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『きみは私の道しるべ 』
ミコト=S=レグルスka3953

 私がミコトちゃんを初めて見た時の印象は可愛らしい子だな、というものだった。季節は春から初夏へと変わっていく頃で、彼女は一年生だけど学内では既に“変わり者”の評価で通っていたと思う。それでなくともストロベリーブロンドの髪をふわふわと耳元で揺らして、友達と一緒に笑い声をあげる姿は華やかで目を惹くものだったけれど。ともかく私はクラスメイトの噂話を聞き流しながら、自分には縁のない存在だと思ったのを憶えている。
 そんな私が彼女と関わりを持った理由は何てことはなく、校内に猫が入り込んだと学校中が大騒ぎをしていた日のことだ。友達と一緒に猫の保護作戦を決行したミコトちゃんは放課後にあちこち探し回っていて、彼女に追いかけられて驚いた猫が飛び込んできたのが図書室でうっかり寝入っていた私の足元で。椅子の下でうにゃうにゃと猫と問答をしている女の子がいたら誰だってびっくりすると思う。寝起きでミコトちゃんに言われるがまま捕まえるのに協力し、すっかり手懐けてゴロゴロと喉を鳴らす猫を膝の上に、友達を待ちながら休憩する彼女と話をした。私は好奇心から噂になっている彼女の夢の話について訊き、そして彼女に対し興味を抱いた。それは話の内容が興味深かったから、というよりも、躊躇わず、恥ずかしがったりもせずに、面白いものを面白いと素直に言える彼女のその性分を羨ましく思ったからだ。話したのはたぶん、十分にも満たない時間だったけれど、大袈裟じゃなくその時確かに私の世界は変わったのだった。だって――。
「せーんぱい!」
 休憩時間にぼーっとしていると、そんな声が聞こえた。教室の扉のところから顔を覗かせていたのはミコトちゃんで、私が彼女の傍まで近付いていけばそれだけで嬉しそうに唇が笑みの形へと変わる。
「今日ですよ、今日っ! 絶対、忘れちゃダメですからね!」
 そう念を押されて、うん分かってる、と言ったけれど、それだけじゃミコトちゃんは納得出来なかったらしくて指切りまでさせられた。まあ前科があるのでしょうがない。
 ミコトちゃんと初めて話した日から少しして。私は天文部に入部届けを提出した。夢の話から発展した、彼女の天文学に関する雑学が面白いと思ったからだ。でも今まで一度も部活というものに入ったことのなかった私は活動日に部室へ顔を出すのに手一杯で、学校の許可を得て夜に屋上で星空を見るという一大イベントを盛大にすっぽかしたのだった。というか一日間違えてた。後で合流したけど、解説してくれると言っていたミコトちゃんは怒りこそしなかったものの、次は付き合って下さいねと私の肩を力強く掴んで言った。そのお陰で、次が決まってから今日まで一日も忘れなかった。
 そのまま少し話しているうちにチャイムが鳴って、彼女は全力で廊下を走って戻っていった。
 そうして放課後。みんなでだらだら喋ったり食堂の調理室を借りてご飯を食べたりしているうちに日は暮れて、屋上の扉を開ければ暗闇の中に満天の星空が広がっているのが見えた。私以外の人は初めてじゃないはずだけど、それでも自然と小さく歓声があがる。
 LH044は人工コロニーだから天候も管理されていて、雲一つなく晴れ渡っているのは当たり前のことだけど。宇宙はまだそんなに人の手が加えられていない。だから人はこの景色に尊さを覚えるんだと思う。
 顧問の先生の話が一通り終わる頃には私の隣にはミコトちゃんがいた。
「友達はいいの?」
「約束、ですから!」
 約束、の部分を強調して言い、空を指差しての個人授業が始まる。たまにド忘れして首を傾げるのはご愛嬌だ。でも日の浅さを考えるとやっぱりよく憶えてる。私もいつかこうなりたいなと思った。
「――それで、あれが獅子座です」
 爪先立ちで私と視線を合わせ、彼女がぐるぐると指を動かす。あれが頭でそれが尻尾で、と説明してくれるのに私はなんとかついていく。そして、
「獅子って何かかっこよくないですか?」
 と弾んだ声で言って、ミコトちゃんは唐突に座り込んだ。私も倣って腰を下ろし、一緒にまた頭上を見上げる。それから、ちらりと彼女の横顔を見た。懐中電灯の光に照らされた薄紅色の瞳がキラキラと星のように瞬く。
「ミコトちゃんにぴったりだね」
 言うと彼女は弾けたように笑って、私の肩に軽くぶつかってきた。ふざけ合いながら私は彼女に似合う星は、と考えていた。

 私がLH044の壊滅と救助に向かった戦艦が消息を絶ったと知ったのは、地球に戻った後のことだった。繰り返しその悲劇性を伝えるニュースを見ながら、友達の死を悼む。そして生死不明の、たったの二ヶ月の間だけの後輩の姿を思い描いた。あの眩しい笑顔が失われたとはどうしても思えなくて。どこかで元気にしてるんじゃないかって、そんな夢物語が、ずっと頭から離れない。
 私は今日も夜空を見上げる。目印になる獅子の心臓は輝き続けていた。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka3953/ミコト=S=レグルス/女性/16/霊闘士(ベルセルク)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
ミコトちゃんの高校生の頃の話を想像して書いてみました。
転校続きで友達を作る気にもならなかった先輩に
本人も知らないところで大きな影響を与えた、というお話。
本来、話の内容を補足するのは野暮だと思うんですが、
その辺を掘り下げると誰が主役なんだ!ってなるので。
本当いい子だなあと思いながら楽しんで書いてました。
今回は本当にありがとうございました!
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ファナティックブラッド
2018年11月12日

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