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『争力の前夜 』
重力を忘れた 奏楽aa5714hero001)&熊田 進吾aa5714

「うぬはなにものなりや?」
 下弦の月ばかりが白々と輝く闇のただ中、仁王立った愚神はかく問うた。
 太いワイヤーを縒り合せて形造ったかのような筋肉で鎧われた黒き体。どれほど打ち据え、撃ち据えようともけして揺らがず、そこに在り続ける様は憎々しいほどに強く、いっそ美しくすらある。
『答える前に、ひとつ、訊かせて、もらうよ』
 共鳴状態にある熊田 進吾の内から、重力を忘れた 奏楽が苦しげに声音を伸べた。
「応」
 わずかにその体より噴き上げるライヴスの圧を鎮め、愚神が促す。
「きみは――きみこそ、何者だい?」
 同じく荒い息をつきながら進吾は重ねた。
「我は争力なり」
 そうして見開かれた両眼で進吾を見据え。
「さ。うぬの有様を問おうぞ」


 謎の愚神、日本海から新潟東港へ接近中。
 その報を受けたH.O.P.E.東京海上支部はすぐに12組編成のチームを招集し、輸送機へと詰め込んだ。
『なるべく“いつものメンツ”で固めてるけど、そうじゃないエージェントもいるから。今のうちに打ち合わせしといてねぇ!』
 本件の担当オペレーターから連絡が入る。
 今夜集められた戦力の主要メンバーは、同じ小隊に属するハイレベルエージェントである。幾度となく同じ戦場で肩を並べ、背を合わせてきた彼らであれば、ケントゥリオ級相手でもそうそう後れは取るまい。
『ほんとは25組編成とかで一気に行きたかったとこなんだろうけどね』
 進吾の内で奏楽は、歳にも顔立ちにも似合わぬ皮肉な笑みを浮かべて吐き捨てた。
『H.O.P.E.は今、“王”の出現でいそがしいから。そこからこれだけのメンバー切り出してるんだ。精いっぱいなんじゃないかなぁ』
 切迫しているはずなのにのんびり、進吾が応える。
『ライヴス値が上下するってのもよくわかんないよねぇ。ま、最大値参考にしてこの数でいいってことになったんだろうけどさ』
『うん、だから僕たちでもできること――』
「そっちのブラックボックスの人」
 小隊の隊長であるというドレッドノートが、奏楽と進吾の内の対話を断ち切って。
「バトルメディックの人にもお願いしたんだけど、戦闘始まったら後方支援ってことで。なるべく短時間で終わらせたいからさ」
 ようするに、小隊のフォーメーションを崩されたくないわけだ。
 ただの怠け者であれば、適当に参加して報酬をもらえるのだから文句もなかろうが、しかし。
『愚神がどんな力持ってるかわかんないじゃないっすか。そのへんってなにか考えてます?』
 奏楽の問いに隊長は薄笑んで。
「力を使わせる前に叩く。そのための10組編成だろ? 大丈夫、君たちのカバーもちゃんとするから」
 ついでに足手まといだから、下手にはしゃがれては困ると。
 奏楽は気づいたことを悟られないよう口をつぐみ、内から進吾をつついた。くまたん、後処理任せた。
「あ、ああ、はい。がんばらないようにがんばります」
 隊長は一瞬眉根をしかめたが、なにも言わずに仲間の元へ帰っていった。
『ったく、ケンカ売ってどうすんだよ』
『え? ぜんぜんそんなつもりなかったけど……僕、またなにかやっちゃった?』
 ああ、そうだよな。くまたん悪気とかないもんな。ちょい天然なだけで。
 奏楽はため息をつき、心へ這い込んだ予感にその身をぶるりと震わせた。
 ブラックボックスの備えた超常の力ならぬ、奏楽個人の常識というやつが告げるのだ。
 なんにも始まってないうちから無事に終われる気でいるとか、そりゃ皮算過ぎるんじゃないっすか?


 港を埋め尽くしたミーレス級従魔を文字通りにかきわけて、10組の小隊は見る間に愚神へと迫る。
『弱っちいけどいくらでも沸いてくるね。俺たちもスキルは温存ってことで』
「了解」
 奏楽の指示にうなずいた進吾は後方から雷霆呪符を飛ばし、小隊の横合いから襲いかかる従魔に雷槍を突き立てた。
 奏楽に言われるまでもなく、ここでスキルを撃ったところで無意味に終わることは悟っていた。
「見えた! 黒いな……暫定ネーム「クロ」ってことで。人型、得物の類いはなし。近接特化型と推定。データ取る時間が惜しい。このまま包囲して集中攻撃する!」
 と、隊長のハンドサインで小隊がフォーメーションを変えた、そのとき。
「無粋なり」
 クロはそれまで閉ざしていた左眼を開いて。
「ドロップゾーン!? みんな、そな」
 その場にいた全員、夜に飲まれて消えた。


『やばい』
『うん』
 奏楽も進吾も、互いにそれだけ言うのが精いっぱいだった。
 辺りには従魔一匹どころかエージェントひとりおらず、ただ夜の港がそのままの姿を晒していて……クロだけがその場に留まっている。
『分析したい謎はたくさんあるけど、今はあの愚神だね』
 突き出した呪符を後ろにその体を隠し、進吾は慎重に間合を計る。
 対してクロはゆるゆると息を吹き、進吾へと歩を踏み出した。
 ただ普通に歩いているだけに見えるが、浮いているかのごとくに音を立てないその歩法は、すなわちクロがつま先立ちであることを示している。
『フットワークは使われたくないね』
 奏楽が乾いた唇を湿して言った。
 装備で回避力こそ押し上げてはいるが、いわゆる格闘型と殴り合ってしのぎきれる自信はない。
『カウンター狙う? 符、拳にくっつけてさ、ビリってなってる間に顔面キック』
 進吾は奏楽に内でかぶりを振り、クロの左側へ大きく回り込んでいく。
『それするには耐えられるかわからないまま被弾を覚悟しなくちゃいけない。中距離を保って削っていこう』
 幸いスキルは温存してきた。さらに言えばあの隊長とちがい、データ収集の必要性は本業の経験で思い知ってもいる。
「ふっ!」
 気合を込めて呪符を投じる。ただしリリースは声よりも意図的に遅らせて。
 しかし、時間差に惑うことなく、クロは符を左の掌打で打ち落とし、その手を戻す反動に乗せて右拳を突き出した。
 そこから弾き出されたのはライヴスの衝撃波。目に見えるほど濃密な力の塊が、体勢を戻しきれていない進吾へ到達するが。
『予想はしてた!』
 進吾を包む不可視の力場が塊をねじ曲げ、直撃を避けさせた。
 見えざる手。ブラックボックスの繰る、自らの回避を高めた上で敵の命中を低下させるというリアクションスキルである。

 かわしがてら駆け、港の一角に積まれたコンテナの影に逃げ込んで、進吾は息をついた。
『これはドロップゾーンだよね。特性は……敵を分断することかな?』
『タイマンスキーってだけなんじゃない? 見るからに殴り合い好きそうだし。距離取っても殴ってくるもんなぁ』
 奏楽は迷った。間合は無意味。しかも力の差は歴然だ。一手重ねるごとにその差はこちらを不利へと追い込むし、かといって手を惜しめば圧倒的な力で叩き伏せられるだけ。
『結局、短期決戦しかないんだけどさ。せめてあの小隊がいっしょだったらね……』
 連携はできずとも使いようはあるし、使われようもあったはず。
『たらればは置いておこう。見えざる手はあと1回使える。つまり最低2回はしかけられるってことだよ』
 じっくり観察することはできない。つまりは死線の上で目まぐるしく踊り、それを活路に変えるよりないということだ。
『スキルの制御は任せたからね』
 奏楽に言って、進吾はコンテナの影から駆けだした。
 静かに待ち受けるクロ目がけて「待たせてごめん!」、跳躍。中空より左手に持った符を投げる――
 対するクロは即応した。抜き手で薙ぎ、衝撃の刃で符が描くだろう軌道のすべてを断つ。
 ――かかった! 進吾の手には今も符があり、ただ跳んだだけの彼はその体ごとクロのたくましい体へぶち当たった。
 が、跳躍力を重力と慣性力で加速させ、当たった73キロの体はあえなく弾かれた。クロは見た目どおりの重量を備えているわけだ。よかったよ。計算をまちがえてなくて。
 弾かれながら、進吾は空の右手をクロの眼前へ突き出した。
『しみるよ!』
 奏楽がその右手に呼び出したものは海水。蒼き舌はライヴスの水流を発生させるスキルだが、港という場を利し、あえてそれを選んだのだ。
「ぬぅ!」
 塩を含んだ飛沫がクロの両眼を叩き、すがめさせる。
 その一瞬、夜闇が歪んだのを奏楽は見逃さなかった。ドロップゾーンが揺らぐ? 最初は閉じてた左眼を開けて生んだドロップゾーン……もしかして、これって。
 その間に進吾が、クロへまとわりつく海水へ符を押し込んだ。
 ビヂン! 水に沿って拡がった電流がクロの顔面を焼き、一歩退かせた。
 が、それは逆にクロへ間合を与えることになる。
 突き出した膝から折り畳まれていた脚が伸び出し、3の字を描いた。縦蹴りと呼ばれる回し蹴りだ。
 符に防御力はない。かといってガードを固めたところで、この蹴りの軌道を防げるはずもない。
 進吾は急ぎ息を吹き抜いて、見えざる手を発動した。息を残してしまえば体が硬直する。蹴りを意識してしまっても同じことだ。なにも見ないふりをしながら吹き続けて力を抜き、見えざる手を傘代わりに、クロの蹴りの下へ潜り込んだ。
 愚神が上狙いで来てくれたおかげで、ここまではなんとか及第点。でも問題はここからだ。
 沈み込む勢いを乗せて、意表を突く水面蹴り。ここまで符を餌にしてきたからこその奇襲は功を奏し、オーラの炎を噴くレガースがクロの軸脚を薙いだが。
 やっぱり重くて硬い!
 コンクリートをつかんだクロの足は容易く進吾渾身の蹴りを受け止めてみせた。
「ふん!」
 クロの蹴り足がそのまま踏み下ろされる。
 なにを思う間すらないままに、進吾は肩口を突き抜かれた。乾いた音をたてて鎖骨が爆ぜ、湿った音をあげて左肩が押し潰される。
『くまたん3秒だけ我慢して立て!!』
 奏楽の声に、漏れ出しかけた悲鳴を必死で噛み殺し、立った。痛いのはソラだっていっしょ。ここで僕だけが泣きわめくわけにいかない!
 よし、くまたんえらい! これでもう一手しかけられる!
『符!』
 言い置いて、奏楽は未だクロから離れない海水へ電流をはしらせた。
「っ!?」
 海水からその身を引き剥がしてクロが下がる。そのときにはもう気づいていた。奏楽の雷が符によるものではなく、スキルによる手妻であったことに。
 クロは急ぎ追撃に備えて前蹴りを繰り出すが、腰の決まらない技が届くはずもなく、蹴り足は虚しく空を切った。
「拳はつかめなくても、置きに来た足の先くらいはね」
 かくてクロのつま先に呪符を叩きつけた進吾が口の端を吊り上げた、その直後。
 電流に傷つけられながら踏み込んできたクロの中段突きが、進吾の腹へ吸い込まれた。
「ぐ、うっ」
 体をくの字に折った進吾へ追撃の膝蹴りが襲い来る。
 まだだ――!
 崩れ落ちながら放った碧の髪がクロを、その膝ごと押し流した。
 うずくまる進吾を見下ろし、構えを解いたクロは太い声音で問うた。
「うぬはなにものなりや?」


 果たして冒頭にて語りし時へと戻り、ふたりの答が返される。
『俺は、“道をつくる者”だ。くまたんと共鳴したこの“俺たち”で、この世界に俺と俺たちの新しい道をつくる!』
 この世界も今、“王”の登場によって終局が始まっている。覚えてなどいないが、奏楽のいた世界は同じような終局の中で潰えたような気がするのだ。
 でも。俺はこの世界でくまたんと誓ったんだ。毎朝おはようって言う。それって毎日を繋いでくってことだろ、終わらない明日をさ。そんな俺たちなら、きっとなんとかできるし、なんでもできるって信じてるから。
 奏楽の思いが魂を震わせる。
 うん、僕たちはできる。何回だって始められる。だから、僕は僕をこう呼ぶよ。
「僕は“新たに始める者”だ。ソラといっしょなら、八方塞がりの中でだってきっと突破口を見つけられる。僕はそのために、何回でも立ち上がるから」
 萎えた筋肉にありったけの力を込めて立ち上がった。
 その様に、肝心の奏楽は――
『うわ、やだ、くっさ! くまたんくっさー!』
「はっはっはっ、あいかわらず照れ屋さんだなぁ」
『うっさいわー。45歳独身、マジくっさいわー』
「加齢臭!?」
 騒々しいふたりを、クロはあっけなく蹴り飛ばした。
「……しかと聞いたぞ」
 そして左眼を閉ざし。
 ドロップゾーンを消滅させた。

 愚神が駆け去った後には、打ちのめされたエージェントたちばかりが残される。
 そのうちのひと組なる進吾と奏楽は他の者と共に緊急搬送され、続くエージェントに「蹴速」のコードネームを与えられた愚神の情報を託すのだ。
 ただひとつ、互いへと重ねた思いばかりは伝えぬままに――


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2018年11月05日

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