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『想いを籠める 〜夢から覚めて〜 』
カイン・シュミートka6967

「……夢か」
 天井をしっかり認識してはじめて、いつも通りの寝床だと安堵する。
(やけに現実感があった)
 それでもこうして夢から覚めているのだから、あれは確かに夢だったのだろう。
 なぁ〜ん?
「ああ、悪いなフラウ。起こしたか」
 ベッドの上に丸まっている猫達の中でも一番の古株。虎猫から感じる視線に素直に謝って、カインはそっと寝床から抜け出した。他の猫達を起こさないように動くくらいわけもない。そもそも毎日の事なのだ。
「それじゃ、飯の準備してくるからよ」
 いい子で待ってろよ?

 台所を通り過ぎて、勝手口から外に出る。
 まずは厩舎。古くなった水を捨てて、桶を軽く洗ったあと新しいものへ。
 フィオーレ達が喉を潤している間に寝床の干し草を変えて、食事用の皿に用意しておいた食事の9割ほどを盛った。
 改めて運ばれて来た食事の量に違和感を覚えたのか、レヴァンダが訝し気に鳴く。
「別に太っているから痩せろとか思ってないぞ?」
 お前達は理想的な体型をしてるじゃないかと笑って。
「今日は考えていることがあってな。あとで追加を渡しに来るから、安心しろ」
 背のあたりを撫でて微笑めば、嘶きが増えた。

 アントス達の鳥小屋はその隣で、同じように水をかえ地面を掃いていく。
「ん……ああ、生え代わりが近いのか」
 そわそわと落ち着かない様子の彼女達を見ながら、なるほどと頷く。
「気にするな。お前達の冬支度は必要なことだろう」
 掃除くらい俺がやる。
「冬美人になるのを待っててやるから」
 この羽だって綺麗だからな。期待してるぞ?
 バサバサバサァッ!
「……慌てなくていいんだが」

 フラウ達の食事は他の分と比べると先に作っている。言わずもがな、彼女達は猫科……猫舌だからだ。
 いつもの朝食は簡単なもので済ませるのだが、今日は魚を捌くところから始め、大鍋も持ち出す。
(そうそう機会はないと思ったが、こうなると便利だな)
 野菜を切りながらコンロへと視線を向ける。火を同時に3つは使えるのは便利だ。大鍋を二つ、それに比べたら小さい鍋をひとつ。それぞれに必要な材料を放り込んでいく。
 野菜類を煮込み始めたところで肉を取り出す。これはフルール達肉を好む者達の分。ワイバーンの彼女の分は別にして、残りは筋を切ったり口に含みやすいサイズに分けたところで大鍋の片方に放り込んだ。ちなみに、魚はもう一方の大鍋に入っている。

「そろそろ仕上げにかからないとな」
 まだ使用していない食材の中から、色つやの良い野菜と果実を選び出し切り分ければ、支度はおしまい。既に魚の入った鍋は火を消して、粗熱をとる行程に移してあるから大丈夫の筈だ。
 自分と下宿人用のトーストにはハムエッグをのせて、ミルクを一杯。
(あいつは置いておけば勝手に食べるだろ)
 1人分にはキッチンパラソルをかけておく。
 全ての出来に満足したカインは皆の皿を用意して、厩舎の前へと運びはじめた。
 美味しそうな匂いに釣られたようで……カインの世話する全員が集まってきていた。

 カインの用意した朝食を見た彼女達は思った。
(((いつもより、豪華)))
 そして敬愛するカインを見て戸惑う。
(((何があったの?)))
 いつもより念入りに盛り付けてくれるカインの姿に嬉しさが募るけれど、理由を話して貰えていないから、戸惑う事しかできない。
 既に朝食を渡されている厩舎と鳥小屋の者達も、量が少ないことに気付いたが、レヴァンダに伝えていた言葉を思い出してそわそわするばかり。
 そんな彼女達の前には改めて、飾り切りで可愛らしさを演出された野菜や果物が届けられている。
(((何か、特別な日?)))
 きっとすぐに話してくれるはずだからと、皆落ち着かないなりに、その時を待つ。
(((だって、カインがすることだもの)))
 きっとまた、自分達を喜ばせてくれるような。素敵な理由に決まってる。

「今日は、皆に感謝の気持ちを伝えようと思ってな」
 いつもありがとうな、そう改めて言えば、皆がそれぞれに声を返してくる。喜んでもらえているのだと分かって、ほっと安堵の笑みを浮かべた。
 夢を見て、改めて思ったのだ。
 相棒として戦いで護ってくれたり、家事を手伝ってくれるだけでなく。戦場で駆けてくれる者、畑を守る手伝いをしてくれる者。探し物を手伝ったり、遠くを調べたり、休むときそばで温めたり、穏やかな時間を彩ったり……大なり小なり、彼女達は日々カインの為に何かをしてくれている。
(気づかないうちに助けてもらっていることもあるかもしれねぇが)
 それに自然に気付けるようになれればよいとも思うが、まずは。
(助かってる、って言わなきゃ伝わらねぇよなあ)
 今日は丁度休日で、いつもより早く目が覚めたから。
 たまにはこうしてめいっぱい、彼女達の為に時間を使ってもいいはずだ。
「俺はいい女達に囲まれて幸せだ。皆、いつもありがとうな!」

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6967/カイン・シュミート/男/21歳/機聖導師/唯一ではない感謝を、彼女達へ】
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2018年11月12日

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