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『その手で心を縫い止めて 』
鐘田 将太郎aa5148

 鼻孔をかすめた血の香りに、鐘田将太郎は悲痛げに顔を歪める。エージェント達が現場に辿り着いた時には、すでに戦闘に巻き込まれた一般人が何人か怪我をしてしまっている状況だったのだ。敵の討伐をするチームと一般人を救助するチームに分かれ、彼らはすぐに行動を開始した。
 将太郎と共鳴した相棒が、脳内でとある場所を示す。視線をそちらにやれば少女が倒れているのが目に入り、彼は慌てて駆け寄って行った。
「もう大丈夫だ。助けにきた」
 出血のせいで貧血気味になっているようだが、傷自体はそう深くはない。将太郎は、慣れた手付きで応急処置を施し始める。
「……先生?」
 と、少女の唇が動いたので、彼は優しく微笑んでから頷いた。少女の顔には見覚えがある。以前、将太郎の勤めるクリニックに訪れた事のあるクライエントの一人だ。
 かつては死を選びかけ、悩んでいた少女。将太郎と話している内に元来の明るさを取り戻し心療内科にくる事はなくなっていたが、まだ余計な刺激を与えるべきではない時期だ。今回の事件に巻き込まれた事は崩れかけていた心に刃を入れるようなものだろう、と将太郎は胸中で舌打ちをする。
 不意に、少女の唇が戦慄く。次いで、その唇と揃いのように震えた声で少女は呟いた。
 かつて死を望んでいた少女。最悪の結末を選ぶ一歩手前で何とか耐え、将太郎の元へと訪れてくれたクライエント。
「……死にたくない」
 しかし、今彼女の口から出たのはその時とは正反対の言葉で、将太郎は人知れず安堵の息をこぼす。彼女がこう言えるようになったのは将太郎のカウンセリングを経たからだろう。最も、誰かにそう言われても将太郎自身は彼女自身の力だと飄々と返すだろうが。
「ああ、もちろんだ。おまえは死なないよ」
 不安に思っているであろう少女を少しでも安心させるために、将太郎は穏やかな声音で告げる。
 目の前にある命を……心を、失わせるわけにはいかない。臨床心理士でもあるエージェントは、励ますように彼女の手を握り声をかけ続けた。

 ◆

 提げた袋の重さに、将太郎は肩をすくめた。少々買いすぎてしまったか、と一瞬思ったものの、家で待つ相棒達の顔が脳裏に過ぎりすぐに杞憂だなと笑う。
 前回の事件から、数日が経っていた。将太郎達と仲間の活躍のおかげか、幸いにも大きな怪我を負う者はいずに済んだが、戦闘に巻き込まれたのは一般市民にとって大きなストレスになった事だろう。その傷が、少しでも浅い事を願うばかりだ。
「さて、あとは何を買うんだったかねえ?」
 休暇を利用し買い物にきていた将太郎は、独りごちながら必要なものを思い返し始める。
 ――先生、と。不意に聞き覚えのある声が耳をくすぐったのは、そんな時だ。
 振り返るとそこにはあの少女がいた。思っていたよりも元気そうな様子に安堵し、将太郎も挨拶を返す。少女は将太郎ともう一度会ってお礼を言いたかったらしく、こうして機会に恵まれた事を喜んでいるようだった。
「俺は当然の事をしたまでた。気遣う必要なんてないぜ」
 将太郎はそう言うが、少女は首を横に振って言葉を続ける。カウンセリングを受けていた時も救われたし、先日も救われたのだ、と。手を取りずっと声をかけ続けた事は、少女にとって大きな励みになったようだ。改めてお礼を口にする彼女の瞳はいきいきと輝いており、かつてとは違い希望に満ちていた。
「先生は、クリニックだけじゃなくて色々な場所で、誰かを救ってるんだね」
 少女はそうはにかんだ後、「そうだ、これ渡したかったんだ」と将太郎に向かい何かを差し出してきた。元とはいえクライエントから贈り物を受け取るのはあまり勧められた事ではないが、どうやらそれは手作りのようだし、ここで断ってしまうと逆に少女の気持ちを無碍にしてしまうだろう。そっと、将太郎は掌に収まるサイズのそれを受け取った。
「私、先生に救ってもらった私の事を、大事にする。だから、先生も先生の事大事にしてね」
 そう言って、少女はさっと駆けて行ってしまう。本当、見違える程に元気になったものだ。その背を見送りしみじみとしながら、将太郎は手渡されたものに視線を落とす。
 それは、三角形の白いお守りだった。しかも、将太郎のよく知るものの形に似ているものだから、彼は思わず笑ってしまう。
 かつてクライエントである彼女と話していた時に、好物の話になった事があったのだ。その時に、将太郎が故郷の米の良さについて言及した事を少女は覚えていたのだろう。
 おにぎりの形をしたお守り。少し糸のほつれたそれからは不器用さが伝わってくるが、それでも確かに少女の思いが込められているのを感じ、将太郎は笑みを深めるのだった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa5148/鐘田 将太郎/男/28/臨床心理士】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご発注ありがとうございました。ライターのしまだです。
このたびはおまかせノベルのご依頼という大変光栄な機会をいただけ、感激です。鐘田さんのプロフィールを何度か読んでいる時に思い浮かんだ情景をそのままお話にさせていただきました。
少しでもお楽しみいただければ幸いです。何か問題等御座いましたら、お手数ですがご連絡くださいませ。
それでは、このたびはご依頼本当にありがとうございました! また機会がありましたら、その時も是非よろしくお願いいたします!
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2018年11月14日

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