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『『彼女の髪色』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879

 11月に入り、街の姿がハロウィンからクリスマスに変わりつつある日。
 アレスディア・ヴォルフリートは警備の仕事に行く前に、公園でディラ・ビラジスと待ち合わせていた。
 先日、ディラが幼い子供の姿になってしまったアレスディアを連れて訪れた公園だ。
 アレスディアはディラに肩車をされてここに来て、彼と共に食事をとったのだ。
「何というか、うむ……先日はいろいろと世話になった」
 アレスディアはディラを前に、恥ずかしげに頭を下げた。
 普段から立ち寄ることのある公園なのだが、子供の姿で、彼の頭の上から見た姿とは随分と違う……そして、色々と苦労したりパニックを起こしたり、ディラに肩車されたことなどを思いだし顔が赤くなっていく。
 ディラは笑いながらベンチに腰かける。アレスディアも顔を上げるとその隣に、あの時と同じように並んで腰かけた。ただし、今回は2人とも普段の大人の姿だ。
「身体、元に戻って安心した。……そういえば、髪も戻ったんだな?」
 ディラの不思議そうな問いに、アレスディアは首を縦に振った。
「あのとき、私の髪は銀色だ、と言ったな。今は、そうだ。でも、本当の色は、違うんだ」
 ディラの視線がアレスディアの髪に移る。
 彼女の髪の色は、艶のある銀髪だった。
 たけれど、そういえば何か違う。そうプラチナブロンドではなく。
 若い女性の髪としては……色が無さすぎるように感じる。
「あのときも言ったが、私の髪は元々黒かったんだ。母が黒髪で……子どもの贔屓目に見ても濡れ羽色と言っていい、美しい黒髪だった」
 髪にディラの視線を感じながら、アレスディアは話していく。
「子どもの頃の私はそんな母と同じ髪の色で、そのことだけは当時から女性らしいことに縁のない私でも、子ども心に誇らしかった」
 脳裏に大好きだった母の姿が思い浮かぶ。美しい黒髪も。
「けど、母が亡くなり、紛争に巻き込まれ……誰一人護れず、誰一人討てず、後を追うこともできないと思い知ったとき、私の髪は色を失った」
 今、体に落ちているアレスディアの髪は、色を失った銀。母とは違う色。
「肩の傷もこの髪の色も、私にとっては過ちの烙印で……」
 すうっと、アレスディアの視線が落ちていた。いつの間にか、彼女は目を伏せていた。
「その癖、母と同じ色を失っても未練がましく髪を切ることもせず、母のくれた櫛を失っても髪を梳くことは続けて……」
 思考が沼に沈んでいく。深い深い沼の中へ落ちていく――ため息をひとつついて、アレスディアは思いを断ち切る。
「すまない。つまらぬ話をしてしまったな」
 顔を上げれば、すぐ目の前にディラの顔があった。
「こっちこそ、辛い話をさせてすまない」
 頭の代わりに、瞼を閉じてディラは謝った。
「今は少し、わかるんだ。大切に想う人を失う辛さ。絶望」
 想いを巡らせつつ、彼は言う。
「忘れなくていい。梳きつづければいい。誰も、アレスの想いの中だけにいるその人の代わりにはなれない」
 ひと房、ディラはアレスディアの髪を手にとって見詰めた。
「昔の黒い髪は確かに綺麗だったが、今のこの髪も美しいと思う。アレスの身体の一部であるかぎり、輝きは失っていない」
 色を失っても、彼女の髪には艶がある。未だ、自力で輝くことが出来る髪だ。
 ディラは思う。奪う側だった、裏切り殺す側だった自分に何が出来るだろう、と。
 彼女が活き活きと輝くための力になれるだろうか。
 辛い時に、傍に居ることが癒しになるのだろうか。
 より、輝かせることが出来るだろうか。
「代りにはなれないが。アレスの……髪の一番のファンは俺だ」
 そう笑いかけると、アレスディアの顔にも笑みが浮かんだ。

 ディラが離したアレスディアの髪が、きらきらと太陽の光を宿しながら、彼女のもとに戻っていった――。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/職業】
【8879/アレスディア・ヴォルフリート/女/21/フリーランサー】

NPC
【5500/ディラ・ビラジス/男/21/剣士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ライターの川岸満里亜です。
アレスディアさんの髪の色は、金系よりも白髪に近い銀なのかなと思い描きながら書きました。
描写に間違いがありましたら、ご指摘くださいませ。
ご依頼ありがとうございました!
東京怪談ノベル(シングル) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年11月13日

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