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『少し早いイルミネーション 』
マオ・キムリックaa3951

 冷たい風に撫でられ、猫耳がへなりと垂れる。その主──マオ・キムリックはその身を縮こまらせた。
(寒いなぁ……)
 季節はあっという間に巡るもの。まだまだ暑いと思っていた夏は、いつの間にやらどこかへ行ってしまったようだ。
 再び向かってきた風はマオの首元に忍び込む。
「うぅ……早く帰って、あったかいココアが飲みたい……」
 零れた言葉を拾う者はいない。些細な用事だったこともあり、英雄もその周りを飛び回る青い鳥も自宅にいるのだ。
 まだ吐く息は白くならないけれど、そう経たない内にもっと冷え込むだろう。暖かい家と英雄の元に、少しでも早く帰らなければ。
 せっせと足を動かし帰路を急ぐマオ。迷うことのないくらい歩き慣れた道を通り、商店街へ続く道を手前で曲がろうとして──マオは商店街の普段と異なる雰囲気に気付いた。
 ほんの僅かな差だ。けれど、どことなく人々が浮き立ち始めているような気がする。
 静かな方が好きだし、頼れる英雄は傍らにいない。……だが、興味はそそられるというもの。
(いざとなったら連絡すればいいし……ほんのちょっとだけなら)
 ポケットに入ったスマートフォンの存在は、マオが商店街へ足を向ける後押しになり。
 通りを覗き込んだマオは思わず感嘆の声を上げた。
「わぁ……っ!」
 キラキラとライトが星のように光り、まるで違う場所へ来てしまったかのよう。少し早いけれど、去年もそういえばそうだったと思いだす。
 幼少を過ごした村にはなかったが、ここには『クリスマス』というお祭りがあるのだ。サンタクロースという赤服のおじいさんが、なんと世界中の子供へプレゼントを届けているらしい。
 知ったのは去年、任務で赴いた図書館のこと。あれからあっという間に1年。マオも先日誕生日を迎え、1つ年を取ったわけだが。
(今年はサンタさん、来るのかな?)
 去年知ったそれを純粋に信じきっているマオ、この雰囲気を楽しむべく商店街へ足を踏み出す。
 だが、ショーウィンドウを覗いたマオは首を傾げた。
 様々な商品と共に並べられたPOP広告。そこには『大切な人へのプレゼントに!』『贈り物にオススメ☆』などの文面が。
(サンタさんが買うんじゃない、よね?)
 子供の喜びそうな商品ではないし、どちらかと言えばこれは──。
「……あ、」
 1つの予想に思い至ったマオは、ショーウィンドウを見つめたまま小さく声を洩らした。
 ──大人へのプレゼントだ。
 サンタが届けてくれるのは子供宛。大人は自分たちで送り合うのだろう。
 それなら英雄に渡したい、とマオは商店街を歩き出す。
(何が欲しいんだろう? 普段使えるものでもいいし、甘い物も好きだよね)
 家族のように思う英雄へ渡す物。喜ぶ顔が見たいと思えば、ショーウィンドウへ注ぐ視線も真剣なものになる。
 しかし、そう簡単にはいかぬもの。
(マフラーとか手袋、持ってなかったっけ? それなら家で使えそうな物……うーん。何が必要とか、見ただけだと難しいかも)
 喜ばせたいからこそ、何が良いのか迷ってしまうのである。
 店を順に回るマオはケーキ屋の前で立ち止まった。
(わぁ、クリスマスのケーキかな?)
 真っ白なホールケーキ。上には赤服のお人形と小さな木が載せられていて可愛らしい。
 もう少し小さければ2人でも食べきれるのでは──。
「お嬢ちゃん、ケーキの予約?」
 ケーキ屋の店主に声をかけられ、マオは文字通り飛びあがった。しかし今、隠れられる英雄は傍にいない。
「だ、大丈夫ですっ! ま、また今度……っ」
 どもりながら駆け足でケーキ屋の前を去るマオ。店が見えなくなる場所まで行けば、驚きでぴんと立っていた尻尾がくたりと下がる。
 逃げるように去るなんて、失礼なことをしてしまった。今度行く時こそちゃんと予約しよう。
(プレゼントも……うん、一緒に買いに来よう)
 子供のようにサプライズとはならないけれど、きっとそれが良い。帰って温かいココアを飲みながら、英雄と買い物の日取りを相談しよう。
 走り去ったとはいえまだ商店街内だったのが幸いで、迷う事もなく良く知る道へ足を踏み入れる。静けさと共に冷たい風がマオの頬を撫でた。
 ふるりと体を震わせ、けれど口元には笑みを浮かべ。マオは少し早い歩調で帰路に着いたのだった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 aa3951 / マオ・キムリック / 女性 / 17歳 / 思いを言葉に 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつもお世話になっております。
 現在H.O.P.E.では戦闘任務が多いため、こちらでは日常を書かせて頂きました。
 マオさんお1人での行動は新鮮でしたが、やはり英雄のことを考えているのかな、と思いながらの執筆でした。また、遅くはありますがお誕生日おめでとうございます。
 リテイク等ございましたら、お気軽にお申し付け下さい。
 この度はご発注、ありがとうございました!
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2018年11月19日

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