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『エターナルヴォイス 』
マリィア・バルデスka5848

 その一報を聞いた時、マリィア・バルデス(ka5848)の思考は停止した。
 一体、何を言っているのか。
 報告を疑うよりも先に、理解ができなかった。

 何故なら、つい先日月面基地『崑崙』の酒場で久しぶりの再会をしたばかりなのだ。
 あの時、お互いには任務があった。
 軍人である以上、詳細を話す事はできない。
 だが、任務が終わったなら再会する事を約束していたのに――。

「なんで……」
 マリィアの口から溢れた言葉。
 怒りでも、悲しみでもない。
 ただ、何故こうなったのか。

 誰が悪い?
 歪虚か?
 無茶な作戦を許可した軍か?
 それとも、このような展開を招いた運命か?

 何を恨めばいい? 誰を呪えばいい?
 軍人である事に誇りを持っているマリィアではあったが、今回の出来事はあまりにも過酷過ぎる。
 自問自答を繰り返しても、その答えは出て来ない。
「クソッタレな世界ですって。私にとっては、あなたのいないこの世界がクソッタレよ……」
 ラズモネ・シャングリラの艦内にある展望室で、マリィアは窓を叩いた。
 歪虚側に奪われた大規模宇宙ステーション『ニダヴェリール』に展開された反重力バリア。
 サルヴァトーレ級の艦砲射撃でも傷一つ付けられない強力な防衛装置ではあったが、反重力バリアに一部歪みがある事を発見された。このポイントに強力なダメージを与えれば、その地点を起点として反重力バリアを無力化できる。
 その情報を受け、指定ポイントに反重力爆弾による攻撃を仕掛ける作戦が決行された。
 その結果――反重力バリアは無効化に成功。
 だが、敵の攻撃による装置トラブルを受けて反重力爆弾の発射機構が損傷。爆弾を発射する事ができなくなった。現場の判断により戦闘機の『操縦者』が反重力爆弾を抱えたまま特攻して犠牲となっていた。
「格好つけたつもり? 残された者の身にもなりなさいよ」
 マリィアは、その操縦者にある種の感情を抱いていた。
 軍出身の強化人間であり、CAM嫌い。
 作戦行動中でも酒を飲み、戦車で戦い続けた人――。
 強化人間で暴走した事もあったが、ローマにて奪われたラズモネ・シャングリラを舞台に戦った時は本当に辛かった。
 そうやって帰ってきたはずなのに、あの人はまた遠くへ逝ってしまった。
「馬鹿……馬鹿、馬鹿、馬鹿馬鹿馬鹿!」
 独り言のように何度も呟く悪態。
 死体を見るまでは絶対に諦めない。
 MIAなら死亡じゃない。
 マリィアは作戦前に別の目標を心に掲げていた。
 そんな中、一人の男が近づいてきた。
「あ、あの……」
 マリィアの行動を遠くから見ていたのであろう。
 男は、物怖じしながら声をかける。
「……なに?」
「あの、これ……。あなた宛にって預かったのだけど」
 そう言いながら、男は手にしていた手紙を前に出した。
 手紙の表面にはマリィアの名前が書かれている。
「!」
 マリィアは男から引ったくるように手紙を奪うと、一気に手紙を開いた。

『あー。手紙なんて書いた事はほとんどねぇんだが……。
 任務で出撃する前に、伝えたい事を認めておく事にした。

 お互い軍人だ。任務中の事故なんてぇのは予想の範疇だ。
 明日の我が身が無事だと保証の無い職業に就いているのは理解しているだろう』

 手紙を読みながら、マリィアの脳裏にはあの男が浮かんでくる。
 照れている姿に、軽く笑みが浮かぶ。

『俺の任務は、お前達の進むべき道を拓く事。まさに大役だ。
 俺が作った道をお前達が進んでいくんだ。こんな名誉ある任務が、俺なんかに回ってくるとはな。こりゃ、成功したら酒場で豪遊だ。棚の端から端までボトルキープする。
 ……お前の予定もキープできりゃいいんだがな』

 紙面でありながら、相変わらずの言い回し。
 それが照れ隠しの一種だとマリィアは知っている。

『まさかとは思うが……俺が何かあった時、泣いてないだろうな?
 泣いている暇はないはずだ。お前には歪虚と戦うって任務があるはずだ。
 この俺が命を張って拓いた道だ。軍人として堂々と勇姿を見せてこい。

 そして、戦うなら最初から最後まで格好良く戦ってくれ。
 戦場にいるすべての者に見せつけるように。
 俺が愛した女は、こんなにも強く逞しく、美しいって自慢してやりたいんだ』

 強く逞しく美しい。
 その言葉にマリィアは気恥ずかしくなる。

『俺は、ずっとお前を見守っている。
 前を向いて戦ってくれ。それが俺からの願いだ。

 追伸:悪いが、封筒の中にある指輪を預かってくれ。母親の形見なんだ。必ず取りに行くから。

  Tu sei mio per sempre! 』

 前を向いて戦う――そうだ。
 マリィア自身に課せられた任務は、間もなく始まる。
 あの人が斬り開いた道で、マリィアは戦わなければならない。
 あの人の行動を無碍にはできない。
 あの人が見ているのであれば、こんな恥ずかしい姿は見せられない。
「まったく、もう」
 マリィアは封筒の中にあった指輪を右手の薬指に通し、CAMのドックへと向う。
 あの人が待つ宇宙へ出る為に――。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka5848/マリィア・バルデス/女性/24歳/猟撃士】
【kz0231/ジェイミー・ドリスキル/男性/53歳/一般人】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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近藤豊でございます。
この度はおまかせノベルの発注をありがとうございます。
今回は本編大規模で死亡シーンを描かせていただいたドリスキルとの幕間を描かせていただきました。ドリスキルらしくない手紙という表現を使ってみました。普段は口にできない言葉ですが、手紙だと言いやすかったりしますよね。
それではまたの依頼をお待ちしております。
おまかせノベル -
近藤豊 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2018年11月05日

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