▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『大人と子供の間 』
イェルバートka1772

 初めて顔を合わせた時はただ、子供だなとしか思わなかったのに。皆で作戦を練っている最中、何とはなしに見た時の表情が真剣だったからだろうか、一切の感情を削ぎ落としたような人形めいたもので――。自分でも理由はよく分からないまま俺は、その時依頼を共にした仲間の一人であるイェルバートに苦手意識を持ってしまったのだった。

 ハンターほど年齢や性別、種族に出身と多種多様な人材が集まる業種はない、と思う。当然見た目で人を判断するなんて愚の骨頂で、子供にしか見えない熟練者もいれば、老成したプロに見える新米ハンターなんてパターンもある。わざわざ訊いたりはしないから実際のところどうなのかは知らないが、イェルバートは冷静に状況を判断出来るし基本的なものは勿論、自己流にアレンジした機導術なんかも使っていたから、それなりにキャリアはあるんだろう。前衛を張っていると支援の有難みがよく分かるものだ。
 他の仲間との連携も含め、事は順調に運んで無事に依頼も成功。今回のメンツは何故かやたらとノリのいい奴が多く盛り上がり、報酬を受け取ったその足で祝勝会へなだれ込む羽目になった。強制はされてないが結果的に全員参加だ。
 そんなわけで絡んでくる奴を適当に流しながら、俺はちびちびと酒を呑んでいた。こっちの世界では国どころか地方によっても成人年齢が変わるので、飲酒についてはかなりおおらかなほうだ。まあ事故るような乗り物にならない限り咎められない。だから宴会になりやすいが当然、体質や好みで辞退する奴もいる。イェルバートはこの場では珍しく呑まないほうらしい。律儀に故郷のしきたりでも守ってるのかもしれないが。
 かなり弱いらしく、顔を真っ赤にした奴に絡まれているイェルバートの姿を俺は一瞥した。依頼に関わる時こそ物静かで落ち着いているイメージが強いが、終わってみれば案外そうでもないと、俺は初めて一緒に組んだ時に知った。穏便に、と接している感じだが、普通に作り笑顔じゃない笑い方をする。そう分かっているのに第一印象というのは厄介なもので、見るといい意味じゃなくどきっとするのに、何となく無意識的に気になって見てしまう。嫌いなのにホラーを見る奴と一緒、と例えたらさすがにかなり失礼だが。
「どしたん?」
 急に立ち上がった俺を見上げて、隣の席にいる奴がそう声をかけてくる。俺は短くトイレ、とだけ答えて貸し切られた部屋から出、そしてトイレとは逆の方向に向かった。
 扉を開ければ身震いするほど冷たい風が吹き込んでくる。酔い覚ましにはちょうどいいと、そのままあてもなく街路を歩いていく。足取りはちゃんとしてるし、さすがにこの寒さで寝に入ることはないだろう。多分。
 そうして向こうのものとほとんど変わらない公園へ辿り着き、ブランコの周りの手すりに尻を預けて空を見上げる。なんてことのない星空だ。
「――……」
 呼ばれたのかもしれないが、俺には聞こえなかった。ただいつの間にか俺は下を向いていて見えたのは黒のブーツ。視線をあげると緑とか茶色とか白が見えた。それから、普段はフードに隠れていて見えづらい精緻な顔立ち。息を切らしてるせいで俯き、すぐ見えなくなったが。
「どしたん?」
 さっきの奴を真似て訊くと、イェルバートは息を整えて、
「どこに行ったのかなって思って、見に来ました」
 と言った。目敏いのは後衛の職業病か。別に、俺がどこに行こうか関係ないだろうに。思っただけのつもりだったがうっかり口に出していたようで、イェルバートは目を瞬かせた。咄嗟にやべ、と思って、立ち上がりこの場を離れようとする。
「……関係、なくもないですよ」
 背中にそんな言葉を投げかけられて俺は立ち止まり、振り返る。水色の瞳が真っ直ぐ俺を見た。
「まだ借りを返せてませんから」
 その意味を俺は一拍置いて思い出した。といっても別に大した話じゃなく、他の奴が討ち漏らした敵を倒すのに俺がカバーに入った。標的がこいつだった。それだけの話だ。戦っている最中の出来事に借りもクソもない。でも何となくいいな、と思った。
 俺が引き返してブランコに乗ると、イェルバートも隣に座る。そのまま数分黙っていた。
「お前もやってみろよ」
 俺がそう言うとイェルバートはこっちを見て、視線を正面へと戻して。いいです、とちょっと困惑したように答えた。俺が調子に乗って漕ぎながらもう一回促せば、
「やらないです!」
 と強めの言葉が返ってくる。顔はフードに隠れて見えなかったが、何を思っているかはその声音で分かった。そうだよな。その年頃が何か一番恥ずかしいよな。
 疲れたので漕ぐのをやめて、ついでに公園の出口に向かう。イェルバートも後をついてきた。俺は軽く伸びをして言う。
「そろそろ戻るか。あいつら酔い潰れてそうだし」
 世話する奴は必要だろう。こいつが俺にしたみたいに。頷くのを見て俺たちは店へ戻っていった。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【ka1772/イェルバート/男性/15/機導師(アルケミスト)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
前回の話では全然触れられなかったイェルバートくんの
性格や外見の描写を中心にふわっとした話になりました。
一部の大人からすると、落ち着いていてしっかりした子は
嫌いじゃないけど扱いづらい、みたいな所もあるかなと。
出来過ぎていて同じ歳の時の自分と比較して、みたいな。
視点のモブのひとの主張が強過ぎるような気もしますが!
今回は本当にありがとうございました!
おまかせノベル -
りや クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2018年11月13日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.