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『Die Schwester 』
グラナータaa1371hero001)&シルフィード=キサナドゥaa1371hero002

●今回のあらすじ
 誓約相手が反抗期だ。思い通りにならない無力感と自己嫌悪に苛まれて鬱屈とした感情を抱えている。何とか取りなそうとしても、強い拒絶のために取りつく島もない。故に英雄は、泣く泣くかつての主家の一人に泣きつくのであった。

●似てきた姿
 とあるカフェ。周囲の話し声を聞きながら、シルフィード=キサナドゥ(aa1371hero002)は、すっかり馴染みになったこの店で紅茶をお供に読書をしていた。最近のベストセラーだという冒険小説だ。右を見れば高家の令嬢、左を見れば名家の子息と年上ばかりに囲まれてきたお姫様は、今日も誓約相手と友達になるべく自分なりの努力を積み重ねているのだ。
(ふむ……この世間の少年少女はこのようなお話を好むのですわね。わたくしとしては今一つ刺激が足りない気がするのですけど)
 彼女の居た世界に“子ども”はいない。子供も立派な労働力、小さな大人に過ぎない。当然レーティングだのゾーニングだのといったものは存在せず、宮廷を訪れた吟遊詩人はミンネリートと称して姫の前だろうが王子の前だろうが構わず閨房の情事をも明け透けに語りつくしたものだ。多少の記憶が失われたと言っても、それに慣れ切っているシルフィにしてみれば、活字の中で繰り広げられる少年少女の甘酸っぱい青春の恋愛は物足りない。
(……でも、この物語を読み通せば、また一つ彼女との話題が増えますわ)
 こっそり口端に笑みを浮かべながらページを繰る。今もなお苦手意識は持たれているようだが、名前で呼び合えるようになったり、前進の兆しはある。シルフィは期待していた。
「シルフィー!」
 そんな折、派手に鈴を鳴らしてグラナータ(aa1371hero001)がカフェに駆け込んで来る。シルフィの座る席をようやく見つけると、バタバタ走って目の前の席に飛び込んだ。周囲の客が一斉にグラナータへと眼を向ける。シルフィは人差し指を口元に当てた。
「しー」
 涙を目尻に浮かべたまま、グラナータは僅かに面を上げる。皆が見ている中、漂う沈黙。しばらく黙り込んでいたグラナータだったが、またわんわん泣きながらテーブルに突っ伏してしまった。
「シルフィー! あの子が妹に似てきたッスー!」
 もうどうにもならない。シルフィは本を閉じると、立ち上がってグラナータの肩を叩く。
「え、えーと……まずは泣くのを止めてくださいな……」
「うー……」
 グラナータは泣くのに必死でシルフィの言葉も届いていないらしい。弱ったシルフィがタチアオイの花弁を撫でていると、カウンターからトレーを片手にしたウェイトレスがやってくる。
「ご注文のショートケーキですが……お取込み中でしょうか?」
「……いえ。問題ありませんわ」
 シルフィは髪を整え平静を装うと、ウェイトレスからケーキを受け取り、グラナータの眼前へ差し出す。
「まずは食べて落ち着きなさいな。お話はそれからにいたしません?」
「は、はいッス……」

 差し出されたショートケーキをしばし夢中で食べ続け、ほんの少し落ち着いたグラナータ。それでも顔はすっかり萎れていた。シルフィはそんな顔を覗き込み、恐る恐る尋ねる。
「で、どうなさったんですの?」
「……さっき言った通りッスよ。あの子が、妹に似てきたんス……」
「妹に……」
 シルフィは首を傾げる。似ていると言われても、彼女はグラナータの妹に会った事が無いからよく分からない。嘗ての世界でグラナータが妹について何だかんだと言っていたような気がするくらいだ。
「よく分からないのですけれど、つまりあなたの妹は今の彼女のような子だった、という訳なのですわね?」
「そうッス」
 頷いた瞬間に、グラナータは妹とのやり取りを克明に思い出す。グラナータという青年の魂に刻み付けられた日々を。彼の暮らした辺境の街から、王都にも噂が届くほどの才能を持った妹。愚神や従魔に国境を侵され続けるその当時、グラナータはそんな妹を決して危険に晒したくなかった。楽士としての修行をほっぽりだして、剣の鍛錬に通り一遍の花嫁修業もこなしてみせるくらいには。
「本当は、自分じゃなくて妹が騎士になる筈だったんス。でも、いつ愚神が国境の守りを食い破ってくるかわからないのに、騎士なんて危険な仕事にやりたくない。そう思って……」
 グラナータはふと言葉を切る。“奴”との戦いと、今しがたのパートナーとの会話を思い出す。パートナーが戦いたいから手伝いたい。でも、水晶のように透き通った彼女の心が歪むのを見て、戦わせたくないとも思った。ジレンマが今も胸をきりきりさせる。
 そんな思いは自分の独り相撲かもしれない。そんな予感も頭をもたげるのだ。
「いや、危険な使命だって、妹だったら果たしてたかも知れないッス。でも、……そうっすね。不毛な戦いで妹が“汚れて”しまうのが、“自分にとって”嫌だったのかも知れないッス」
「妹は強いけれど、戦ったり、傷ついたりが嫌いな子だったッス。だから自分が代わりに騎士になると言った時、妹は不服そうにしてたッス。ちょうど今のあの子みたいに……」

――あなた、に……。あなたに、似たんですよ。

 パートナーの言葉が鼓膜の奥で反響する。
「それでも妹は結局自分が騎士になる事に反対しなかったッス。……もしかしたら、自分を立ててくれたのかもしれないッスね……」
 自分と妹の立場が逆だったらどんな事を想っただろうか。自分のためと意気揚々と振る舞う相手を見て、素直に喜ぶ事が出来ただろうか。その傘の下に甘んじる事が出来ていただろうか。
 出来なくてもそうしただろう。大切な人の想いを無下にはしたくないと思っただろう。
「それを思うと、自分に似たって言われて……グッサリと来たッス……」
 語り切ったグラナータはいよいよ消沈してしまった。シルフィは紅茶カップを手に暫し黙り込んでいたが、やがて残りを飲み切り、そっと口を開く。
「良いではありませんか。落ち込む事などありませんわよ」
「シルフィ?」
 すっと背筋を伸ばすと、真っ直ぐにグラナータを見据える。目尻をきりりと引き締めたその表情は、年若くとも皇族としての威厳に満ちていた。へこたれていたグラナータも、思わずその姿勢を正してしまう。
「わたくしなんて、お父様やお母様の事もあまり覚えておりませんもの。たまに夢に見るくらいで、それが本当にわたくしの過ごした日々だったかもわからない。グラナータだってそうではなくて?」
 問われ、グラナータは思わず顔を背ける。シルフィと個人的に何か話した覚えはあるが、それくらいだ。
「……まあ。自分が近衛騎士としてどう過ごしていたかなんて、今は思い出そうとする事もしなくなったッス。シルフィの言う通り、たまにちょっと夢に出る……くらいッスかね」
「それなのに、妹の事はよく覚えているではないですの?」
 グラナータは眉間に皺を寄せる。これまたその通りだった。シルフィは人差し指を立てると、はっきりと言い切る。
「それはつまり、あなたが良き“お姉さま”である証明だと思いますわ」
「お姉さま……」
 ではない、とグラナータは言いかけたが、何とか踏み止まる。シルフィは今でもグラナータが女だと思っているのだ。
 彼は戦いの果てに元の世界へ、妹の下へ帰るつもりでいた。元の世界へ帰れば、シルフィとグラナータは今のある種同志のような関係から、再び主従関係へと戻る。その時に男と知れていては意味が無いのだ。惰性で続けていた女装だったが、彼女の前で今更解くわけにもいかなかった。
 同じパートナーを持つ同志となった彼女に、今尚明かせぬ秘密を抱えてしまっている自分に若干の後ろめたさを感じる。グラナータは曖昧に首を傾げた。
「そう……なんすかね」
「ええ、きっとそうに違いないですわ。ですからね、グラナータ。わたくしは思いますの。あなたが本当の妹に接するように、彼女に接すればよいのではないかと。……そして、私達の世界に戻った時は、彼女に接してきたように、妹とせss――」
 熱が入って早口になっていくうちに、とうとうシルフィは限界を迎えて言葉を詰まらせてしまった。“いつもの”が発動である。バツが悪そうな顔で髪を櫛るシルフィへ、グラナータはちらりと眼を向ける。グラナータは肩を竦めた。
「いい感じに……来てたんスけどね」
「むう……とにかく! 一度躓いたからってなんですの! あなたらしくありませんわ。わたくしなんてまだ彼女と二人きりでデートも出来ないのに……!」
 グラナータは思わずどっきりしてしまう。さっと周囲を窺いつつ、彼は声を潜めた。
「お友達としてってことッスよね。そういう微妙な言い回しどこで覚えたんスか?」
「何でもよいでしょう? とにかくもっと堂々としていればよいのですわ。あなたの彼女への想いは間違っておりません。当然、彼女の抱くあなたへの想いも正しいのです。そうでなければ、そもそも戦う事もままならない筈なのですから」
 今度こそちゃんと言い切り、テーブルに手を突いてぐっと身を寄せる。タチアオイの香りが、ふわりと漂った。
「信じたように生きなさい、グラナータ。さすれば神もあなたを悪いようには致しませんわ」
 グラナータはじっと彼女の瞳を見つめる。その真っ直ぐさは、嘗ての世界でも、今の世界でも変わるところが無かった。力づけられ、彼は頷く。
「シルフィらしいッスね。……もう少し考えなおしてみるッス」
 彼女はにっこりと微笑んだ。
「ええ。それが良いですわ」

 彼らはアーカリオン皇国の第三皇女シルフィード=キサナドゥと、アーカリオン皇国近衛騎士団が一、グラナータ。この地球においてはとある幼い少女の側に立ち、その成長を守り支えていくのである。



 CASE:アーカリオン皇室 おわり



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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グラナータ(aa1371hero001)
シルフィード=キサナドゥ(aa1371hero002)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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影絵 企我です。この度は発注いただきありがとうございました。
シルフィさんは描かせてもらうの初めてなので若干手探りな所があったりしますが……こんなキャラクター付けで問題無かったでしょうか。筋書きとしては見かけたつぶやきの続き……をイメージしております。お気に召していただけるでしょうか……?
何かありましたらリテイクをお願いします。

ではまた、御縁がありましたら。



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2018年11月07日

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