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『侍といふもの 』
銀 真白ka4128)&黒戌ka4131

 銀 真白(ka4128)が詩天の城『黒狗城』へ到着したのは、つい先程の事だ。
 三条家軍師である水野 武徳(kz0196)の屋敷にて報告を行っている最中、飛び込んできた一報――。

 『門倉 義隆が詩天衛士を連れて黒狗城へ突入した。既に城内は詩天衛士、即疾隊、見回組の三組織が斬り合いを始めている』

 真白はその状況を聞いた瞬間、先日町中で起きた三組織の衝突を思い出した。
 即疾隊監察方、駒田博元の仕業だろうか。
 いずれにしても詩天の居城が襲撃を受けたならば見回組の一員である真白も黙ってはいられない。武徳の屋敷から直走って黒狗城までやってきた。
 先行していた黒戌(ka4131)も無事なら良いのだが……。
「隊長っ!」
 真白の前で戦っていた見回組の隊士が声をかけてきた。
「あいつは何処へ?」
 真白は、あいつ――門倉の姿を探していた。
 一体何故、このような暴挙に走ったのかは分からない。
 だが、黒狗城へ武を持って押し入ったとなれば幕府から派遣された所司代であっても許されるはずがない。何としても止めなければ。
「この先へ進んでおります。門倉を止めて下さい、隊長。ここは我々が守ります」
 隊士達も自分の力量では門倉を止められない事を理解している。
 即疾隊の壬生 和彦(kz0205)や武徳もこの事態収束に動いているが、誰かが門倉を止めなければこの事態は収まらない。
 真白は、黒狗城を走る。
 事件の中心となる侍を探して――。


「そなた、忍びか」
 先行していた黒戌の前に立つのは、即疾隊監察方の駒田博元。
 先日、三組織をぶつけて斬り合いを引き起こした元凶である。実は真白の依頼で、黒戌は駒田を探していた。門倉との戦いで必ず邪魔をするであろうから、と。
「如何にも。此度の事件にもそなたが引き起こしたでござるか?」
「馬鹿を申せ。詩天の城でそのような事をするはずがあるまい。あの男が即疾隊を狙ってきたのよ」
 駒田によれば、門倉は突如黒狗城に現れて駒田と若峰守護職の高坂 和典を狙ってきたという。その証拠になるかは分からないが、黒戌がここへ辿り着くまでに斬られた隊士達の骸を目にしている。
「剣に取り憑かれて気が狂うたか知らぬが、悪鬼羅刹と成り下がったか」
「おぬし程ではござらんよ」
 黒戌の言葉に駒田は、眉をひそませる。
 駒田からすればこの状況だ。ドサクサに紛れて忍びの一人を葬ってもバレはしない。
 そう考えた駒田は懐から数本の小瓶を取り出して床にたたき付けた。
 瓶の中の芳香が部屋の外気へ触れて広がっていく。
「…………」
 黒戌は反射的に布で口を覆った。
「遅い。特性の幻覚剤入りの香油よ。たっぷりと嗅いで惑うが良いわ」
 案の定、駒田は仕掛けてきた。
 黒戌からすれば予想の範疇である。布を口で覆いながら懐から用意していた煙玉を放つ。破裂と同時に白い煙が二人の間に立ちこめていく。
「貴殿のやり方は承知しているでござる」
「たわけ。悪あがきも大概にせい」
 駒田は棒手裏剣を投げつける。
 しかし、黒戌は白い煙に隠れながら棒手裏剣を回避する。
 室内であるが故に、風がない。煙が晴れるまでには今しばらく時間がかかりそうだ。
(小賢しい。だが、香油はたっぷりと撒いてある。煙が晴れる頃には床でのたうち回っておるじゃろう)
 黒戌に気配を消された駒田。
 だが、慌てる様子はない。既に手は打ってあるのだ。香油の効果を待ってゆっくりと仕留めればいい。
 そのような事を考えていた駒田であるが、この考え自体が奢りである事に気付いていなかった。
「…………むっ!」
 煙の向こうから飛来する流星錘「梅枝垂」。
 駒田も風音で反応。梅枝垂の飛来を体術で回避する。
「まだ足掻くか! そなたの攻撃なぞ……っ」
 そう叫びながら後方回転を続ける駒田であったが、ここで体に小さな衝撃が加わる。
 後ろからトンっと受け止められるような感覚。部屋の壁に到達するとしてもあまりに早い。駒田も部屋の広さは把握していた。
 いや、それ以上に奇妙なのは駒田の腹から突如生えた――忍刀。
「なっ!」
 駒田は背後から刺された事に気付いた。
 梅枝垂は前方から飛来した。後方で待ち伏せを受けたとは思えない。
「かかったでござるな」
 煙の中から姿を現す黒戌。
 駒田が振り返れば、部屋の柱に括り付けられた忍刀が見える。駒田は黒戌の梅枝垂で忍刀の方に追い込まれていたのだ。
「煙幕もこれが狙いじゃったか」
「卑怯とは言わせぬ。これが忍びの戦い方でござる。
 それより……」
 黒戌は何重にも重ねて準備していた顔の布を付けたまま、駒田の顔を見据えた。
 動きを止めた上で鉄拳「紫微星」による連打を叩き込む前に、明らかにしておきたい事があった。
「花の香りで誤魔化そうとしても、その裏にある邪悪な影は隠せぬ。
 貴殿は、歪虚であろう?」


 真白が部屋へ飛び込んだ瞬間、目に飛び込んできたのは夥しい骸達であった。
 三条家家臣や即疾隊が床に転がり、恐怖に顔が歪んでいる。
 その地獄と評すべき惨状を引き起こしたのは、真白の前で背を向ける門倉であった。
「門倉殿!」
 真白は、声を上げた。
 それでも門倉は振り返らない。
 その視線は床で斬られた高坂へと向けられている。
「この男は、歪虚と組んで東方支配を目論んでいた。それ故に斬った」
「まさか、その為だけにこの城へ? これ程の犠牲を強いる必要があったでござるか?」
 真白には信じられなかった。
 門倉がこの城へ突入した理由は裏切り者の高坂を斬る為。だが、それをするならば証拠を集めて高坂の身柄を拘束すれば良い。即疾隊にも歪虚を送り込んで操ろうとしていた事も武徳と和彦が調べていた。和彦が武徳へ協力したのも高坂が歪虚と繋がっていたからだ。
 だが、門倉はそのような事をしなかった。
 事件を調査せずに城へ赴き高坂を斬る。それは最早、凶人の行為だ。
「申したはずだ。常在戦場。歪虚と繋がる等、言語道断。斬るには充分な理由だ」
「ですが、ここまで血を流す理由はなかろう」
「理由……そのような事を言わねば分からぬか?」
 ここで門倉は振り返る。
 その手には高坂を斬った大太刀が握られていた。
 真白もここで引く訳にはいかない。
 蒼機剣「N=Fシグニス」を鞘から抜いた。
「……若峰見回組三番隊隊長、銀 真白。参ります」
「今一度問う。侍とは、なんだ」
 門倉の問い。
 それは真白がずっと考えていた事だ。
 門倉に会えば、必ず聞かれる。
 その時、真白は何と答えるべきなのか――。


「本当は誰にも教えるつもりはなかったのですが……。葦原流の真髄は、妖怪の動きを取り入れる事にあります」
 武徳の屋敷で和彦から剣について改めて教わっていた。
 それも詩天に古くから伝わる古流剣術『葦原流』。和彦が唯一の伝承者であるが故、真白もその技を習う事に緊張していた。
「妖怪? 憤怒眷属の歪虚でござるか?」
「はい。葦原流は歪虚に勝つ方法は歪虚の技にあると考えました。それ故、奥義の多くは歪虚の動きを取り入れたのです。
 その一つが……滑瓢」
 その言葉と同時に和彦の姿が景色に交じって消えていく。
 真白は見回すが、その姿も気配もまったく感じ取れない。
「こ、これは?」
 そう言った真白の前に突き付けられる切っ先。
 和彦が真白の鼻先へ刀を突き付けていたのだ。
「和彦殿……もしかして姿を消える術をお持ちか?」
「いえ」
「では、素早く動く術を……」
「それも違います。今、私は普通に歩いて剣を向けただけです」
 和彦は真白の推測をすべて否定した。
 和彦は高速移動もしていなければ、姿を消した訳でもないという。
「滑瓢。別名ぬらりひょんとも言います。
 どこからともなく家に入り、茶や煙草を飲んだり自分のように振る舞う妖怪です。家の者がその姿を目にしてもその存在に気付きません」
「見えているのに気付かないでござるか?」
「はい。私は真白さんの視界に入っていましたが、真白さんが私の事を理解できなかったのです」
 真白は先程の出来事を頭で理解できなかった。
 他のハンターにはない技。それが和彦によって真白に突き付けられたのだ。
「私に修得する事ができるでしょうか」
「あなた次第です。この奥義の真髄は『有で非ず。無で在る』と言われています」


 先日、和彦に言われた光景を思い浮かべる真白。
 一呼吸を置いた後、ゆっくりと顔を上げる。
 そして、ゆっくりと歩み出る。
「貴様、何処へ消えた?」
 見回す門倉。
 しかし、門倉は真白を見つけられない。
 いや、正確には真白が見えているのに認識できない。
 大太刀を構えてはいるが、発見できない様子に焦りが滲み出る。
「小細工を用いるか! ぬぅぅ!」
 大太刀を振り回す門倉。
 だが、大きく振っても真白には当たらない。
 大太刀を避けた瞬間、真白はN=Fシグニスの突きを繰り出した。
 突きは門倉の胸に深く突き刺さる。
「ぐふっ」
 刺された瞬間、門倉は膝から崩れ落ちた。
 肺にまで到達する程の一撃。切っ先を横にする平突きが肋骨をうまくすり抜けたようだ。
 地面に倒れた門倉。真白の姿をそこでようやく視認できたのだろう。
「……見事」
 門倉は、そう呟いた。
 消えていく命を前に、真白は先程問いかけられた問いを答える。
「侍とは何か……私にはまだ分かりませぬ。侍とは、何なのか」
「そうか。おぬしにも分からぬか。ならば、剣を磨け。剣を極めし先に、侍の姿が、ある」
 門倉が残した言葉。
 最期となったその言葉を、真白は今でも耳にこびり付いている。


 その後、事件は武徳によって終息を迎える。
 即疾隊も生き残った詩天衛士、見回組を取り込んで再編された。
 高坂の裏切りは伏され、門倉には反逆者の烙印が押される事となった。
「行くでござるか」
 黒戌は、若峰を後にしようとする真白に声をかけた。
 真白は見回組を離れ、西方へ赴こうとしていた。
 侍とは、剣とは何か。
 それを見つめ直す為だ。
「左様。侍とは、さすらう事。剣を極めようとするその姿勢。私も腕を磨き続けねばならぬでござる。戦いに身を投じさすらい続けた門倉殿のように」

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka4128/銀 真白/女性/16/闘狩人】
【ka4131/黒戌/男性/28/疾影士】
【kz0196/水野 武徳/男性/52/舞刀士】
【kz0205/壬生 和彦/男性/17/舞刀士】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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近藤豊でございます。
この度はおまかせノベルの発注をありがとうございます。
長々と書かせていただき本当に感謝致します。文字数の関係もございましたが、物語は一つの節目を迎える事ができました。こぼれ話としては文中に登場する葦原流の設定は本編でも使えないかな、と考えていたネタでした。妖怪の動きを真似た奥義で、ぬらりひょんの動きを取り入れれば強いのでは? と考えていたのですが、今回のおまかせノベルで出せた事が本当に嬉しい限りです。
真白さんと黒戌さんは新たなる戦いへ赴く事になると思います。それはまた別のお話ではございますが、私もその一端を再び描かせていただければ幸いです。
それではまた機会がございましたら、宜しくお願い致します。
おまかせノベル -
近藤豊 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2018年11月05日

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