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『痛みある優しさ 』
ひりょ・ムーンリーフka3744

 ロンドンの強化人間暴走から端を発した事件は、大規模宇宙ステーション『ニダヴェリール』を巡る大規模な戦闘へと至った。
 その裏では黙示騎士シュレディンガーの暗躍を始め、様々な人々の苦悩と葛藤があった。
 ハンター達は混沌と評するに相応しい戦場で、戦い続けた。
 
 ――命を賭した戦い。
 否、ハンター達は明らかに命以外の物もこの戦闘に持ち込んでいた。
「180度旋回だ。これより反重力バリアを展開して敵の猛攻を防ぐ」
 月面基地『崑崙』の前で盾となるべく方向を展開させるニダヴェリール。
 ニダヴェリールを強奪犯として身柄を拘束されたユーキ・ソリアーノに対して、ムーンリーフ財団総帥トモネ・ムーンリーフがニダヴェリールの管理権限を保有する事となった。
 そして、それは奇しくも未だ幼き少女を戦場へと駆り出す事を意味していた。
「どうした? そのような所に立って」
 トモネが振り返ると、そこには鳳凰院ひりょ(ka3744)の姿があった。
 黙視騎士テセウスの撤退後、崑崙防衛にあたるニダヴェリール。しかし、その裏ではニダヴェリール内部で様々な作業が行われていた。他のハンターは残った強化人間の対応を開始。さらには破損箇所の調査などにも尽力していた。
 そんな中でひりょは何故か未だコントロールルームの中にいた。
「トモネ、本当にいいのか?」
 ひりょは、トモネへ敢えて問いかけた。
 ユーキから語られた言葉。それはシュレディンガーが財団へ接触。強化人間の技術を伝えた上、強化人間となった先代は昏睡状態。ユーキが気付いた段階で、既に財団はシュレディンガーの傀儡と化していた。
 トモネにとって衝撃的な事実を告げられたのだが、悲しむ暇も無くニダヴェリールを対VOIDで崑崙防衛へあたらせる事になった。
「良いのか、か。良い訳はなかろう。父上は黙視騎士に騙され、ユーキは裏切るフリをしながら、すべて自分一人で責任を取ろうとしていた」
 トモネはひりょからの視線を逃れるように、ニダヴェリールのコンソールへ向き直った。
 ユーキの行動は褒められるものではない。トモネを裏切りニダヴェリールを強奪した裏には、先代総帥の敵討ちと強化人間暴走事件を含む全責任をユーキ一人が背負う事にあった。
 ユーキ一人が死ぬば、財団は存続できる。
 そう考えた結果なのだろうが、そこにトモネの心は介在していない。
「周りの人間に守られ、手厚く保護され……でも、本当は自分も背負いたかったんだろ? 総帥として、財団を愛する者として」
「…………」
 ひりょの言葉にトモネは沈黙を貫いた。
 反応がない。否定しないという事は、間違ってはいないのだろう。
 ひりょとしてもトモネの本心を突く事に心苦しさはある。だが、関係者の背後に生じた闇を払うには、ここで明確にしておかなければならない。
「何も知らなかった。何も知らされなかった。それは寂しさと同時に痛みを伴う優しさでもある」
「……何故、そのような事が分かる?」
「俺も、同じだったから」
 ひりょは今でこそ鳳凰院家の当主ではあるが、その家で生きていく際に似た経験をした事がある。
 知らない方が幸せと考えた者達は、ひりょに何も教えず、真実を闇へと葬った。それはひりょを思っての優しさなのだろう。
 しかし、当のひりょからすれば要らぬ世話だ。当事者から一方的に外され、知らないところで真実を闇から闇に葬られる。周囲の人間からすれば良かれと思ったのだろうが、その真実が不要かどうかはひりょ本人が決めるべきだ。
 乗り越えるべき物を遠ざける事が常に正しいとは限らない。
「そうであったか」
「トモネ、俺はどんな現実でも前を向いて進むしかないと思ってる。言葉にすると屋陳腐で安っぽい理想かもしれないが、何があっても諦めなければきっと良い方に進むはずだ」
 ひりょがここへ残った理由は、突然現実を突きつけられたトモネを励ましたかったからだ。
 だが、どう励ますかまでは思い付かなかった。あまりの衝撃に、人は時に思考を停止させる。トモネもそうであるかと考えたが、現実は淡々とニダヴェリールを動かし続けていた。
 もしかすると、そうする事で現実から逃れようとしていたのかもしれない。
 そう考えてのひりょの言葉であったが、その言葉は予想以上にトモネの心に響いたようだ。
「……かもしれぬな。これまで乗り越えられるのか分からない事件は多くあった。特に強化人間絡みはそなたや他のハンター達がいなければ乗り越えられるものであった」
「そうだ。諦めないよう前を向くのは、何も孤独である必要は無いんだ。
 俺がいる。
 俺達がいる。
 頼ればいいんだ。傍にいる奴を」
 ひりょ自身もそうしてきた。
 仲間がいたから、前を歩いてこられた。
 だが、ここでトモネに新たな不安の種が生まれる。
「ユーキは……私をまた、支えてくれるのだろうか……」


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka3744/鳳凰院ひりょ/男性/18/闘狩人(エンフォーサー)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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近藤豊でございます。
この度はノベルの発注ありがとうございます。
今回はニダヴェリール奪還直後のやり取りのノベルにしてみました。他者から与えられる優しさ。ですが、当人にはそれが痛みを伴う事もあると思います。よかれと思った事が必ずしも良いとは限らない。それが当人をより苦しめる結果になるのは、結果が出た後である事も多々ございます。今後二人はどうなっていくのか……。
それではまたの機会がございましたら、宜しくお願い致します。
おまかせノベル -
近藤豊 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2018年11月15日

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