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『今は何も見えなくても 』
鞍馬 真ka5819

 認識出来るのは光、あるいは闇だけだった。空が一体どんな色をしているのか、周囲は自然に溢れているか、あるいは出身者に伝え聞くように無機質に高く伸びるビル群の中で息をしていたのだろうか。それすら定かではない。靄がかかったように分からないのはそれだけではなかった。人は一人で生きていくことなど出来ないのだから、きっと誰かと一緒にいたはずなのだ。親とか友人とか。――自分の実年齢を考えると、子供がいた可能性もゼロではない。さすがにいたとしても物心もつかないほど小さい子だろうが。
 光と闇以外の全てがノイズに塗れ、その多くが無の中に失われる。確かだと信じられるのは名前と年齢、そして、大切なものが確かに存在していたことだけだ。ただ、それが無機物なのか生物なのかすらも分からないのが、歯痒いと同時に真の胸の奥に、どうしようもなく抗いがたい苦痛をもたらす。過去の、リアルブルーでの生活をぜんぶ憶えていて、帰りたいと心から願う人だって、沢山いるのに。憶えていない自分は、薄情な人間だろうか。そんな人間に誰かに優しくされるほどの価値はあるのだろうか?
 ぐっ、と無意識に食いしばっていた歯の力を緩め、真はゆっくりと瞳を開いた。部屋の明かりを落とした室内はまだ薄暗くて、しばらくベッドの中でじっとしているうちに、ぼんやりと見づらかった視界が確かなものへと近付く。そうしてようやく真は上体を起こし、布団の中から滑り出た。途端に体のあちこちが軋むように悲鳴をあげる。
 無茶をするな、と友人たちには散々叱られるけれど真としてはそんなことをしたつもりはない。ただ、任務中に偵察班の情報より敵の数が多いことが発覚して、アドリブを迫られて。不測の事態に対処しやすいのは近接に射撃、自己回復と柔軟な対応が出来る自分だと判断し、囮役を買って出た。そのほうが総合的に見て被害が少なくなると思ったし、現実にも真以外のメンバーは軽傷に収まる程度で済んだ。だから少しも後悔はしていないし、自分のことのように悲しそうな顔をされると、こちらまで心が痛んでしまう。
「……そんな資格なんて、ないのにな」
 静寂の中にそんな声が零れ落ちて、一拍遅れて自分が発したと気付き、口元に小さく笑みを浮かべた。テーブルの上に置きっぱなしのフルートのケースを一瞥して、痛みを堪えつつ身支度を整えると部屋を出ていった。
 夜と朝の境目の街を一人歩く。お腹が空いたな、と思ったものの、どうも食べたい気分にはなれなかった。もっとも、何か口にするにしても、この時間だと開いている店はまだ少ないだろう。自分で作るというのはもっと気分じゃない。というかこの調子だとうっかり怪我をしてしまいそうだ。
「ああ……痛い、な」
 呟いて、自身の体を抱くように腕に触れる。いつもはこんな根暗な性分じゃない、と思う。でもたまには、一人きりでいると感傷に浸りたくなるときもある。自分で自分のことが分からないのだから、他人に過去を解き明かされる日なんて訪れはしないだろう。だからきっと、この虚しさが無くなる日は来ない。無くならないのなら上手く折り合いをつけて生きていく他に道はない。
 街並みから離れ、高台にある展望台の手すりに上半身を預けて、真はぼんやりと景色を眺めた。止まない雨はないように、明けない夜はないように。体の傷はいつか必ず癒えるし、生きている限りハンターとしての日々は続く。少なくとも足を引っ張らず戦っていられるうちは。こんな自分に優しくしてくれる友人たちがいるのだから、今はこの幸せを享受していようと思う。
(――綺麗だ)
 朝焼けが世界の色を徐々に塗り替えて、また新しい一日が始まる。道を、屋根を、周辺の森を太陽の光が照らす光景は途方もなく壮観で、毎日こんな情景が繰り返されていることが奇跡のようにも思えた。
 クリムゾンウェストはそれぞれの国が独自の風土を持っていて美しい。歪虚によって汚染された地域も、かつては確かに人々の生活が根付いていたのだろう。――過去の悲劇を繰り返さないよう、これからも戦い続けるのがハンターである己の責務だ。
 んん、と軽く伸びをして。そんなことを考えていると、無性にハンターズソサエティへ行きたくなった。もちろん怪我をしているので依頼を受けるのは良しとされない。ただ、掲示を前にしたハンターたちを見て、あの独特の空気を確かめたくなった。ある者は親しい友人と連れ立って、ある者は一度共闘した相手と偶然再会して言葉を交わし合って。一人を貫きながら一期一会の巡り会いを楽しむ人もいる。境遇も目的もちぐはぐな人が集まるひどく雑多な、けど居心地のいいあの空間が真は好きだ。
 来た道を戻れば店開きしている人もちらほらいて、眺めているうちに自然と真の表情も柔らかくなり、笑顔で挨拶を交わす。そして本部の扉を開き、見知った姿の傍へと真はゆっくり歩み寄った。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka5819/鞍馬 真/男性/22/闘狩人(エンフォーサー)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
過去を忘れているといってもここまで極端ではないかもですが、
そのことが真さんの今の性格や戦い方に影響していると思うと
触れずにいられないなあと思ったので勝手に想像してみました。
ずっと一人なのでセリフがほとんどなくて申し訳ないです。
中性的なお兄さんという所についても触れてみたかったですね。
今回は本当にありがとうございました!
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ファナティックブラッド
2018年11月09日

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