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『11月の誕辰会 』
クラン・クィールスka6605)&レナード=クークka6613


 空は高く澄み秋深々として、冬の足音が聞こえ始めた午后のこと。



「あっ、すみま……あっ!」
「っ、悪い……って、ん?」

 棚に並んだ酒瓶に手を伸ばしたところ、同じ瓶を取ろうとした人物とぶつかりそうになり、互いに手を引っこめ頭を下げる。が、相手が友人だったことに気付き、

「クランさんやー!」
「……レナードか」

 クラン・クィールスとレナード=クークは、あまりの偶然にまじまじと顔を見合わせた。



「奇遇やねぇ。クランさんもお酒買いに来たん?」
「ああ、まあ……」
「僕もやー! 最近寒くなったから冷えてよう寝付けんくて、寝酒をー……」

 思わぬ出会いにはしゃぐレナードだったけれど、そこまで言うとハッとしてクランを見る。

「クランさん、お酒飲めるんやったっけ? 今までご一緒した宴とかでも、飲んでるとこ見てへん気が……」

 クランは少しバツが悪そうに髪を掻き上げた。

「飲めなかったんだ、今までは。……ついこの間、誕生日でな。飲酒できる歳になったから、試しに何か買ってみるか、と」
「せやったん!? それはおめでとうやんクランさんーっ! それは独り酒してる場合やないで、お祝いせなー!」

 ふんすと意気込んだレナード、お薦めの酒を数本流れるようにカゴヘ投入。それからダッシュで会計を済ませて来ると彼の腕を掴んだ。

「な、何だ?」
「せやからお祝いせな! でもふたりじゃ寂しいやろか?」
「子供じゃないんだぞ……もういい歳だし、わざわざ誕生日を祝ってもらうってのも、な」

 クランは呆れたように肩を竦める。けれどレナードはにっこりしてかぶりを振った。

「いい歳やのうて"良い歳"やで? 成人になるお誕生日は、人生で1度きりなんやから! ……せや! 早速龍園の皆にも、知らせに行かへんとっ」
「別にそんな、」
「ダルマさん、クランさんが一緒に飲めるようになったって知ったら、きっと喜ぶでー!」
「ダルマは俺の親父か何かか?」
「そうと決まったらいざ龍園やー♪」
「決まった、のか……?」

 クランのささやかな抗議は、レナードの耳に届かなかった。大事な友達であるクランの成人をお祝いしようと一生懸命なのだ。
 それが伝わったのか、クランは溜息を零しつつもレナードに引きずられるがままになる。
 向かうはハンターオフィス。
 買い物袋の中で、酒瓶同士が触れカランと音をたてた。




 転移門でひとっ飛びして来た龍の園。北方は既に冬、氷原を吹き渡る風は木枯らしどころか地吹雪だ。
 龍騎士隊の詰所へダルマを訪ねると、折よくダルマが警邏から戻った所だった。招かれた広間で冷えた身体を温めながら、レナードは今日来た理由を話す。

「……というわけなんよー。お祝いの宴とかできたらええなーと思ってるんやけど」
「そりゃァめでてぇ、おめでとさんだ! やろうぜやろうぜェ!」

 酒好きのダルマだ、酒宴のお誘い――それも新米龍騎士達を何かと気にかけてくれるクランを祝う宴とくれば、歓迎しないわけがなかった。
 早速準備にかかる。ダルマは大きな円卓を広間の中央に出し、そこへレナードが買い込んできた酒やつまみ、グラスなどを並べていく。

「ちょっとイイモン取って来るわ」

 ダルマがそう言って広間を出ていこうとすると、

「手伝おう」

 レナードの手際が良すぎるあまり手持ち無沙汰だったクラン、その後を追った。


「……突然来た上に、無理を言って悪い」
「宴の主役がンなこと気にすんなぃ。それに大方レナードに引っ張られて来たんだろォ?」
「分かるか」
「分かるさ。だがレナードが連れてきてくれたお陰で、俺も一緒にお前さんの成人を祝えるんだ。有り難ェな!」

 クランの口の端が僅かに持ち上がる。

「……ダルマ"も"物好きだな。いや、酒好きなのか」
「んん?」
「別に」

 そうしてダルマはある扉を潜っていったかと思うとすぐ戻ってきた。彼が抱えたコケモモ酒の小樽と酒瓶を見、クランは珍しくぎょっとなる。

「何でそんな物が詰所内に、」
「俺の仮眠時の寝酒だ」
「私物かよ……」
「北方は寒ィから、身体温めンのに必要なんだよ」

 本当か? クランは首を捻ったが、事実北方は寒い。そういうものなんだと思うことにし、酒瓶を引き受けた。



 円卓の準備を終えたレナードは飾り付けに精を出していた。
 先程ダルマが、去年レナード達が龍園で作ったクリスマスオーナメントを出してきてくれたのだ。とってあったことに驚くやら嬉しいやらで、鼻歌混じりで作業に勤しむ。
 ウッドビーズで窓枠を飾り、折紙の飛龍を天井から下げ、秘密の星は主役の席へ。

「ふぅ。クリスマスの飾りやけど、華やかになったやんなー♪」

 すっかりパーティ仕様になった広間を見回し、満足気に頷く。
 そこへ、

「待たせたなァ! っおお!?」
「戻った。……あ、部屋が」
「おかえりー、って何やのそのお酒ー!?」

 クランとダルマは短時間で見事に様変わりした広間と、それをひとりで成したレナードの素早さに驚愕。
 レナードはレナードで、ふたりが持ってきた酒の量に口をぱくぱく。

「あ、えーと、部屋はつい張り切って飾ってしもたんやー」
「いい感じじゃねェか!」
「へへー。で、そのお酒の量と種類は何事なん?」
「こんなに飲みきれないと言ったんだがな……」

 げんなりするクランの横で、ダルマは呵々と笑う。

「龍園にもちっとずつ西方のモンが入るようになってきてな、珍しい酒見るとつい買っちまうんだ。男やもめじゃそん位ェしか楽しみがなくてよォ!」

 その言葉にクランとレナードはチラリと目配せし合い、ひそひそ。

「あないに貯め込んでるっちゅーことは、飲む暇もあらへんくらい忙しいんやろかー?」
「俺には『男やもめ』を強調したように聞こえたが……一緒に飲む相手がいない、のか?」
「……そう言えばダルマさんええ歳やけど、結婚とかしてへんね……?」
「恋人もいないしな……それに、いつも一緒にいるのはシャンカラや新米達……後輩ばかりだ。――つまり、」

 ふたりは揃って物言いたげな目をダルマへ向ける。

「ダルマさんっ、僕はダルマさん好きやでー!?」
「……俺達で良ければ、また来るから」
「お前らン中で俺どんな可哀想なオッサンになってんだ!? ふたりとも酔い潰してやっから覚悟しろォ!?」


 そんなダルマの宣戦布告(?)で、祝いの宴は幕を開けた。

「クランさん、どれにしよかー?」

 ずらっと並んだ酒瓶を前に、クランは途方に暮れる。
 レナードが買ってきたのは、王国産ワイン・ロッソフラウ、シードル・エルフハイムといった、お酒初心者にやさしい口当たりの良いものが揃っている。
 一方ダルマの秘蔵酒は、ドワーフ王の名がついた純米大吟醸や、帝国のジャガイモ蒸留酒など、辛口かつアルコール度数高めなラインナップ。

「これだけあると難しいな……」

 悩みに悩んだあと、クランはコケモモ酒の小樽を目で示した。

「折角龍園に来たことだし……あれにするか」
「甘くて飲みやすいし、ええと思うでー♪」

 飲んだことのあるレナードの太鼓判もあり、ダルマは3つのグラスになみなみと紅玉色の酒を注いだ。甘く酸い香りがほわっと舞う。

「クランさん、成人おめでとうやでー! かんぱーい♪」
「おめっとさーん!」
「何か照れ臭いな……」

 3人は勢いよくグラスをかち合わせた。
 レナードとダルマは一息に干したが、クランは口をつける直前で手を止め、コケモモの香りに寄せて去年のことを思い出す。
 この酒をほんの一口含んだだけで、ぽわぽわと愛らしく酔ってしまったクランの彼女。潤んだ目をして、柔らかな身体を押し当ててきて――クランの頬はたちまち熱くなる。

「クランさん、まだ飲んでへんのに顔赤くなっとるよ?」
「な、何でもないっ」

 クランもくいっと呷る。まず甘さが口いっぱいに広がり、喉に下りていったあとでほのかな酸味と酒精がツンと鼻を刺す。空にしたグラスを目の高さに掲げ、感慨深げに見入った。

「これがコケモモ酒、か……今までは、皆が飲んでいるのを眺めるばかりだったからな。ようやく口にできた」
「クランさんとおんなじ物が味わえて嬉しいでー♪」
「だな、一緒に呑める日が来て嬉しいぜェ。さ、次はどれにする? レナードのワインはどうだ?」
「やはり俺の親父か何かか……?」
「ほら、言うたやろ?」

 そんな風に賑やかに語らいながら、味見感覚で次々に瓶を封切っていく。クランはペースを掴むべくちびちびと、レナードはジュースのようにぱかぱかと、ダルマは底なしでがばがばと。酒が進むにつれ話も弾み、盛り上がる度にグラスをかち合わせ笑い合う。

「んっ……この酒はキツいな」
「米酒は独特やもんねぇ。あ、おつまみもあるでー。口直しにどうやろ?」

 レナードは皿に並べた乳白色の物体を差し出した。

「チーズ?」
「せやー。僕もよう分からんのやけど、ヤギのミルクで作ったチーズをごしごししたもんらしいでー」
「「ごしごし?」」

 クランとダルマは若干不安になる。気付けばいい調子で杯を干していたレナード、目許は赤らみ口調もいつも以上にふわっふわ。
 お先にどうぞ、いやどうぞ、と卓下で密かな小競り合いをしたクランとダルマは、結局せーので口に放り込んだ。

「……ん? クセはあるが、旨いな」
「イケるイケる」
「こっちはどやろ? 僕もよう分からんのやけど、アヒルの卵を塩や粘土で包んで発酵させたもんやて」
「何でよう分からんモンばっか買ってきた!?」
「卵、真っ黒だな……」

 こわごわ口に運べば、これまた意外と美味しく酒のアテにぴったりで。恐るべしレナードセンサー。
 そうしてレナードセンサーに信用ができた頃、ダルマは魚の絵が描かれた缶詰を手にとった。

「これは?」
「僕もよう分からんのやけど、」
「それは分かった」
「蒼界の珍味やてー」

 ダルマは何の疑いもなくカシッとタブを引き上げた。
 途端、部屋に充満しだす強烈な刺激臭!

「〜〜!」
「何や、鼻も目ぇも痛いー!」
「腐ってんのか!?」
「買ったばっかやのにー?」

 ダルマとレナードは窓という窓を開け放ち、一旦缶を窓の外へ出す。それでもまだ匂いが部屋にこびりついている。恐ろしい缶詰もあったものだ。

「ふあーびっくりしたでー。クランさんだいじょ……クランさん!?」

 クラン、卓に突っ伏し目を回していた。
 酔い潰れぬよう慎重に飲み進めていたクランだったが、この強烈過ぎる匂いがトドメとなったか。

「どないしょー!?」
「なァに、すぐ目ェ覚ますさ」

 レナードがクランへ毛布をかけていると、神殿警備を終えたシャンカラや新米達がやって来た。

「この匂い何事ですか!?」
「匂い凄いけど部屋の中が可愛い!」

 さてどう説明したものか。首を捻ったレナードだったが、クランに縁のある面々を見渡しピコン! と閃く。手短に事情を説明すると、声を潜めて何やら相談を始めた。




 クランが目覚めた時、部屋の中は真っ暗だった。急いで身を起こした瞬間明かりが灯り、拍手が巻き起こる。見ればさっきまでのふたりに加えシャンカラ、リブや双子の兄弟など新米達の姿が。

「兄貴おめでとーっす!」
「おめでとうございます」
「な、な……?」

 寝起きのクラン、理解が追いつかない。するとリュートを抱えたレナードが、

「ちょっとしたサプライズを皆で用意したんやけど、ええかな?」

 ぽろぽろと優しく弦を爪弾き始め、音色に合わせ皆が歌いだした。


 ――おめでとう、おめでとう あなたが生まれてくれたこの日を あなたとともに祝える喜び
   いく久しく、いつまでも あなたがあなたらしくあれるよう 星の加護がありますように


「…………」

 演奏が止んでからも、クランは皆の顔をぼうっと眺めていた。

「ほぼ即興やけど、ちょこっと皆で練習したんよ。……ダメやった?」

 不安そうに尋ねるレナードに、クランはハッとして首を横に振る。その頬にはかすかに朱が差していて、俯きがちに、ボソリと。

「いや、驚いただけだ。その……、とう」
「え?」

 聞き取れず、レナードはクランへ顔を寄せた。

「ありがとう、と言ったんだ……何だか調子狂うな。酔ってるのかもしれないな」

 やや自嘲めいてクランは言ったが、レナードには充分気持ちが伝わったようで。糸目をこれ以上ないほど細めて破顔すると、

「サプライズ成功やー♪」
「やったー!」
「クランも可愛いトコあんじゃねェか」
「おめでとうございまーす!」

 また一斉に拍手が巻き起こり――終わるかに思えた宴は、ここからまさかの第2ラウンドに突入するのだった。
 ……が、それはまた別のお話。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6605/クラン・クィールス/男性/20/片羽の守護者】
【ka6613/レナード=クーク/男性/17/青星紋の共闘者】
ゲストNPC
【kz0251/ダルマ/男性/36/年長龍騎士】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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成人を迎えられたクランさんと、お祝いしようと奮闘するレナードさんのお話、お届けします。
まずはクランさん、成人おめでとうございます! 大人っぽい……!
再びほろ酔いのレナードさんを書かせていただけたことも楽しかったです。
コケモモ酒以外のお酒はどれもFNBのアイテムにあるものばかりだったりします。気が向いたら探してみてくださいね。
おつまみはウォッシュタイプのシェーブルチーズ、ピータン、有名な某魚の缶詰、でした。
イメージと違う等ありましたら、お気軽にリテイクをお申し付けください。

この度はご用命下さりありがとうございました!

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2018年11月12日

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