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『ハッピーバースディ・トゥ・ユー 』
ミアka7035

「今日もお付き合いしてくれてありがとうニャス♪」
 陽気ながらも少し肌寒さを感じるようになってきた秋口。
 ぴょんぴょんと飛び歩くミアの隣で、エヴァルドは優しくほほ笑んだ。
「いえいえ、この間手伝っていただいたお礼ということで。それに珍しく1日オフの日ができましたからね」
「わわっ、貴重な休みなのにありがとうニャス……」
「いえいえ、良いんです。普段忙しい反動か、休みになると逆に時間を持て余してしまって」
 苦笑するエヴァルド。
「趣味とかないニャスか?」
「特段思い当たるものは……空き時間を過ごすという意味では観劇はよくしますが」
「観劇っていうとオペラとかかニャ?」
「ええ、付き合いの関係もありますが。最近は同盟にも他国文化の流入が盛んですから東方の雑技団なども」
「ニャるほどニャ〜」
「そういうミアさんは?」
 尋ねた彼に、ミアはドンと胸を張って答える。
「お料理は作ってる時も食べる時も幸せマーク! だから、期待してて欲しいニャス!」
「ええ。それはもう楽しみに、ご相伴に預からせていただきます」
 食事を奢ってくれたお礼に手料理をごちそうしたい――今日のデートの名目はそう伝えていた。
(ホントはもっと別の目的があるニャスけど)
 その目的は当然ながらトップシークレット。
 ミアは内心ニャフフと笑む。
「エヴァルドちゃんは何か好きな食べ物とかあるニャス?」
「そうですね……」
 エヴァルドは考え込むように空を見る。
「料理と言うと語弊があるのですが、生野菜が好きでして」
 言いながら彼は頬を掻いた。
 なんでも貿易商だったころ船上では生の食物はまず食べることができず、陸に上がるたびに求めたらしい。
 それの時の感覚が身体に沁みついているのだそうだ。
「ならサラダとかかニャあ……とにかく、バッチリ任せて欲しいニャス!」
 もう一度胸を張ってみせるミア。
 その視線がふと街角のショーケースに向いた。
 並んでいたのは女性もののアクセサリー類。
 ついつい、気持ちがふらふらっと向いてしまう。
「気に入ったものがあればプレゼントしましょうか?」
「はっ……いやいや! 今日はミアがご奉仕する番ニャスから、ガマンガマン!」
 ブルブルと頭を振ってエヴァルドの申し出を断る。
「エヴァルドちゃんはあんまり宝石とか着飾らないニャスね?」
「ええ。まだまだ若い身ですから、あまりに着飾ると相手に反感を買われてしまうのです。その分、質や着こなしで品位は保っているつもりですが」
 トレードマークの青いコートも地元では有名な仕立て屋の作品だそう。
 若くして影響力のある場所に立つということは、上へも下へも気を使うものなのかもしれない。
 そんなしがらみを全て脱ぎ捨てた彼――お見合いの写真がふと頭に浮かんで、ミアはまたぶんぶんと頭を振って不安を振り払った。

 それから商工会の事務所へ向かい、エヴァルドの執務室を目指す。
 相変わらず書類束や丸まった羊皮紙でいっぱいの机の上を手早く片付けると、湯気の立つたっぷりのごちそうをそこに並べた。
「じゃじゃ〜ん、MIA'Sキッチン♪ たっぷりめしあがれニャス!」
 両手を広げてテーブルの上をアピールするミア。
 いつもと違った家庭的なエプロン姿でパチリとウインクをしながらソファに座る彼を見た。
「これは素晴らしい。全部お1人で?」
「慣れれば大したことじゃないニャスよ〜」
 とは言いつつも、時間のかかる火にかける料理とそうでない料理でバランスよく構成されているのはちゃんと効率化がなされているからだろう。
 キッチンの限られた竈やオーブンに対して、それを使う料理が被らないことも重要だ。
 オーブンで焼いた根菜のキッシュに彼が好きだという生野菜はスティックで添えて。
 2つある竈の1つはスープを煮込むのに使い、もう1つはお湯だけ沸かした鍋を取り上げてブロックの鶏ももを放り込んで保温調理。
 空いた竈でフライパンを温め、ヴァリオス近海で取れた新鮮な海の幸を使ったパエリアを。
 火が通った鶏ももは家から持ってきたグレイビーソースをたっぷり塗って、キッシュが焼けた後のオーブンで表面だけこんがり焼き上げる。
 トータルで小1時間もかければ今夜のフルコースの完成だ。
「ただのサラダだと料理長ミアの負けニャスから、特製の『ば〜ニャかうだ〜風ソース』を作ってみたニャスよ〜。アンチョビにちょっとクセがあるけど口直しには良いかなと思うニャス!」
「それは楽しみです。さっそくいただきましょう」
 エヴァルドはさっそく特製ソースで人参のスティックをポキリ。
「これは――おいしいです、とても。他のもいただいて良いでしょうか?」
「もちろん、お腹いっぱい食べて欲しいニャス!」
 すごい!
 おいしい!
 いつも自分を律するように冷静な彼が、そんな風に感情のまま言葉を溢すようなことはしない。
 だけどもその分、思ったことや考えたことはちゃんと口にして伝えてくれる。
 何度か同じ時間を過ごすようになってきて、ミアにも彼なりの細かい気配りが分かるようになってきた。
 なってきたからこそ、それが感じ取れる瞬間がとにかく嬉しい。
「あっ、そろそろ時間ニャス……!」
 ふと時計を見て、ミアが慌てたようにパタパタと駆け出す。
「おや、まだ料理が?」
「メインディッシュニャスよ!」
 慌ただしく去っていく彼女の背を不思議そうに眺めながら、エヴァルドは鶏のグレイビーソース焼きを口へと運んだ。
 十分ほどの時間をおいてミアが部屋へと戻ってくる。
 たっぷりのチョコレートホイップを塗ったバースデーケーキを抱えて。
「ちゃんとお祝いしてなかったから……ハッピーバースデー!」
 食事をしている間、オーブン君は本日3度目の大活躍。
 書類が多いこの部屋で火は厳禁と蝋燭は断念したが、その分、ホワイトのチョコペンで書いた「Happy birthday to you」が彩りを添える。
「これは、わざわざ私のために……?」
「ちゃんとお祝いしたかったから……お誕生日がなかったら、こうして出会うことも、一緒にご飯を食べることもなかったニャス」
――だから、ちゃんとお祝いをしたい。
 そのための今日という1日。
「えっと、これ、プレゼントニャス」
 どこか畏まりながらミアが差し出した小さな包み。
 エヴァルドが中を開くと、鍵の形をした金色のピンブローチが入っていた。
 それを見て彼は目を丸くしてから、何も言わず白いジャボを止めていた今のピンブローチを外し、代わりにそれをあてがった。
「どうでしょう?」
「とっても似合うニャス!」
「それは良かった……本当に、ありがとうございます」
 口にして、ほんのちょっと、心から安心したように笑ったエヴァルド。
 鍵は彼の胸の扉を開こうとするかのように、きらりと輝いていた。

 ケーキも食べ終えてお腹はたくさん。
 エヴァルドがささやかなお礼にお茶を淹れて戻ってくると、ソファーで丸くなってすやすや眠るミアの姿があった。
 彼はティーセットの乗ったトレイを音を立てないよう気を付けてテーブルにおくと、青いコートを脱いで彼女の身体にかける。
 ミアはそのぬくもりに身じろぎすると、掴むように身体をくるんで、またすやすやと寝息を立てた。
 エヴァルドは彼女を起こすようなことはせず、静かに自分の執務机に腰を下ろす。
 それから自分も夢心地に浸るように、そっと目を閉じるのだった。
 
 
 ――了。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka7035/ミア/女性/20歳/格闘士】
【kz0076/エヴァルド・ブラマンデ/男性/28歳/一般人】
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2018年11月12日

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