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『for special 』
未悠ka3199)&アルカ・ブラックウェルka0790

●備

「ね、いいでしょう?」
 試着室にアルカを押しこもうとしている未悠は、楽しくてたまらないと満面の笑顔だ。
「待ってミユ、ボクまだやるって言ってないよ」
「えぇ……」
「急に捨てられた仔犬みたいな目をしたからって絆されないんだからね?」
 切なげな視線を向けられてたじろぐアルカ。粘る未悠の後ろでは、未悠に賛同している店員もアルカを見つめている。
 アルカの旗色は悪い。
「アルカがどうしてもって言うなら、私だけでやっても構わないけど……」
「それでいいよね? ボクも付き合う必要ないよね!?」
 店員を見ない様にしているアルカは未悠の小さな笑みに気付かない。
「でも、そんな私と一緒に歩く、アルカはそれで大丈夫かしら?」
 含みのある言葉にぴたりとアルカの動きが止まる。
「私、男性になりきれる自信があるの」
「ミユ、それってどういう意味かな……?」
 自信たっぷりな声に、妙に不安ばかりが煽られる。
「勿論エスコートだって完璧な自信があるわ」
「でも……声は変わらないし……?」
「それって、アルカの旦那様が直接聞くわけじゃないわよね?」
「そりゃまあ、今日は仲のいい友人と買い物に行くって言って出てきたし」
「そう、『仲のいい友人』ね」
「……ッ!?」
 仲のいい友人と買い物に行くと出た新妻。相手は女子だと思い安心して送り出したものの、街で見かけた誰か曰く、女性にキャーキャー言われて笑顔を振りまく優男が愛妻と歩いていた、と……
 真実が伴わない噂であっても、それってどうだろう?
(信じてくれるはずだけど、だけどっ)
 慌てだすアルカはこの時点で、正常な判断力を失っている。
「ねえアルカ。今日行く予定のお店って、どこだったかしら」
「……!!」
 追い打ちに、アルカの背筋がピンとなる。確かに一見すれば男女の組み合わせ。それで行くのは憚られる。
「だからって、男装は必要ないんじゃない、かな?」
「サプライズなんでしょう? 今日買ったものを完璧に隠し通すなら、これくらい必要だと思うわ」
「えぇ……」
 攻勢を崩さない未悠。
「……似合うかもわからないじゃない」
「そんなことないわ、こうして強力な味方も居るのだし」
 未悠に示され胸を張る店員。アルカはたじろぐくらいしかできない。
「そ、そうだけど!」
「ほら、じゃあ決まり! それじゃ改めて。今日はよろしくお願いしますね!」
 朗らかに言葉を交わす未悠と店員。アルカは状況に身を任せるしかなくなったのだった……

●装

 未悠の髪は襟足のあたりで一つにまとめている。夢で見た執事服では流石に街を歩きにくいし、そもそも執事服が普通の服屋にあるわけがなく。所々に白と金の装飾が入ったカジュアルなジャケットに落ち着いた。ニットを着ているので、ボタンは留めない着こなしが真面目な雰囲気を緩和させている。胸の形が崩れるのを避けるため、軽く抑える程度に。かわりに腰からおなか周りにかけて布を巻いて体型を整えてある。ジャケットの肩部分にも少し詰め物が入っているので、全体のバランスに違和感はないはずだ。
「んー……うん、悪くないわ」
 手足を動かして確認した上での感想である。詰め物やらなにやらで動かしにくいかと思えば、思ったほど窮屈に感じない。ハンターとして仕事に行くならともかくとして、買い物なら何の問題もないだろう。
(違うわ、私は今から男!)
 軽い呼吸を挟んで、向き直る。
「悪くないね。ありがとう、お嬢さん」
 練習とばかりに声が低くなるよう意識して。手伝ってくれた店員に笑顔を向ける未悠。
(ミユってばもうスイッチ入ってる)
 頬を染める店員女性の様子に苦笑を浮かべながら、アルカも試着室から出て二人へと寄っていった。
 シンプルなシャツの上に重ねるのはこげ茶のベスト。紐を編み上げるタイプだからか装飾がなくとも華やかさが備わっている。さりげなく揃いの紐を使った編み上げブーツで全体をすっきり纏めていた。涼しくなってきているので、上着の代わりに首には空色のストールをかければ目を引く形に。髪は緩く編んでひとつにまとめている。結い紐には迷ってから黒茶を選んでいた。
「待たせたかな」
 アルカはほぼ、いつも通りの声だ。双子の兄が声変わりする前の声を意識してはいるけれど。
「似合っているよ、流石私の親友だ」
「そこでボクを口説かなくてもいいんじゃない?」
「練習だからな」
「そもそも、口説く必要は……」
 ないんじゃないか、と言おうとしたが遮られた。店員が離れた隙に、女性達が黄色い声をあげながら二人に寄ってきたので。
(え、ボクにも!?)
 いつのまに居たのだろう。着替える前は店内にそれほど人は居なかったと思うのだけれど。
「ふふ、格好良く出来ているかな?」
 いち早く順応した未悠が笑顔で尋ねている。まだ思考が追い付かないのか、唖然とするアルカ。
「えっと……どうしてボク達に?」
 真似をしようと思ったアルカだが、やはり照れは隠しきれなかった。その様子にこそ喜んで、女性達がかわるがわる理由を教えてくれる。
 曰く、乙女の理想の体現者が現れる予感を察知した……らしい。
「な、ナニソレ!?」
 思わず素で声に出してしまってから、アルカははっと口をふさぐ。もう遅いけれど。
 そんな姿も可愛らしいですけれど、なんて言われるが気にしないことにして、続きを聞いていく。
 纏めてしまえば『理想の男性を表現できるのは、同じ女性に限る』とのこと。そんな理想の男性像を心待ちにしていた女性達のネットワークがこうして人を呼んだのだ。
「なる、ほ、ど……?」
「協力者を頼む予定だったけれど、もしかしてレディ達もそうなのかな?」
 アルカが店員を見れば、未悠も尋ねて。女性達全員から厳かに頷きが返ってきた。店員を筆頭に、皆同志であるらしい。
(思ったより大所帯だけれど、これはこれで)
 男装での街歩きに慣れて居ない二人の練習相手として指南役を、等と考えていた未悠である。ここまで多いとは思っていなかったけれど。この世界でも女性だけの劇団があったら流行りそうね、なんて考えが、ちらり。
(思いきり楽しめるというものよね)
 夢で見た男装を実際にもやってみたかっただけなのだけれど。思ったよりも周囲に受け入れられて、その上で楽しめるのはいいことだ。
「じゃあ、レディ達のご期待にお答えするとして……私達は予定があるのだけれど、そちらにご協力願っても?」
「期待? 何を」
 アルカの疑問はまたも遮られた。盛り上がり止まらなくなった女性達の声によって。
(ま、いいか。ここまで来たら楽しまない方が損だし)
 兄の普段の仕草や、旦那様が自分にくれる優しい目線を思い出して、自分でも試し始める。
「立ったままじゃ悪いな、ボクはいいけど、せっかく来てくれた皆にはきちんと休んでほしい」
 いつも気遣ってくれる時の声を思い出して見渡せば、もじもじと身をよじる女性達。
(……これ、面白い、かも?)
 思った通りの反応が返ってくると、妙に達成感が……!

●癒

「楽しめた?」
 女性達おすすめの店、という体で買い物を済ませた二人は今、オープンテラスのあるカフェでティータイムを満喫している。
 今はもう元の服装だ。女性達という壁がないままに男装を続けるのは、やはり難しい。
 なにせ二人ともハーレム状態だったので。服の不慣れさが続くのが苦しくなってきていたのもあるけれど。
「最初は驚いたけど。……終わった今考えると、楽しかったよ」
 男の人がどんなこと考えて女性に接して居るのか。それを考える機会になった気がする。その上で、身内……大切な人達がどんなことを考えて、自分を大切にしてくれているか。改めて気付ける自分になった気がして。
「アルカってば、そういうところ真面目よね」
 結婚してからは特に、慎重に考えることが増えたように未悠には見えている。
「そういうミユは意外と冒険するよね」
 想い人に関わる話だと、特に素直に行動しているようにアルカは認識している。
 互いに顔を見合わせて、少しの沈黙。
「「ふふふっ♪」」
 それよりも、今二人は伝えたいことがあったから。タイミングを計りあうのもおしまいにしよう。
「「誕生日おめでとうっ!」」
 未悠は少し前に、アルカはもうすぐ。互いにひとつ年をとる。誕生日の近い二人が一緒に出掛けるなら、やはりサプライズのプレゼントは用意してあるもので。
 アルカからは向日葵色のストール。暖色だけれど優しい色合いは未悠の瞳を更に映えさせる。
 未悠からは紫がかった薄茶の薔薇に瑠璃の粒をあしらったペンダントトップ。紐をあえて付けないところに意味がある。
「紐と一緒に、旦那様に付けてもらってね?」
「?」
「あなたに首ったけ、みたいな意味もあるらしいから」
「〜〜っ! 勿論、そうするけどもっ!」
「あら、ごちそうさま♪」
 真っ赤な顔のアルカを未悠が宥めて、互いに感謝の言葉を交わす。
「今日買った分も一緒に頼みやすくなるのではない?」
「そうかも。ミユ、そのことも含めて……ありがとう」
「こちらこそ、素敵なお店を教えてもらったのだし……ありがとう」
 未悠の手には新しく、ブレスレットが光っている。黒の紐に、金の金具。繋ぐのは赤と青の石。想い人の色と、自分の色を繋いで作る、縁結びのおまじないのようなもの。夫婦や恋人同士でつければ、幸せを運んでくれるとか。
 アルカの手にブレスレットは光っていないけれど、瑠璃色と空色の石だけを2人分購入してある。帰ってから細工の得意な夫に、飾りへ仕上げてもらうのだ。結婚一年目の、記念の品にするために。
「……やっぱり、男装はやりすぎだったんじゃない?」
「最近夢で見て、面白そうだったから、つい?」
「それだけで動けるミユって、すごいよね」
「友達とはしゃぐのって、楽しいもの」
「まあ、ボクも楽しんじゃったけどね!」
「おあいこってことにしましょ?」
 また、二人の笑い声が重なった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka3199/高瀬 未悠/女/21歳/征霊闘士/導きの御兄様系美青年】
【ka0790/アルカ・ブラックウェル/女/17歳/奏疾影士/無垢なる弟系美少年】
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2018年11月15日

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