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『根を下ろすという事 』
穂積 智里ka6819)&ハンス・ラインフェルトka6750

 エトファリカ連邦国、詩天。
 一般的に東方と呼ばれる地域は、西方の文化も入ってきた事により生活は少しずつ変わり始めていた。
 交易により少しずつではあるが、食材や日用品の流入。
 物資の流れは様々な物の移動を促した。それを受け、三条家は交易品が一気に流入しないように貿易品の流入制限や禁輸の品々を制定。過剰な流入を規制して経済の崩壊を防ぐなどの対応が取られていた。
 そして、東方へ入ってきたものは――物資だけではなかった。

「マウジー、行ってきますよ」
 若峰の小さな屋敷に居を移したハンス・ラインフェルト(ka6750)は、屋敷の入り口までで送り出そうと駆け寄ってきた穂積 智里(ka6819)へ振り返った。
 ハンターとして依頼を遂行しながら、ハンス達が詩天へ拠点を移して数週間。本格的に詩天で居住するのだが、二人には一つ考えていた事があった。
 稼業としてハンターを続けながら、住まいだけを詩天に移す。
 それは本当に詩天に根を下ろしたと言えるのだろうか?
 否。この地の水を飲み、この地の為に働いてこそ、初めて根を下ろしたと言える。そうしなければ、ただ家を移しただけに過ぎない。
「今日、初めてのお役目ですね」
 微笑みかける智里。
 ハンスは詩天に居を移すにあたり、知見である三条家軍師へ願い出た事があった。
 何か仕事を斡旋して欲しい。
 それはハンターとしてではなく、詩天に住む者としての仕事が欲しい。
 それが、本当の意味で詩天に根を下ろす事に繋がると信じている。
「はい。交易品の抜け荷を調べるお役目ですが、これも詩天には大切な仕事。精一杯勤めて参ります」
 武徳がハンスへ与えた仕事は、西方から爆発的に増加している交易品の監視を行う。
 過剰な荷や禁止された品を詩天へ持ち込んでいないか。それを監視する役目であるが、武徳の計らいで逮捕権や捜査権を与えられていた。
「『荷札監察方』って特別に作られたお役目でしたよね。あまりやり過ぎないようにして下さいね」
「そうです。それでは行ってきますが……それにしても」
 ハンスは智里を足元から撫でるように視線を上げた。
 詩天に来て数週間。智里も早く詩天に慣れようと、和服へ袖を通す事にしたのだ。
 未だ振袖ではあるが、いずれは――。
 そんな想いのある智里だが、さすがに足元からじっくり見られるのは慣れていない。
「ちょ、ちょっとそんなにじっくりみなくても……」
「いえいえ。愛しのマウジーの晴れ姿。いつみても見惚れてしまいます」
 ハンスの恥ずかしげも無い言葉に、智里は思わず頬を赤らめる。
 その様子を半ば楽しむかのようにハンスは言葉を続ける。
「私、こう見えても花を愛でるのは好きなのですよ。マウジーという美しい花、堪能させていただかないといけませんね」
「もう、恥ずかしいですから……」
 智里も必死に視線から逃れようするが、それがまたハンスの心を満たすのであった。


 智里の日課は近所の奥様方とのご挨拶から始まる。
 最初は警戒していた近隣の住民も、今やすっかり井戸端会議の常連議題だ。
「で、最近旦那さんはどうなんだい?」
「え! あ、いや、まだ結婚した訳じゃなくて……」
 慌てて訂正してみせる智里。
 だが、近所から見れば新婚にしか見えない。詩天の文化から考えても智里は結婚適齢期を過ぎている事になるので、結婚していない時点で騒ぎとなるのは仕方ないが……。
「なんだい? まだ結婚してないのかい? 案外、旦那もだらしないねぇ」
「いえ、引っ越しして落ち着いてからって考えてます」
「そうかい! ならなるべく派手に祝って上げないとねぇ」
 複数のおばさんによる笑い声。
 完全に遊ばれているのは理解しているが、これもめでたい話。断るわけにもいかず、智里は適当に笑って誤魔化すしかなかった。
「そういや、聞いたかい? 今度は卓坊が消えちまったって話」
「そうなんだよ。うちも気を付けないとねぇ」
 おばさん達の話は智里も知っている。
 ここ最近、子供や若い娘が攫われる事件が若峰で起きている。武徳も捜索を強化しているが、未だ足取りが掴めていない状況だ。
(そういえば、ハンスさんもその話をしてましたね)
 智里にも覚えがある話だ。
 ハンスによれば、組織的な犯行で国外へ連れ去っている可能性が高いという。奴隷制度を敷いている国は西方にないが、珍しい東方の人間を『買おう』とする金持ちがいるようだ。
(気を付けてって言われてたけど……あれ?)
 ふいに智里が顔を上げると、筵を掛けられた網籠の隙間から子供顔が目に入った。
 ほんの一瞬だが、智里の目に子供の顔が焼き付いた。
(あれは……卓坊!?)
 もし、本当に卓坊だとすれば籠を運んでいるのが、人攫いの一味。
 ハンスに知らせるべきか。
 だが、隠していた場所から移したとなれば、今日のうちに国外へ連れ出す可能性が高い。下手に深夜で船を出せば怪しまれる。昼間のうちに他の船へ紛れて運び出すのが安全なのかもしれない。
「ちょっとすいません!」
 智里はおばさん達の壁を押しのけて走り始めた。
 智里もハンターの一人だ。
 ここで人攫いを止めなれば、卓坊は若峰へ帰る事ができなくなる。
 ここは何とかして、助け出さなければ。


「……くっ!」
 智里の肩口が切られ、着物の隙間なら二の腕が顔を覗かせる。
 港の奥で一味を追跡。囚われていた子供達を発見したまでは良かったが、智里は敵に発見されてしまった。
 だが、覚醒者である智里とは身体能力から段違いだ。発見されてもまとめて倒せば問題早い。
 そう考えていたのだが……。
「恐怖に歪む乙女の顔。実に素晴らしいねぇ〜」
 悦に入りながら、智里を見つめる大男。
 数人の人間は叩きのめす事はできたのだが、一味にも覚醒者がいることは計算していなかった。それも二人。
「遊んでる暇はねぇぞ。さっさと始末しろ」
「えー、兄貴。もうちょっと遊びたいよぉ〜」
 兄貴と呼ばれた男の前で、大男は拗ねてみせる。
 智里は堕杖「エグリゴリ」を構えながら二人を警戒する。決して侮れる相手でない事がすぐに分かった。
「馬鹿野郎っ! こんなところでハンターが一人でいるわけねぇだろ。おそらく仲間が近くにいる。大方、人攫い捜索の依頼でも受けたんだろう」
 兄貴の読みは外れていたが、状況判断は間違っていない。長居をすれば即疾隊が駆け付ける可能性もある。子供達を船に積んでさっさと沖へ逃れた方がいい。
「子供達を遠くに連れて行って売り飛ばすって訳ですね」
「あん?」
 智里は敢えて兄貴と呼ばれた男へ問い質した。
 苦し紛れの問いだと男にも分かったのだろう。刀を抜きながら、智里に不敵な笑みを向ける。
「ああ、そうだ。
 東方のもんは西方の金持ちに高く売れるんだ」
「西方でそんな人がいません」
「甘ぇな、お嬢ちゃん。社会って奴には裏があるんだ。穢れた世界も知らねぇ純真無垢なお嬢ちゃんには分からないだろうがな」
「そ、そんな事……大体私が純真無垢だって分かるはず……」
 食い下がる智里。
 だが、男には分かると断言する。
「分かるんだよ。目を見ればな」
「目を?」
「ああ。穢れた世界を生きてる奴には特有の目をしてやがる。感情も無くしてぶっ壊れた奴の目だ」
 智里も様々な戦いを経てきたように、男も相応の経験を積んできたのだろう。
 だが、智里と男が経験してきたものは違う。
 歪虚にはない人間の闇に深く踏み込んだ業の深い経験が――。
「兄貴! やるなら、やっちまおうぜ!」
「早く終わらせろ。ガキ共を積んだら出航だ」
 振り返る男。
 大男が刀を片手に近付いてくる。
 智里一人ならどうにでもなる。しかし、子供達を守りながらとなれぱ話は別だ。
 苦しい選択が迫られる。
「ふへっ! 終わらせるぅ!」
 大男は、刀を再び振りかぶる。
 だが、それを止めるように見張り役だった男達が投げ飛ばされてくる。
「誰だ!」
「誰、と聞かれて答える阿呆もいませんが、強いて言えば『荷札監察方』です」
 男達が吹き飛ばされた戸口から、姿を現したのはハンスだった。
「ハンスさん!」
「いけませんよ、マウジー。あなたを探すのに随分時間がかかってしまいました」
 後で聞いた話だが、ハンスは屋敷に戻っても智里の姿が見えない為、方々探し回っていたらしい。
「なんだてめぇ!」
 ハンスに向かって刀を振り下ろす大男。
 だが、ハンスは半身体を捻って刀を回避。
 同時に監察方として配布されて刀を抜いた。
 一刀。
 金髪の髪を軽く揺らした後、大男の喉元から大量の血が噴き出した。
「おお、おぉぉ……ぉ!」
 声にならない声を上げる大男。
 太刀筋を見るだけで、男はハンスの実力を見抜いた。
「お前、何者だ! ただの侍じゃねぇな!」
「……私、花が好きなんです」
「……?」
 唐突なハンスの言葉に男は首を傾げる。
「マウジーのように可憐な花が好きなのですが……好きなんですよ。斬った後に咲き乱れる真っ赤な彼岸花が」
 ハンスの言葉の意味を理解して男。
 そして、男は――ハンスの目を見つめる。
「そ、その目だ! 穢れた世界で生きてきた奴の……」
「あなたの花も、さぞ美しいのでしょうね」
 切っ先を男に向け、ハンスはゆっくりと間合いを詰めていく。


「マウジーが無事で何よりでした」
 ハンスは智里と屋敷に戻った。
 結局、一味の多くは死亡。生き残ったものも、捕縛された。子供達は救出されたものの、西方へ連れ去られた子供達は捕縛した者から聞き出す必要がある。
「他のハンターにも知らせたので、すぐに子供達は見つけられると思います。
 それより、少々やり過ぎじゃありません?」
「ああ、マウジーが危険な目に遭っていたので、思わず怒ってしまいました」
 ハンスは一味を相手に大暴れした。
 首謀者が殺された事で一味の販売ルートを追うのに時間かかかりそうだ。
「私もまだまだです。荷札監察方になったばかりですが、精進しなければなりませんね」
 いつもと同じ笑顔のハンス。
 智里はその笑顔をみて安心する。
 これからいろいろな事があるだろうが、ハンスと一緒なら大丈夫。
 二人なら、詩天を終の住処にできると信じていた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6819/穂積 智里/女性/18歳/機導師(アルケミスト)】
【ka6750/ハンス・ラインフェルト/男性/21歳/舞刀士(ソードダンサー)】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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近藤豊でございます。
この度はおまかせノベルの発注をありがとうございます。
今回は詩天で根を下ろそうとするお二人の活躍を描かせていただきました。
人が住むという事の意味は住まいを移すだけではなく、周囲の溶け込む何かが必要になります。詩天へ将来住むなら、このような事もあるかもしれませんね。
それではまたの機会がございましたら、宜しくお願い致します。
おまかせノベル -
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ファナティックブラッド
2018年11月13日

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