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『突き破る光 』
メアリ・ロイドka6633

 ──空が、爆発した。
 これまでと明らかに異なる閃光に顔を上げる。見上げようとする空、それを覆い尽くすばかりに見えた巨影が、その形を崩し、消えていく。
 巨影……中型VOID。それが姿を現したときから、強化人間は暴走を始めた。
 呆然と、一つずつ。情報を統合していって、メアリ・ロイドははっと視線を目の前に戻した。
 倒れていた強化人間たちが、信じられないという顔でゆっくりと起き上がる。
 認めて……それから、隣。彼女がこの戦場に駆けつけた理由。まだ彼女からの一方的な主観による、友人。その表情。
「まだだ……──!」
 その彼が、叫ぶ。
「地上にまだVOIDは多数残っている! 動けるものはこれの殲滅に当たれ! 油断するな!」
 周囲へと叫んで、そうして彼は荒く呼吸する。
 疲弊は隠せて居なかった。当然だろう、精神を削られながらもここまで戦い続けていたのだ。まだここにこうして立っていることを尊敬すらする。
 そんな彼を、彼の仲間を守り続けて戦い続けてきた彼女にも、疲労の自覚はあった。それでも、通信機から流れ続けてくる状況、救援を必要とするその声に向かって、彼女は再び機杖を構え、走り始める。
 ……安堵に、少し気が抜けたのは間違いなかった。チリチリと、これまでに追った負傷が身体のあちこちで主張を始める。走るための呼吸に肺が痛くなる。痛い。疲れた。少しぐらい休めば? 自分の中に間違いなく居る何かが、そんな風に呟いた。
 ……そうだ、私はこんなやつだっただろうか。
 応えてくれるか分からない友人のために駆けずり回る。つれなくされても、何度でも呼び掛ける。こんな根性が、自分の中にあったのか。……雨に打たれたあの日。自分にはもうなんの価値もないとすら一度は思った、自分に。
 爪先がもつれた。倒れそうになる身体を、杖で支えて踏ん張る。一度自分の状態を見つめ直そうとして──
 熱い、と思った。
 握りしめた手のひら。機杖「タグイェル」がその機構から産み出すのは冷気、その筈なのに。
 澄み渡った空が。
 立ち上がる人たちが。
 強い眼を取り戻した隣の彼が。
 熱を産んでいるのは、そこからだった。熱い。吐く息が。息だけではない何かが。
 傷つき疲労した四肢は軋みを上げ続ける。だけど突き動かされる。
 中型VOIDは倒された。
 空へと向かった仲間がやりとげてくれた。
 ここまで来た。
 ここまで来て。
 犠牲なんて出させてやるものか。
 走り抜ける。走って、敵と遭遇する。対峙するVOID、襲い来る熱線を杖で弾く。散らしきれない熱が再び肌のあちこちを焼く。止まる気はしない。走り続けて、戦い続けて、スキルの数にも限りがある。その中で。杖で殴り飛ばしてでも、戦い続ける。
 ……立ちはだかるのは、VOIDばかりではない。もう暴走してしまった強化人間。この場に暴走をもたらしたその元凶を立ち切っても、今は彼らは元には戻らない。別の方法で止めてやるしか。
 殺しはしない。だけど無力化する。そのために、彼らを打つ。彼らの上げる苦悶の悲鳴に、メアリの心が悲鳴を上げる。それでも。前を向く。戦い続ける。
 ──……何でそこまで?
 また、記憶に残る自分の何かが問いかけた。問いかけの明確な答えは分からなくて──それでも、気持ちが叫ぶ。
「何が何でも食らいついて、戦って勝って、この場に希望をもたらしてやる」
 想いのままに呟いた、瞬間。
 彼女の中でも何かが爆ぜていった。あの時の空のように。
 何かを突き破った。そう感じた。
 痛みが、疲労がまた追いやられていく。まだ走れる。まだ戦える。……最後まで。この戦いの最後まで、自分は戦い抜くんだと。
 迫り来る触手に打たれ、杖で突き返した。無様にすら思える殴りあい。それでいい。
 自分は立派な人間なんかじゃない。選ばれた勇者でも、歴戦の戦士でもない。
 だから。
 みっともなく、足掻いて、這いずって。
 そうやってやっと、希望に手が届く。
 そういうもん。
 そういうもんだ。
 それでも。
 転んで埃だらけ、血塗れになったって。そうして手が届く希望があるなら。
 それを目指してやる。掴んでやる。
 格好良く、スマートにやれたりなんて、しなくていいから。

 ──……リアルブルーのとある避難所を襲ったこのVOIDの襲撃は、強化人間の暴走という展開を迎えながらも奇跡的に犠牲者0という結果を迎えた。
 人々はハンターの功績を、その結果をもたらした情熱を口々に讃えた。
 だけど、そうした人たちのどれほどが知るだろう。
 そうやって戦った人たち、その一人一人の姿は……実のところ、物語の英雄として語られるほど、立派で見事なものでも無いということに。
 だけど、その姿を。その姿こそを。
 美しいと呼ぶものも、……また居るのかもしれない。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6633/メアリ・ロイド/女性/20/機導師(アルケミスト)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度はおまかせノベルを発注いただきありがとうございます。
というわけで凪池式おまかせノベルルールに従い今回ランダムで選ばれた作業用BGMは──?

【決戦 破】

でした!
なんとラスボス曲! 三部構成のその二曲目となります。
二段階目のこの曲はですねー。ラスボスの威圧感というより、何かを一段階突破したというその手ごたえを感じさせるというか。
イントロは一番好きですね! PC側の勇ましさ、格好良さを感じる、そんな曲調です!
そんな訳で思い出したのはあのシナリオのあのシーン。もう一段階深堀りして、あの時の心境を勝手に描かせていただきました。
……なんか熱血メアリさんになってしまった。良いんだろうか、これ。
まあ、おまかせはそういうルールですので……曲がだって……そんな感じなんだ……。
改めまして、この度はご発注有難うございました。
おまかせノベル -
凪池 シリル クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2018年11月19日

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