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『終わり良ければすべて良し 』
アルヴィン = オールドリッチka2378)&沢城 葵ka3114

「アオちゃん、協力シテくれナイカナ!?」
 と、やたらハイテンションにアルヴィンが言って、彼にしては珍しく無作法にもテーブルを叩く。優雅に紅茶を飲んでいた葵は目を丸くし、すぐに怪訝な顔をした。シルクハットやスーツを身にまとった格好も相まって、黙っていれば間違いなく美形の部類に入る容姿なのだが、いかんせん口を開けば残念と言わざるを得ない。“平和を愛する博愛主義”を自称している時点でとてつもなく胡散臭いが。まあ黙っていれば〜の部分は気の置けない友人に葵自身も指摘されたことがあるのだが、それは横に置いておいて。
「なぁに、今度は何の悪戯をする気なの?」
 ティーカップを置くとそう訊き、頬杖をついて脚を組み直す。じーっと彼の顔を見つめた。葵には他人の過去を根掘り葉掘り詮索する趣味はない。けれど一緒に過ごす時間が増えれば何とはなしに察することが増えるし、彼の物事を楽しむこと、愛を追究することに人生の権利を全振りしたような振る舞いに何かしら事情があるのだろう、とは疎い人間でも察しやすいことだと思う。それに、アルヴィンは訊かれたら痛いけど痛くないと思っている肚をあっさり明かすだろうとも思う。けれど葵は尋ねようとは思わなかった。下手に同情されるのも、勝手に分かった気になられるのも。気持ちのいいものじゃないから。
 何はともあれ、我らが隊長さんは仲間内で随一のムードメーカーであると同時にトラブルメーカーでもあって。身内に対しては困った時に頼る場合もあれば子供みたいな悪戯の標的にすることもある。例によってそのパターンだと思ったのだがアルヴィンはふるふる首を左右に振った。そして葵の予想が外れたのが嬉しかったのか胸を張り、
「ふふふ……アオちゃん、僕はアル噂を聞いたんダヨ」
 と、何やら前振りを始める。葵もノリは悪くないほうだと思うが、無理矢理に上げて乗っかるのは性分ではなく。じっと見つめたまま「それで?」と普通のテンションで続きを促した。アルヴィンもいつものことなので気にした素振りはなく、説明を始める。
 分からない部分は質問して、補完した彼の話はこうだ。日夜、愛を追究している彼は休暇を楽しんでいる時も刺激を求め、いつもと違うルートで自身や友人の家、お店やソサエティ本部などを行き来するようにしている。そこで見つけたのが、とある男女だった。男は酒場で働いていて、女は何者なのか不明。ただ、女が男の元に通っている姿が見られた。しかしそれも数回だけで暫くはめっきり見なくなり、最近になるとまた、見るようになった。そして、断じて出歯亀をしていたわけではないが、女が顔を真っ赤にして男に抱きついたり、女が泣いていたり、女が男が出てくるのを待っている場面を見て、アルヴィンは思った。
「好きなのニ言えナイんじゃナイかって!」
 というわけで、それとなく二人がくっつくのを支援したいらしい。いわゆる恋のキューピットだ。それで自分に話を振ってきたのも納得した。乙女とは往々にして恋バナが好きなものである。葵は三度の飯より、というほどではないが。それにアルヴィンは何だかんだ、非常識人の皮を被った常識人だと葵は思っている。きちんと引き際を見極めているというか。余計なお世話にならないように注意しなければならないが、それさえ出来れば葵も協力するのはやぶさかではない。それが彼らの幸せに繋がるなら尚更。
「いいわ。協力してあげる」
「アオちゃんアリガトウ!」
 そうしてアルヴィンが満面の笑みを浮かべるから。葵も楽しみね、と言って微笑んだ。

 ◆◇◆

 葵という最強の味方を得たアルヴィンは、早速その日の夜に現場へ向かうことにした。善は急げというリアルブルーのことわざもある。見ず知らずの人間が直球で相手のことが好きか尋ねるのは情緒も何もあったものではないし、とりあえず酒場に女が入るようなら葵も客として行って声をかけ、さり気なく探ってみるという話になった。アルヴィンが酒場に入って手品を披露し、場を和ませるという案は彼女にさっくりと却下されている。
 端から見ると若い男性二人が物陰から酒場を観察しているという状況だが、葵も楽しんでいるらしく気にした様子はない。それに多分、色々な意味で有名だから周辺住民にはスルーされている気もする。
 じきに観察した甲斐があり通りから女が、店内から男がそれぞれ姿を現す。そして、いつものように店の前で話し始めた。この距離だとさすがに声は聴こえないが、笑ったり肩を軽く叩いたり良好な雰囲気は窺える。
「んー……?」
 と声を漏らしたのは隣で一緒に見守っている葵だ。柔和な顔立ちに難しい表情を刻み、唇に手を当てて小首を傾げる仕草をする。仕事で状況判断に迷った時の癖、とは以前に本人から聞いた話である。名前を呼んで促してみても本人も上手く説明出来ないのか、黙って首を振った。気になったのでアルヴィンも二人を注視してみたがピンとくるものはなかった。
 そうこうしているうちに女も酒場へと入っていき、葵に腕を引っ張られる形でアルヴィンも二人を追いかけることになった。何気に彼女のほうが筋力は高い。

 いかにも大衆酒場といった雰囲気の店だ。ちらりと目を向ければまだそれほど酒も入ってなさそうなのにリラックスした様子の客から、常連が集まる憩いの場、といった印象を受ける。葵はすぐに腕を解くと「行くわよ」と言って女の座っているカウンター席のほうへ近付いていく。初めてでそこに座る人は珍しくないのだろう、男も挨拶をして葵にメニューを手渡した。酒を呑む顔が分かるのだろうか。
「あなたの分もあたしが頼むわよ」
 と断りを入れて、葵がてきぱきと注文を決める。好みを把握されているのでアルヴィンも文句はない。葵は更に自分用の焼酎を頼み、それから二席空いた先にいる女に声をかけた。
「あたしたち、ここ初めてなの。何かオススメはあるかしら?」
 一瞬戸惑った様子を見せた女だったが、客としての意見を求められたと思ったのかすぐに唐揚げと漬物の二種類を挙げた。ありがと、と葵がお礼を言うと女は首を振って恥ずかしそうに目を伏せる。葵には性別を問わず人を惹きつける魅力があると思う。話術も巧みだ。そこで違和感を持つべきだったのだが、アルヴィンは葵の手際の良さに感心していて気付かなかった。
「仲がよろしいんですね」
 と、男に話しかけられ視線を戻す。アルヴィンの前にワイン、葵の前に焼酎を置いて瓶の中身をグラスに注いだ。料理のほうはお待ちくださいと付け足す。
「ウン、とても大事なヒトダヨ。それに、イツモ頼りになるシ」
 彼女や他の仲間と出会えたことは確かにアルヴィンの財産だ。リアルブルー出身者に、西方や東方に造詣の深い人間。厳密には他種族とは違うのだが、上流階級の閉鎖的な世界で生きてきたアルヴィンにとって、刺激的で新しい日々が今ここにある。ハンターになった目的が徐々に達成に近付いている実感もあった。アルヴィンの言葉を聞き、男は自分のことのように目を細めて笑う。
 それからしばらく男と話していて思ったのは、彼が人受けのいい人物だということだ。アルヴィンも話術に関しては少し自信があるが、自分のそれとはそもそも系統が違うと思う。アルヴィンは初見の人に苦手意識を持たれることが多く、どちらかといえば反発する相手の勢いを削いだり依頼の関係者から情報を引き出す、場の空気を変えるといった面が強い。男は自己主張は控えて聞き役に徹するという職業適性のあるスキルだ。これならきっと幸せに出来ることだろう。思って今後の展開を楽しみにする。と。
「ん……? ごめん、ちょっといい!?」
 ガタン、と音を立てて葵は急に立ち上がると辺りを見回し、女の手を引いてどこかに行ってしまった。目で追ってトイレだろうと判断する。アルヴィンは首を傾げた。一緒に行っただけとはさすがに思えない。何とはなしに聞いていただけだがさすがのアルヴィンも驚くくらいに盛り上がっている様子だったし。
「あいつ……失礼なことしてないといいけど」
「ン……?」
 男の独り言に今度はアルヴィンが疑問を抱いた。親しければこんな言い方をしてもおかしくないのだが、やけに実感のこもった感じというか。長い付き合いのような素振りと観察していた時の初々しい姿が噛み合わない。その疑問は戻ってきた葵の説明によって判明した。

 ◆◇◆

 店の前で様子を見た時、確かに違和感を覚えたのだ。しかし女が葵の外見と喋り方のギャップにさして戸惑うこともなく答え、話も合ったのでアルコールが入ったこともあり頭の隅に追いやられていた。そして、話が弾んでいる時に投げられた爆弾。最近兄の手伝いをするようになったので、という言葉。結論から言ってしまえば、二人は兄妹だった。兄が先に上京して酒場の店員に。妹は数年間、用事のついでに会いに行っていたが、最近になって兄と同じ道を志望し、一緒に暮らすようになった。アルヴィンが見た場面は妹が酒に弱くてフラフラになったり見解の相違で言い合いになって泣いたり、帰る時に待っていただけらしい。今日は単純に休みだったようだ。後は兄とはいえ異性と暮らすことに恥ずかしさがあるとか。それを聞いて葵は脱力するより先に、大いに納得した。自分の知り合いも見た目はともかく、結構な男性率の高さだ。
「残念だったわねぇ、オールドリッチ」
 帰り道、酒を抜く意味合いもあって歩きながら葵がそう言うと、アルヴィンはきょとんとして。そして首を振って笑った。
「アレはアレで良かったナって思うヨ」
 彼の横顔はどこか清々しく。あぁそっか、と葵は思った。彼が追究する愛は恋愛だけじゃない。兄妹愛だってその範疇だ。彼が満足しているならまあそれでいいのだろう。
 そんな風に思って、葵は軽く伸びをする。ふと故郷のことわざが脳裏によぎった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka2378/アルヴィン = オールドリッチ/男性/26/聖導士(クルセイダー)】
【ka3114/沢城 葵/男性/28/魔術師(マギステル)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
シングルでくる想定で事前に少し内容を考えているのですが、
アルヴィンさんは具体的にどう行動するだろう?とちょっと
悩んでいて、そうしたら女性目線の葵さんと一緒だったので、
葵さんの立ち位置やスキルを活用させていただきました。
まだ愛情というか人間に対して発展途上なアルヴィンさんと
過去を乗り越えて今を楽しく生きる葵さんの対比が好きです。
今回は本当にありがとうございました!
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ファナティックブラッド
2018年11月15日

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