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『■祭りの後の 』
ソフィア =リリィホルムka2383




 仮装の祭が終わったリゼリオは、どこか気が抜けた雰囲気が漂っている。
 道すがら装備の強化プランを再考したいのもあって、ソフィア =リリィホルム(ka2383)は人の多い表通りを避け、錬成工房へ向かう裏道を歩いていた。
 人とぶつかる心配もなく、思考に集中できるはず……だったのだが。
「あんたなんか、大っキライ!」
 トーンの高い少女の声に続いて。
 こつん、と。
 飛来した何かが、頭にぶつかった。
 反射的に手を伸ばし、地面へ落ちるより先にソレを掴む。
 当たっても痛くなかったソレは、柔らかい感触の小さなカボチャ人形だった。
 東方に伝わる『てるてる坊主』のような形状で、刺繍された口は笑みの形にカーブし、目は平べったい黒ボタン。鼻や耳はなく、小さな手はあっても足がない。
 パッと見でも素人作の人形は、片方の目が取れかかっていた。
 顔を上げると、窓の一つが大きく開け放たれている。
 あそこから落ちてきたのだろう……とか、状況を考察していると。
 バンッ!
 近くのアパートのドアが勢いよく開き、うろたえた少女が飛び出した。
 歳は4つか5つ程の女の子は路地の左右を見回し、足を止めたソフィアを見上げ、その手にある人形に気付いて「あっ」という顔をする。
「君の?」
 こくん。
「もう、落とさないようにね」
 こくこく。
 何度も頷く相手へ、彼女は「はい」と人形を手渡した。
「おねえちゃん、ありがとう!」
 ほっとした笑顔で礼を告げた女の子は開けっ放しの玄関へ駆け戻り、ぱたんとドアが閉まる。
 見届けたソフィアはチラと窓を仰ぎ、再び路地を歩き始めた。




 その帰り道に、同じ裏道をソフィアは選んだ。
 理由は、何となく。
 あれから時間は経っているが、人の少なさと生活の気配はそのままだ。
 カボチャ人形が落ちてきた場所は、どこだったか。
 あやふやなまま歩く頭上から、「にゅー」だの「きゅー」だのキノコ頭の鳴き声が聞こえてくる。
 何気なく視線を上げ、ソフィアは頭痛を覚えた。
 二階の窓の一つ、小さなバルコニーの柵に群れるパルム達。
 その輪の真ん中には、見覚えのあるオレンジの物体が引っかかっている。
「まさか、お前らの仕業じゃねぇよな」
 もちろん、パルムが人形を取ってくれる訳がなく。
「えーっと……」
 ごそごそと荷物やポケットを探し、見つけたのは手頃なサイズのくず鉄。
「ま、いっか」
 二度三度、手の上で浮かせては掴み、その重さと感触を確かめてから狙いを定め。
 カツンッ。
 下手で投げたくず鉄は、人形が引っかかる柵へ軽く当たり。
 狙い通り、人形もくず鉄も揃ってソフィアの手元へ落ちてきた――黒目の片方は取れ、首も皮一枚で繋がってるような、ぷらぷら状態で。
 どうしたものかと思案していると、あの少女が窓から顔をのぞかせる。
 見下ろす彼女に人形を見せれば血相を変えて引っ込み、外へ飛び出してきた。
 でもすぐには受け取らず、もじもじと尻込みをする。
「ボロボロだから、窓から捨てられたのか?」
 ふるふる。
「喧嘩して、捨てられた?」
 ……こくん。
「これ、おむかいのおねーちゃんが……さいごに作ってくれたの」

 ポーチの階段に二人で腰かけ、拙い説明をソフィアは辛抱強く聞く。
 少女は姉と二人姉妹で、向かいの部屋の「お姉さん」によく遊んでもらっていた。
 彼女はいつも二人に揃いの人形を作っていたが、万霊節の前に結婚して遠くへ引っ越す事になり。
 最後にカボチャ人形を作ったものの時間が無くなったのか、もらったのは妹だけだった。
 姉はそれが気に入らないのか取り合いの喧嘩を繰り返した末、遂に人形を窓から放り投げたらしい。

「……こいつ、一晩借りてもいいか?」
 彼女の問いに、不思議そうな顔をする少女。
「目は取れてるし、首ももげそうだから修理してやるよ。明日には必ず返す」
 真顔で頷く少女へ、ニッとソフィアは笑ってみせた。




 人形の作りは単純で、手芸店に寄り道をして材料を見繕う。
 あの子に何かしてやる義理はなく、ほんの気まぐれではあるけれど。
 喧嘩でボロボロになっても大事にされる人形に、何かしてやれればと思った。
 ただ、それだけの事。

 翌日の裏道。
 秋風が冷たいというのに、開け放った窓から少女は外を眺めていた。
 ソフィアの姿を見つけると、すぐ玄関へ降りてくる。
「ほら。約束通り、返すぜ」
「わぁっ。ありがとう!」
 綺麗に修復されたカボチャ人形を満面の笑顔で少女は受け取り、抱きしめた。
 その目の前に、よく似たカボチャ人形をひょいと取り出す。
「それからコイツも。カボチャだって仲間の一人くらい欲しいだろ。姉ちゃんにあげるかは、自分で決めな」
「おねえちゃん……ありがとう」
 涙ぐむ声にポンと軽く頭を撫でて、ソフィアは踵を返す。
 一度だけ振り返れば、まだ少女は二体の人形と手を振っていて。
 古いカボチャ人形の表情は、心なしか前より少し嬉しそうに思えた。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【PCID / 名前 / 性別 / 外見年齢 / 種族 / クラス】

【ka2383/ソフィア =リリィホルム/女/14/ドワーフ/機導師(アルケミスト)】
おまかせノベル -
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ファナティックブラッド
2018年11月06日

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