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『『旅立ち』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879

 いつもの孤児院に、アレスディア・ヴォルフリートは訪れていた。
 ここにいる間、アレスディアはここで暮らす子ども達みんなの母親だった。
 今日はアレスディアから読み書きを習う為に、子ども達が学習室に集まっていた。
「……これで全員か?」
 集まったメンバーの中に、アレスディアが気にかけている男の子――ディラ・ビラジスの姿がなかった。
「そうだよ、あとの子は風邪引いたりして、部屋で寝てる」
 年長の男の子がそう答えた。
(風邪ではないだろう。サボっているのだろうか、仲間に入れなくて)
 いつも独りでいた男の子のことがとても気になり、アレスディアは眉を寄せる。
(それとも、1人だけ特別扱いがされたくて……)
 ここで、彼のことを探しに行くなど特別扱いをしたら、他の子が不満に思うだろう。
 そうか、とだけ返事をして、アレスディアは子ども達に読み書きを教え始めた。

 子ども達へ勉強を終えた後で、アレスディアは年長の男の子にディラも風邪を引いて休んでいるのかと訊いてみた。年長の男の子は「ううん」と首を横に振った後、他の子と一緒にアレスディアにこう答えたのだった。
「アイツは怪我して寝てる」
「庭におっきな犬が来たんだ。ワンワン吠えて、小っちゃい子がかみつかれそうになって」
「アイツが、犬に体当たりして、皆を部屋の中に逃がして、追い払ってくれたんだ」
「その時、手とか足かまれて、そのあと熱がでて寝てるんだ」
 子ども達の説明に、アレスディアの胸が熱くなる。
「怪我の具合は?」
「もう血とか出てないし、普通に歩いているよ」
 女の子の答えに、アレスディアは安堵した。
 あの子が……自分にしか、愛情を示さないあの少年が、皆を助けたのだという。
「けどアイツ、お礼を言いにいっても『うん』としか言わないんだ」
「こっち見もしないんだ。変なヤツー」
「それは多分、皆との付き合い方、遊び方がわからないんだ。頼りになる子だろ? 仲良くしてあげてくれ」
 アレスディアがそう言うと、子ども達はこくりと首を縦に振る。
 でも、どのように付き合えばいいのか、皆分からないようだった。

「ディラ、いるか」
 子ども部屋のドアを叩いても返事はなかった。
 アレスディアはそっとドアを開けて、中に入る。
「お母さん、こっち」
 声は、窓の外から響いてきた。
 開かれた窓の先、裏庭に小さな男の子――ディラがいた。
「熱があるんじゃないのか?」
 アレスディアが優しい笑みを向けると、男の子は大丈夫というように、首を横に振った。
「……みんなを、護ったんだってな」
「お母さんの大切な子たちだからね」
「そうか、だが無茶はいけない。私はお前のことも大切に想っているのだから」
「お前のこと『も』、なんだね。でも、それでいいよ、もうそれでいいんだ。俺だけじゃなくてもいい」
 男の子が、アレスディアに笑顔を向ける。他の子には決して向けることのない笑顔を。
「俺はもう行く。ここでお母さんを待つことはやめた。さよなら、お母さん」
「ディラ……?」
 男の子の言葉に驚いて、アレスディアが窓の外へと出た時。彼の姿は忽然と消えていた。

『子供の姿では、求めているだけでは……アンタを護れないから』

 風が、そんな声をどこかから運んできた。
 子どもの声ではない。良く知る、男性の声。


 ソファーで転寝をしていたアレスディアは、体を起こしたあと、弱い笑みを浮かべた。
 自分を求めていたあの子はもういない。
 子どもが成長して、自分のもとを離れていった……そんな感覚を受けていた。
 だけれど違う。いなくなったのではないことも、解っている。
 側にいるのは、この現実の世界にいるのは共に生き、最後まで一緒と決めた大切な男性。
「お前を護る。……私を護ってくれ」
 脳裏に残るあどけない少年と、逞しい青年に、アレスディアは語りかけていた。

 多分、今度夢の中であの施設を訪れる時には、自分の隣に居るはずだ。
 子たちとの接し方を知らない、ディラという名の青年が。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/職業】
【8879/アレスディア・ヴォルフリート/女/21/フリーランサー】

NPC
【5500/ディラ・ビラジス/男/21/剣士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ライターの川岸満里亜です。いつもありがとうございます!
アレスディアさんと想いが通じ合ったことで、ディラの心が成長を遂げたようです。
『小さな眼の想い』はこちらで完結かなと思います。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
イベントノベル(パーティ) -
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東京怪談
2018年11月08日

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