


 会場は色とりどりの仮装で溢れ、それ以上に彩とりどりのスイーツが溢れていた。
「目の保養はここまで! これからは戦いだからね!」
「俺の砕け散ったプライドはあっさり捨てられちゃうのか……」
 リオンの乾いた笑みは非情に置いておいて、仁菜はふんす。もこもこの手を握り締める。
「依、どれがオススメ?」
 問われた依は静かに息をつき、仁菜にかぶりを振ってみせた。
「前提からまちがってる」
「?」
「どんなスイ――食い物も、実際口にするまでその味はわからない。つまり」
「つまり?」
「俺が一巡してから訊け」
 影のように人々の隙間へ滑り込み、見えなくなった。
「一巡って、全部食べる気か……何十種類あるかもわかんないのに」
 見ただけでげんなりしたリオンの手を引いて、仁菜もまた人波へ向かう。
「ニーナ? なんだよ、そんなにお腹空いてるのか?」
「依独りで食べさせない! 同じテーブル囲んで同じもの食べる、それが家族だもん!」
 ああ、そうか。そうだよな。ニーナはいつだってそうだ。自分じゃなくて、みんなが大事で。
 せっかく衣装も合わせてきてるんだし、いつも以上に気持ちも合わせられたらすごくいいよな。
「ニーナは俺の後ろにいて。道は俺が作るからさ」
 ニーナがみんなのこと考える代わりに、俺がニーナのこと考えるよ。ニーナが笑ってられるように――できるだけ、長く。

「栗ー!」
 モンブランを味わった次の瞬間、仁菜はぱたぱた足を踏み鳴らして直球過ぎるコメントを漏らす。
 次いで彼女はパンプキンシューをぱくり。じたばたじたばた。
「かぼちゃー!」
「……なあ、女の子ってなんでコメントよりボディランゲージで語りたがるのかな?」
 蘭を思わせる甘やかな香りをたゆたわせるキーマンをすすり、リオンが依に訊いた。
 ちなみに彼、他のふたりの前に山を為すスイーツに圧倒され、すでに胸までいっぱい状態である。
「知らん」
 依の返答は短い。
 正直、女子の有り様にいちいち構ってなどいられなかった。体をくねらせている時間で、いったい何口分のスイーツが味わえると思う?
「すごい勢いで食べてるけど……スイーツ好きじゃない(ことになってる)んじゃなかった?」
「これはこれで悪くない」
 仁菜が暴れている間にパンプキンチーズパイと洋梨のタルトは食べ終える。同じクッキー生地だったが、食感のちがいと甘さの質のちがい、なにより高いクオリティのおかげで飽きずに楽しめた。値段相応という言葉の意味を思い知るばかりだ。
「『好きではない』が『悪くない』って。ヨリ、変わったなー」
 にやにやとからかうリオンだったが。
「エプロンドレスを自然に受け入れたおまえほどじゃない」
 さらりと言い返されて、ぐぅ。むせた。べべ、別に受け入れてないし!? ちょっと忘れてただけだし!!
 リオンの心の叫びを置き去り、依は仁菜へ声をかける。
「仁菜、このパンプキンチーズパイは食っておけ。チーズの質もあるんだろうが、組み合わせの妙ってやつが味わえる」
「ほんと!? すぐ取ってくる! 依の見立てはまちがいないもんね」
「いや、別に俺は――」
 依の言い訳を皆まで聞かず、仁菜は戦場で培った身のこなしで人波へ押し入っていった。まさに経験は力なりということなのだが……。

「俺が守らなくたって、ニーナはひとりで行けるんだよな」
 ため息をつくリオンに依はぽつり。
「寂しいのか? ……いや、そんなに単純な話じゃないのはわかってる」
 水を向けられる形になって、リオンはためらいながらうなずいた。
 ヨリは察しのいい奴だけど、これはそれだけのことじゃない。俺たちはわかってるんだ。あの日に知らされた真実ってやつのせいで。
「うん。残していかなきゃいけなくなるかもしれないから」
 愚神の“王”を倒す。それがこの世界で力を与えられた能力者と英雄の為すべき使命。
 しかし英雄は“王”によって形を与えられたものだ。だとすれば。
「英雄の源である“王”が死ねば、俺たちも消えるかもしれない、か」
 むしろそうなる可能性のほうが高い。なのに依が言葉を濁すのは、口にしてしまえばもう、そんなことを思っていないふりができなくなるからだ。
 なあ、おまえが「残していくことになる」と言い切れないのもそういうことなんだろう、リオン。
 対してリオンはあいまいな表情で依の視線をカップの底で遮った。ヨリの言いたいことはわかるよ。この“最悪の事態”、実は最悪なんてレベルのものじゃないんだから。
 それでも。俺たちは知らないふりをし続けなくちゃいけないんだ。なんでもない顔して、ニーナといっしょになんでもない毎日過ごして、そのときが来たら「あー、そういうことか」って笑って――
「ニーナはもう独りじゃない。仲間がいて、友だちもいてさ。妹だってもうすぐ目、覚ますだろ」
 そうだよ、この世界にはいっぱいニーナを大事にしてくれる人がいるし、ニーナが大事にしてる人もいる。俺たちがいなくなったって、そんな隙間すぐ埋まるから。
「ああ、そうだな」
 マロンチョコのヌガーを口へ放り込み、依は噛み締めた。
 リオンがおとなしくアリスにまでなってみせたのも、すべては仁菜のためだ。
 途中で混ざった俺とはちがう。仁菜とリオンはどん底で出会って、ふたりで這い上ってきたんだからな。おまえたちが歯を食いしばって踏み出し続けた一歩、その重さは、俺あたりが知った顔で語っていいものじゃない。
 やけに苦いヌガーが歯に、それよりも心にまとわりつく。
 すまない、俺は気づいてやれなかった。考えたくなくて忘れたことにしてた俺の横で、おまえがどれだけの覚悟で普通の顔をしてたのか。
「もし、英雄ひとり分のライヴスで別の英雄を生かせるんだとしたら、俺の命は」
「やめろよ」
「おまえに渡す」
「やめろよ!」
 そんな顔されたくらいでやめるかよ。だってこれは、
「仁菜のためだ」
 命が惜しくないって言えば嘘になる。俺はそう思えてしまうだけのものを仁菜とリオンにもらったんだから。でも、もらいっぱなしはフェアじゃないだろう? 渡せるものがそれしかないならしかたないさ。
 そしてリオンがうつむけていた顔を上げる。
「俺とニーナはそんなんじゃないって!」
 弱々しいのに強い意志を映した笑顔を。
「ニーナはさ、自分の足で歩けるんだ。いつまでも俺のマントの影に隠れてたらだめなんだよ。ヨリだってそう思うだろ?」
 仁菜とリオンの関係が一種の共依存であることは知れている。逆に言えば、そうであったからこそふたりはここまで戦い抜けた。
「俺は守ってるつもりでいろいろまちがって、ニーナに俺がいなくちゃ歩けないって思い込ませた。だから――最後が来るならそのときくらい、全うしたいんだ。この世界を守り抜いて、歩いてくニーナの背中を見送る役だけは」
「そうか」
 きっちり肚を据えてるならいいさ。依はリオンの目を視線で射貫き、その光を確かめて。
「なら、そこまではつきあうさ。その後のことは保証できないけどな」
 消滅した後、同じ先へまとめて落とされるものか別々のどこかへ飛ばされるものか、はたまたなにを残すこともなくかき消えるものなのか、知れはしない。
 しかし。共にひとりの少女の呼び声に応えて来た身の上だ。その少女を見送るまでが仕事仲間の義理というものだろう。……心情を語ってしまえば未練になるから、そうしておく。
「どっちが生き残るとかじゃないってことだな。リオンと俺で仁菜の先を守る。後のことはこの世界の奴らに託せばいい」
「うん。そんな感じでよろしく」
 リオンがうなずいたところで、仁菜がぱたぱたと戻ってきた。

「すっごい混んでた! 争奪戦も酷かった! ビュッフェはもうひとつの戦場だね!」
 ふいー。仁菜は息をついて戦利品を並べ、アイスティーを呷る。
「パイだけ取りに行ったんじゃなかったのか?」
「愚問だよ。ニーナの別腹は俺たちの想像以上なんだからさ」
 皿に盛り盛りなケーキを指して問う依、そして彼を斜め上な理屈でなだめるリオン。
 しかし仁菜は大きくかぶりを振った。
「みんなで食べるためでしょ!」
 激情で張り詰めた声音。
 英雄たちは気づいた。仁菜が、そのロップイヤーでふたりのやりとりを聞いていたことに。
「ニーナ、どこから聞いてた?」
「全部聞いてたけど、前から知ってたよ。友だちが同じこと言ってたから」
 それはそうか。リオンと依は顔を見合わせて息をつく。能力者と英雄である以上、この問題から逃れられるはずはない。仁菜がそれを聞くなど、なんの不思議もないじゃないか。
「ふたりが王の話しないのも、そういうことなんだなってわかってた。でも、これだけは言わせて」
 仁菜はリオンを見て、依を見た。詰め切れない思いを言葉に押し込んで、なお語る。
「私がここまでこれたの、リオンと依がいっしょにいてくれたからなの。ふたりがちゃんとそばにいてくれて、私のことを見失わずにいてくれるから、私は前を向いて進めるの。だから」
 口の端を両手で引っぱり上げて笑みを作り。
「ふたりの最後が来るまでつきあってよ」
 と、そのまま両手を大きく挙げて。
「なんて言うわけないでしょー!」
 ふたりの脳天にチョップを叩きつけた。
「えー!?」
「なっ!?」
 いい話で終わるとばかり思い込んでいた英雄たちは、思わずびっくり、仁菜を見たが。
「こそこそいじいじ仁菜の先を守るぅとか、ニーナの背中を見送るぅとか、よくもまあ浸ってくれたよね!?」
 まわりの目が気にならないほど本気で怒っている仁菜に、なにを言い返すこともできなかった。そして。
「命が要るんだったら私のを分けてあげる。でも全部はあげない。だって、私が死んじゃったら“みんな”じゃなくなっちゃうもん」
 鬼のごとくに怒りながら、聖女さながらの慈愛を映す仁菜に見惚れるしかなかったのだ。
「ふたりのこと、最後の先まで絶対連れてってみせる」
 仁菜が両手を差し伸べた。右手をリオンへ、左手を依へ。
「みんなで生きるの。ほんとの最後が来るまで、ずーっといっしょに!」
 ふたりに仁菜の手を離すことはできなかった。なぜなら彼女の限りなく強い手で包まれていたから。
 ニーナはとっくにひとりで歩けるようになってたんだ。それどころか俺たちのこと引っぱって歩いてくつもり? なんでそんな欲張りかなぁ。
 やれやれ、あきれながらリオンが仁菜の右手を握り返し。
 守るつもりが守られてたか。しかしな、なにも捨てずに抱えて行こうなんて、身の程を弁えない小娘の我儘だ。
 思考と裏腹にやわらかな笑みを口の端に刻んだ依も、仁菜の左手を握り返した。

 欲張りで我儘、なにより頑なな三月ウサギに手を引かれ、ふたりの英雄は立ち上がる。
 導かれた先にどんなワンダーランドが待ち受けているものかは知れないが、そこがあたたかい場所であることは知れている。
 なぜか? 決まっている。
 女王たる仁菜は、民に凍えることなど赦しはしないのだから。


【九重 依(aa3237hero002) / 男性 / 17歳 / 私はあなたの翼】
【藤咲 仁菜(aa3237) / 女性 / 14歳 / 生命の意味を知る者】
【リオン クロフォード(aa3237hero001) / 男性 / 14歳 / 希望の意義を守る者】
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2018年11月01日

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