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『永劫回帰の物語 』
サピアaa5623hero001

●今回のあらすじ
 それは、ただ繰り返しているだけだった。

●ただページを繰るように
 サピア(aa5623hero001)はオペラハウスの二階席から、じっと劇場を見つめていた。その膝には、不可思議な文字が綴られた本が乗っている。はらりはらりと捲りながら、彼女は薄らと笑みを浮かべたまま劇を見つめていた。

 チュニックを纏った男女が舞台に立っている。寝そべって食事を続ける男は、真っ白で襞も多い壮麗な装いをしている。髭も蓄え、いかにも支配者らしき風貌だ。それでいて、その脇で掃除を続ける女の装いは余りにも粗末だ。所々擦り切れた生地は余りにも薄っぺらく、その真珠のように白い肢体の線をはっきり映してしまっている。
 その時代には、あまりにもありふれた光景。何があろうと、家の支配者に逆らう事は出来ない。支配者がどんなに理不尽であっても。
「その眼は何だ」
 肥えた男が俯く女に難癖をつける。女は薄ら面を上げた。男は唸ると、重い腰を上げて女の喉笛に掴みかかる。
「その眼は何だと聞いている。それが奴隷の態度か」
 女は抵抗する事も無く、男に胸倉を掴まれたまま舞台袖へと追いやられていく。そのまま舞台は暗転してしまった。

 その先に待っている結末は、サピアだけが知っている。

 再び舞台に照明が灯った時、そこには大勢の民衆と、巨大な鳥籠の中に閉じ込められた一人の女がいた。殆ど裸のような恰好をさせられている彼女を、民衆は興味半分、嘲り半分といった面持ちで眺めていた。女は薄らと笑みを浮かべたまま、人差し指を宙へと向ける。
 刹那、その剥き出しになった肌に黒い文字が次々と浮かび上がり、一つ一つが白い輝きを放ち始める。彼女の異様な風体に、思わず人々は息を呑んだ。その間に不意に檻の中で爆発が起き、彼女の人差し指の先に火が灯る。女は思わず悲鳴を上げ、その場にひっくり返ってしまう。
「魔女だ」
「本物だ……」
 彼女を囲み、民衆は恐れを隠さずに呟く。『悪しき本より産み落とされた智慧の娘』。彼女は己をそう名乗り、また誰もがそう信じていた。

 檻の中で過ごした屈辱的な日々の始まりは、サピアだけが知っている。

 彼女以外に観客の居ない、静かなオペラハウス。彼女が生きた世界は、彼女の眼の下で延々と繰り返されている。呪われた娘は、幾度も幾度も不幸に彩られた人生を送る。永久に続く生き地獄の物語。そこにはガラスの靴を用意した魔女も、キスを施す王子様もいはしない。
 だから彼女は受け容れていた。始まりとお終いは噺が決める。半ばで如何なる道を辿ろうとも、結末が変わる事は決してない。舞台が何度も繰り返されて演じられるように、彼女はまた同じ場所で始まるのである。

 サピアは立ち上がると、本を閉じてオペラハウスを後にする。燦燦と陽光が照らす混凝土の世界に出てみれば、数えきれないほどの人間達が街を行き交っている。
 ふっと微笑みを浮かべ、サピアは再び本を捲る。浮かび上がっていた文字が紙の中に沈み込み、再び形を変えて浮かび上がってくる。
「ふふ」
 彼女は口端に笑みを浮かべる。代わり映えの無い己の劇に倦んだだけ、彼女は他者の繰り広げる劇を愛していた。この世界の平均値を行くような、平凡な者もいれば、口を塞ぎたくなるほど悲惨な道を辿った者もいる。そんな生の中、彼らが編み上げる意志に興味があった。全ての筋書きが違うから。
 ビルに掲げられたスクリーンを見上げれば、世間を騒がせ続けた愚神達の末路が淡々と伝えられている。
 この事件で、サピアはとてもとても愉しんでいた。手を取り合わんとする者、討ち果たさんとする者、最後の最後まで彼らは争っていた。その姿は彼女が永遠に抱き続けていた無聊を慰める。無数の意志が発露し、ぶつかり合う様こそ、彼女が求めていたものであった。
(全ての者が同じ方向を向いた世界など、なんて楽でつまらないのかしら)
 心の中で独り言ち、彼女は本を閉じる。背筋をすくと伸ばし、踵を高らかに鳴らしながら彼女は歩いていく。

 合縁奇縁で出会った者と、この世界を観劇するために。



 CASE:サピア おわり




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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サピア(aa5623hero001)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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影絵 企我です。この度は発注いただきありがとうございました。
少し手探りな面もありましたが……満足いただける仕上がりになっておりますでしょうか。
設定を膨らませる形で描かせて頂いております。何かありましたらリテイクを……

ではまた、御縁がありましたら。



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2018年11月16日

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