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『 心の距離  』
カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001

『いまどこ〜』
 ほゃんと気の抜けそうな音がして携帯電話が震えた。黒のケースの透明な部分から送られてきたメッセージの一文と送信者が表示される。
 差出人は能力者である。
『おこってるー?』
『カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)』はそのメッセージに返信するか迷う。どういう思いでメッセージを送ってきているか分かりかねたからだ。
「なんだよ、もうちょっと早けりゃ……なぁ」
 そうカイは欄干に背を預けて空を見上げる
 本日は曇天。まるで自分の心のように雲がかかっていて何も見通せない。
 代わりに町は灯りで煌いている。
 夜。それも深夜。
 終電がなくなってしまったことでカイは、あまり出歩きなれてない町に缶詰である。
 季節も寒くなってきた秋と冬の中間頃、お気に入りの黒いジャケット一つで出てきてしまったカイはちょっとだけ寒そうだった。
「いや、帰ってくるなって内容かもな」
 なぜカイがそんなネガティブな発言をしているのかというと家を追い出されてしまったからだ。
 理由は冷蔵庫のちょっと高そうなプリンを食べてしまったから……、なのだが。
 実のところカイはプリンを食べてない、それどころかカイは甘いものを好んで食べない。それを知っているはずの彼女だったが、まず頭に血が上ってしまったのかカイにプリンの買い直しを命じて今に至る。
 普段はこんなことはない。能力者の虫の居所が悪かったのだろうか。あの日だったのか。どちらにせよ機嫌が悪かったのは彼女だけではなく。
 普段はながせる言いがかりも。きゃんきゃんうるさい彼女の声も全部嫌で。プリンを買いに行くふりして家を出た。
 まぁ、家を出たとしても家に帰らないつもりはない。
 頭を冷やすというか、少しはなれたかったというか。それもまた気まぐれだ。
「なんて返すかなぁ」
 頭の中で文面を想定しては、それに帰ってくる文面を想像する。
『怒ってる』と返したらどうなるか。
『怒ってない』と返したらどうなるか。
『今日はどっか泊まる』と返したら、彼女は傷つくだろうか。
『今日は帰らない』とおくったら、彼女は寂しく思ってくれるだろうか。
 欄干をひじのしたに敷いて、眼下をせわしなく通過する車両を何台も見送った。
「あんなに怒らなくてもいいじゃんな〜」
 実際、彼女は自分の言葉に聞く耳を貸さなかった。どう考えても自分じゃないだろ。第二英雄が食べたに決まってるだろ。そう声高に叫んでも彼女は一切信用してくれなかった。
 疑われるのはいい、自分が彼女の前でちゃらんぽらんなのは自覚している。
 けど、嘘をついたことは……。そんなに頻繁には無かったはずだ。
「あ〜。俺もわりぃなぁ」
 カイは思う。あの時なんといえばよかったのだろう。
 あの時どうやって言葉をかければ冷静にきいてくれたのだろう。
 普段、どう言葉をかければあの時信用してくれていたのだろう。
 自分は彼女になんて言葉をかけられたがってるんだろう。
 カイはスマートフォンに視線を移す、彼女の言葉が既読無視で積み上げられていく。
『帰ってこれる?』
『財布わすれた?』
『鍵空いてるから』
 その言葉の中に『疑ってごめん』がなくて、それにまた一つ腹をたてたりして。
 でも実際、そんな風に謝れたところできっと自分は引け目を感じてしまう。
 そんな風に思っているあたり、自分は一生彼女には勝てないのだとおもう。
『早く帰ってきなよ』
 そしてそう、送られてきた言葉を嬉しく思ってしまう。
「わかった、負けだ……」
 告げるとカイは今帰ると言った旨のメッセージを送信する。
 ただ、これほどプリン探しに時間がかかったことに対して、説明を求められるだろうという気はした。
 だから適当に理由を立ち上げることにする。
 たとえば、プリンを探してコンビニを渡り歩いていたらいつの間にか隣町まで来ていた、なんてどうだろう。
 カイは適当なコンビニに入って普通のプリンが三個買えそうなプリンを買いこむ。
 そのままタクシーに乗り込んで、玄関の扉を開けてみると彼女が立っていた。
 玄関の段差に乗ってしても彼女の視線はカイの頭一つ分下にある。
 そんな彼女の目を見下ろしてコンビニ袋をカイはさしだした。すると彼女はこういった。
「迷子になってなくてよかった」
「なんでだ?」
 その言葉に戸惑いがにじみ出てしまっていたなと、カイは思う。
「何処に居ようとも必ず見つけ出さないといけないでしょ?」
 そう踵を返す少女の背中をカイは追いかけた。
「おい、今の時間に食ったら太るぞ」
「ふとりません〜」
 そんなやり取りを続けているうちに先ほどの悩みなんてどうでもよくなってしまって、カイは思わず微笑んだ。




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)』
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、鳴海でございます。
今回はおまかせノベルご注文ありがとうございました。
お任せノベルが頼まれるようになってから、ちょっとした日常を埋める物メインで書かせていただくんですけど。
今回は二人の関係を。
前からお二人の関係は素敵だなぁと思っておりましたので。日常の一ページを飾る物語になればなぁと書かせていただきました。
気に入っていただければ嬉しいです。
それでは、また機会があればよろしくお願いします。
鳴海でした、ありがとうございました。

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2018年11月16日

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