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『『黙想』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879

 見舞いの後。
 寄り道をせず、アレスディア・ヴォルフリートは真っ直ぐ自室に戻っていた。
 身体に熱が籠っていて、心拍数は高いまま。
 急いで帰ってきたわけではないのに。運動の直後のように身体が温かかった。
 心は、不思議な状態だった。
 喜びの中に、僅かな不安が混じっている。
 身体を覚ましたかったからではない。これから何があるわけでも、何かあったわけでもないのだけれど、アレスティアは浴室へと向かい、温めのシャワーを浴びた。

 身体を拭いて部屋着を纏い、髪を拭きながらアレスディアはソファーに腰かけた。
 先ほど、別れたばかりのディラ・ビラジスの姿。
 そして、この部屋のこの場所で、合鍵を受け取った時の彼の顔、言葉が思い浮かび、落ち着き始めた鼓動のリズムが再び勢いを増す。
 深呼吸をして、膝の上で両手を組み、アレスディアは静かに目を閉じた。

 ――共にいたくている、と言ってくれたことが嬉しかった。けれど同時に、怖くもあった。

 彼の鼓動を感じながら、腕の中で抱いた想いを思い起こす。

 アレスディアはこれまで、誰かが護れればそれでいい。護った果てに命尽きることが幸せだと思ってきた。
 だけれど、今は違う。果てることを望むのは止めた。だが、戦いに絶対はない。傷つきもすれば、命を落とすことも否定できない。

 だから……。
 戦場で出会ったディラの姿。鋭くも、残忍でもない目を、自分に向けるようになった彼。
 彼女と共に、人を守る仕事に携わっていく様々な彼の姿が、脳裏に浮かんでは消えていく。

 だから、彼が、ディラが自分の元を離れたとしても平和な社会で幸せになってくれるならそれでいい、と思った。
 自分とは、今までのように等しく大事な一人であってくれれば、とも。

 日々、変わっていく彼の表情。
 自分に向けられる笑顔。喜びの顔。
 何かを求めるような目。自分だけに向けられるその眼差し。

 だけれどそう、彼の目は自分だけに向けられていた。
 時に夢として、子どもの姿で彼はアレスディアを求めていた。

 ディラの心に背を背けているのではないか。あの眼差しから逃げているだけではないか。自らの胸に響く、高鳴りからも。
 アレスディアは、そう思うようになっていた。

 夢の中の、子どものディラの言葉や、異界から訪れた獣の言葉に不安を覚えないわけではない。
 だが、ディラに、自身の心に背を向けて、答えが出せるはずがない。

「想いに背を向けて生きるのは、やめたはず」

 彼の腕の中で抱いた気持ち、決意を言葉にしてアレスディアは目を開ける。

(傷つくかもしれない。命を落とすかもしれない。生きるに相応しい場所はここではないかもしれない)

 それでも、彼と。自分と共にいることを望んでくれる彼と――。
 希望も不安も何もかも、共に立ち向かえると信じた。
 互いに響く高鳴りを信じ、アレスディアは彼と約束を交わして、想いを告げた。

 胸に手を当てる。
 抱きしめ合い、感じあった音が思い浮かび、身体が温まっていく。

『この世界に、貴様らの居場所などない。戦いの場で、生き、死ぬことが貴様らの幸せだ』
『お母さんを護るって決めたんだ。――さいごまで』

 脳裏に響く言葉を、首を左右に振って否定する。
『その矛で、私を護ってくれないか。私の盾で、護らせてくれないか』
 アレスディアの言葉に、共にいたいという想いに、ディラは確かに頷いた。
 嬉しいと、苦しいほどに、そうありたいと。

 別れ際、2人は約束を交わした。
 離れている時に無茶はしない。何かがあったら、連絡をすると。

 この選択は間違いではない。
 彼を抱きしめたこと、キスを交わしたこと、好きと伝えたこと。
「私は……彼は……いや」
 アレスディアは両手を胸に当てて、自分の鼓動のリズムを確かめる。
「私たちは、共に生きる」
 僅かな不安は消えない。
 だけれど、互いに響くこの胸の高鳴りを信じて、共に生きると決めた。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/職業】
【8879/アレスディア・ヴォルフリート/女/21/フリーランサー】

NPC
【5500/ディラ・ビラジス/男/21/剣士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。ライターの川岸満里亜です。
時間としましては、ディラを見舞った後として描かせていただきました。
共に生きようと決めた2人の、続く物語も楽しみにしております。
ご依頼ありがとうございました!
東京怪談ノベル(シングル) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年11月06日

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