▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『ただ一つの星 』
マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001)&迫間 央aa1445

 流れ星に願い事をすると、その願いは叶うらしい。
 そんな話を、以前マイヤ サーアは耳にした事があった。それはたまたま点いていたテレビの向こうで話していた事だったかもしれないし、仲間の誰かが楽しそうにお喋りをしていた時に話題に出た事かもしれないし、大事なパートナーである迫間 央が何気なく口にした事だったかもしれない。真実は、今となっては分からない。
 ただ、その時のマイヤはぼんやりとしながら、その話の事など気にも留めずすぐに忘れてしまったのだ。
 幻想蝶の中で、マイヤは瞼を閉じ、虚ろに過ごすだけの日常へと身を委ねる。心の中に渦巻く悲しみに、返事をする事すらも億劫なまま。
(だって、叶えたい願いなど、今の自分には――)

 ◆

 はぁ、と央の唇から零れ落ちる息は、白い。ただでさえ仕事で疲れている彼が身体を壊してしまわないかと、その隣にいたウェディングドレスを身にまとった女性……マイヤは心配そうに口を開く。
「もうすっかり冬だな。風が強い……マイヤは大丈夫か?」
 だが、それを声に出したのは央のほうが先だった。いつだってこちらを気遣う相手に、マイヤは「こっちのセリフよ、央」と少しだけ呆れながら返す。
 夜の森は静かで、隣にいるパートナーの息遣いがいつもよりも大きく聞こえた。夜のデート……だったとしたらロマンチックだが、二人がここにいるのは依頼のためだ。それ故気を抜く事が出来ず、先程から注意深くマイヤ達は辺りの気配を伺っていた。
 少し離れた場所に、同じように隠れている仲間の姿がある。エージェントである彼らは、敵が出現されると予測される場所にて待機しているのだった。

 不意に、マイヤは常に抱える虚ろを払い、金色の瞳を細める。ただならぬ気配を感じた彼女の視線が、まっすぐに空を射抜いた。
「何か、くるわ」
 マイヤの言葉に、傍にいた央も身構える。けれど、次いで彼女達の前に姿を表したのは、敵ではなく――溢れんばかりの光だった。
 夜の空を、いくつもの光がまるで筆で線を引くように流れていく。
「これは……」
「流星群だ」
 思わずこぼれ落ちたマイヤの言葉をすくい上げるように、央が続ける。先に流れたものの後を追うように、寒空を駆けるのは無数の流れ星。休む間すらなく次々に現れては消えていく星々は、流星群に違いなかった。
「そういえば、近々見れるはずって同僚がこの前話してたな。今日だったのか」
「そうね……。すごい……」
 たちまち世界を塗り替えた光に、央は目を細める。
(流れ星に願い事をすると……その願いを、叶えてくれる……)
 星に照らされる央の横顔を見ながら、マイヤはどうしてかいつだったか聞いたその話を思い出していた。今の今まで思考の外にあったはずのそれが、たちまちにマイヤの脳内を侵す。
 今、願えばただ一つ、叶うとして。
 自分は果たして、何を願うのだろうか。……復讐? 否、それはマイヤが自らの手で果たすもので、願うものではない。
 ならば、央が風邪をひかないように、とか。央が、無理をしないように、とか。だがそれもまた、傍にいるマイヤや央自身が気をつけるべき事であり、他の何かに頼むのは違う事のような気もする。
(ダメね、央の事ばかり浮かんじゃう)
 思考を巡らせても、脳裏をよぎるのはいつだって彼の姿だ。空虚な心は、いつの間にか彼で満たされていた。
 央だったら、何を願うのだろう。いつもマイヤを気にかけ、守り、傍にいてくれる存在。マイヤの生きる理由。彼の存在なくして、マイヤはマイヤとして生きられない。
(だったら、ワタシの願いは……)
「マイヤ」
 沈みかけた思考を、引っ張り上げるのはいつだって央の声だ。その声に返事をする暇が、残念な事に今は惜しかった。
 どちらともなく幻想蝶に触れる。せっかくの空気を壊した敵の気配に、マイヤは思考を英雄のそれへと変えた。

 ◆

 戦闘が終わり、辺りは再び平穏を取り戻す。幸い怪我人もなく、依頼は成功に終わった。
 未だ夜空には飽きる事なく星が流れ続けている。何となしに上を見上げ、そのまま一歩踏み出そうとしたマイヤの事を、不意に誰かが抱きとめた。もはや慣れ親しんだその温もりに顔をあげたマイヤは、意外と近くにあった彼の顔にドキリと胸を戦慄かせる。
「暗いから、気をつけて」
 英雄であるマイヤに向けて紡がれる、まるで普通の女の子を相手にしているかのような言葉が、なんだかおかしくてマイヤはくすりと笑ってしまった。
「大丈夫よ、央。それに、央の方こそ気をつけて。最近仕事で忙しくて、疲れているでしょう?」
 マイヤの気遣いに、央は苦笑を返す。マイヤに心配をかけてしまった事が申し訳なく、けれどもその気遣い自体は嬉しいのであろう彼の様子に、マイヤは笑みを深めた。
 空には未だ流れ行く星の欠片。人々の願いを叶えてくれる煌き。
(ワタシの願いは……)
 改めて考えてみて、分かった。あの星に叶えてほしい願いなど、マイヤには存在しない。
 けれどその理由は、かつての悲哀にまみれた空虚なものとは違う。
(ワタシの願いは――今まさに、叶っているのかもしれないわ、央)
 マイヤを見る央の視線を感じ、彼女は穏やかな笑みを返す。ふと差し伸べられた彼の手が、なんだか寒さに震えているように見えて、恐る恐るマイヤはその手を握り返した。
 だが、その手に触れた時に初めて、自分の手の方が震えていた事に気付く。未だ央に対してある後ろめたさは、時々こうやって顔を出してマイヤを戸惑わせる。けれど、その震えも、央の温もりを感じる内に徐々に分からなくなっていった。
 マイヤはここにいる。央の隣に。他のどこでもないこの場所こそが、マイヤが穏やかに呼吸出来る場所に違いなかった。
「帰ろうか、マイヤ」
 その声に、迷う事なく「ええ」と頷き彼女は彼の名を呼ぶ。
 美しい流星は、未だ二人の頭上を忙しなく駆け続けている。それでもマイヤの瞳には、央の姿こそが最も輝いていて眩しく映るのだった。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【aa1445hero001/マイヤ サーア/女性/26/奇稲田姫】
【aa1445/迫間 央/男性/25/素戔嗚尊】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
ご発注ありがとうございました。ライターのしまだです。
おまかせノベルという事で、ドキドキしながら執筆させていただきましたが、いかがでしたでしょうか。
お二人のお気に召すお話に出来ていましたら幸いです。何か不備等御座いましたら、お手数ですがご連絡くださいませ。
それでは、このたびはご依頼ありがとうございました。またいつか機会がありましたら、その時はよろしくお願いいたします!
おまかせノベル -
しまだ クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2018年11月19日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.