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『Show must go on !!!』
小宮 雅春jc2177)&ダリア・ヴァルバートjc1811


「らぁーぶあんどぴぃーーーす!」
 今日も舞台に小宮 雅春(jc2177)の明るい声が響く。
 会場はさして大きくないけれど、今日は彼のワンマンショーだ。
 客席も満員――ではないけれど、それなら空いた席の分まで楽しく盛り上げよう。
 あの一番後ろの隅っこでつまらなそうにしているお客さんが、思わずかぶりつきで見たいと移動してくるほどに。
 もっとも、その席はさすがに埋まっているけれど。

「はい、お客様の中でどなたかお手伝いをしてくださる方はいらっしゃいませんか!」
 雅春――コミヤンは、客席を見渡す。
 どの顔も、やってみたいような、でも恥ずかしいからご指名は避けたいような、それでも当てられたらやってみてもいいかな、といった感じでそわそわと落ち着かない。
 舞台から目を逸らしつつもチラチラと視線を投げてみたり、一緒に来た友達と「当てられたらどうしよう」なんてきゃっきゃとはしゃいでみたり。
 その中にひとり、自分は絶対に当てられないという自信たっぷりの顔で、しっかり舞台を見つめている少女の姿があった。
「ではそこのお嬢さん、お願いできますか?」
 コミヤンが手を差し伸べると、少女は右を見て左を見て、コミヤンの顔を見返して、もう一度左右を見て、呼びかけられているのが自分だと確信するに至って、素っ頓狂な声を上げた。
「ええぇえ、わた、私ですか!!!?」
「そう、あなたです」
「でででも私はですね!!!? ただショーを見に来ただけで!!! 群衆に紛れた没個性的なその他大勢としてここにいるわけで!!!」
 そんなスポットライトの当たる舞台に上がる準備も度胸もない。
 少女――ダリア・ヴァルバート(jc1811)はそう言い張るが、コミヤンも譲らなかった。
「私のマジックショーはお客様と一緒に作るもの。大丈夫、難しいことはありませんよ」
 会場からも拍手が起こり、観念したダリアは席を立つ。
 腹を決めれば、拍手と歓声に両手を挙げて応えるエンターテイナーぶりも持ち合わせていた。
 アシスタントを得たコミヤンは、次々に得意のマジックを披露していく。
 ただマジックを見せるだけではなく、コミカルなストーリー仕立てにして、観客の興味をより引き立てるように。

 むかしむかし、あるところに一体の木偶人形がおりました――

 マジシャンの卵と出会った木偶人形は、彼と一緒に冒険の旅に出る。
 嵐の海を超え、時にはクジラの腹に飲み込まれたり、海賊に捕まって首をちょん切られそうになったり、高い塔に幽閉されたり。
 そんな旅の中、一人と一体は行く先々で人々を笑わせ、驚かせ、楽しませた。

 マジシャンの卵も今では一人前のマジシャンとなり、木偶人形は――


 ‥…━…‥ ‥…━…‥ ‥…━…‥


「小宮さん!!!」
 バァン!
 公演が無事に終わったあと、案の定ダリアが楽屋に飛び込んで来た。
「いきなりご指名なんて聞いてないですよ!!! わかってたら気合い入れてお化粧とかして来たのに!!! 見てくださいこれ!!! この格好!!!」
「別におかしなところは見受けられないと思いますが」
「それはそうですよ!!!」
 曲がりなりにも「おでかけ」なのだから、それなりに気合を入れて作るのは女子の嗜み。
「そうではなく!!! 舞台には舞台用のアレコレが!!!」
「でもそうすると、最初から仕込んでいたことになってしまいますよね」
 ヤラセとかサクラとか出来レースとか。
「アドリブでお客さんに狼狽えてもらうのも大事な要素ですから」
 そう言われて、立ちっぱなしだったダリアは手近な椅子にストンと腰を下ろした。
「そうですよね!!! 知ってましたよ!!!」
 ちょっと言ってみたかっただけです!!!
「おかげですごいものを見せてもらいましたよ!!! あんなに近くでマジックを見たのは初めてです!!! それでもタネも仕掛けもわかりませんでした!!! マジックって凄い!!!!!」
 それから、ダリアはつらつらとショーの感想をまくしたて――
「ところで、あのショーのモチーフって小宮さんとジェニーちゃん、ですよね?」
 いつも一緒だった、木偶人形のジェニーちゃん。
 あの子が舞台にいなかったのは、どうしてだろう?
「ショーのストーリーと同じですよ」
 問われて、雅春は穏やかに微笑んだ。
「ジェニーちゃんは長い旅を終えて、立派なレディになったんです。今では私たちの家で私の帰りを健気に待っていますよ……美味しいご飯を作って、ね」
「えっ、ジェニーちゃんご飯作れるんですか!!!?」
「旅の終わりに、魔法使いに魔法をかけてもらいましたからね」
 確かに、ストーリーではそうなっていた。
 まさか現実でも……?
「あの子は特別ですから」
 冗談とも本気ともつかない笑みを浮かべ、雅春は問わず語りに話し始めた。

「ジェニーちゃんは私が幼い頃に、ある女性が残していったものなんですよ」
 ある日突然姿を消したその人は、彼の心に今でも棲みついている。
 その人にそっくりな、まるでその人が人形になってしまったかのようなジェニーちゃんは、彼にとって嘗ての持ち主への淡い想いを想起させる「物」であり、それ自体が愛する「者」でもあるのだ。
 或いは精神安定剤、己の歪みの元凶か。
「私もこれで、なかなか複雑なんですよ」
 ショービジネスに携わる人々は、舞台では素の自分とは異なる存在を演じることも多いと聞く。
 だが雅春はその反対だ。
「私の場合、舞台上の振る舞いが最も素の姿に近いのです」
 コミヤンの名は、取り繕わねば地を出せない己への蔑称であり、捻ねた精神性の表れでもある。
 自分がそうなった元凶は、きっと「あの人」にあるのだろう。
「けれど、会わなければよかったとは微塵も思わないんです。上手く説明できないのですけれど、ね」
 相反する意味を持ち、簡潔には説明し難いこの想い。
 けれど、ダリアにはそれが通じると感じた。
 言葉にして表さなくても、説明し難いものを説明し難いままで受け入れてもらえる気がした。
 だから、話した。

「さあ、私は恥部を全て晒しましたよ? 今度は貴方の番です」
「え!!!? わわ私ですか!!!? 何故、って云うか私は何もありませんよ!!!?」
 この通り裏も表もないと、ダリアはその場でくるりと回って見せる。
 だが雅春はここでも譲らなかった。
 自分に対して陰日向なく接するダリアの態度は有難いが、己にはない眩しさの一方で、その奥に隠された同質の歪みを感じてもいたから。
 何も知らない他人同士でいた方が彼女のためではないとも考えたが、気付いていながら素知らぬ顔を通すことは出来なかった。
「そのビックリマーク3つのテンションの裏に、何かを隠しているのでは?」
「これは正確にはエクスクラメーションマークと言いましてですね!!!?」
「ほら、そういう一見すると軽めな外見とは裏腹に、無駄に博識なところとか」
「無駄とはなんですか!!! 自分でもそう思いますけど!!!」
 そう言いながらも観念したダリアは、何かを吹っ切るような溜息をついて姿勢を正した。
「面白い話では、ないと思いますよ」
 エクスクラメーションマーク3つのテンションは、もうどこにもなかった。

「よくある話です。事の発端は、とある国の名家に双子の女の子が生まれたことにありました」
 かつて、いくつかの文化圏には双子を忌み嫌う習俗があった。
 双子が生まれた場合、多くはその片方のみを生かして育て、もう片方は遺棄されたという。
 権力者の場合は相続争いを避けるため、庶民の場合は単なる口減らしのために。
「このご時世、あからさまな間引きはもう行われてはいませんけど……少なくとも、その国にはなかったと思います」
 けれど、その双子は容姿も性格も瓜二つだが、瞳の色だけが異なっていた。
「姉の瞳は家族の誰とも似ていなくて、それゆえに忌み子として育てられたのです。一方、妹の方は次期当主としての期待と重圧を一身に背負って、それはそれは大切に育てられました」
 そこに刻んだ蝶のタトゥーだけが二人を識別する唯一の徴だと言うように、ダリアは無意識に自分の頬に触れる。
 鏡を見ているわけでもないのに、その指先は正確に蝶の輪郭をなぞっていた。
「妹にとって、それは苦痛でしかありませんでした。何も与えられない代わりに、心だけは自由な姉が心底羨ましかった。教育という名の暴力から逃げ出したいと願っていた」
 しかし、逃げ出したのは姉の方だった。
「14の時、姉が姿を消しました。それと同時に妹もまた、家を出たのです」
 姉の行方は今もわからない。
 時折、自分がその姉の方なのではないか、そんな思いに囚われもする。
「それから……妹は日本に流れ着き、そこで優しくて温かな老人と出会いました。彼女はそこで初めて、家族というものを知ったのです」
 けれど、幸せな日々は長くは続かなかった。
「一年後、その人は亡くなりました。そして今度こそ身寄りのなくなった妹は、撃退士としての道を歩むこととなったのです」
 ダリアは立ち上がり、優雅に一礼する。
 それは確かに、幼い頃から厳しく躾けられてきたであろう洗練された動作だった。

「ほら!!! ちっとも面白くなかったでしょう!!!?」
 元の調子に戻ったダリアは、エクスクラメーションマークも復活させた。
「いいえ、そんなことはありませんよ」
 雅春は微笑みながら首を振る。
 そういえば、この前の誕生日を過ぎてから、ジェニーちゃんの前でしか見せなかった素顔を人前でも見せることが増えた気がする。
「よかったら、ショーのネタに使わせてもらえませんか?」
「ええっ!!!? こここ、この話をですか!!!?」
「もちろんアレンジはしますよ、思いっきりコメディに――」
 そして楽しいマジックショーらしく、ハッピーエンドに。
「なるほど、それなら良いかもしれませんね!!! ところで、その際にはアイデア料などは如何に!!!?」
「え、ボランティアではないのですか?」
「小宮さん、もしかして守銭奴ですか!!! 今回も招待するとか言っておいてまさかの有料でしたよね!!!?」
「でも優待特別価格だったでしょう?」
 自分にも生活があるからと、雅春は笑う。
「大丈夫、本当にその脚本が上演される日が来たら、謝礼はきちんとお支払いしますよ」
「わかりました!!! 期待しないで楽しみにしてます!!!」
 どっちなんだと苦笑しながら、雅春はぽつりと呟いた。
「ダリアさん、『僕』みたいになっちゃ駄目だよ」
「え? 何ですか???」
 なんでもないと首を振り、雅春は次回のショーのチケットを差し出す。
「また有料ですか!!!」
 そう言いつつも、ダリアは優待特別価格のチケットを大事にしまい込んだ。
 今度は最前列を確保して、じっくり楽しもう。
 もう一度あの舞台に立ってみるのも良いかな、とも思うけれど――

「次にご指名されたら出演料いただきますから!!!」
 冗談だけど、ね。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jc2177/小宮 雅春/男性/外見年齢31歳/マジシャン】
【jc1811/ダリア・ヴァルバート/女性/外見年齢16歳/エンターテイナー】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、STANZAです。
この度はご依頼ありがとうございました、エリュシオンのラストノベルをお届けします。

だいぶ調子に乗って色々と盛らせていただきましたが、ご不満な点がありましたらリテイクはご遠慮なくご依頼下さい。

いずれどこかでお会いする機会がありましたら、その時にはまたよろしくお願いいたします。
では、これからも楽しい人生を!
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エリュシオン
2018年11月02日

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