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『大人の休暇 』
ルトガー・レイヴンルフトka1847

 仕事があった日の帰り道でも、ルトガーは真直ぐ寝床に帰るようなことをしない。

「ねぇ、今日は来てくれないの?」
「次は僕にカードを教えてくれる約束だからね!」
「この前はドアを直してくれてありがとうねぇ」
「今度また呑みましょうや!」

 夕方の街を歩けば老若男女問わず、ルトガーに声をかけてくる者がいる。
 そうした声に答えるのは男の甲斐性でもあると考えているし、皆何かしら縁があって……過去に手を貸した相手ばかりで、気のいい相手だ。
 仕事帰りの疲れた顔を見せるなんてこともなく、勿論仕事の際の険しい表情の気配はちらともにおわせることはない。
 ルトガーはそれぞれに答えていく。

「悪いな、偶には常宿に戻らないと」
 ベッドがくさっちまうと茶目っ気を籠めて花代を握らせる。
「今日はこれでいい飯でも食べてくれ」
「あら……もう、仕方ないわね、次は来てね?」
 拗ねた表情を向けてくる女性の腰を軽く抱いて、耳元に囁くように答える。
「いい女の約束を貰ったんだから、是非とも」
「ルーさんてば、ホントうまいんだから」
 すっと離れた女性の瞳の熱はすぐに冷める。ルトガーは現役で、馴染みの宿は多いのだ。

 見上げてくる少年の目線にあわせてしゃがみ込む。
「今日は仕事だったんだ、明日……は厳しいな。次の休みの時じゃ駄目か?」
 ジジイだからあんまり長く働けないんだ。なんて真面目な顔で言うルトガーに少年がふき出した。
「ったく、次に来た時肩揉んでやるよ!」
 約束なんだから早く来いよと叫びながら、手を振り走って帰っていく。
「ったく、元気だなあ!」
 負けてられないものだなと、あえて同じ言葉を使って。ニヤリと笑って見送った。
(あんな笑顔を守れているなら、ハンター業は悪くない)
 少年と出会った切欠は趣味の機導術ではあるのだが。彼だって街に住むひとりだ。驕るわけではないが、日々の仕事に気合が増すというもの。

 わざとらしすぎるくらいで丁度いい。くるりとお辞儀をしてみせれば、ルトガーよりも先輩と思われる女性がくすくすと笑う。
「マダムの役に立つのが本望だからな」
 あれくらいお安い御用だとウインク。
「私がもう少し若ければ放っておかないんだけどねぇ」
「それは光栄です、レディ?」
 気取って手をとる仕草をすれば、くすくすと再び笑い声。
「ふふ。今はこんなものしかないけれど、持っていってくれるかねぇ」
 差し出されたのは手ではなく、籠入りの果物。ならばと、中から一つだけ取り出して破顔する。
「その気持ちが詰まったこれだけで、十分だ」
 返事を聞かず、じゃあなと道の先へと進むことにする。

「じゃあ俺の馴染みの宿でいいか? 酒場兼ねてるんだが美味いんだ、飯もな」
 肩を組んでそう言えば、あいにく今日は都合が悪いらしい。顔を見かけたからと、律儀に声をかけてくれたということで。
「なんだ、それならまた声をかけてくれればいい」
「勿論でさぁ!」
 爽やかな顔で家路を急ぐ青年は新婚だ。以前酔った彼と合席したのが始まりだ。過程を持ったばかりだからこその悩みを聞いて懐かしく、つい親身になって話を聞いてしまったのだったか。
(うまくいってるようで、なによりだ)
 若く青いその背を軽く見送って、今度こそルトガーは宿への道を歩きはじめた。

「珍しいものですね、貴方がひとりだなんて」
「たまにはこういった日もあるだろう」
「ごゆっくり」
 カウンター席に座ったルトガーにその言葉を告げた後、マスターは口を閉ざした。
 ルトガーも出されるままに、酒のグラスを傾ける。
 グラスの隣には、気付けば灰皿が置かれていた。はたして置いた時の音がしただろうかと首を傾げたことは何度もあるが、毎度答えは出てこない。
「まったく……どいつもこいつも元気なことだ」
 道中の人々しかり、この酒場のマスターしかり。
 ……勿論、自分もだ。
 知らないことが世の中には溢れていて、ひとつ追っている隙に、別のところで新しいものが出てきやがる。追いかける身もひとつじゃ足りないというのに。
 興味を持った者は勿論、少しでも関わったものはその後だって気になるものだ。自分が触れた事全てを思い通りに出来るとは思わない、だがせめてアフターフォローくらいはしたいと思のが性分だ。
「……まだまだ止まっていられないな」
 カラン
 煽ったグラスに残った氷が涼やかな音をたてる。静かなバーにそれが思いのほか強く響いたように思えて。
 まだ客の少ない店内を眺めていれば、物音。
 カウンターに向き直れば、マスターが皿を置いていた。
「頼んでないぞ」
「サービスですよ」
 まじまじと皿の上に並ぶ料理を見つめる。一品ものではない。いくつかを見目良く盛り合わせた……ランチだったらわかるのだが、なぜ今?
「貴方は街の人気者ですからね」
 身体を大事にしてもらわないと。と薄く笑うマスターに苦く笑う。
「じゃあ、ここに泊まるうちはしっかり管理してもらうとするか」

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka1847/ルトガー・レイヴンルフト/男/50歳/機征導師/街で噂の色男】
おまかせノベル -
石田まきば クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2018年11月13日

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