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『 The Bravery 』
蔵李 澄香aa0010

「私と旅に出てもらうわ」
「へ?」
 ここはグロリア社『西大寺遙華(az0026)』の執務室。
 そこでソファーに寝転んで『蔵李 澄香(aa0010@WTZERO)』を待っていたのは遙華であった。
「仕事の相談があるっていうから来たけど、唐突だね」
 最近ガデンツァ関連の仕事も片付き、一気に落ち着いた秋ごろ。
「私、欧州を回って企業に挨拶しないといけないのよ。そのための私のスケジューラーとしてあなたの英雄を。そしてちょっとした私のお土産としてあなたを連れていきたいの」
「人をお土産にするって……。置いてこられたら困るよ?」
 そう問いかけながら澄香は話が長くなるなと思ってサーバーからコーヒーの入った入れ物をとった、遙華のコップと自分のコップを用意して注いで飲み始める。
「置いてこないわよ、八か所も回るのよ、一週間で。でも粗品を持って歩くのも手間だし、企業のお偉方なんてかってあげられるものには飽き飽きしてるのよ」
「だから私?」
「そうそう」
「本音は?」
「たまに、旅行でもとおもってね。大きな仕事も片付いたし」
 そう告げる遙華の勧めに応じて二人は飛行機に乗ることになる、女子三人の仕事兼欧州旅行が始まる。

   *    *

 欧州旅行は楽しく始まった。
 ほぼほぼ三人旅であったが、現地で案内人を雇ったり、澄香の荷物が詰め込みすぎて爆発したり。巨大ピザを三枚女子だけで食べたり満喫した。
 移動は車やバス、電車。様々。
 今回の事件は電車での移動中に起きた。
「今日のライブの規模感ってどれくらいだっけ?」
 澄香が外国のファッション雑誌を眺めながら遙華に声をかけると、スケジュール帳から視線をあげた遙華が告げる。
「50人くらいよ、ただ歴史ある劇場でやるから緊張するかもね」
「あー。こっちって建物何でもかんでもお洒落だよね」
 そうキャーキャーはしゃぐでもなく、仕事半分雑談半分のやり取りを続けていると、突然だ。
 銃声が響いた。
 地下鉄構内が一瞬静まり返る。
「遙華伏せて」
 そう澄香が遙華の頭に手を当てて椅子の影に隠れるように指示する。澄香は近くの柱に隠れて共鳴。あたりを見渡す。
 次の瞬間、武装した男どもが上から階段を下りてきた。
 男たちは声高々に状況を説明した。
 地下鉄構内に爆弾を仕掛けた。ここにいる人間は全て人質。
「どうする? 制圧する?」
 それを受けて澄香が告げる。一般人の制圧はたやすい、緊急事態だ霊力の使用も認められるだろう。だが。
「敵の、全体像がつかめないうちに動けば……大惨事よ、爆弾の起爆装置を持っているかもしれないし、下手したら都市が沈むかも」
 地下鉄は都市の下を網のように張り巡らされている。もし無差別に爆破されたら地盤沈下、ビルの倒壊などの原因になりかねない。
 二人は息をひそめて状況が好転するのを待つ。
「ただ、待ってるだけなんて……」
 そう澄香が悔しそうにあたりを見渡した。怯える人々。銃の脅威にさらされる人びと、それを見つめていた遙華が告げる。
「私に、考えがあるわ」
 二人は作戦会議を五分で終えると、まず遙華がテロリストたちの前に出た。泣き止まない子供を殴ろうとしているテロリストに向けて遙華は告げる。
「大丈夫、あなた達を手伝うだけよ、むしろ私たちを出汁にすれば計画が捗るのではなくて」
 遙華は身分証を提示する。
「私はグロリア社日本支部、広報芸能部門統括西大寺遙華よ。彼女はトップアイドル」
 後ろにいる澄香がぺこりと頭を下げた。
「クラリスミカ」
 その言葉に地下道が湧きたった。テロリストの一部、話を聞いていた人々がこんな状況だというのに嬉しそうな声をあげる。
「だめだ、大人しくしていろ、さもなくば」
「ただ、歌って踊るだけ、害はないわ、あなた達がこの地下道の人達を人質に取っているのも知っている。でもこの大勢の人間をあなた達だけで管理はできない」
 その言葉を合図に澄香が勝手に謳い始めた。
 リーダー格のおとこが止めるように指示を出したが、澄香も遙華も一般人たちもその指示を聞かない。
「みんな! 怖いかもだけど、きっと外の人達が何とかしてくれる、私たちはここでまとう。仲間を信じて」
 澄香がかける度にライトエフェクト、そしてハートや星がキラキラと飛ぶ。
 ミニクラリスミカを召喚。バックダンサーのように躍らせた。
 しかし。まだ会場に熱が足りない。そう澄香はおもう。
(もっと、この状況を忘れさせるくらいに熱狂させないと)
 でもどうやって。
 澄香は考える。
(ううん、違う、私はこの場をどうにかするために謳うんじゃない。そんな気持ちで謳ったら聞いてくれてる人に対して失礼だ)
 澄香にとって、ステージは楽しいことばかり起こる場所ではなかった。
 ステージ上で血まみれになったこともあったし、失敗し胸を痛めたこともあった。
 でも、だからこそ、経験として知っている。
 自分が失敗するのは自分が楽しめないとき。
「私も信じる。友達と仲間を、だから聞いてください、私の歌」
 サウンドがより大きく響いた。念のためにと幻想蝶にしまっていた遙華のスピーカーが澄香の霊力に反応して音を強めたのだ。
 それを皮切りに遙華も観客を煽る。
「さぁ、トップアイドルの無料ライブよ。施設はあれだけどこんな機会めったにないわ」
 その言葉を受けて、澄香を知らない人間も真面目に聞き入るようになる。
 驚くべきはテロリストメンバー数人も歌に気をとられ始めていることだ。
 ここで遙華はとっておきの情報を流す。
「ここで重大発表よ、彼女、王との戦いが終わったらアイドルをやめるわ」
 遙華の声がマイクで響いた。すると一番最初にリアクションを返したのはテロリストの一人。
 彼はマスクを投げ出して叫んだ。
「やめないでくれ! あんたは俺の希望なんだ!」
 その声に追従して、やめないでーっというコールが湧きあがる。
 それに澄香は悲しそうな顔で答えた。
「こんなに引き留めてくれる声があること、うれしく思います」
 息を吸ってマイクを握る手を強める。遙華が地下鉄内の明りを調整した。
「やめようと思ったり理由はいろいろあります。アイドルにふさわしくないんじゃないか、胸の傷があることは否定しません」
 けど、そう澄香は視線をあげる。
「私はずっと希望を謳ってきました。伝えたい思いがありました。決着をつけたい敵がいました。
 けれど。
 彼女はありがとうって言ってきえていった。だから私も。みんなにありがとうって言えるうちに、消えたい」
 澄香は聞き入ってくれる人全員に視線を向けた。
「でもそんなことばかり口にしていなくなったら、みんなを裏切ることになるね」
 微笑む澄香。
「これは希望なんです。みんなが希望の音を謳ってくれた時」
 観客の何人かが一緒に謳ったよと、声をあげてくれた。
「うん、聞こえたよ、みんなの歌」
 会場がざわめいた。歓声が上がる。
「あの歌が聞えた時、私は思いました。世界に希望があふれてるって。今度はみんなが希望をはぐくむ番だよ」
 そこからは澄香の独壇場である。
 その一挙手一投足を見逃すまいと澄香に全員が注視した。
 部隊が突入したのは、それから30分ほどあと。
 アンコールの声が聞えた時には幻聴かと思ったが少女が謳っていて皆肩を組んで、それに声を添えているのだ。
「最後はみんな、春風の音をささげるよ」
 テロリストは茫然と立ってるし、中には銃を投げ捨てて号泣しながら手を振っているメンバーもいる。
「なんだ、これ」
 そう制圧班は特に苦労もなくテロリストたちを取り押さえることに成功したのだった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『蔵李 澄香(aa0010@WTZERO)』
『西大寺遙華(az0026)』


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつもお世話になっております、鳴海でございます。
 タイトルは自分の好きな曲のタイトルをつけてみました。
 二人の関係にピッタリな曲なんじゃないかなぁと思っています。ぜひ聞いてみてください。
 そして今回のノベルに関してですが、二人が信頼し合って、仕事を役割を任せあっているんだというのが表現できればと思いかいてみました。
 気に入っていただけると幸いです。
 それでは鳴海でした、ありがとうございました。
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2018年11月07日

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