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『修錬に終わりなどなく 』
ソフィア =リリィホルムka2383

「お邪魔しまーす」
 扉を開けるなりソフィアがそう軽く挨拶すると、室内にいる連中が崩れた敬語で挨拶を返し彼女を迎え入れる。リアルブルーではこういうのを体育会系のノリというらしい。それが彼らと似たり寄ったりのガタイがいい男ならまだしも、ソフィアは年の頃は十代半ば、背が低く体の線も細いという、彼らとは真逆をいく外見なので相当シュールだが。もっとも、細身ではあるが、見た目そのままに非力というわけでもない。
「じゃあまた、奥お借りしますね」
「ああ。何でも好きに使ってくれ」
 声をかけられた工房主がそう言って笑うので「じゃ、遠慮なく」と、ソフィアも口調を崩して言い、にっと歯を見せて笑った。ソフィアはここの職人ではないので立場上きっちりと線引きをしなければと思うものの、同時に元々一緒に働いていた者もいて、みんなそれなりの付き合いになる同志に近い存在だ。だから自然と、気が緩んでしまうというのはある。
 国家間の戦争こそないが歪虚という脅威があり、どの国も対策に追われている。また、ソフィア自身を含むハンターも数自体は少ないが日夜戦いに奮闘していて。正直なところ、ソフィアは戦況が悪化したら世界崩壊の危機に繋がるなんて、あまりピンと来ないのが本音だ。確かに都市単位で見れば見過ごせない事態に陥っている場所もあるというのは分かるのだが、ヒトの歴史は戦争と密接に関わっていて、種族がどうこう国がどうこうで争うなんて別に珍しくない。むしろ共通の敵が脅威へ変わった為に表面上は丸く収まっている現状が現金な気もする。ともあれソフィアも何の因果か大精霊と契約を交わし、ハンターを生業にすると決めたのだから、やるべきことはやるつもりだが。それに、人々の心身が疲弊すれば商売が成り立たなくなり、経済も回らなくなる。ソフィアにとっては非常に重要なことだ。武具はただ作るだけでは駄目で、使い手がいて初めて存在意義を見いだせるのだから。
 前職であり近頃の趣味にも関係している鍛冶を――とも思ったが、さすがに最近はまとまった時間が取れないので厳しい。作り手としては武器に特別こだわりはないのだが、その頑丈さから鉱石を採掘し製錬することを得意とするドワーフの例に漏れず、ソフィアも金属加工を主に扱っている。木工や革細工、機導師でもあるため機械に強いなど、興味があれば何でもやってみるし繰り返せば上達もするので、結果便利屋のようになっている感はあるが。
 がさがさと適当に辺りを漁って鍛造済みの角棒を見つけると、炉に火を入れ金属を打ち鳴らしたい欲求に駆られたものの、やはり時間的に無理だと諦めて、その内の一つを拝借することにした。大きさを見るに装飾に使うというよりも指輪用だろう。
 かなり前から使っていて置きっぱなしにしている道具を手に、輪っか状にする手順を頭の中で再確認しつつ作業を進めていく。単純作業も軽視出来ないものだが、想像はやはり最後の最後、彫金の際に何をモチーフに描くかに持っていかれる。多くの人が造り出し、その在り方が確立されたといっても、指輪にもまだ創造の余地があるかもしれない。――とは思うのだが、経験を多く積んだソフィアでもそんな簡単に革命を起こせるはずもなく。水、月、花――。
「うーん、ピンとこねーなぁ……」
 テーブルの下で胡座をかきつつ首を傾げる。少し煙草が欲しくなった。仕事としてやるならこういう場合、防具の一種として使われるなら騎士団だの自警団だのの固有の意匠が入るし、恋人や夫婦同士が使うなら言わずもがな。もちろん職人としては自由にやれるほうがセンスや技術を問われて燃えるのだが、アイディアは水物、どうしても乗らない時は乗らないもので。
 すっくと立ち上がるとソフィアは工房内をうろつき始めた。自分も集中している時に邪魔をされたらぶち切れそうになるので手の空いている人間を選び、進捗や最近の仕事について聞ける範囲で聞く。全然関係のないところからインスピレーションを得られる場合もあれば、同業者との話がいい刺激になってモチベーションが上がったりもするので、創造とは本当に型通りには嵌まらないものだ。素材自体も温度や湿度、瞬きをする程度の時間など、わずかなズレで機嫌を損ねたりもする。そこがまた面白いところだ。
 小さい体をひょっこり覗かせて鍛工を見ていたら、実物以外でも見慣れた炎に何故か引き込まれて、背を向けると直ぐに保護用のゴーグルを外してテーブルのほうへ戻った。形を決めた後、手早くやすりをかけて表面を綺麗に整え、専用工具で模様を彫っていく。その手つきは迷いなく、意識は完全に手元へと集中する。
 自然と汗が滲む中で、ソフィアが指輪に描いたのは炎だ。炎が四つ。鍛治師としてもハンターとしても、己の在り方を示すのにこれ以上のモチーフはない。掲げれば陽の光で炎が燃えるように見えてソフィアは笑った。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka2383/ソフィア =リリィホルム/女性/14/機導師(アルケミスト)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
以前お世話になっていた工房に顔を出して彫金する
ソフィアさんのイメージで書かせていただきました。
びっくりするほどセリフが少なくて申し訳ないです。
独り言の時と接客の時で喋り方のギャップを書きたいなあ、
とも思っていたんですが、どうにも尺が足りず……ぐぬぬ。
また、モチーフ案は称号を参考にさせていただきました。
今回は本当にありがとうございました!
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ファナティックブラッド
2018年11月20日

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