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『あるがままに 』
アルヴィン = オールドリッチka2378

 げ、と思わず声が漏れた時には遅かった。俺が踵を返すより早く、つかつかと革靴を鳴らして近付いてくる。俺の中の紳士のイメージより若い、しかしそう表現するのが一番しっくりくる男だ。その笑顔の胡散臭さに俺は隠さず顔をしかめたが、奴は意に介した様子もなく目の前までやってくる。
「ヤァ、コレは奇遇ダネ!」
「……だな」
 ニコニコと笑みを崩さず言ってくる奴に俺は素っ気なく返す。やはりというか男はそれをなかった事にして、その細長い身体を傾けて俺を覗き込むような姿勢になると言葉を続ける。
「デハ約束通り、早速行くとシヨウカー!」
「あ、おいっ!」
 俺の気持ちを察しているのかいないのか。すっと後ろに回り、男は俺の肩を掴んでぐいぐい前に押していく。一瞬抵抗するか考え、結局諦めて歩き出した。こんな街中で争い事を起こすなんて願い下げだし、約束をしたというのも本当だからだ。隣に並んで店の話をし始めた男に少し、毒気の抜かれた思いがした。

 そうして大通りを数分歩き、着いたのは洒落たカフェだった。男二人で真っ昼間から何でこんなと思わなくもなかったが、奴が自然と馴染んでいるせいか、奇異の目は感じない。口を開けば曲者揃いのハンター連中でも中々目立つ奴だと思うが、黙っていれば美形さだけが目につく男だ。隣の席の女たちが囁き声で騒いでいるのも頷ける。
「――で、何がしたいんだよ。アルヴィン」
 コーヒーを一口啜ってそう切り出すと、男――アルヴィンはきょとんとした顔をした。
「何がシタイって、今度逢ったらカフェで一杯飲ミタイネ、って話だけだヨ?」
 首を傾げながらそう言い、優雅な手つきでティーカップに口をつける。ふと、こういう絵画とかありそうだなと思った。単純に見た目と仕草が合致しているせいではないだろう。例えば――貴族の出だと言われれば頷けるような、そんな自然さがある。そういえばハンター仲間の話はしていたが自分の話はしていなかった。だから俺はこいつのことをあまり知らない。
「あんなの、社交辞令だろ……」
 俺とアルヴィンが知り合ったのはほんの数日前。ソサエティの依頼を受けて一緒に組むことになったのがこの男だった。ソサエティでは通常、作戦上分かれる場合はあっても最初から二人でなんて状況はまずない。ただ、今回は緊急性が高いのに危険度は低く、元々求められる人員は少なかった。それに――。
「俺にわざわざ関わってくる奴なんざ、偽善者か物好きくらいのもんだぞ」
 独断専行に依頼人とのトラブル。何度も警告を食らっている“札付き”の俺と仕事するのを嫌がらないのは、そういう連中か何も知らない新人か。アルヴィンは物好きの方だろう。任務を終えて帰る道すがら、こいつはしきりに俺の話を聞きたがった。愛について語るアルヴィンの青い目は輝いていて、でも俺はそれが気味悪く思えてしょうがなかった。愛を信仰すると言うその眼差しは痛みを――いや、愛への憎悪を孕んでいるように思えたから。
「ンー、そういうモノなのカナ?」
 マイペースにタルトタタンを食べていたアルヴィンが、ナプキンで口を拭いてからそう言ってくる。ただの知人なのに、こいつの言動には裏がないという根拠のない信頼があった。
「きみが思っているホド、きみは嫌われてイナイ……とイウか、普通ダト僕は思うヨ?」
 それは、確かにそうだ。このご時世、大切な人を失った奴なんて珍しくない。故郷を失ったという話も聞く。そう思っていると。
「ダッテ、きみがアノ時急いだノハ、少しデモ早く歪虚を倒しタカッタから。今ココにいるノハ、約束を破りたくナイから。違うのカナ?」
 アルヴィンはそう言い、片眼鏡がついていない方の目を閉じウインクしてみせた。
 ――ああ、そうか。こいつは俺の過去を知らない。悪名は知っているのかもしれないが、だとしてもまるで気にも留めない。その理由は多分、こいつが見ているのが“今”だからだ。俺の行動の理由が過去にあるとしても、今の俺の言動を見て俺の印象を決めている。ちゃんと俺を見ているから興味本位で絡んできても不快じゃないと。そう思ったら、急に肩の力が抜けた。
「自分で自分に偏見持ってりゃあ世話ねぇな」
「ヨク分からないケレド、すっきりシタようで何ヨリ!」
 満面の笑みで追加注文をするアルヴィンを見つつ、俺は残りのコーヒーに口をつけた。こいつは変人だ。だが悪い奴じゃないし、嫌いでもない。
「ふふーふ。ジャア早速、きみのソノ煌めきがドコから来るノカ、聞かせて欲しいナ!」
 その言葉にピタリと固まる。まぁ一服しながら話の一つや二つするよな。
「悪い、用事が出来た。その件はまた今度な」
 懲りずに俺が約束で誤魔化して立ち上がり、コーヒー代を置いて離れると後ろから声が聞こえてきた。
 マタネの言葉の後に足されたのは俺の名前。俺は振り返らず手をあげた。そうして見上げた空は憎らしいほど澄んだ青色だった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka2378/アルヴィン = オールドリッチ/男性/26/聖導士(クルセイダー)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
アルヴィンさんのプロフィールを見ながら話を考えていた時に、
アルヴィンさんが誰かしらを見て何を思うか、よりも
さほど付き合いのない誰かがアルヴィンさんを見た時にどう思うか、
ということのほうが見てみたいなぁと感じ、こういう形にしました。
マイページのつぶやきなどを参考にしてみましたが、
口調(主にカナ部分)が違っていたら申し訳ないです。
今回は本当にありがとうございました!
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2018年11月06日

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