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『呪縛なる祝福 』
GーYAaa2289)&永禮aa4249)&まほらまaa2289hero001

 10月1日。
 GーYAの元に一枚の封筒が届いた。
『誕生日という名の今日を祝おう』
 中身はただそれだけが書き込まれたカード。差出人はGーYAの身元保証を請け負う研究者、永禮だ。
 彼以外にも複数の未成年能力者を“保証”する永禮は、そもそものつかみどころのなさもあって謎だらけな存在だ。しかし、抱え込んだ子どもたちをそれなり以上に気づかってくれている。GーYA自身が心の隅へ追いやっていた誕生日に、わざわざバースデーカードを送ってくれる程度には。
 だからって、俺の事情までは気づかってくれないみたいだけど。
 胸の内でぼやいてみるが、言いがかりであることはきちんと理解していた。なぜならGーYAは永禮に語ったことなどなかったから。
 ――俺が、誕生日なんてなんにもうれしくないことは。

 君の心臓は成人する前に止まる。
 GーYAがまだGーYAではなかった幼少期、収容された病院で告げられたものだ。
 それはインフォームドコンセントというやつだったのだろう。いや、そこは病院とは名ばかりの研究施設だったし、彼に告げた者もまた、医者と名乗るだけの研究者だったから、単純に事実を事実として告げただけか。
 ともあれ、「ライヴスの不適合に起因する心臓疾患」を自覚させられた瞬間から、GーYAの心臓はカウントダウンを開始した。
 鼓動をひとつ刻むごとに終わりが近づく。
 それは健常な人間でも同じことではあるのだが……遠くない先にゴールが見えていて、それが近づいてくるのを受け入れられるほど、存分に生きていなかった。だから。
 GーYAは誕生日というものが、いろいろな人から寄せられる「おめでとう」の言葉が、なによりも怖ろしかった。
 それでもわめき散らしたい衝動をこらえて必死で笑みを返してきたのは、国や企業、さらには善意の第三者による各種支援が彼のみならず、同じ症例で研究所へ縛りつけられた仲間たちの儚い命を繋いでいることを知っていたから。
 あきらめることなく死へ立ち向かい、困難のただ中でも笑みを失わない“いい子”。
 GーYAはそうあらねばならなかったのだ。

 と。過去の情景に沈み込んでいたGーYAの心臓がとくん、ひとつ跳ねた。
 あの公園で壊れてしまった心臓とすげ替えられた人工心臓――ライヴスによって作動する試作品は、本来であればライヴス不適合者たるGーYAの命を繋げるはずのない代物だ。そう、まほらまというなんとも物好きな英雄が、彼と勝手に契約を結んでさえいなければ。
 俺は、まほらまから命と力をもらったんだ。
 果たしてGーYAはゴールの向こうに拡がる新しい世界へと踏み出した。
 まほらまがいてくれたら、命の限りどこまでも行ける。この力があれば、白いばかりのベッドの上で思い描いてきた“理想の自分”そのままに生きられる。そう信じていた……


 送られてきたカードを見下ろしていたGーYAが顔を上げる。しかし、その目が別の情景に縛られていることは明白で。
 まほらまは彼の眼前に差し込んだ手をひらひら、現世へ引き戻した。
「ジーヤ、悪いんだけれどしばらく遊びに行っててくれるぅ?」
「え?」
 ようやく我に返ったGーYAへさらに言う。
「主役に居座られてたら、誕生パーティーの準備ができないでしょう?」
「パーティーって、俺の? あのさ、まほらま」
「話は後で聞くわ。今はとにかく、お・そ・と・へ、よぉ」
 反論も抗議もシャットアウト。無理矢理GーYAをアパートから追い出して、まほらまは息をついた。
 GーYAが誕生日をどう思ってるか、誰よりも理解しているつもりだ。だからこそ彼の反論も抗議も聞かなかった。聞いてしまえば、無視することなどできなくなってしまうから。
 そこまでしてでも、今日はGーYAの誕生パーティーを祝わなければならないのだ。
 だって今日はジーヤだけじゃなくて、あたしにとっても特別な日だから。

 まさかまほらまが自分の誕生日のことを言い出すとは思っていなかった。
 全部知っているはずなのだ。彼の過去はもちろん、これまでずっとこの日を無視してきた心情も。
 なのになんでいきなりパーティーなんて言うんだよ。
 思わず電柱を殴りつけそうになって、あわてて拳を引っ込める。共鳴していないGーYAに電柱が砕けるはずもないのだが……自由に生きるためのものだったはずの力が、今は茨のごとくに彼の心を締め上げていた。

 南米の地にて、彼は従魔に憑かれた一般人の拘束をその力と得物とで行い、結果として信用を失った。
 その有様を指して愚神フレイヤは言ったものだ。
「暴力」
 GーYAは目的を達成したいがためだけに、その力をためらいなく振りかざした。弱き者にとって力がどのようなものであるか、かつての自分は誰よりも知っていたはずなのに。
 愚神は世界にとって、在ってはならない脅威だ。
 しかし、それと対することを言い訳に、いつしか自分が世界の、そこに住む人々の脅威となっていた。
 強くなりたい。力に頼るだけじゃない、ほんとに強い男になりたいんだ。
 だって、そうでなくちゃ守れないから。俺が生きたいように生きられる世界も、いっしょにこの世界を作ってくれるみんなも、それから――
 思考を力任せに断ち斬って、GーYAはポケットの内へ突っ込んだ拳にさらなる力を込めた。
 言えない。言えるはずがないよな。君がくれた力を持て余して、拓いてくれた世界の真ん中で途方に暮れるばっかりの今の俺に、そんなこと。


 パーティーの準備はすぐに終わった。飾りつけるものなんてなかったし、ごちそうを作る必要もなかったから。
 まほらまは用意しただけだ。ただひと振りの大剣を。
「どれくらい足りるかわからないけれど、最後の一滴を」
 刃に指先をかすらせて、滲みだした血に乗せたライヴスを吸わせる。
 大剣の名は聖剣「ブレイブリンカー」。喪われた記憶のささやきに従い、まほらまが鍛え上げた刃である。
 素体となる大剣を得るまでには多くの困難があった。仲間たちの助けがなければたどりつけなかっただろう。
 彼らの思いを支えに、まほらまはこの剣を打ちなおした。自らの霊力を鎚で叩き込み、赤熱した剣身を自らの血で冷やした刃は、かつて彼女が魔王であったころ、自らを殺すべく拵えたあの“魔王殺しの剣”にも等しい力を得ていた。ただし、ただ一点を除いて……だが。

 愚神の“王”が出現したことによって知れた真実は、多くの英雄を打ちのめした。無理からぬことだ。果たさなければならない“王”の討伐が、自分という存在を消滅させる鍵になるかもしれないなどと示されて、そうですかとうなずけるはずもない。
 しかしまほらまには、衝撃に沈んでいる時間はなかった。正直なところ、消滅すること自体はどうでもいい。どうせ一度は投げ出した命だ。しかし。
 今のあたしには責任があるのよ。静かに死んでいこうとしてた命を無理矢理繋いだだけじゃなく、戦いの無間地獄へ落としてしまったことへの。
 と、まほらまはかぶりを振った。ちがう。そうだけれど、そうじゃない。
 責任とかじゃなくて、あたしはただジーヤに生きてほしいのよ。あたしが消えちゃった後も、存分に生き抜いたって笑える日まで。
 そう。この剣は“魔王”を殺すためのものではなく“彼”を生かすためのもの。
 GーYAの人工心臓を動かしているものはまほらまのライヴスだ。それが消えてしまえば当然、心臓も止まる。
 だったら“あたし”を残せばいい。ジーヤの心臓といちばん馴染むライヴスを、彼の一生が満たされるだけ。
 かくて形を成した刃は血の色を映すこともなく、白々と輝いている。これならGーYAに気づかれることはあるまい。鋼に打ち込めたまほらまの願いを。
 残るものは色のないライヴスだけでいいのよ。だって、少しでもあたしを置き去りにしてしまったら、それはきっとジーヤを縛ってしまうから。
 元のとおりに刃鞘をかぶせて大剣を横たえ、まほらまは目を閉じた。
 ほら、これでなんにも見えなくなったでしょう?
 世界も剣も……あたしも。


 GーYAはしばらく街を歩き回った後、帰路についた。
 結局のところ、その間にできたことは悩むことと迷うことだけだったが、逆に誕生日パーティーのことは忘れていられたのは幸いだったかもしれない。
「もう入っていい?」
 ノックして訊くと、内から「どうぞ」とまほらまが応える。
 自分の家なのになにしてんだか。ため息をついてドアを開ければ――なにひとつ変わっていない部屋の中に、ただまほらまが立っていて。
 だからつい、まほらまを見つめてしまったのだ。
「まほらまだ」
 口にしてしまったことを自覚しないまま一歩、踏み込んで。
「ん」
 ジーヤ。なにその顔。おかえり。ちょっとぉ。応えるべき言葉を決められず、結局ただうなずくばかりのまほらまが迎え入れた。
「あ、パーティー、ってその、サプライズな感じ?」
 パーティーがあることを知らされている以上、サプライズもなにもないのだが。飾りもなにもない部屋の有り様に、GーYAは思わず訊いてしまった。
 誕生日なんて忌まわしいもののはずなのに、なぜか気持ちが浮ついている。結局のとこ、まほらまがなにをしてくれるんだろうって、期待してるんだ。
 心情と裏腹なはずの思いを奥歯で強く噛み殺して、GーYAはなんでもない顔を作った。
「なにもないのが、サプライズ?」
 応えたまほらまは苦笑し、招く。
「なんだよそれ。いや、確かにサプライズだけどさ」
 同じように苦笑しながら、GーYAが近づいてきた。
 高く跳ねる鼓動。それを押さえ込んで、まほらまは息を整える。いつもの自分を思い描き、自然を装っておっとりと。
「まほらま?」
 って、なに疑ってるのよ。こういうときばっかり察しのいい男は嫌われるんだからね?
 嫌われる――誰に?
 決まってるでしょ。あたしじゃない、他の女の子によ。
 と。GーYAの手がまほらまの肩に触れた。
「なにかあった?」
 思った以上に彼の手は大きくあたたかかった。たった3年で、あの薄くて冷たかった手がこれほど成長していたこと。それがまほらまにはなによりうれしくて、寂しい。
「……ジーヤはもう、子どもなんかじゃないのよねぇ」
「いつからお母さんに転職したんだよ」
 首を傾げたGーYAに、思う。お母さんだったら、こんな気持ちを知らずにすんだはずなのにね、あたし。
 でも、今はそんな感慨に浸っているときじゃない。
 まほらまはまっすぐGーYAを見上げ。
「ジーヤ。この世界じゃ、18歳は男子が結婚できる歳よねぇ?」
「ん? ああ、そうだけど……まだ未成年だから」
 苦い声音を返すGーYA。結婚できるって言われると、そんな歳まで生き延びたんだなって思わなくもないけど。
 GーYAの瞳にはしった自嘲を見逃してはいない。彼がなにかを悩み、無力を噛み締めていることはすぐにわかった。でも、だからこそ伝えなければ。
「あたしの世界じゃね、結婚を申し込める歳になった者は成人とみなされるのよ」
 成人になるより早く死ぬ。それはジーヤを縛ってきた呪縛よね。あたしがいれば大丈夫、それを知っているはずなのに、あなたは心のどこかでまだカウントダウンし続けてきた。でもね。
「あなたを縛っていた呪いは今日、解かれたわ。だからこれからは、カウントを減らすんじゃなく重ねていける。ジーヤが望む明日をひとつひとつ」
「成人、か」
 GーYAはかぶりを振った。
「俺はガキだよ。まほらまにもらった命も力もただ振り回すばっかりで――責任を果たすことも、誰かを守ることもできないんだ」
 そんな奴が大人なはずがない。世界中のみんなどころか、いちばん大切なまほらまを守れない俺なんて。
 ああ。GーYAは、ここまで必死にごまかしてきた思いへ形を与えてしまったことに気づく。
 世界を救いたいことも誰かを守りたいことも嘘じゃないけど。それはまほらまが拓いてくれた世界で、まほらまが繋いでくれた誰かで――俺の昨日にも今日にも明日にも、いつだって君がいるんだよ。
「じゃあ、あきらめるの?」
 世界でも他の誰かでもない、あたしのいちばん大切なジーヤの自由を。
「あきらめたくない」
 世界でも他の誰かでもない、俺がいちばん大切なまほらまの笑顔を。
「あきらめない」
 もうごまかすのはやめだ。たとえこの気持ちがガキの戯言だってかまわない。俺は生きたいように生きるって決めたんだろう? だったら、それだけは貫いてみせる。
「なら、思うままに踏み出して、守って、救いなさい。ジーヤが責任を負うべきは世界や誰かじゃない。あなたの心よ」
「俺が踏み出して守って救いたいのは、まほらまだ」
 止められない。が、止めるつもりもない。GーYAはまっすぐに言い切った。
 俺はなんにもできないガキだけど、この言葉だけはごまかしたくないんだよ。
 その真摯な想いがまほらまを打ち据えた。
 世界をまだ知らないジーヤには、目の前にいるあたししか見えていない。でも、すぐにわかるわ。あなたの明日にはたくさんの誰かが待ってるってこと。
 言い訳だということは知っている。しかしこれ以上心を揺らされてしまえば、やっと固めたはずの決意が砂のように崩れてしまうから。
 まほらまは急ぎ大剣をGーYAへ押しつけて。
「サプライズのバースデープレゼント。名づけて聖剣「ブレイブリンカー」よぉ」
 手に取ったGーYAはすぐに悟る。この大剣には、まほらまのライヴスが込められていると。
「まほらまが造ってくれたんだな。あったかい」
 ぽつりとつぶやいた彼へ、あわてて言い募る。
「キザなこと言っちゃえば、あたしとジーヤの絆の剣ってとこかしらねぇ」
 ――あたしは弱い。残していくのはライヴスだけでいいって決めたはずなのに、結局あたしはあたしの想いでジーヤを縛ってしまう。こんなはずじゃなかったのに。これじゃだめなのに。
 でも、今また目を閉じることは赦されない。世界と剣と自分を遮断して、見なかったふりなどできるものか。そう。世界のただ中、まほらまの想いを込めた剣を手に彼女を見つめるGーYAがいるのだから。
「この剣に誓うよ。どうしようもなく弱い俺だけど、絶対まほらまを守り抜く。俺がこの『世界』で楽しく生きるにはまほらまがいてくれなきゃだめなんだ」

 まほらまは笑んだ。
 きっとあたし、生涯最高に幸せだわ。
 誰より大切な人が、あたしを守るって言ってくれた。
 この思い出があれば、あたしはいつでも笑って消え失せられる。
 あなたの明日を、呪縛なんかじゃない祝福でいっぱいに満たして。

 一方、笑みを返したGーYAは胸中でうそぶく。
“王”を倒したら英雄は消滅するかもしれない。この剣は、その後も俺の心臓を動かし続けるために残してくれる遺品なんだろう?
 でも、俺たちは一蓮托生だって、どこかで確かめ合ったよな。
 だから、いつまでもいっしょにいるし、行く。生きてる間も死んでからも、まほらまがいる場所が俺の『世界』なんだから。

 互いの想いを知らず、互いへの想いを重ね、このときのふたりは意志を隠して笑むばかりだったのだ。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【GーYA(aa2289) / 男性 / 18歳 / 澄志】
【まほらま(aa2289hero001) / 女性 / 17歳 / 砂想】
【永禮(aa4249) / ? / 20歳 / 遠く近き者】
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2018年11月05日

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