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『護り方 』
ラィル・ファーディル・ラァドゥka1929

 明かりもない闇の中を、軽装のまま進み続ける。
 向かう先に宛はなく、目的地などある筈がない。
 情報が無い場所だから、奥へと進む意味がある。

 塒を出てすぐから、全ては始まっている。
 まずは暗視。暗い中でも活動するための技術。
 日中に歩いた道を思い出せば困ることはないし、はじめのうちは近隣の灯りが窓から漏れている。不都合などある筈がない。
 徐々に、徐々に。
 村の外へと歩を進めていく。

 柵はあるが、その出入り口を護る者はいなかった。
(残念)
 緊張を解くつもりはないが、難易度が下がったことに少し、落胆を覚える。
 それだけ村が平和だということだろうと、新しく情報として脳裏に刻む。
 何があろうと、無駄にするつもりはない。
 『在る』も『無い』も、情報なのだから。
 ただ、今のラィルに必要なのは無作為の障害であって、攻略のたやすいものばかりでは、糧として物足りなくもあった。
(森に期待するとしようや)
 無音。忍び足で駆け、柵を跳び越える。着地は身体の発条を使って衝撃も音も殺す。
 装甲のあるいつもの装備は外しているから、受け身に迷う事もない。

 柵に常駐はせずとも、巡回くらいはするのだろう。
 すぐに離れ、茂みに身を潜める。
(えらい緩いなあ、この村)
 もう少し時間をかけて、見取り図を作ってからでも良かっただろうか?
(戻ってからでも遅くはなさそうや)
 今はただ、森へ。

 女子供が護身用との名目で持たされるような、最期の為の小剣。
 今のラィルの装備と呼べるものは、それだけだ。
 防具はない。
 服も特別なものではない。
 スキルさえも、セットしていない。
 己の身体だけを頼りにして、初めて訪れる森の中へと踏み入っていく。

 植生を確認し、獣の数を調べ、水の在処を探る。
 昼の内に猟師の小屋にも寄っているが、それはあくまでも営業だ。
 売り物になるような獣の話しか聞けていない。
 必要なのは、村のすべて。
 広さ、人の数、年齢層、男女の比、産出物、食生活、生業の偏り……村を示すものなら、全て。
 村の人々が生活の糧にしている周辺の環境だって、もちろんそこに含まれる。
(可もなく不可もなく……ゼロではない、か)
 どこにでもあるような、それなりに平和な村。それが今回の結論になりそうだ。

 深夜、人気がないからこそ。
 見通しが悪く、月明りも入らないからこそ。
 ひらけていない、獣道さえも存在しないからこそ。
(おあつらえ向きや)
 風を切る音をはじまりの合図にして、静を保っていたラィルが様相を変えた。

 血の巡りのように、マテリアルを巡らせる。
 胸から順に、闇がまとわりつくようにラィルの全身を覆う。
 熱い奔流が覆いきってすぐ、ラィルは跳びだす。
(これじゃまだ遅い)
 残像は生まれない。けれど同じくらいの速さを目指して。
 幾度も使い、鍛え、強化に努めたからこそ身体が覚えているはずだから。

 脚へと熱を集めていく。蹴りだす瞬間にあわせて噴き出すようタイミングを合わせて。
 右、左、また右……交互に、けれど蹴る場所や角度によって調整をしながら。
 何度繰り返しても、自然なタイミングを維持するのは難しい。
 本来なら次の動作に必要な準備の位置付けだ、身体全体をそれぞれで制御すべきであり、脚だけかまけていられない。
 だが今はスキルではなく自身で制御をこなさなければならない。
(どれだけ、与えられたものに甘えてるのかって……!)
 無意識に歯を食いしばる。

 視界の端に、駆ければ届く場所に。
 影を捉え、踏み込む。
 途中の木々を敵衛と見なしながら小剣を振るう。
 止まることなく速く、けれど舞うような動き。
 樹皮を這うように生えた毒草は、この森のどこにでも生えている。
 その葉を敵の急所と見なして、瞬時に断ち、振り返りもせず越えていく。

 ほんの一呼吸ほどの時間に幾度、得物が閃いたのか。
 毒汁で鈍い輝きを放つ様に、この場での変化おびただしい小剣が突きだされていく。
 ついにラィルが辿り着いた影の主、通りすがりの不運な獣の心の臓を貫いた。
 引き抜かぬままに捻じ込まれる小剣が纏うのは、どこにでもあるような弱毒ではあるけれど。
 蝕む速さ次第で、強さは変わる。
 獣の……生き物の弱点くらい、情報として備えているに決まっているのだ。
(まだ、理想には足りん)

 スキルと同じとまでは言わない。それが出来ると驕るほど力を持っているとは言わない。
 ただ、何もない状態であろうと、どんなに不利であろうと。
 完全な状態に近い動きが出来るように。
 情報を、知識を蓄え、身体を絞り、鍛え、思い通りに動かせるように。
 諦める必要も、逃げる必要もなくすために。
 新しい土地に赴くたび、愚直に繰り返す。
 知るために、研ぐために、鍛えるために。
 自身が求めるものを、得るために。
(次、いこか)
 積み重ねた後の、己の求める姿を得るために。
 二度と、繰り返さぬために。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka1929/ラィル・ファーディル・ラァドゥ/男/24歳/疾舞影士/止まることを知っていても】
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2018年11月19日

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