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『 大切なてがみ  』
彩咲 姫乃aa0941

「ふあ〜、今日の練習も大変だったなぁ」
「学校いきながらの練習じゃきつくないか? 帰る孤児院も街中から遠いだろ」
「だからって一人暮らしは不安だしな」
「まぁ、ひかり中学生だしな」
 廊下の奥から迫ってくる声。車輪の音とゆったりした足音。
 静寂に包まれたこの施設はいわゆるオフィスビルでこの時間帯は人も少ないのか、暗がりが少し怖いくらいだ。
 そんな事務所、一室の扉が開かれまずは車いすの少女が入室する。
 事務所が少し古くバリアフリーになっていないため、がたんと車いすを事務所にいれると姫乃が後ろ手に扉を閉めた。
「おまえ……」
「え? どうしたの?」
 室内に入ると『三浦 ひかり(NPC)』はスルスルと車輪を動かしてテーブルの前へ、今日はマネージャーからファンレターが届いてるよと言われ、新曲の練習後に戻ってきたのだ。
「いや、ひかりは相手によってかなり対応変わるよなと思っただけだ」
「え? そうかな」
「そうだよ」
 『彩咲 姫乃(aa0941@WTZERO)』は胸のドキドキを抑えながら座りまず一通目に目を通す、光も手紙を束でとって膝の上に乗せた。
「あー、結構悪戯っぽいのも混ざってるな」
「え? そんなのあった?」
 ひかりたんハスハスと書かれた手紙を握り潰しひかりの手の届かないところにやる姫乃。別の手紙に目を通し始める。
「にしても新曲だけど」
「そう、それ、私重くなかった?」
 今度の曲では姫乃がひかりをお姫様抱っこしたままに会場の端っこまで走って。そして引き返してくるというアクションがある。
「ああ、重くなったかもな」
「ええ!」
 そう姫乃がにやりと笑って告げるとひかりがあわて始める。
「えええっと、やっぱりお腹周りが」
「いや、普通に成長期だから体重は重くなるだろ」
「うう、最近胸も、ふくらみ始めた気がするし。成長ってやだな」
 最後の言葉はきかなかったことにしようと思う姫乃である。
「お、これいいな。ひかり」
 そう姫乃は話しながら目を通していたファンレターをひかりに近づけると、顔を近づける、光が声を出して読み始めた。
「ひめのん、ひかりちゃん。初めまして。初めてファンレターをかきます。私は12歳の女の子です。この前二人のライブをたまたま見ました」
「あの、ショッピングモールでやったやつかな」
「二か月前の無料コンサートかもしれないぞ?」
 アイドル業はまず下積みから、いろんなイベントの関連アイドル、アイドルだけを集めたライブイベント、など様々なイベントに出て知名度を上げている最中である。
「あ、それでね。二人の息がぴったりあってるのとか。そこで質問なんですが二人の仲のいい秘訣が知りたいです」
「なんだか、ラジオレターみたいだな」
 姫乃が告げるとひかりは苦笑いを浮かべた。
「今度MCの機会があったら答えようか」
 基本的にファンレターにお返事NGなのがアイドルである。
 単純にファンレターがドバっとくるので全部に反応している暇がないのだ。  
「でも、これ考えたことないよな」
 姫乃が言った。
「考えたこと?」
 光が首をかしげる。
「俺たちって、仲良くなったきっかけって何だっけ?」
「えっと、姫乃が孤児院に来て。俺に歌をきかせてくれよって……」
「それ、結構脚色入ってないか?」
 まぁ、実際謳わせようとあれこれしたのだから、気持ち的に間違ってはいないのだが。
「それから何があったっけ?」
「町につれていってもらうようになった」
「バスに乗ってよく行ったな」
 今ではマネージャーさんの車で行くことが多いのだ、よいマネージャーさんに当ったのである。ちなみに女性である。
「それから、アイドルの映像とか届けてもらうように……あれ?」
 その時ひかりは気が付いてしまったのだ。
「私、姫乃に何も返してあげられてない!」
 そう立ち上がりかけるひかり。
「まぁ、まてって」
 立ち上がるっと転ぶので姫乃がひかりを抑えた。
「そんなに大したことじゃない」
「大したことだよ!」
 告げるとひかりは姫乃のポケットから便箋が覗いていることに気が付く。
「それもファンレター?」
 その言葉に姫乃は首を振る。
「いや、違うんだ。これは……」
 その言いよどみだけですべてを察したひかりは話題を変えた。
「うん。あとね」
「姫乃ちゃんの低音が、なんだか慣れてない感じもありつつ可愛いですって」
「あー、そうか?」
 なれなかったので心配だったのだが好評らしくてよかったと姫乃は胸をなでおろす。
「はぁはぁ、ヒメノタン。一人称は僕でお願いします、ボクっこ最高、男の娘ハスハス」
「さっきのやつか!」
 簡素な便箋は男からのファンレターと相場が決まっている。
 姫乃はそのファンレターを丁寧に閉じて箱に戻す。
「ひかりちゃんは姫乃ちゃんに守ってもらってうらやましいなって思ってます」
 そう書かれた手紙をひかりは姫乃に見せつけると、姫乃は苦笑いを浮かべた。
「うーん、俺って本来ひかりのサポートのはずなんだけどな」
 そう後ろ髪をかく姫乃にひかりは驚きの声をあげた。
「えー、姫乃絶対楽しんでると思ってたのに」
「うーん、楽しくはあるけど、歌のメインはひかりだし、それに」
 名前に姫がついているのに王子様役って突っ込まれないかなーという疑問をちょっぴり抱えていたりもする。
「今のところそんな意見は無いみたいだね」
 ぼそぼそと口に出てたのか無数の手紙を読み返しながらひかりが言った。
「今度お姫様役やってみる?」
「冗談だろ?」
 そう姫乃は全力で拒否した。ひかりがきているようなひらひらは性に合わない、というかもうごめんだ。
「でも似合うと思うけどなぁドレス」
「や、やめてくれ。同じようにいって俺を着せ替え人形にするやつがいるんだ」
 そうため息をつく姫乃の肩をポンポンとひかりが叩いた。
「本当は、王子様よりヒーローになりたかったんだけどな」
 そう姫乃は遠い眼差しで語り始める。
「誰かを助けるヒーローに最初はなりたかったんだよな。でも俺はヒーローになれなかったよ」
 そう力なく項垂れる姫乃の胸がうずく、思い出すのは戦場で散る彼女の姿。
「それに王子様ってキラキラした役回りが何か、罰が悪いっていうか」
 その時だひかりが姫乃の手を取って力いっぱい握った。
「王子様なんてヒーローの代名詞だよ」
「そうかぁ?」
「で、姫乃は私のヒーローだよ」
 その瞳が真っ直ぐすぎて姫乃は思わず視線をそらす。
「それにみんな姫乃のこと褒めてるよ」
 確かに、姫乃も十通ほど目を通したが、ハスハス系の手紙以外は姫乃、ひかり両名にあこがれるような、賞賛するような言葉が多かった。
「姫乃が一緒じゃないとやって来れなかったよ」
 その言葉に姫乃はふんわり微笑んだ。
「そうか? なんだか照れくさいな」
 けれど悪くない。そう姫乃は思う。
「そしたら俺も気合入れないとな。ひかりがこのまま重たくなっても全速力で走れるように」
「あー、ひどい、私そこまで重くないもん」
「ん? だったら体重計乗ってみるか?」
「いいよ! 服ぬぐから体重計持ってきて」
「あ、それは勘弁してください」
 そう姫乃は大慌てで手を振るのだった。

エピローグ

 火のついたそれは燃えながら風に舞い夜空を一瞬赤く照らした。
 それを姫乃は見送る。
 船の上、笑い声の端っこ、そこで死を悼む二人の少女。
 揺らめく火の欠片、それが一瞬を苛烈に生きた彼女のように見えて姫乃は微笑む。
「俺たちは元気だよ、そっちはどうだ?」
 告げると姫乃は過去に思いを馳せるために目を閉じた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『彩咲 姫乃(aa0941@WTZERO)』
『三浦 ひかり(NPC)』

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております。
鳴海でございます。
今回は二人の日常の演出ということでほのぼのできる物を目指してみました。
気に入っていただければ幸いです。
それではまたよろしくお願いします。鳴海でした。
ありがとうございました。
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2018年11月07日

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