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『たまにはこういうのも 』
ピピ・ストレッロaa0778hero002)&ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001

 空を飛ぶ。飛ぶより泳ぐ、のほうが正しいかもしれない。自分で実際に泳いだことはないけど、きらきら輝く白い波と一緒に跳ねながら泳ぐ魚を見て、全然別の生き物なのに親近感を覚えた記憶がある。空も海も、きっと自由なのは同じだ。
 でもほんの少し、光を苦手だと感じることはあった。あの人が言うには、そういう生き物だから仕方ない、らしい。でも他の“同じの”とは違うんだって聞いて、誇らしい気持ちになったのも確かだった。だって、だからきっと、あの人と一緒にいられるんだ。あの人と一緒にいるのはとても楽しいことで。一緒にいたら、泣いてた人も笑うようになる。それはすごく素敵なことだ。だって、泣いているよりも笑っているほうがいいに決まってる。
 ずっとずっと、こんな日々が続けばいいのにと思っていた。けれどそんなささやかな願いは紙を破るように、あっさりと壊れてしまった。覚えているのは突然目の前にぽっかりと開いた大きくて黒い穴。嫌な予感がしても急には止まれなくて、その中へと吸い込まれていった。多分そんな感じだ。
 今となっては、覚えているのなんてパズルのピースの一部だと、ピピはそんな風に思う。時間というのは何があっても止まらず同じ速さで走っていくもので、生き物はみんな昔のことをいつか忘れてしまうもの、らしい。でもそれが、記憶の箱の大きさが決まっていて、新しい楽しいことを覚えていくために必要なら、きっと悪いことじゃないと思った。ピピはちゃんと“ますたー”と一緒にいて楽しかったことを覚えているし、“ほーぷ”で過ごす毎日も楽しい。それにここで誰かの笑顔のために戦えば“ますたー”も喜んでくれるはず。だからピピは二人と一緒にいる今が好きだ。
 けれどそれとは別に心が惹かれるものもある。記憶にない、面白いものは何でもそうだけれど、その中でピピが最も興味を持つのはやはり、ゲームセンターという存在だった。元いた世界で何か思い出があったのか、それともおぼろげでしかない、この世界にやってきたばかりの頃に楽しいことが起きたのか。それすら定かではないけれど、こっそりと家を抜け出してしまうくらいには大事だと、そう強く思う。
「ふーんふん♪ 楽しいっ、楽しいゲームセンター♪」
 体の形が変わり、背中の羽で空を飛ぶことは出来なくなったけど、代わりにしっかりと地面を踏みしめる足がある。左、右、と交互に前に出すのと一緒に大きく腕を振って、ピピは街中を歩いていた。目指すのはもちろんゲームセンターだ。初めてじゃないから、道もちゃんと覚えている。ゲームセンターというやつはたまに行くと透明の箱に入った可愛いぬいぐるみが変わっているので油断できない。英雄として頑張っているから貰えるお金もいっぱい吸い込まれてしまう。楽しいから後悔はしないけれど。
 そうして目的の地に辿り着くと、一人でも平気だもん、と自分で自分が誇らしくなる。早速ピピが向かったのは、シューティングのコーナーだった。そのままだと背が届かないけれど近くに台が置いてある。お金を入れ、拳銃ではなく小さな手に余る弓のコントローラーを握った。普通の人には扱いやすそうなそれもピピが手にすると重くて大きい。
 共鳴している時に戦っているのは自分ではないし、していない時のピピの役目は周りの人たちを守ったり、ケガした人を助けることだ。運動することも嫌いじゃないけど得意でもない。ただ、弓を手に戦う人をピピは知っている。その姿を思い浮かべながら真似してみても、残念ながら彼のように的の真ん中を撃ち抜く攻撃はできない。最初は「ばーん!」と音に合わせてはしゃいでいたピピだったけれど、楽しく撃った矢が外れるにつれて「うー」と唸る回数が増えていった。
「もー無理! ラドみたいに出来ないー!」
 ラドとこのゲームで遊んだことはない。というか、頼んだらあからさまに面倒と書いた顔をされる。しつこく言えばきっとラドはやってくれるけど、ピピはそうしようと思わなかった。だってラドは弓で戦う人なのだ。コードなんかついてない、黒くてカッコいい弓だから全然違うと言ってもいいかもしれない。でも何だか彼がオモチャの弓を持つのはやだ、とそう思ってしまう。
 結局スコアは伸びず、ピピは台から降りて弓と台とを元に戻し、別のコーナーに向かった。そしてガラスにおでこがくっつくほど近寄り、奥にあるぬいぐるみを見る。白いのに茶色いのに模様がついているの。部屋にもある猫のぬいぐるみだ。どれも可愛いけれど、ピピはとりわけ“ますたー”を思い出す白と親近感のわく黒が好きだ。
 ふんすと気合いを入れて、袖をまくり。急に視界が暗くなったのでピピは振り返った。呆れ顔をしたおにーさんがそこに立っている。ピピは何も考えず、名前を口にした。

 ◆◇◆

 ――命に代えてでも護らなければならない。
 その為ならどんな犠牲を支払っても構わない。痛みは不快だし、慣れるなんて嘘だと知っている。それでも歩みを止めるわけにはいかない。止まればそこで終わってしまう。そんな予感――いや、強迫観念に駆られていた。
 はたして、敵は何であっただろうか。敵対組織の連中か? 彼らが生み出した得体の知れない生き物か? そもそも生物だろうか。魔術師の大いなる力は権力闘争の火種になって、そして水面下での攻防の更に深く、密やかなところで世界の歪みを生んでいたのではないか。もしかしたら世界が傲慢さを極めた人間に、反逆の一手を打ち出したのかもしれない。
 真相はもはや、世界を離れたラドシアスには知る術もない。記憶はその多くが不透明なものへとすり替わっていて、断言出来るのはたった一つだけ。今、共に戦っている彼と似た少年を守るのが自分の目的だった。既視感に咄嗟に体が動くくらい、大事なことだったはずだ。それ以外のこと――己の素姓や争いに嫌気が差していたことなんて、全くもって重要ではない。幻想だと疑ってもいい。もっとも、自分は妄想に耽るような性質ではないと自負しているが。
 どうやら、たまの休みについ惰眠を貪ってしまったらしい。夢を見たのか思考の海を漂ったのか曖昧な状態から意識を引き戻され、ラドシアスはソファーから上体を起こした。今日はあの記憶に残る少年によく似た彼――相棒の姿はここにない。たまには大学の友人と遊んできたらどうだと言ったら、しばし考えたのち頷き、そして少し前に「ピピのこと頼んだからね!」と元気に出ていった。と。
「……俺としたことが」
 独りそう零すと、ラドシアスはすぐに家を出た。幸い、あの賑やかで面倒くさい子供の行き先なんて容易に見当がつく。能力者にも英雄にも好意的な世の中といえど、全員が全員そうとは限らない。現に自分たちが今相手にしているのは特殊犯罪組織の連中だ。ピピなんて小柄な上に鈍くさく、嫌いではないにしろ面倒な相手の筆頭というべき存在だが、見た目の可愛らしさについては否定出来ない。狙われる可能性は低くないと見るべきだ。
 急ぎ、派手な建物に足を踏み入れ。早歩きしつつ進むとすぐ人だかりが見つかり、ラドシアスは息をついてそちらへ近付いていった。自然と人波が引き、その中心にいる子供の後ろに立つ。影に気付き子供――ピピが振り返った。
「ラド! ねー、ラドもやる?」
 悪びれない――そもそも自分が心配をかけているという事実に気付かずに、無邪気に笑って手を握られてラドシアスは深く大きく嘆息した。危ない目に遭う可能性を思えば叱って連れ戻すべきかもしれないが、非のある自分が責めて、どれほどの効力があるのか。子供には真実を見抜く力があると、ピピと一緒にいて思う。それが相手を想って口にしたことでも嘘や躊躇いに気付くし、そうなると信頼は得られない。三人でちゃんと話すべきだろう。手のかかる弟その一にうたた寝を知られるのは本意ではないが仕方ない。
「俺はいい」
 こういうのは自分でやるのに意義があるだろう。ラドシアスがそれだけ言うと、ピピは納得したのかキャッチャーへと向き直った。ピピの隣、ガラスに背を預ける格好になって周囲を見る。よく人の視線の中心にいて平気だなと思った。もっともそれは悪意のあるものではない。例えるなら子か孫でも見るような目だ。可愛い常連を店員含め暖かく見守っているのに近い。マナーのあるアイドルファンみたい、とは相棒の言だ。そいつらにやっと保護者が来た、みたいな顔をされる。
 少々居心地の悪い視線を感じつつ、きゃーきゃー騒ぐピピに相槌を打ちつつ。少しして諦めたピピにあちこち引きずり回された。
 一人でも出来るゲームはしないが、対戦型ゲームとなると話は別だ。まあ、手加減をすれば拗ねるし本気でやれば勝負にならないしで長続きはしないのだが。
 ひとしきり遊び、帰ろうかという段になって。ピピが急に止まったのでラドシアスも同じように立ち止まった。猫のぬいぐるみが景品のキャッチャーがある。
「……欲しいのか?」
 訊けばこくりと頷く。
「ねーラド、取って」
 言って服を引っ張ってくる。息をついて、ラドシアスはしゃがみ目を合わせた。
「俺が取っても、面白くないだろう?」
 今度はふるふると首を振り、ピピは顔をあげた。瞳が真っ直ぐこちらを向いて、そしてこう言う。
「ラドと一緒に遊ぶの、楽しーもん!」
 いつもより子供っぽい言い方で、頬を膨らませ。それを見てラドシアスはまた息をついて、姿勢を戻すと財布を取り出してキャッチャーに向き直った。さすがに一回で取るのは難しいが、初めてじゃなければ話は別だ。
 集中の甲斐あって取り出し口に落ちてきた黒猫のぬいぐるみを、ラドシアスは引っ掴むとピピの顔面に押し付けた。やめてよ、と抗議の声があがるのを無視して口元を意識的に引き締める。
 ありがと、と黒猫に顔を埋めて笑うピピの髪を、ラドシアスは無表情で掻き回した。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0778hero002/ピピ・ストレッロ/?/9/バトルメディック】
【aa0778hero001/ラドシアス/男性/24/ジャックポット】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
英雄コンビなので二人が力を合わせて戦うというのも
面白いかなぁとは思ったのですが、ピピの描写を先にしたかったのと
ゲームセンターの存在感と、二人の性格や関係をしっかり書きたい、
という気持ちがあったので、こういった話にさせていただきました。
個人的に、日常を過ごすラドシアスさんが見たかったのもあります。
見た目も性格も真逆に近いけど、仲のいいコンビがとても好きです。
今回は本当にありがとうございました!
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2018年11月09日

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