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『みち 〜夢から覚めて〜 』
クレール・ディンセルフka0586

「うぅ……もう勘弁してぇ……」
 むずむず、ごろごろ、ごろ……びたん!
「っ……いたーい! ……痛い?」
 がばっ!
 ベッドから落ちて痛む身体を労わることもなく立ち上がる。大急ぎで身体のあちこちを触り、いつもの自分だと安堵する。
「あんな高いところから落ちたのに、かすり傷ひとつない!」
 ……あれ?
「違った! あれは夢! 夢じゃなかったら……」
 夢の最後。あの子が無意識に出した声を思い出す。自分の身体からあんな声が出るなん、て……
 頬が熱い、これは確実に真っ赤になっているのだと思う。鏡なんて見ちゃいけない、だって余計に想像しちゃうから!
 部屋に飾っている武器の類も見ないように気をつける。自分の手入れの度合いを恨むとか、そんな嬉しくない機会、なくてよかったのに。
「うぅぅぅぅ。忘れなきゃ! そう、あれは夢なんだから!」
 そのために必要なのは精神統一! 無心あるべし!
 今日の予定を決めたクレールは立ち上がる。準備はすばやく。部屋着を脱ぎ捨て作業着を身に着ける。ベッドから落ちた時の痛みはとっくに忘れていた。
「私、今日は整備に行ってくるから!」
 家事を行っている筈のユグディラに声をかける。
 留守番お願いね!

 魔導型CAMだろうと魔導アーマーだろうと、結局のところは纏う防具であり武器だ。その規模は生身で戦う時のそれと違うけれど。操縦席、つまり中心に近い操縦機器はともかくとして、外装の手入れはそう変わるものではない。
 慣れた手つきで仕上げに拭き上げるところまで、一連の行程を終えたところで……クレールの集中力が、切れた。
(鍛冶場に行くべきだったかな)
 朝のあの時はまだ、夢の記憶のせいで混乱していたのだと今なら思う。
 無心になりたかったはずだ。その原因となった夢の相手を手入れするなんて、普通は避けるべきだ。
(でも、間違いではなかったみたい)
 もの言わない2機を間近で見て、触れて。
 今が正しく現実なのだと、じっくり向き合う事が出来た。
 ありえない夢だったはずなのに、妙に臨場感にあふれていたから……自分にとっての現実を見失うなんて、らしくない。
「あの声が煽ってくるのも悪いと思う!」
 どうにも記憶にひっかかる嫌味な声。その夢の中の誰かに責任を押し付ける。どうせ夢なのだ、それくらいしたって誰も困らないだろう。

 ほんの少し、魔がさした。
 あと少しの間だけだからと、現実から視線を少し、逸らす。
 翼持つ名を与えた、夢の相手を見上げる。
「……ねえ。あなたなら、何をしたいかな」
 自分で動けるようになったら。
 夢は自分と身体の交換で、元に戻るという明確な目的があったから。お互い攻防に必死で、それ以外の可能性は見出さなかった。
(もし、ゆっくり話す時間があったなら)
 日々を過ごす中で思う事を聞き出せたりしたのだろうか。
 戦う中で、より効率的に動くための助言をもらえたり、共に新しい可能性を模索したり。協力するような時間がとれたのだろうか。
「あなたも。……やっぱり強くなるために、剣を研いだりするのかな」
 次に視線を向けるのは剣の名を与えた機体。見上げて、あわないはずの視線をあわせようとする。叶わないと知っていても、考えてしまう。
 整備中も、本当は無心なんかじゃなかった。頭の片隅でずっと、それを考えていた。
 考えたら止まらなくなった。頭の中から消すことができなくなった。
(わかってる、あれは夢で、振り回されちゃいけないって)
 けれど、考えてしまったのだ。
 確かに機械だ。けれど夢の中で聞いた、『マテリアルの親和性』が妙なくらい、心に残って。
 その理解が深まれば、機械だけじゃなく、鍛冶でも。ものの声を聴くことが、感じとることができるだろうか……なんて。
 魔法鍛冶の道に、繋がる、何か、が……

 Zzz……

(まずい! まずいまずいまずい!)
 早く逃げないと、隠れないと、気配を隠せる場所を、どこか……!
 逃げ続ければきっと、避け続ければきっと、あの子のエネルギー切れがあるかもしれない。
(私はここに居るのに、どうして!)
 正面きって戦えるわけがない。その力は自分が良く知っている。
 力を与えて、剣としての名を与えて……最大限発揮できるよう経験を積ませたのは、他でもない自分なのだから!
 闇雲に走ってでも、途中の全てを破壊してでも、追いつかれてはいけない……!
 例え同じように、むしろそれ以上に破壊を尽くして追ってくるとしても。
 諦めたら終わりだ。
 盾であるあの子でさえ容赦がなかった。
 それ以上に殲滅する力を求めた結果の、赤き剣。まさにその子が自分に向かってきている。
 なぜこうなったのか、今はもう考えることができない。
 ただ繰り返されるのは、疑問の言葉。
 自分の呼吸する音だけが脳を占めはじめる。
(夢ならっ、覚めてっ……!)
 私は、あなたの力を、そんな風には使わない……!

 ……Zzz

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka0586/クレール・ディンセルフ/女/22歳/鍛機導師/道を見据え、未知に挑む】
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石田まきば クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2018年11月12日

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